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4話 仮初めの記憶(Aパート)
悲しみの連鎖
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「高梨さん、私たちもそろそろ出発しましょ」
「つ――か、これって何の会よ! お互いの母親と肝試しって!」
李依はいつの間にかそんな軽口を叩けるほどに信人ママと打ち解けていた。
「ま――いいじゃない。くじ引きだし文句なしよ」
そう言いながら信人ママはリュックから懐中電灯を取り出し、李依に手渡した。
――ってこの人いくつ懐中電灯持ってるのよ! デジャブかと思ったじゃない!
そんなツッコミを心の内で呟きながら、李依は信人ママとハイキングコースに入っていった。無言のまま歩みを進める二人。しばらくして、信人ママが珍しく浮かない顔で話しかけてきた。
「高梨さん、ごめんなさいね。私、あなたがみゆきの娘だなんて知らなくて、ほんと、ごめんなさい」
「えっ、何の話ですか?」
何に対する謝罪か全く見当がつかない李依。
「あなたのお父さんとのことよ」
「……………………………………」
「みゆきから何も聞いてないのね」
「……………………………………」
「あなたのお父さんが亡くなったとき、私、車の助手席に座っていたのよ」
信人ママからの突然の告白に言葉が出てこない李依。
「あの日、界人がいきなりロンドン行の飛行機には乗らないとか言い出して。あさっての方向に車を走らせたかと思ったら、急に、私に『ごめん』って、驚いた私をなだめようと運転席から降りたところを対向車に跳ねられて……謝られる前に、変なことも言われたし」
「変なこと?」
ようやく口を開く李依。今度は信人ママが一旦口籠り、そして語気を強めた。
「とにかく、あの日、朝から様子がおかしかったのよ。私がもっと、早く何か対処していれば、あんなことには……」
父親のことを界人と呼ぶ信人ママ。初めて見せる表情だった。彼女もまた李依の能力の被害者だったのだ。父親の事故死から始まった悲しみの連鎖。負い目を感じるのは自分一人で十分だと李依は思った。
「あの時こうしていれば、なんて言ったら、きりがないですよ。私だって、あの日、本当は家族で水族館に行く予定だったんです。でも急にロンドン出張が決まって、『行かないで』って子供ながらに駄々をこねたんです。でも、結局諦めてしまって。なんで、あの時、お父さんの手を放してしまったんだろうって、それにあんなことを……」
「あんなこと?」
「とにかく! 私にも、お母さんにも、あのとき、できることは何もなかった」
「でも……」
何か話そうとした信人ママ、それよりも先に李依は優しく呟いた。
「そう、お母さんは悪くないです」
「李依ちゃん……」
少しの沈黙のあと、李依はこう付け加えた。
「実はこの言葉、信人君が私に言ってくれた言葉なんです。私がこの言葉にどれだけ救われたことか」
「へ――そう……あの子がそんなことを……」
信人ママはえも言われぬ幸せそうな微笑みをこぼした。
「つ――か、これって何の会よ! お互いの母親と肝試しって!」
李依はいつの間にかそんな軽口を叩けるほどに信人ママと打ち解けていた。
「ま――いいじゃない。くじ引きだし文句なしよ」
そう言いながら信人ママはリュックから懐中電灯を取り出し、李依に手渡した。
――ってこの人いくつ懐中電灯持ってるのよ! デジャブかと思ったじゃない!
そんなツッコミを心の内で呟きながら、李依は信人ママとハイキングコースに入っていった。無言のまま歩みを進める二人。しばらくして、信人ママが珍しく浮かない顔で話しかけてきた。
「高梨さん、ごめんなさいね。私、あなたがみゆきの娘だなんて知らなくて、ほんと、ごめんなさい」
「えっ、何の話ですか?」
何に対する謝罪か全く見当がつかない李依。
「あなたのお父さんとのことよ」
「……………………………………」
「みゆきから何も聞いてないのね」
「……………………………………」
「あなたのお父さんが亡くなったとき、私、車の助手席に座っていたのよ」
信人ママからの突然の告白に言葉が出てこない李依。
「あの日、界人がいきなりロンドン行の飛行機には乗らないとか言い出して。あさっての方向に車を走らせたかと思ったら、急に、私に『ごめん』って、驚いた私をなだめようと運転席から降りたところを対向車に跳ねられて……謝られる前に、変なことも言われたし」
「変なこと?」
ようやく口を開く李依。今度は信人ママが一旦口籠り、そして語気を強めた。
「とにかく、あの日、朝から様子がおかしかったのよ。私がもっと、早く何か対処していれば、あんなことには……」
父親のことを界人と呼ぶ信人ママ。初めて見せる表情だった。彼女もまた李依の能力の被害者だったのだ。父親の事故死から始まった悲しみの連鎖。負い目を感じるのは自分一人で十分だと李依は思った。
「あの時こうしていれば、なんて言ったら、きりがないですよ。私だって、あの日、本当は家族で水族館に行く予定だったんです。でも急にロンドン出張が決まって、『行かないで』って子供ながらに駄々をこねたんです。でも、結局諦めてしまって。なんで、あの時、お父さんの手を放してしまったんだろうって、それにあんなことを……」
「あんなこと?」
「とにかく! 私にも、お母さんにも、あのとき、できることは何もなかった」
「でも……」
何か話そうとした信人ママ、それよりも先に李依は優しく呟いた。
「そう、お母さんは悪くないです」
「李依ちゃん……」
少しの沈黙のあと、李依はこう付け加えた。
「実はこの言葉、信人君が私に言ってくれた言葉なんです。私がこの言葉にどれだけ救われたことか」
「へ――そう……あの子がそんなことを……」
信人ママはえも言われぬ幸せそうな微笑みをこぼした。
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