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11話 未来の記憶

裁判

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「界人、ゴールが見えてきたわよ」
「ほんとだ、もう少しだな」
「界人、あなた、目をつぶってるんじゃなかったっけ?」
「いや――、それはその――、そうそう、遥が上り始める前に鉄はしごの数を確認しておいたのさ」

 苦しい言い訳を始める界人。

「へ――」
「数えながら上ってきたから、後10段くらいだろ?」
「咄嗟に思い付いたにしては、なかなかよくできた嘘ね」

 上から、軽蔑の眼差しで界人を見下ろす遥。

「遥、そんな目で見るなよ」
「ほら、やっぱり」
「あっ!!」
「もう、いいわよ!! 減るもんじゃないし!! それより界人も足元気を付けてよね! ここから落ちたら助からないわよ!」
「そうだな、今、初めて下を見たんだが、急に足がすくんできたよ」
「初めて下を見たって? 界人! あんた! どんだけ上ばっか見てたのよ!!」

「お父さん、遥さん、大丈夫ですか?」

 二人が見上げた声の先からはレース手袋に包まれた華奢な右手が差し伸べられていた。

「あの子はさっきの?」

 その右手にこわごわ掴まる遥。

「あなた、そんな細い腕で大丈夫?」

 心配とは裏腹に彼女は遥を力強く引き上げた。

「ありがとう! あなたには助けられてばっかりね!」
「いえ、いえ、とんでもないです」
「あなた、名前は?」
「すみれです。神坂すみれ」
「すみれちゃん、あの牢屋からどうやって!?」
「まさか、あの看守を誘惑して、牢屋の鍵を!? くっそ――、あの看守め――、私の誘惑には乗らなかったくせに! やっぱり、若さか!? それとも、胸か! 胸の大きさか!?」

 無事に70階まで辿り着けた安堵感から変なスイッチが入ったのか、急に饒舌になる遥。

「遥さん、ちょっと待って、待って下さい。私はただ牢屋の鉄格子を抉じ開けただけです」
「抉じ開けた!? ってどうやって!?」
「素手で普通に抉じ開けただけですけど」

「界人、聞いた? この子、可愛い顔して、冗談まで言えるのね」
「お父さんも掴まって下さい」

 彼女の右手を握る界人。

「てゆ――か、それよ!! さっきから気になってたんだけど、そのお父さんってやつ!!」
「お父さんが何か?」
「界人! あんたどうゆう趣味してるのよ! アシスタントの子が若くて可愛いからって!」
「これは、違う! すみれが勝手に!」

「お父さんがそう呼べって、しつこく強要するものですから仕方なく」
「すみれ、お前! 何を!?」
「すみれちゃん、界人のこと一緒に訴えましょ。絶対勝てるわよ」

「一緒にって? 遥さんもお父さんに何かされたんですか?」
「そうそう、人前では言えないあんなことやこんなことまで……」
「うわぁ――、お父さん最低ですね」

 珍しく、感情を露にする彼女。

「お前ら、いい加減にしろよ! それより、すみれ状況は?」

 崩れていた彼女の表情はすぐに元に戻った。

「はい、お父さん。今このツインタワーの警備は厳戒態勢に入っています。70階より下のエレベーターは実験棟もオフィス棟も全て緊急停止させられています」
「あれ? 牢屋があったのは80階だったわよね。あなたここまでどうやって?」

「遥、実は、すみれには対象者の座標と自分の座標を交換できるという能力があってだな……」
「界人! 何、バカなこと言ってるのよ! そんなことあるわけないじゃない!」

「すみれ、お前、実験棟の70階にいた警備員か誰かと、座標の交換を使ったんだよな!?」
「お父さんはやっぱり頭がいいですね。そうすれば簡単でしたね。思い付きませんでした」
「それじゃ――、すみれちゃんどうやって?」

「牢屋のあったオフィス棟80階から、実験棟70階まで普通にダイブしてきただけですけど」
「あなた、また、冗談を? まだ界人の話の方が信じられるわよ!」

「そこで何をしているんですか?」

 顔を向ける界人と遥。彼女の声かと思ったが、彼女の口は動いていない。気が付くと、同じ服装をした複数の女性に囲まれていた。同じ服装と言っても警備服ではない。モノトーンのメイド服、白い長袖に白いレース手袋、足元には厚手の黒タイツに黒いロングブーツを履いていた。
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