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25 家出少女ミオルちゃん
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「お嬢さん! 大きな荷物だねえ。重くない? ちょっと辛そうに見えたんだけど、随分歩いてきたんじゃない? どこから来たの? 鯨町かあ。ねえねえ守衛地におやつあるからさ、休憩していかなーい? えっ、いいよー。経費経費! 俺のお金じゃないってこと。ついでに一緒に食べる気満々! これ内緒ね! 誰にも言わないで!」
うちの衛兵隊長の言葉の網にかかる相手は老若男女、様々だ。
まだ街の学校に通う年齢であろう少女は辺りが薄暗い中、どこかに泊まれる荷物を入れられるほどの大きな鞄をしょっていた。しかし彼女はひとりきり。見つけられて良かった。この国はまだ、女性のひとり歩きを看過できるほど安全じゃない。
彼女は途方に暮れたような顔をしてふらふらと歩いていた。親とはぐれて迷子になってしまったのだろうか。それとも。
「わたし、お母さんと喧嘩しちゃって…、だって門限は厳しいし、お友達がどういう人なのかいちいち聞いてくるんです。それにお小遣いくれるのはいいんですけど、何にいくら使ったのか帳面につけさせられてて。少しでも違ってたら叱られちゃう。前にこっそり、いつもはあんなの食べちゃだめって言われる屋台のお菓子を友達と買い食いしたのがバレたときも。どうして私のものになったはずのお金の使い道に文句を言われるんだろうって、ずっとずっと思ってて。もう全部嫌なんです!」
彼女の名はミオル。母親の干渉に我慢の限界を感じて家を飛び出してしまった。親子間トラブル。家出の動機としてはよくあることだ。他には学校でのトラブルや、友達とずっと遊びたいという理由だったりもする。
テーブルには彫刻鉢の蜜で作られたファッジや、ココルの実の粉入りビスケットなどが並べられている。ミオルちゃんより食べているサンダーがお茶を飲みながら話し始めた。
「なるほど、それは息苦しいね。まるで悪いことをする前提で監視されてるみたいだね。ところでお母さんとは話し合いした?」
「話し合いというか…、話しになりませんでした。門限は守りなさい、親に言えないような人と付き合うな、無駄遣いはいけませんって。お母さん、そればっかりで」
やけ食いのようにお菓子を頬張るミオルちゃんの表情は、最初に声をかけたときより落ち着いている。さてどうするか、と考えたところで通信魔道具のベルが鳴り、紙が出てきた。
新着の探し人。名前、年齢、服装などの特徴が一致している。ちらりとサンダーに目配せをした。わかっているのかいないのか、サンダーは目を細めて笑顔を作った。
「美味しかった? そうか、よかった。さて、泣いても笑っても君は未成年。保護者の元へと帰さなければならない。お仕事だから。でも君はまだ辛いでしょ? 俺が味方になったげるから、お母さんと話してみよっか!」
また心細そうな顔をしたミオルちゃんは、俺が味方に、の辺りで頬を染めて頷いた。衛兵の制服を着た恋泥棒は今日も女心を盗み散らかす。
近隣の衛兵に連れられ、ミオルちゃんの母親が到着した。少しほどけた髪が首に張り付き、顔色は悪く青い。心配して探し回っていたのであろう。気まずい顔をしたミオルちゃんに怒鳴りかけた母親をサンダーは手で制して、彼女の訴えを要約して伝えていた。
「お母さんはさ、娘さんが心配なんだよね。まだ女性のひとり歩きは危ないからね。ひとりになるな、暗くなる前に帰れと言ったら良かったかも。ミオルちゃん、それは必ず守れるよね? 危ないのはわかるかな?」
ミオルちゃんはこくんと頷いた。母親はまだ何か言いたげにしている。
「お母さんはさ、娘さんに自立してほしくないの? お母さんの判断なしに生きていけなくなっていい? そうじゃないのね。じゃあ様子が変なとき、困ってそうなときに声かけてあげたらどう? 友達と何かあってもさあ、なるべく自分で解決できるようにしてあげた方が後々安心じゃない。自立ってそういうことでもあるよね」
ミオルちゃんはブンブンと音が鳴りそうなくらいに頷いていた。母親は『でも…、はい』と言葉を飲み込んだ。心配なだけで、自立を妨げようという悪意はないようだ。
「お母さんはさ。金銭管理の大切さを教えあげたかったんだよね。そうそう、無駄遣いはダメだよね。でもさ! 無駄遣いしたことがなかったら何がどう無駄だったのか学ぶ機会もなくなるよね? 大人になったらもっと大きな額を扱うようになるでしょ、そのときになって失敗したら大変だと思わない? 親の目が届くうちに少額で失敗を経験しといたほうが安心だよ。うん、そうそう。俺も子供のときはさあ──」
サンダーの失敗談は子供の小遣いという額を遥かに超えていて、市民にとっては破天荒な話だった。だが聞いている母親と娘は気まずさ混じりの穏やかな表情だ。さっきと雰囲気が違っている。和解できたようで何よりだ。
──────
「マリちゃんは何か無駄遣いしたことある?」
「無駄遣い? うーん…ペット用品の買いすぎとかかな」
「どんなの? 犬? 猫?」
「いや、手鞠鼠。うちのは白と茶色のやつだった」
手鞠鼠。手のひらより小さいネズミだ。全身に短い毛が生えていて、尻尾はフサフサ。丸い耳が横についていて、まん丸な葡萄色の目をしている。毛色の種類は色々あり、愛玩動物として人気がある。
まだ子供の頃、私はそいつの飼育に大ハマりした。小遣いのほとんどをつぎ込んで、無限に繋げることができる筒状のおもちゃを沢山買い揃えた。硝子がはめ込んであり外が覗ける部品。一回転できる部品。二股に分かれた部品。どんどん飼育場所が広がっていき、母に止められるまでそれは続いた。
「可愛いじゃん。マリちゃんみたい。名前も似てるし」
こいつは時々、何かを見つけて可愛いと思うと『マリちゃんみたい』と言うので困っている。別に惚気とかじゃない。意味不明のものまで『マリちゃんみたい』と言い出すので反応に困るのだ。
先日は小型の魔道具を見て『マリちゃんみたい』が始まった。何がどう私に似てるんだと聞くと、『可愛い色』と言っていて理解不能だった。確かに砂のような茶色は私の髪と同じだが、共通点はそれだけである。
サンダーは声がよく通る。街中でそういう発言をされると本当に困るのだ。何度か市民の視線を感じたこともある。どこが似てるか聞いてないのに解説し始めたサンダーと、それを死んだ顔で聞いている私をその辺にいた女の子たちが見守り始め、にこにこと顔を見合わせたりしているのに気づいたときは辛かった。早く守衛地に帰りたかった。
「お前は……そうだな、富饒鳥みたいだな。あのよく喋る鳥」
「え、なにそれ。全然似てない。あの鳥飼ってる家に遊びに行ったことあるけどさー、俺にだけビクビクして近寄らないの。失礼だよねー!」
──お前は声がでかいからな。鳥はそういう人を嫌がるんだよ。
そもそも人のことを有機物だけならず無機物にまで似ていると言うくせして、自分は拒否かよ。勝手だな。
このあと外にいた野良猫にまで『マリちゃんみたい』を連発していた。突然話しかけられた野良猫は訝しげな顔をしてサンダーを見つめたあと、塀の隙間へ逃げていった。だから声がでかいって。…もういいや。これはもう直らない。
うちの衛兵隊長の言葉の網にかかる相手は老若男女、様々だ。
まだ街の学校に通う年齢であろう少女は辺りが薄暗い中、どこかに泊まれる荷物を入れられるほどの大きな鞄をしょっていた。しかし彼女はひとりきり。見つけられて良かった。この国はまだ、女性のひとり歩きを看過できるほど安全じゃない。
彼女は途方に暮れたような顔をしてふらふらと歩いていた。親とはぐれて迷子になってしまったのだろうか。それとも。
「わたし、お母さんと喧嘩しちゃって…、だって門限は厳しいし、お友達がどういう人なのかいちいち聞いてくるんです。それにお小遣いくれるのはいいんですけど、何にいくら使ったのか帳面につけさせられてて。少しでも違ってたら叱られちゃう。前にこっそり、いつもはあんなの食べちゃだめって言われる屋台のお菓子を友達と買い食いしたのがバレたときも。どうして私のものになったはずのお金の使い道に文句を言われるんだろうって、ずっとずっと思ってて。もう全部嫌なんです!」
彼女の名はミオル。母親の干渉に我慢の限界を感じて家を飛び出してしまった。親子間トラブル。家出の動機としてはよくあることだ。他には学校でのトラブルや、友達とずっと遊びたいという理由だったりもする。
テーブルには彫刻鉢の蜜で作られたファッジや、ココルの実の粉入りビスケットなどが並べられている。ミオルちゃんより食べているサンダーがお茶を飲みながら話し始めた。
「なるほど、それは息苦しいね。まるで悪いことをする前提で監視されてるみたいだね。ところでお母さんとは話し合いした?」
「話し合いというか…、話しになりませんでした。門限は守りなさい、親に言えないような人と付き合うな、無駄遣いはいけませんって。お母さん、そればっかりで」
やけ食いのようにお菓子を頬張るミオルちゃんの表情は、最初に声をかけたときより落ち着いている。さてどうするか、と考えたところで通信魔道具のベルが鳴り、紙が出てきた。
新着の探し人。名前、年齢、服装などの特徴が一致している。ちらりとサンダーに目配せをした。わかっているのかいないのか、サンダーは目を細めて笑顔を作った。
「美味しかった? そうか、よかった。さて、泣いても笑っても君は未成年。保護者の元へと帰さなければならない。お仕事だから。でも君はまだ辛いでしょ? 俺が味方になったげるから、お母さんと話してみよっか!」
また心細そうな顔をしたミオルちゃんは、俺が味方に、の辺りで頬を染めて頷いた。衛兵の制服を着た恋泥棒は今日も女心を盗み散らかす。
近隣の衛兵に連れられ、ミオルちゃんの母親が到着した。少しほどけた髪が首に張り付き、顔色は悪く青い。心配して探し回っていたのであろう。気まずい顔をしたミオルちゃんに怒鳴りかけた母親をサンダーは手で制して、彼女の訴えを要約して伝えていた。
「お母さんはさ、娘さんが心配なんだよね。まだ女性のひとり歩きは危ないからね。ひとりになるな、暗くなる前に帰れと言ったら良かったかも。ミオルちゃん、それは必ず守れるよね? 危ないのはわかるかな?」
ミオルちゃんはこくんと頷いた。母親はまだ何か言いたげにしている。
「お母さんはさ、娘さんに自立してほしくないの? お母さんの判断なしに生きていけなくなっていい? そうじゃないのね。じゃあ様子が変なとき、困ってそうなときに声かけてあげたらどう? 友達と何かあってもさあ、なるべく自分で解決できるようにしてあげた方が後々安心じゃない。自立ってそういうことでもあるよね」
ミオルちゃんはブンブンと音が鳴りそうなくらいに頷いていた。母親は『でも…、はい』と言葉を飲み込んだ。心配なだけで、自立を妨げようという悪意はないようだ。
「お母さんはさ。金銭管理の大切さを教えあげたかったんだよね。そうそう、無駄遣いはダメだよね。でもさ! 無駄遣いしたことがなかったら何がどう無駄だったのか学ぶ機会もなくなるよね? 大人になったらもっと大きな額を扱うようになるでしょ、そのときになって失敗したら大変だと思わない? 親の目が届くうちに少額で失敗を経験しといたほうが安心だよ。うん、そうそう。俺も子供のときはさあ──」
サンダーの失敗談は子供の小遣いという額を遥かに超えていて、市民にとっては破天荒な話だった。だが聞いている母親と娘は気まずさ混じりの穏やかな表情だ。さっきと雰囲気が違っている。和解できたようで何よりだ。
──────
「マリちゃんは何か無駄遣いしたことある?」
「無駄遣い? うーん…ペット用品の買いすぎとかかな」
「どんなの? 犬? 猫?」
「いや、手鞠鼠。うちのは白と茶色のやつだった」
手鞠鼠。手のひらより小さいネズミだ。全身に短い毛が生えていて、尻尾はフサフサ。丸い耳が横についていて、まん丸な葡萄色の目をしている。毛色の種類は色々あり、愛玩動物として人気がある。
まだ子供の頃、私はそいつの飼育に大ハマりした。小遣いのほとんどをつぎ込んで、無限に繋げることができる筒状のおもちゃを沢山買い揃えた。硝子がはめ込んであり外が覗ける部品。一回転できる部品。二股に分かれた部品。どんどん飼育場所が広がっていき、母に止められるまでそれは続いた。
「可愛いじゃん。マリちゃんみたい。名前も似てるし」
こいつは時々、何かを見つけて可愛いと思うと『マリちゃんみたい』と言うので困っている。別に惚気とかじゃない。意味不明のものまで『マリちゃんみたい』と言い出すので反応に困るのだ。
先日は小型の魔道具を見て『マリちゃんみたい』が始まった。何がどう私に似てるんだと聞くと、『可愛い色』と言っていて理解不能だった。確かに砂のような茶色は私の髪と同じだが、共通点はそれだけである。
サンダーは声がよく通る。街中でそういう発言をされると本当に困るのだ。何度か市民の視線を感じたこともある。どこが似てるか聞いてないのに解説し始めたサンダーと、それを死んだ顔で聞いている私をその辺にいた女の子たちが見守り始め、にこにこと顔を見合わせたりしているのに気づいたときは辛かった。早く守衛地に帰りたかった。
「お前は……そうだな、富饒鳥みたいだな。あのよく喋る鳥」
「え、なにそれ。全然似てない。あの鳥飼ってる家に遊びに行ったことあるけどさー、俺にだけビクビクして近寄らないの。失礼だよねー!」
──お前は声がでかいからな。鳥はそういう人を嫌がるんだよ。
そもそも人のことを有機物だけならず無機物にまで似ていると言うくせして、自分は拒否かよ。勝手だな。
このあと外にいた野良猫にまで『マリちゃんみたい』を連発していた。突然話しかけられた野良猫は訝しげな顔をしてサンダーを見つめたあと、塀の隙間へ逃げていった。だから声がでかいって。…もういいや。これはもう直らない。
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