【完結】君が消えた仮想世界と僕が願った並行世界

１０話 シミュレーション実験（Ｂパート ２）

回想

　人が死を悟ったときに人生の後悔を回想すると言われている走馬灯。人が過去を思うとき、意識はその者の過去の意識に飛んでいる。人生の後悔を回想するということは、人が過去を思うということであり、あの時こうしていればと強く願うことであり、その回想という行為は思い違いという行為に置き換わる可能性を十分に秘めているのではないか。ここまでは論文の中でも述べた通りである。つまりは、どういうことか？　人は走馬灯の度に後悔のポイントから人生をやり直している。それは何も特別なことではなく、誰もが日常的に。やり直し前の記憶が引き継がれない為にそれを認識できていないだけなのである。

「人は誰しも、日常的にタイムリープを繰り返しているってことですか？」
「少なくても、私はそう思っている」
「でも、記憶が引き継がれないのなら何も起こっていないのと同じことじゃないですか？」

「そうなんだよな。しかし、論文の中でも考察した通り、走馬灯の過去改変により死を免れる者が一定数現れなければ、交通事故の死亡率が計算上の値よりも減少している説明が付かないと言うのもまた、事実なんだが……」

「つまり、タイムリープまでは日常で、それに何らかのイレギュラーが加わり、走馬灯の前後で記憶が同期されて初めて過去改変が成立するってことですか？」
「そういうことになるな」

　実験の行き詰まりに弱気になる界人。

「それなら簡単ですね。そのイレギュラーを観測するには、あとは回数をこなすだけじゃないですか？」

　今回ばかりは、すみれの楽観的な思考回路に助けられた気分の界人だった。

「そうだな！　こっちは何回でもサイコロを振れるんだもんな！」

　界人は仮想世界の時間速度を最大の１０００倍まで引き上げた。繰り返される走馬灯によるタイムリープ。ループ、ループ、またループ。気が付けば、二人は三日三晩、寝る間も惜しんで実験に没頭していた。