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6話 主観と俯瞰(Bパート)

あの日の信人

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「あの子、ほんとに大丈夫かしら」

 遥は朝食もとらずに学校に向かった信人のことを心配していた。今朝の頭痛の件もそうだが、昨日の肝試しで突然意識を失ったことが気がかりでならなかった。界人が交通事故で亡くなったあの日、信人は自宅のリビングで意識を失い4年間眠り続けたのである。昨日の信人があの日の信人の表情とダブってしまった。

「そうよね。迎えに行ったってマザコンにはならないわよね」
「けど、あの子の高校までの坂道、アラフォーにはちょっときついのよね。レンタカーもう1日借りておけばよかった」

 もし、レンタカーを返すのが、あと1日遅れていたら、遥の走馬灯ループが始まっていたかもしれなかった。


「それにしても、信人と李依ちゃんが仲良くしてるなんて不思議よね」

 歳のせいか、最近、ひとりごとが多くなってきた。

「この水族館だって界人がもし生きていたら5人で来ていたかもしれないのよね」

 海辺の水族館を横目に、思い出に浸る遥。そして、問題の心臓破りの坂に差し掛かった。

「え――――!! これ、ほんとに歩いて上るの――――!!」


「はぁ――はぁ――しんど!! 何で信人のクラス5階なのよ!!」

 心臓破りの坂を上りきった直後の階段が予想以上に堪えたのか、さながら変質者のように息を切らす遥。

「え――と、2―A、2―Aっと、あっ!! ここね!!」

 遥はしばらく、その場で息を整えてから教室のドアを静かに開けた。


「そうだね、ほんと、万死に値するね」

 頬に何か生暖かい感触を覚えた遥は、そっと白いブラウスの袖で顔を拭った。

「えっ! 何これ? 血!?」

 そこには、愛する我が子の無残な姿があった。心臓から滝のようにこぼれ落ちる血液。床にできた血の池には護身用のナイフが浮かんでいた。

「信人――――――――――――!!」

 仰向けに倒れる信人の身体。すでに息絶えた後のようである。

「あれ、ママ、どうしたの?」

 声を失っている遥に向けて、すみれが口を開いた。

「えっ! あなた誰!?」
「誰って、僕は僕さ」
「嘘!? まさか!?」

 その時、遥は全てを思い出した。

「信人、約束が違うじゃない!!」
「これは、必要なことなんだよ。大丈夫、この惨劇も一瞬のまたたき。何回かで収束に向かうはずだから」
「もう、こんなこと、終わりにしましょうよ」
「だから、もうこの世界は終わりなんだって」

 すみれの口からこぼれ落ちた言葉を最後に教室から人も物も消滅した。
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