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5 アプローチとは何ぞや

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「はー……お前、まだチビ助だもんなあ。わかんないよな。いいか、仕掛けアプローチってのはなあ、オレはあんたにめっちゃ興味あるぞって伝えるとこから始まるわけよ」
「興味あるぞ……なるほど、例えばどんな?」

「そーだなー、休みの日がいつか聞いてお茶に誘うとか、どこそこ一緒に行ってみないかーとか。場所はその人が興味ありそうなところにする」
「興味ありそうなところ……何だろ、本がいっぱいあったから図書館……?」

「いいじゃねえか図書館。静かにしないとダメだからさ、ちょっと近寄って喋ったりできるじゃねえか。試しにいっぺん誘ってみろよ」
「うん! ありがと……あ、でも王城の図書館って閲覧許可? とか要る系?」

「じゃあオレ取ってきてやるよ。多分取れるだろ領主の身内なら。頑張れよ!」

 領主様の息子の兄ちゃんは、他のつーんとしているお貴族様とは違う感じの人なのだ。昔っから気さくで面倒見がいい。だから俺みたいなのがここに居られる。

 勿論伝手があるだけじゃダメで、試験に合格できなければ兵士にはなれないけど、そこまでの道筋を俺のためにわざわざ作ってくれたのだ。いい人だなあ。

 ただ見た目がお貴族様らしくなくて、あんまり良くないからモテないらしい。だから色々勉強したんだと。前に平民で良ければ俺が嫁になるよ! って冗談で言ったとき、『結婚かぁ……最悪それしかないかも……』って頭抱えてた。

 最悪ってなんだよ。俺と兄ちゃんは一応立場が違うからなにも言い返さないけど、結構失礼なこと言われてんな。



 ──────



 その日も爆速で仕事を終わらせ、キャロルさんのところへと駆けつけた。会った途端に手を取られ引っ張り込まれ、キラキラした瞳でこう言われた。

「グレイ、いい方法を思いついた。これだと早いかもしれない。早く座れ」
「えっ、えっ、はい、うわ! なんですか!!」

 近い近い! 綺麗な顔が!! うわー今日もいい匂い!! 花束の妖精のように!!

 相変わらずの甘い香りを発している彼は、俺の両耳に小指をぐりぐりとねじ込み出した。遠く聞こえる地響きのような音の上に自分の心音がドコドコ重なった中、そのまま頭を抑えられて唇を奪われた。いや立派な治療なんだけど、俺の心情的には奪われちゃってる感じであった。

 前回より明らかに熱い何かが多くなってきている。耳からも注入できるってことは、単純に両耳と口からの、三方向から入れてるってことか。

 まるで愛情を込めた手のひらで包まれているような錯覚と、甘い柔らかな芳香と、時折かかる温かい呼吸。

 身体の中を縫って走り、神経という神経を逃さずつうっと触れられてゆくあの感じ。それはすべすべした指であちこち撫でられるような感触だとその時感じた。

 一日のうちに彼を思い出す回数が明らかに増えている。鍛錬に集中して、思い出して、また集中しての繰り返しだ。身が入ってないと思われたりするのは嫌だし、油断すると怪我するから真剣にやらなきゃと、彼が見ていることを想定して行うようにしたら『型が良くなった。頑張ってるな』とまた褒められることが増えた。

 キスする度、慣れるどころか強くなってゆく妙な感触と、彼に対する気持ちの高ぶり。またきっと思い出す回数が増えてしまう予感がする。

 そう思うとたまらなくなり、絶対そんなことやっちゃダメと無意識に自分に言い聞かせていた枷がとうとう緩んできてしまった。

「っ、…………」
「………………」

 ……腕を掴んでしまった。自分から触れてしまった。

 振りほどかれないかドキドキしたが、少し身じろぎしただけで終わった。え、いいのかな。怒ってない? 大丈夫? 

 にしても、この細さと柔らかさは何だろう。ふわふわしてて気持ちいい。鍛えてないから? 特に鍛錬などはしてないはずだ。兵士志望とかじゃないから。

 でも弟はこんな腕してないし、いや労働してないからかな。貧乏暇なしでみんな何かしら重いものを持つような仕事をしたり、下の兄弟をあやすために抱いたり負ぶったりしてきたから。

 さすがに揉んだりするのは確実にまずいので、変な動きにならないよう細心の注意を払った。その時、俺の手はプルプルと小刻みに震えていたと思う。

「終わりだ。わりと良いところまで行ったと思う。来週は──」
「あの!! 王城の図書館って、ご興味ありますか!?」

「ん? 図書館? 私はよく行ってるが」
「えっ」

「というか、あの図書館に行く途中でお前を見つけた。魔術の才のありそうな見た目の奴が、なんで模造剣を振っているんだと思っていた」
「えっ……そうでしたか。……あの! 俺も一緒に行っていいですか! も、もし魔術師さんになれそうなら、予習? した方がいいと思って!」

 せっかく許可証を貰ったのだ。これを有効に使わなければ兄ちゃんに悪い。一瞬挫けかけたのだが、そう思い直して必死だった。

「熱心だな。お前に良さそうな本はあるぞ。じゃあ行くか、夕食前に戻ればいいか?」
「行きます!!」

 兄ちゃんありがとう。なんとかなったよ。……俺に読めそうなものがあるかが不安だが。やさしい魔術書、みたいな都合のいいものなんてあるかなあ。



 ──────



「これが学園で使う魔術書。これが最新の王国語辞典。どうだ、読めそうか。ここにはさすがに絵本のようなものは揃っていないからな」
「スゲェ……人殺せそうッスね……」

「ふふ、武器に見えるか。確かに四、五人殺してもバラバラにはならなそうだ。ふふっ、鈍器……」

 あっ、やった。キャロルさんにウケた。笑った彼を見て簡単に気分が浮上した俺は、そのノリで表紙を捲ってみた。……ワーオ。もう読めない単語があるぞー。

 俺んちは貧乏だから、無料で行ける学校にも行ったり行かなかったりだった。仕事がたくさんある日はどうしても行けなかった。

 そういう子は多かったから補習をつけてもらっていたが、完璧に学べたとは言えない。基礎中の基礎から踏み込んだ難しい単語なんかはサッパリだ。

 俺は悩んだ。正直に言うべきか。これを言って引かれたらどうしよう。彼は絶対育ちの良い人だ。うわー貧乏人ってこれだからー、とか思われたらどうしよう。

 でもそう考えたあと、ちょっと冷静になった。そもそも彼は、俺を魔術の道へと案内してくれようとしているのだ。これを話しかけるきっかけにしたらどうだろう。『夫婦というのは長い会話だ』なんてどっかの偉い人が言ってたし。

 この美しい人と夫婦だなんておこがましい。きっと一生ないだろうが、話をしないと始まらない。おれはガキのショボい矜持プライドなんかかなぐり捨てて足で踏み潰し、彼を頼ることにしたのだ。



────────────────────

小説ってのは、自分で作ったキャラに自分で口説かなきゃならないときがある。その辺無駄に詳しくなってきました。なんか漲ってきた。誰でも口説ける気がしてきた。ちょっと留守番よろしく!

こらせめて夕飯食ってから出てけ、と思われたお嬢さんはエールとお気に入り登録お願いしまーす!

© 2023 清田いい鳥



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