上 下
145 / 178
12話 並行世界の仮想世界から

メイド服

しおりを挟む
「界人、飛行機に乗るなって、どういうこと!」
「遥、会社を辞めて僕と結婚しよう。だから、ロンドン行の飛行機には乗らない」
「はっ? なんで今なの? みゆきと李依ちゃんはどうするのよ!」
「みゆきとは別れる。李依と3人で暮らそう」
「そんなこと……できないよ……」

 遥の瞳からは涙がこぼれていた。それが悲しいから流れていたのかは彼女にも分からなかった。

「とにかく、飛行機には乗らない。さあ、行こう」

 界人はとにかくこの場から離れたかった。外の世界からのメッセージに例えようのない恐怖を感じていた。突然の求婚に、感情のベクトルが定まらない遥を引きずるように空港の外へと連れ出し、行くあてもなく車を走らせた。

「バ――――――――ン」

 鈍い音に二人は空を見上げる。

「嘘? 何これ? どういうこと……」

 そこには、二人が搭乗するはずだったANC127便の変わり果てた姿があった。遥の表情が界人に説明を求めている。

「ごめん……遥……」

 謝罪の意味が理解できない遥。界人は運転席と助手席という位置関係からの謝罪では不誠実だとの思いから、助手席側に回り込もうと運転席のドアを開いた。

「お父さん、危ない!!」

 後部座席からの突然の叫び声。それと同時に対向車線を猛スピードで一台のオープンカーが走り抜けていった。

「誰だ、お前!?」
「何を言ってるのよ、界人。ロンドン本社のすみれちゃんじゃない」
「あれ? そうか? そうだった、そうだった、それで? すみれは何で日本に来たんだっけか?」

「ひどいですね。お父さんが行けって言ったんじゃないですか?」
「そんなこと言ったっけか? 私がか? でもそれって日本語おかしくないか? 『行け』じゃなくて『来い』の間違えじゃないのか?」
「そうですね。失礼しました。海外生活が長いものですから、つい」

「でもまぁ――、ポイント、ポイントで言葉が変わるってのもおかしな話だよな」
「さすが、お父さん、よく分かっていらっしゃる。そうかもしれませんね。特に、私達にとっては……」
「私達にとって?」

 界人と遥が声を揃えて首を傾げる。

「このポイントで、私が為すべきことは、ここまでです。また、いつか、どこかの世界で……」

 一瞬、静まり返る車内。

「あれ? 今、後部座席にメイド服を着た女性が座っていたような……」
「界人、また何寝ぼけてるの? もう居眠り運転は勘弁してよね?」
「気のせいだな。ごめん、ごめん」
「あれ? ごめんと言えば、界人、今、私に何か謝ろうとしてなかった?」
「いや、もういいんだ。何でもない」

 そう、飛行機に乗らないという当初の目的はすでに達成されたはずだった。遥への求婚だって冗談だと言ってしまえばそれで話を終わりにできたかもしれない。しかし、界人にはそうすることができなかった。彼女と二人で幾度となく死線を潜り抜けた記憶が不意に脳裏をよぎる。いや、実際に潜り抜けられたのか、そのまま死に至ったのかまでは覚えていない。それが、過去の記憶なのか、未来の記憶なのかさえも……。

「それより、答えを聞かせて欲しいんだが」

 急にかしこまる界人。それにつられて一瞬真顔になり、すぐに吹き出す遥。

「仕方ないわね。界人の頭の中じゃ私にメイド服を着させる未来まで浮かんじゃってるみたいだし」

 何か言い返そうとする界人。しかし、うまい言葉が見付らない。

「そうね、そんな世界があっても悪くないかもね」

 そう付け加えた遥は、ほんのり顔を赤らめ界人の肩にそっと顔をうずめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

感情とおっぱいは大きい方が好みです ~爆乳のあの娘に特大の愛を~

楠富 つかさ
青春
 落語研究会に所属する私、武藤和珠音は寮のルームメイトに片想い中。ルームメイトはおっぱいが大きい。優しくてボディタッチにも寛容……だからこそ分からなくなる。付き合っていない私たちは、どこまで触れ合っていんだろう、と。私は思っているよ、一線超えたいって。まだ君は気づいていないみたいだけど。 世界観共有日常系百合小説、星花女子プロジェクト11弾スタート! ※表紙はAIイラストです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

春色フォーチュンリリィ

楠富 つかさ
青春
 明るく華やかな高校生活を思い描いて上京した主人公、春宮万花は寮の四人部屋での生活を始める。個性豊かな三人のルームメイトと出会い、絆を深め、あたたかな春に早咲きの百合の花がほころぶ。

美少女の秘密を知って付き合うことになった僕に彼女達はなぜかパンツを見せてくれるようになった

釧路太郎
青春
【不定期土曜18時以降更新予定】 僕の彼女の愛ちゃんはクラスの中心人物で学校内でも人気のある女の子だ。 愛ちゃんの彼氏である僕はクラスでも目立たない存在であり、オカルト研究会に所属する性格も暗く見た目も冴えない男子である。 そんな僕が愛ちゃんに告白されて付き合えるようになったのは、誰も知らない彼女の秘密を知ってしまったからなのだ。 そして、なぜか彼女である愛ちゃんは誰もいないところで僕にだけパンツを見せてくれるという謎の行動をとるのであった。 誰にも言えない秘密をもった美少女愛ちゃんとその秘密を知った冴えない僕が送る、爽やかでちょっとだけエッチな青春物語 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています

女子高生が、納屋から発掘したR32に乗る話

エクシモ爺
青春
高校3年生になった舞華は、念願の免許を取って車通学の許可も取得するが、母から一言「車は、お兄ちゃんが置いていったやつ使いなさい」と言われて愕然とする。 納屋の奥で埃を被っていた、レッドパールのR32型スカイラインGTS-tタイプMと、クルマ知識まったくゼロの舞華が織りなすハートフル(?)なカーライフストーリー。 ・エアフロってどんなお風呂?  ・本に書いてある方法じゃ、プラグ交換できないんですけどー。 ・このHICASってランプなに~? マジクソハンドル重いんですけどー。 など、R32あるあるによって、ずぶの素人が、悪い道へと染められるのであった。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

男子高校生の休み時間

こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。

処理中です...