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11話 未来の記憶

冗談

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「アシスタント型警備兵試作品アンドロイド1号機、冗談じゃなかったのね」

 すみれの肩に抱え上げられ、放心状態の遥。

「すみれ? これでどこまで下りるつもりだ? 普通の人間には、ちょっときついんだが……肉体的にも……精神的にも……」

 もう一方の肩の上からすみれに声を掛ける界人。

「11階までダイブできればあとは階段で下りられますから」

 実験棟とオフィス棟の間をジグザクに飛び移りながら下に向かうすみれ。

「それで? ここから、抜け出した後はどうするつもりなんだ?」
「ひとまず、日本に帰りましょう。羽田行きのチケットは手配済みです」
「手配済みって? どうやって!?」

「社内ネットワーク経由でヒースロー空港の搭乗予約システムをハッキングしてチケットを2枚確保しておきました」
「ハッキングって? お前、何でもありだな!」

「どうして2枚なの? すみれちゃんはどうするのよ?」
「私はトランクにでも入れて頂ければ大丈夫ですから」
「あら、残念、空の上のコーヒーとっても美味しいのに」

 放心状態を通り越して、緊張の糸が切れたのか? 一周回って暢気なことをしゃべり出す遥。

「そうなんですか? それじゃ、申し訳ありませんが、お父さんトランクの方お願いできますか?」
「すみれ、お前、本当に冗談が上手くなったな」

「冗談? 何のことですか? お父さん、肩と手足の関節くらいは外せますよね」
「ごめん、すみれ。そんなことができる人間はそうはいないんだ。少なくても私には無理なんだが……」


――そう、彼女は初めから冗談など一つも口にはしていなかった。実験棟117階フロアの100インチ大型ディスプレイの前で出会ったあの日も……

「君、その格好、暑くないのかい?」
「問題、ありません。私のボディーは摂氏65度まで耐えられるようにできてますから」


――二人で三日三晩、寝る間も惜しんで実験に没頭していたあの日も……

「すみれ、お前、寝なくても大丈夫なのか?」
「はい、必要ありません」
「食事も摂ってないじゃないか?」
「問題ありません。慣れてますから」
「すみれ、お前、愛社精神を身体のどこかに埋め込まれてるんじゃないのか?」
「そうかもしれませんね」


――すみれの口から飛び出した昔のアイドルみたいなセリフだって……

「また、トイレですか?」
「食ったら、出す! それが自然の摂理ってもんだろうが!」
「ずいぶんと、非効率的なんですね」
「何言ってんだよ! すみれ、お前だって同じだろ?」
「いえ、私は、そんなもの出したことありませんけど」


――彼女は、ただ、ただ、私の質問に、真摯に答えていただけなのである。そう、アシスタント型警備兵試作品アンドロイド1号機が機械的に……
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