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9話 小さな白い玉

再会

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「ANCより、ご搭乗のお客様方にご案内いたします。ANC127便、ロンドン行きは、まもなく致しますと搭乗手続きを締め切らさせて頂きます。まだ搭乗手続きをお済ませでないお客様は、お急ぎ出発カウンターまでお越しください」

 突然、泣き崩れる李依。彼女の前には、幾度となく再会を願い続けた生前の父の姿があった。

「界人、あなたのせいよ! あなたが居眠り運転なんて繰り返すから出発時刻ギリギリじゃない!」
「はる――、主任のナビが間違ってたからじゃないですか!」
「はぁ!? 全然間違ってないし――!」

 父の元へかけより力いっぱい抱きつく李依。しかし懐かしい父の温もりを感じることはできなかった。父の手を掴もうとしても、父の顔に触れようとしても、何度試しても、何度繰り返しても、虚しくホログラムのようにすり抜けるだけだった。

「信人、どういうことだ!?」

 界人が堪らず、信人に脳内で語りかける。

「すみれさんが転移の力を使った瞬間に僕の意識の中にみんなの意識を取り込んでこの時間軸で解放してみたんだけど……」
「お前、どう言うつもりだ!!」
「どう言うって、作戦の実行だよ。界人おじさんの出番は、まだ先だから、もう少し休んでて」

「李依、無駄だよ。みんなの魂をあの日の羽田空港の搭乗ロビーに転移させただけだから直接干渉することは多分できないと思う」

 いつまでも諦めずに泣きながら父への接触を試みる李依を見るに見兼ねて、すみれが止めに入った。

「でも僕らの能力を使えば間接的になら干渉することはできるんじゃないかな」
「お父さんを助けられるかもしれないってこと!!」

 李依の顔から涙は消え、何かを必ず成し遂げるんだというその凛とした表情からは、彼女の覚悟と逞しさがにじみ出ていた。

「で、何をどうすればいいのよ!!」

 いつものように、他力本願で信人に丸投げしたわけではない。失敗が許されないというこの状況で、信人の指示に従うのが一番確実だと。それほど李依は信人のことを信頼し始めていた。

「まず、李依の記憶が正しければ、お父さんはこの飛行機には乗らずに交通事故で亡くなるんだよね」
「そうよ」
「でも、僕の記憶では、君のお父さんは飛行機の爆発事故に巻き込まれて亡くなったことになってるだ。これが、どういう意味だか分かるかい?」
「全然、分からないわよ!」

「多分、この世界はすでに誰かが飛行機事故からお父さんを救おうとした結果。つまり修正後の世界なのさ。けれど結局、お父さんは交通事故で亡くなってしまった。死の運命からは逃れられなかったってことだよ」
「だから、どうすれば、お父さんは助かるのよ!!」
「まずは、修正前の世界からやり直したいんだけど……」
「分かったわ! やってみる!」

 李依には何の迷いもなかった。一点の曇りもない純真無垢な心で彼女は願った。

――修正前の世界に戻れたらいいのになぁ……

 娘が願ったから父がその思考に辿り着いたのか、父がその思考に辿り着くから娘が願ったのか、その時、界人は思い至ってしまった。記憶の干渉における時間の非連続性理論から思い至ったその思考、それは能力といっても過言ではなかった。
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