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8話 理論
記憶の干渉における時間の非連続性
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「後は李依さんの能力だけど、使い勝手が悪いというか不確定要素が多いというか実用向きじゃないんだよね」
「あいつのあれは、本当に能力なのか?」
高梨李依の能力
1.願い事が全て叶ってしまう能力(高梨李依の見解)
2.予知能力に似た力(岡本信人の見解)
「いずれにせよ能動的に使えるものではなさそうだね。感情的要素が深く関わっていることは間違いないと思うんだけど……答えがでないことを考えていても時間の無駄。この話はここまで。時が来れば自ずと明らかになるんじゃないかな」
「それもそうだな。それじゃ、これで作戦会議も終了だな」
「何言ってるのさ、界人おじさん、ここからが本題じゃないか!」
「えっ、他に能力者なんていたっけか?」
「何、惚けてるのさ、次は界人おじさんの番だよ」
「はっ!? 私には何の能力もないぞ!!」
「能力なんてなくても、おじさんには人並外れた知力があるじゃないか!」
「信人、そんな、おだてても何も出ないぞ!」
「記憶の干渉における時間の非連続性について詳しく教えて欲しいんだけど……」
それは、界人が高校生の時に発表した論文のタイトルだった。
記憶の干渉における時間の非連続性
高梨界人
時間は、過去、現在、未来と連続性をもって干渉している。過去の事象の結果として現在が存在し、現在の成果が未来に影響を及ぼす。これは、現在を生きる者の主張であり、未来に生きる者からすれば、過去もしくは前者における現在の事象は記憶に過ぎない。記憶の結果として未来人にとっての現在が存在している。記憶とは不変的なものではない。その者のちょっとした感情、周囲からの負荷によって容易に変貌を遂げる。記憶の変化によって過去も変化するとしたら……未来が過去に影響を及ぼすのである。過去が改変されれば未来も変化する。時間に連続性や一方向性があるというのは人間が決めた幻想にすぎないのである。(中略)
人の意識とは、何か。未来人が過去の自分を思うとき、人が過去を思うとき、意識はその者の過去の意識に飛んでいる。通常、過去の意識にアップロードされた未来の記憶で上書きなどされるはずもなく、過去が改変され未来に影響を及ぼすことは少ない。ところが、思い出すという行為から思い違いという行為に置き換わるとどうだろう。過去の脳の引き出しから出力された思い違いのデータで意識が上書きされてしまう。つまり、容易に過去が改変され未来に影響を及ぼすのである。
「信人、何ぼーっとしてるのよ!」
能力の確認、信人の過去の追体験、界人の論文と、かなり長時間、話し込んでいたように感じたが、所詮、お互いの意識の中にある記憶を一つの脳内で情報交換しただけのこと。李依からしてみれば、ほんの数秒のことだったようである。
「ありがとう、界人おじさん。だいたい理論は理解できたよ。時間切れみたいだから、統計・データ分析のセクションは勝手にトレースさせてもらったよ」
「早っ!! 最初からそうすればよかったんじゃないか!」
「ひとまず、今は僕が表に出ればいいのかな?」
「私は引っ込んでるから、あとは若い者でうまくやってくれ……」
界人は会話のやり取りは共有しつつも意識レベルを下げその場を信人に任せた。
「信人、聞いてる!?」
「ごめん、ごめん、何の話だっけ?」
「だから――、信人の能力とすみれの能力が入れ替わってたって話じゃない! あなた大丈夫!?」
「李依、それなんだけど、なんか元に戻っちゃったみたい!」
うまく話しを合わせるすみれ。
「何それ、つまんな――い! もう少し遊びたかったんだけど……」
界人は信人の身体で、すみれの顔をした信人に11回も心臓をナイフで突き立てられて、ここまでようやく辿り着いたというのに、李依の無邪気な反応に全身の力が抜ける思いだった。しかし、それ以上に改めて、我が子との再会を密かに噛みしめるのだった。
「あ――それより信人、私さっき気付いたら男子トイレにいたんだけど……あなた何かした?」
「それヤバくない!? 何してんのさ」
完全に白を切る信人。
「あっ、それ、たぶん私の能力! 信人君が間違えて使っちゃったんじゃないの? トイレに誰もいなくてよかったね――」
「やっぱり! 信人の仕業だったのね! もし、誰かいたらと思うとぞっとするんですけど……」
「そりゃ――残念だったね」
「何よ、それ! でもすみれにそんな隠された力があったなんて知らなかったわ」
「そう? 言ってなかったっけ?」
「すみれ、ちょっとやってみせてよ」
「仕方ないな――特別よ!」
気が付くと、三人は羽田空港の搭乗ロビーに立っていた。
「あいつのあれは、本当に能力なのか?」
高梨李依の能力
1.願い事が全て叶ってしまう能力(高梨李依の見解)
2.予知能力に似た力(岡本信人の見解)
「いずれにせよ能動的に使えるものではなさそうだね。感情的要素が深く関わっていることは間違いないと思うんだけど……答えがでないことを考えていても時間の無駄。この話はここまで。時が来れば自ずと明らかになるんじゃないかな」
「それもそうだな。それじゃ、これで作戦会議も終了だな」
「何言ってるのさ、界人おじさん、ここからが本題じゃないか!」
「えっ、他に能力者なんていたっけか?」
「何、惚けてるのさ、次は界人おじさんの番だよ」
「はっ!? 私には何の能力もないぞ!!」
「能力なんてなくても、おじさんには人並外れた知力があるじゃないか!」
「信人、そんな、おだてても何も出ないぞ!」
「記憶の干渉における時間の非連続性について詳しく教えて欲しいんだけど……」
それは、界人が高校生の時に発表した論文のタイトルだった。
記憶の干渉における時間の非連続性
高梨界人
時間は、過去、現在、未来と連続性をもって干渉している。過去の事象の結果として現在が存在し、現在の成果が未来に影響を及ぼす。これは、現在を生きる者の主張であり、未来に生きる者からすれば、過去もしくは前者における現在の事象は記憶に過ぎない。記憶の結果として未来人にとっての現在が存在している。記憶とは不変的なものではない。その者のちょっとした感情、周囲からの負荷によって容易に変貌を遂げる。記憶の変化によって過去も変化するとしたら……未来が過去に影響を及ぼすのである。過去が改変されれば未来も変化する。時間に連続性や一方向性があるというのは人間が決めた幻想にすぎないのである。(中略)
人の意識とは、何か。未来人が過去の自分を思うとき、人が過去を思うとき、意識はその者の過去の意識に飛んでいる。通常、過去の意識にアップロードされた未来の記憶で上書きなどされるはずもなく、過去が改変され未来に影響を及ぼすことは少ない。ところが、思い出すという行為から思い違いという行為に置き換わるとどうだろう。過去の脳の引き出しから出力された思い違いのデータで意識が上書きされてしまう。つまり、容易に過去が改変され未来に影響を及ぼすのである。
「信人、何ぼーっとしてるのよ!」
能力の確認、信人の過去の追体験、界人の論文と、かなり長時間、話し込んでいたように感じたが、所詮、お互いの意識の中にある記憶を一つの脳内で情報交換しただけのこと。李依からしてみれば、ほんの数秒のことだったようである。
「ありがとう、界人おじさん。だいたい理論は理解できたよ。時間切れみたいだから、統計・データ分析のセクションは勝手にトレースさせてもらったよ」
「早っ!! 最初からそうすればよかったんじゃないか!」
「ひとまず、今は僕が表に出ればいいのかな?」
「私は引っ込んでるから、あとは若い者でうまくやってくれ……」
界人は会話のやり取りは共有しつつも意識レベルを下げその場を信人に任せた。
「信人、聞いてる!?」
「ごめん、ごめん、何の話だっけ?」
「だから――、信人の能力とすみれの能力が入れ替わってたって話じゃない! あなた大丈夫!?」
「李依、それなんだけど、なんか元に戻っちゃったみたい!」
うまく話しを合わせるすみれ。
「何それ、つまんな――い! もう少し遊びたかったんだけど……」
界人は信人の身体で、すみれの顔をした信人に11回も心臓をナイフで突き立てられて、ここまでようやく辿り着いたというのに、李依の無邪気な反応に全身の力が抜ける思いだった。しかし、それ以上に改めて、我が子との再会を密かに噛みしめるのだった。
「あ――それより信人、私さっき気付いたら男子トイレにいたんだけど……あなた何かした?」
「それヤバくない!? 何してんのさ」
完全に白を切る信人。
「あっ、それ、たぶん私の能力! 信人君が間違えて使っちゃったんじゃないの? トイレに誰もいなくてよかったね――」
「やっぱり! 信人の仕業だったのね! もし、誰かいたらと思うとぞっとするんですけど……」
「そりゃ――残念だったね」
「何よ、それ! でもすみれにそんな隠された力があったなんて知らなかったわ」
「そう? 言ってなかったっけ?」
「すみれ、ちょっとやってみせてよ」
「仕方ないな――特別よ!」
気が付くと、三人は羽田空港の搭乗ロビーに立っていた。
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