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12話 並行世界の仮想世界から
メイド服
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「界人、飛行機に乗るなって、どういうこと!」
「遥、会社を辞めて僕と結婚しよう。だから、ロンドン行の飛行機には乗らない」
「はっ? なんで今なの? みゆきと李依ちゃんはどうするのよ!」
「みゆきとは別れる。李依と3人で暮らそう」
「そんなこと……できないよ……」
遥の瞳からは涙がこぼれていた。それが悲しいから流れていたのかは彼女にも分からなかった。
「とにかく、飛行機には乗らない。さあ、行こう」
界人はとにかくこの場から離れたかった。外の世界からのメッセージに例えようのない恐怖を感じていた。突然の求婚に、感情のベクトルが定まらない遥を引きずるように空港の外へと連れ出し、行くあてもなく車を走らせた。
「バ――――――――ン」
鈍い音に二人は空を見上げる。
「嘘? 何これ? どういうこと……」
そこには、二人が搭乗するはずだったANC127便の変わり果てた姿があった。遥の表情が界人に説明を求めている。
「ごめん……遥……」
謝罪の意味が理解できない遥。界人は運転席と助手席という位置関係からの謝罪では不誠実だとの思いから、助手席側に回り込もうと運転席のドアを開いた。
「お父さん、危ない!!」
後部座席からの突然の叫び声。それと同時に対向車線を猛スピードで一台のオープンカーが走り抜けていった。
「誰だ、お前!?」
「何を言ってるのよ、界人。ロンドン本社のすみれちゃんじゃない」
「あれ? そうか? そうだった、そうだった、それで? すみれは何で日本に来たんだっけか?」
「ひどいですね。お父さんが行けって言ったんじゃないですか?」
「そんなこと言ったっけか? 私がか? でもそれって日本語おかしくないか? 『行け』じゃなくて『来い』の間違えじゃないのか?」
「そうですね。失礼しました。海外生活が長いものですから、つい」
「でもまぁ――、ポイント、ポイントで言葉が変わるってのもおかしな話だよな」
「さすが、お父さん、よく分かっていらっしゃる。そうかもしれませんね。特に、私達にとっては……」
「私達にとって?」
界人と遥が声を揃えて首を傾げる。
「このポイントで、私が為すべきことは、ここまでです。また、いつか、どこかの世界で……」
一瞬、静まり返る車内。
「あれ? 今、後部座席にメイド服を着た女性が座っていたような……」
「界人、また何寝ぼけてるの? もう居眠り運転は勘弁してよね?」
「気のせいだな。ごめん、ごめん」
「あれ? ごめんと言えば、界人、今、私に何か謝ろうとしてなかった?」
「いや、もういいんだ。何でもない」
そう、飛行機に乗らないという当初の目的はすでに達成されたはずだった。遥への求婚だって冗談だと言ってしまえばそれで話を終わりにできたかもしれない。しかし、界人にはそうすることができなかった。彼女と二人で幾度となく死線を潜り抜けた記憶が不意に脳裏をよぎる。いや、実際に潜り抜けられたのか、そのまま死に至ったのかまでは覚えていない。それが、過去の記憶なのか、未来の記憶なのかさえも……。
「それより、答えを聞かせて欲しいんだが」
急にかしこまる界人。それにつられて一瞬真顔になり、すぐに吹き出す遥。
「仕方ないわね。界人の頭の中じゃ私にメイド服を着させる未来まで浮かんじゃってるみたいだし」
何か言い返そうとする界人。しかし、うまい言葉が見付らない。
「そうね、そんな世界があっても悪くないかもね」
そう付け加えた遥は、ほんのり顔を赤らめ界人の肩にそっと顔をうずめた。
「遥、会社を辞めて僕と結婚しよう。だから、ロンドン行の飛行機には乗らない」
「はっ? なんで今なの? みゆきと李依ちゃんはどうするのよ!」
「みゆきとは別れる。李依と3人で暮らそう」
「そんなこと……できないよ……」
遥の瞳からは涙がこぼれていた。それが悲しいから流れていたのかは彼女にも分からなかった。
「とにかく、飛行機には乗らない。さあ、行こう」
界人はとにかくこの場から離れたかった。外の世界からのメッセージに例えようのない恐怖を感じていた。突然の求婚に、感情のベクトルが定まらない遥を引きずるように空港の外へと連れ出し、行くあてもなく車を走らせた。
「バ――――――――ン」
鈍い音に二人は空を見上げる。
「嘘? 何これ? どういうこと……」
そこには、二人が搭乗するはずだったANC127便の変わり果てた姿があった。遥の表情が界人に説明を求めている。
「ごめん……遥……」
謝罪の意味が理解できない遥。界人は運転席と助手席という位置関係からの謝罪では不誠実だとの思いから、助手席側に回り込もうと運転席のドアを開いた。
「お父さん、危ない!!」
後部座席からの突然の叫び声。それと同時に対向車線を猛スピードで一台のオープンカーが走り抜けていった。
「誰だ、お前!?」
「何を言ってるのよ、界人。ロンドン本社のすみれちゃんじゃない」
「あれ? そうか? そうだった、そうだった、それで? すみれは何で日本に来たんだっけか?」
「ひどいですね。お父さんが行けって言ったんじゃないですか?」
「そんなこと言ったっけか? 私がか? でもそれって日本語おかしくないか? 『行け』じゃなくて『来い』の間違えじゃないのか?」
「そうですね。失礼しました。海外生活が長いものですから、つい」
「でもまぁ――、ポイント、ポイントで言葉が変わるってのもおかしな話だよな」
「さすが、お父さん、よく分かっていらっしゃる。そうかもしれませんね。特に、私達にとっては……」
「私達にとって?」
界人と遥が声を揃えて首を傾げる。
「このポイントで、私が為すべきことは、ここまでです。また、いつか、どこかの世界で……」
一瞬、静まり返る車内。
「あれ? 今、後部座席にメイド服を着た女性が座っていたような……」
「界人、また何寝ぼけてるの? もう居眠り運転は勘弁してよね?」
「気のせいだな。ごめん、ごめん」
「あれ? ごめんと言えば、界人、今、私に何か謝ろうとしてなかった?」
「いや、もういいんだ。何でもない」
そう、飛行機に乗らないという当初の目的はすでに達成されたはずだった。遥への求婚だって冗談だと言ってしまえばそれで話を終わりにできたかもしれない。しかし、界人にはそうすることができなかった。彼女と二人で幾度となく死線を潜り抜けた記憶が不意に脳裏をよぎる。いや、実際に潜り抜けられたのか、そのまま死に至ったのかまでは覚えていない。それが、過去の記憶なのか、未来の記憶なのかさえも……。
「それより、答えを聞かせて欲しいんだが」
急にかしこまる界人。それにつられて一瞬真顔になり、すぐに吹き出す遥。
「仕方ないわね。界人の頭の中じゃ私にメイド服を着させる未来まで浮かんじゃってるみたいだし」
何か言い返そうとする界人。しかし、うまい言葉が見付らない。
「そうね、そんな世界があっても悪くないかもね」
そう付け加えた遥は、ほんのり顔を赤らめ界人の肩にそっと顔をうずめた。
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