【完結】君が消えた仮想世界と僕が願った並行世界

１０話 シミュレーション実験（Ｃパート １）

実験レポート１４日目 １

「すみれ、お前、寝なくても大丈夫なのか？」

　実験棟の１１７階、フロアの隅っこに平積みされていた災害備蓄用のカップ麺を頬張りながら界人が久々に口を開いた。辺りには、同じ銘柄のカップ麺の容器が散乱している。

「はい、必要ありません」

　三日三晩とは言え、界人は居眠り程度は度々繰り返していた。

「食事も摂ってないじゃないか？」
「問題ありません。慣れてますから」
「慣れてるって、お前、こんな過酷な研究のアシスタントばかりさせられているのか！？　ロンドン本社の労働環境も劣悪なんだな？」
「過酷？　なんですか？　これが普通かと……」

「普通なことあるか――――――！！　実験が落ち着いたら私から会社に掛け合ってやるよ！」
「結構です。これが私の仕事ですから」
「さいですか？　すみれ、お前、愛社精神を身体のどこかに埋め込まれてるんじゃないのか？」
「そうかもしれませんね」

　冗談を真面目に返され話を続ける気力を失う界人。

「私は、そんなのごめんだけどな！　すみれ、ちょっとここ、頼めるか？」

　その場を急に立ち上がり、すみれに席を譲る界人。

「また、トイレですか？」
「食ったら、出す！　それが自然の摂理ってもんだろうが！」
「ずいぶんと、非効率的なんですね」
「何言ってんだよ！　すみれ、お前だって同じだろ？」
「いえ、私は、そんなもの出したことありませんけど」

　すみれの口から昔のアイドルみたいなセリフが飛び出した瞬間だった。永遠とも思えた停滞は、突然終わりを告げた。