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1 盛大な勘違い

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 その日はいつもと同じように、日陰で自主鍛錬に励んでいた。

 俺の真っ黒な髪は日が当たるとやたら熱くなっちゃうからだ。身体も熱くなってくるので丁度いい。

 模造の剣といえど昨日のやつより重いし、数を数えるのも疲れるなあと思っていたら遠くに白い人影が見えた。通るのかなと思って端に寄っておいたら、その人影もこっち側へ寄ってくる。あれ? 知ってる人かな? とその時は思った。

「おい。そこの。お前だよお前。今時間は取れるか」
「えっ、俺ッスか? いいッス……け、ど……」

 超絶美少年の御成りである。神様の手ずから仕上げた全王国限定一体希少プレミア品、落札価格文字数制限超過のため提示不可能って感じのド美しい少年が目の前に。

 飴細工で一本一本作ったみたいなすっげえ綺麗な金髪と、宝石を直ではめ込んだみたいな紫色の瞳。割と質素な格好だけど布地の質が良くて、めちゃくちゃ高そうなものに見える。

 いやこれ絶対貴人、と思ってそそくさと跪いた。兵士の兄ちゃんに教わったやつ。そんで確か、話しかけられるまで頭を上げちゃいけないんだ。あれ? もう話しかけられてると見ていいのか? どっちだ? 全然わからん。

「は? なんだそれ。時間は取れるのかと聞いている」
「は、はい、取れます」

 ミスった。聞かれたことに先に答えるべきだった。俺はたまに話す程度だった領主様の息子の兄ちゃんに、頼み込んで兵士の鍛錬に参加させて貰ってる身だ。

 つまんないことで追放されたら領主様と兄ちゃんに悪いし、親にはしこたまどやされるし、兵士への夢も諦めなきゃならなくなる。

 怒んないで。何でもするから。そう思って必死で姿勢を維持していた。

「今は現物がないからな……夕食の後はどうだ。取れるか」
「ひ、ひゃいっ、取れますっ」

「じゃあ後で。まだ日が高いから場所はここだ。お前、名前は」
「はいっ、えっと、グレイアムです」

「グレイか。またな」

 声が裏返ったけどスルーされた。そしてあっさり渾名呼び。案外フランクで優しいお方なのかもしれない。だったらいいけど。

 それにしてもびっくりした。建物の影にいるのに発光してるみたいに白くて綺麗な美少年。こんな汗まみれで泥まみれの、いかにも身分の低い子供に話しかけてくるとは思わなかった。

 現物がない、ってなんだろう。なにか恵んでくれるのかな。貧しそうに見えたから。実際ほんとに貧しいけど。兵士には憧れがあるけどお給料の良さにも惹かれているのだ。

 近衛兵や衛兵は魔術学園などにある騎士科に入らなきゃいけないし、試験を受けても今の俺では落ちてしまう。とにかく出来ることを、と思って兄ちゃんに頼んだんだ。今んとこ弟子入りできる伝手が他に全然なかったから。



「金髪に紫の瞳の男の子? いやー……、ごめん、わかんね」
「そうかあ。なんかすっごい美少年だったから貴人だと思ったんだけど」

 食堂で夕食を食べながら兄ちゃんに確認してみたのだが、新しい情報は何一つとして得られなかった。もし王族の誰かなら、瞳が青かったり銀髪だったりするはずだ。

 そのどれにも当てはまらない彼の姿はお人形のように綺麗だった、くらいのことしかわからない。

「王城の貴人の誰かのご子息じゃねーかな。なるべく言うこと聞いとけよ、でもあんまりむちゃくちゃ言われたら先に兵士長に報告させてくれって粘れ」
「うん……わかった、ありがと。そうする……」

 うわー、なんか気が重くなってきた。絶対めんどくさいやつだ。あの綺麗なお顔はぶっちゃけジロジロ眺めたい、けど面倒な命令とかは絶対嫌だ。ここには鍛えに来てるんだよ俺は。その時はそう思っていた。



 ──────



 夕食を終えてさっきの場所に戻ると、先に美少年が待っていた。やべえ!! とダッシュで駆けつけたら、特に何も気にしていない様子で『来たか』と片手を上げられた。良かった!! 怒ってない!!

「はあっ、すみません、遅れました、はあっ」
「別に遅れちゃいない。楽しみだったから早く来ただけだ」

 ただでさえドキドキしている心臓が、更にドッキンと跳ね上がった。楽しみ? 楽しみだったってこの人言った?? 

 冗談だよね、真顔だけど、ああ真顔も極めて美しい。だめだ、あんまりジロジロ見てると脈がおかしくなってきてしまう。

「ほら、最初だから短剣にしてみた。持て。持ったら鞘を外して、魔力を流してみろ」
「あ、はい、あっでも、俺……魔力とかろくに無いんですけど……」

「なんでだ。その真っ黒な髪と瞳。魔力がたっぷりあるはずだ。受けただろう、検査」
「う、受けました。でもほとんど反応しなくて。目盛りが青の付近でした」

 この国では、魔力が多い兆候が見られる子供は全員治療院へ連れて行くよう義務付けられている。悪寒に似たその兆候は、元気なのに悪寒だけが延々と続いてしまうもの。

 俺はこの青く光る黒髪と、同じく真っ黒な瞳に生まれて散々期待されてきた。魔力量が多い子供は髪が真っ白か真っ黒、どちらかの姿が多いという王都伝説があるからだ。

 うちの家系に魔術師が、と親の期待は最高潮。しかし待っても待っても兆候なんて現れず、しびれを切らして検査に行くと、結果は凡人並みだった。

『元気なのが一番だ。いい結果じゃなかったけど、悪いところが見つからなくて良かったじゃないか』という母さんの一言で、我が家の魔術師爆誕事変はあっさり幕を閉じたのだ。

「青の目盛り……青……? まさか…………」

 高貴な人がぶつぶつ呪文を唱え始めてしまった。期待外れだったのかなあ。がっかりさせてしまった、と俺の気持ちも落ち込んだ。

「わかった。一旦持ち帰りだ。また明日」

 そう言って彼は踵を返した。真っ直ぐ王城へ向かってゆく。ああやはり貴人だったという緊張感と、また明日と言ってくれたことに対する高揚感を覚えてしまった。いやいや何を考えている。相手は雲の上の人。しかも男の子。

 ……でもお貴族様って中には、産めよ増やせよ政策の中でも後継者争いにならないようにするお家もあったりして、同性と婚姻を結んで養子を取ったり取らなかったり……

 いやいや。何を期待している。俺は吹けばあっさり飛んで消える平民風情の子供だぞ。



 ──────



「キャロルちゃん。こらキャロル。まーたそんな格好して。お父様が買ってあげたドレス、一回も袖通してないでしょう? 見たことないけど?」
「お父様、黒髪黒目で魔力がないって有り得ると思いますか」

「もー、全然話聞いてくれないんだから。それは有り得ないよ、最低でも一定水準前後くらいにはなるはずだよ?」
「ですよね……だったら……いやでも健康そうだし……そう見えるだけか……?」

「キャロルちゃん、もう来年は学園に入る年でしょ。研究と開発に熱心なのはお父様も嬉しいけどさ、色々準備があるんだよ。制服も作らないといけないよ。女の子なんだから絶対スカートにしてね、ねえちょっと! もー! キャロルちゃん!」



 ──────



 この国は男余りだ。女性はやや貴重な存在。かといって高貴な方が余ってしまうことはない。必ず縁談が組まれて、いずれ結婚しちゃうんだ。……でも愛人なら。いやいや。だから何を考えている。

 俺は足元をふわふわとさせたまま宿舎へ帰宅した。あの美しいお姿が頭の中にチラついて、とにかくチラチラ浮かびまくり、その日は中々寝付けなかった。



────────────────────

全年齢のギリギリを攻めてみようと思ってね。り◯んとかなか◯しに掲載できる白線の内側を。じゃ、ちょっくら走ってくるから夕飯の支度よろしくハニー!

おいやめろ、不運ハードラックダンスっちまうだろ、と思われたお嬢さんはエールとお気に入り登録お願いしまーす!

© 2023 清田いい鳥
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