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61 クラースさんの仕返し
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「こら! ダメダメ! 明日は仕事! 君もでしょ! ……っ、こらっ! もう!」
「暴れないで。わかってますって。だから一回だけ。一回だけで終わるから……」
「全然わかってない! 昨日だってあと一回だけって言ってたのにさ、結局、はっ……! それなんかっ、アレしてるでしょっ、ズルいって!」
「持てる力を適切なときに発揮できるのが良い指揮官における素質のひとつなんですよ。もう諦めて俺に従っていただきたい」
「だから何の指揮官なんだよ、ジルくん君、こんな無駄遣いしてたら早死にするよ、腹上死するよ、そんな、死に方、……っあ、していいのっ……!」
「全然説得力ないですよその顔。めっちゃ気持ちイイってでっかく書いてありますよ。あと俺が先に死ぬのでいいんです。クラースさんは俺よりに先に死んだらダメです」
「んん~~……!! あっ、やだ、オレが先に死ぬ、あっ、君が、君がいなくなったらオレっ……、どうやって生きてったらいいんだよ、絶望だよ! 抜け殻になっちゃうよ!」
「あっすみません、無理だ。えっと……、ちょっとだけ、少しだけ頑張って……!! ごめんなさい……!!」
いくら受け入れてくれたからって、その辺はちゃんと自制しようとは思っていたのだ。でも予定は予定の話だった。
こんなに近くにいるのに、手を伸ばせばすぐに触れられるのに、我慢していた反動である。いつでも、いや時と場合は考えなければならないが、今も全然考えられてはいないのだが、いつでも身体が手に入る。
心を得られたからといって、次は身体だなんて、なんとも短絡的である。俺ってこんなにワガママだっけ。もっと我慢強かったような気がするんだが。
しかし呪術とはよくできているものだ。欲に負けて無理をすると、疲れや眠気となって俺の行動を自動制限してくれる。『君、終わったらすぐ寝るよね』と言われてしまい、ちょっとショックを受けはしたが。
そんな甘い、甘ったるい日々を過ごしていたとき。クラースさんが宣言した。
「オレ、落ちるつもりはないから。秋の試験に向けてしっかり勉強しなきゃいけない身なんですよ。本来は。このまま君と爛れた日々を送るわけにはいかないの」
「えっ!? そんな……、睨まないでくださいよ。それは俺もわかってるつもりです。じゃあ二日に一回……じゃなくて、三日に一回……」
「毎度毎度一回じゃ済まないでしょ。それはこの数週間で学んだから。足腰ガタガタになって集中できないよ。終わるまでお預けです」
「えっ無理…………顔が怖いですよクラースさん」
「君の顔のほうが怖いよ。試験まではあと三ヶ月。君としては長いだろうけど、オレ的にはこれしかない。ずっと勉強してなかったし、あの頃より若くないから忘れてるとこがいっぱいあるの。真剣なの。わかった? わかったらお返事して?」
「くっ…………わかりました。邪魔しません。応援してます」
「ありがとね。オレとしても、求めてくれるのは嬉しいんだよ。正直、オレだってほんとは今すぐ君と寝たいよ。だって、すっ…………ごい気持ちイイから。さすがだよね呪術師様は。凡人とは格が違うね」
「やめてくださいよクラースさん、チンコ痛くなるじゃないですか! わざとでしょ!!」
クラースさんは余裕の笑みで『別に?』と言っていた。このいかにも話しかけやすい、いい人を全面に押し出した容貌の人が悪魔のような表情をするのはズルい。とてつもなく色っぽい。
キスはちゃんとしてくれる。触るのだって許してくれる。でも夢中になってうっかり呪術を使いかけると、耳を引っ張ったり腕を捻られたりして阻止されるようになった。魔術師だからかその点、かなり敏感なのだ。人の魔力の動きなど、僅かなものでもすぐにわかる。
その手付きは鮮やかだった。喧嘩慣れをしている動きだ。耳をさすりながら凄いですね、と関心すると『あそこにいたら、喧嘩できませーん、人殴れませーん、じゃ普通に生きてけないからさ』と、何の感慨もない様子でそう言われてしまった。
これは多分マジ喧嘩したら勝てないな、しないけど、と思いつつも解禁されてすぐ始まった禁欲生活に耐えられず、襲いかかってしまったことが何度かある。
俺はアホである。その自覚はある。下半身に脳みそが転移している馬鹿な俺に、彼はついに魔術を使った。呪文というよりほとんど単語で素早く俺を拘束したのだ。そのあと俺にできたことは、短くも的確な説教を静かに聞くことだけだった。
ごめんなさい、すみません、と謝るばかりの俺を哀れに思ってくれたのか、彼は『オレが襲う分にはいいってことで』と、おもむろに服を脱ぎ始めた。そして脱がされた。
今何が起こっている、と状況把握のために頭を回転させているうちに、彼はシレッとした顔で魔術薬を持ち出して、すぐ俺の上に乗ってきた。俺は近年稀に見る情けない声を出していただろうと思う。
俺が突っ込んでるはずなのに犯されている。初めて食らった魔術はしっかり効いていて、動けず、起き上がれもせず。見えない縄で拘束された状態で、快感の波だけにガンガンと襲われ続ける。
動きたいけど動けない。その焦れた気持ちが助走となり、次の快楽の波を必死で捕らえようとしてしまう。そのためつい目を閉じてしまうが、扇情的な光景も焼き付けたくなり無理やりこじ開けると、俺と繋がった彼の姿が目前にあり、馬鹿みたいに興奮した。させられた。
彼も目をきつく閉じて気持ち良さそうにしていたり、俺の顔をじっと見たり。その目はあのとき空の上で見た、あの据わり切った目の色と同じだった。かっこいい男の人が俺を上から見下ろしていた。
噛むようにキスをされるたび、何か覚えのある感覚がした。酒のようなものが口からとろりと入ってくる。奇しくもそれは、あの農園主のキスに耐えたときと似ていたのだが、その程度が全く違っていた。酒瓶を回してから逆さにして口に突っ込んだような勢いで入ってくるのだ。むせそうだ。
本当に酔ったように呂律が回らず、きちんと喋れているかもわからないなりに、なんですかこれ、と聞いてみた。『オレのは美味しい?』と、いやらしい返事の仕方で彼は煽ってくるだけだった。
彼に呪術はひとつも使えないはず。なぜだ、どうして、と考えることもできなくなり、あとは彼に揺らされるばかりだった。自分の想定とは違う動きをする柔い肉壁に擦られ続け、砂浜から沖へ沖へと引きずり込まれるような快感に飲み込まれ、やがてそれは限界を超え、バチバチと音が聞こえてきそうな火花となって散ってゆく。
その余韻を愉しむ暇もなく、俺のどうしようもない下半身は勝手に次の愉しみと刺激を求め続けるような有り様だった。
力を何も使ってない分、疲れはするが眠気が来ない。気持ちいいんだか辛いんだかの判断が徐々につかなくなり、現実味も薄くなってきたとき唐突に終わりがきた。
彼はほとんど出てない体液を細く飛ばしたあと、俺に覆いかぶさり荒い息を吐いていた。途中で大きく広げられた自分の脚が勝手に、ガクガクと震えているのに気がついた。結構辛いな、この体勢。
そういえばここ、床だった。背中が痛ぇ。ちゃんとベッドに引きずり込んでから事に及ぶべきだった。俺、襲われてる側だけど。
「暴れないで。わかってますって。だから一回だけ。一回だけで終わるから……」
「全然わかってない! 昨日だってあと一回だけって言ってたのにさ、結局、はっ……! それなんかっ、アレしてるでしょっ、ズルいって!」
「持てる力を適切なときに発揮できるのが良い指揮官における素質のひとつなんですよ。もう諦めて俺に従っていただきたい」
「だから何の指揮官なんだよ、ジルくん君、こんな無駄遣いしてたら早死にするよ、腹上死するよ、そんな、死に方、……っあ、していいのっ……!」
「全然説得力ないですよその顔。めっちゃ気持ちイイってでっかく書いてありますよ。あと俺が先に死ぬのでいいんです。クラースさんは俺よりに先に死んだらダメです」
「んん~~……!! あっ、やだ、オレが先に死ぬ、あっ、君が、君がいなくなったらオレっ……、どうやって生きてったらいいんだよ、絶望だよ! 抜け殻になっちゃうよ!」
「あっすみません、無理だ。えっと……、ちょっとだけ、少しだけ頑張って……!! ごめんなさい……!!」
いくら受け入れてくれたからって、その辺はちゃんと自制しようとは思っていたのだ。でも予定は予定の話だった。
こんなに近くにいるのに、手を伸ばせばすぐに触れられるのに、我慢していた反動である。いつでも、いや時と場合は考えなければならないが、今も全然考えられてはいないのだが、いつでも身体が手に入る。
心を得られたからといって、次は身体だなんて、なんとも短絡的である。俺ってこんなにワガママだっけ。もっと我慢強かったような気がするんだが。
しかし呪術とはよくできているものだ。欲に負けて無理をすると、疲れや眠気となって俺の行動を自動制限してくれる。『君、終わったらすぐ寝るよね』と言われてしまい、ちょっとショックを受けはしたが。
そんな甘い、甘ったるい日々を過ごしていたとき。クラースさんが宣言した。
「オレ、落ちるつもりはないから。秋の試験に向けてしっかり勉強しなきゃいけない身なんですよ。本来は。このまま君と爛れた日々を送るわけにはいかないの」
「えっ!? そんな……、睨まないでくださいよ。それは俺もわかってるつもりです。じゃあ二日に一回……じゃなくて、三日に一回……」
「毎度毎度一回じゃ済まないでしょ。それはこの数週間で学んだから。足腰ガタガタになって集中できないよ。終わるまでお預けです」
「えっ無理…………顔が怖いですよクラースさん」
「君の顔のほうが怖いよ。試験まではあと三ヶ月。君としては長いだろうけど、オレ的にはこれしかない。ずっと勉強してなかったし、あの頃より若くないから忘れてるとこがいっぱいあるの。真剣なの。わかった? わかったらお返事して?」
「くっ…………わかりました。邪魔しません。応援してます」
「ありがとね。オレとしても、求めてくれるのは嬉しいんだよ。正直、オレだってほんとは今すぐ君と寝たいよ。だって、すっ…………ごい気持ちイイから。さすがだよね呪術師様は。凡人とは格が違うね」
「やめてくださいよクラースさん、チンコ痛くなるじゃないですか! わざとでしょ!!」
クラースさんは余裕の笑みで『別に?』と言っていた。このいかにも話しかけやすい、いい人を全面に押し出した容貌の人が悪魔のような表情をするのはズルい。とてつもなく色っぽい。
キスはちゃんとしてくれる。触るのだって許してくれる。でも夢中になってうっかり呪術を使いかけると、耳を引っ張ったり腕を捻られたりして阻止されるようになった。魔術師だからかその点、かなり敏感なのだ。人の魔力の動きなど、僅かなものでもすぐにわかる。
その手付きは鮮やかだった。喧嘩慣れをしている動きだ。耳をさすりながら凄いですね、と関心すると『あそこにいたら、喧嘩できませーん、人殴れませーん、じゃ普通に生きてけないからさ』と、何の感慨もない様子でそう言われてしまった。
これは多分マジ喧嘩したら勝てないな、しないけど、と思いつつも解禁されてすぐ始まった禁欲生活に耐えられず、襲いかかってしまったことが何度かある。
俺はアホである。その自覚はある。下半身に脳みそが転移している馬鹿な俺に、彼はついに魔術を使った。呪文というよりほとんど単語で素早く俺を拘束したのだ。そのあと俺にできたことは、短くも的確な説教を静かに聞くことだけだった。
ごめんなさい、すみません、と謝るばかりの俺を哀れに思ってくれたのか、彼は『オレが襲う分にはいいってことで』と、おもむろに服を脱ぎ始めた。そして脱がされた。
今何が起こっている、と状況把握のために頭を回転させているうちに、彼はシレッとした顔で魔術薬を持ち出して、すぐ俺の上に乗ってきた。俺は近年稀に見る情けない声を出していただろうと思う。
俺が突っ込んでるはずなのに犯されている。初めて食らった魔術はしっかり効いていて、動けず、起き上がれもせず。見えない縄で拘束された状態で、快感の波だけにガンガンと襲われ続ける。
動きたいけど動けない。その焦れた気持ちが助走となり、次の快楽の波を必死で捕らえようとしてしまう。そのためつい目を閉じてしまうが、扇情的な光景も焼き付けたくなり無理やりこじ開けると、俺と繋がった彼の姿が目前にあり、馬鹿みたいに興奮した。させられた。
彼も目をきつく閉じて気持ち良さそうにしていたり、俺の顔をじっと見たり。その目はあのとき空の上で見た、あの据わり切った目の色と同じだった。かっこいい男の人が俺を上から見下ろしていた。
噛むようにキスをされるたび、何か覚えのある感覚がした。酒のようなものが口からとろりと入ってくる。奇しくもそれは、あの農園主のキスに耐えたときと似ていたのだが、その程度が全く違っていた。酒瓶を回してから逆さにして口に突っ込んだような勢いで入ってくるのだ。むせそうだ。
本当に酔ったように呂律が回らず、きちんと喋れているかもわからないなりに、なんですかこれ、と聞いてみた。『オレのは美味しい?』と、いやらしい返事の仕方で彼は煽ってくるだけだった。
彼に呪術はひとつも使えないはず。なぜだ、どうして、と考えることもできなくなり、あとは彼に揺らされるばかりだった。自分の想定とは違う動きをする柔い肉壁に擦られ続け、砂浜から沖へ沖へと引きずり込まれるような快感に飲み込まれ、やがてそれは限界を超え、バチバチと音が聞こえてきそうな火花となって散ってゆく。
その余韻を愉しむ暇もなく、俺のどうしようもない下半身は勝手に次の愉しみと刺激を求め続けるような有り様だった。
力を何も使ってない分、疲れはするが眠気が来ない。気持ちいいんだか辛いんだかの判断が徐々につかなくなり、現実味も薄くなってきたとき唐突に終わりがきた。
彼はほとんど出てない体液を細く飛ばしたあと、俺に覆いかぶさり荒い息を吐いていた。途中で大きく広げられた自分の脚が勝手に、ガクガクと震えているのに気がついた。結構辛いな、この体勢。
そういえばここ、床だった。背中が痛ぇ。ちゃんとベッドに引きずり込んでから事に及ぶべきだった。俺、襲われてる側だけど。
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