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11 孤児院のコージモくん
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「そこのお兄ちゃん! そうそう君ね。今からどこ行くの? 散歩? お仕事は何してるの? あー今日お休みかあ、だよねー世間はお休みだよね! 羨ましー! あっ交代制? たまたまかー。お兄ちゃんはどんなお仕事? あっわかるかも! この辺だったらさてはこぐま孤児院だね? やっぱりー! あそこの子ども達超元気だよねー」
今日もお喋り魔獣のトーク術が火を吹いている。
衛兵を見た途端、サッと肩からかけた鞄に手を置いたのを私たちは見逃さなかった。目の前でのその仕草は調べてくれと言わんばかりだぞ。
「こないだもさあ、何か変わったことないかって聞いたらアネタがさあ、そうそうあのお転婆娘、あの子がおおぐま孤児院と抗争したとか言い出してさあ、なんかおおぐまの子がこぐまの年下の子に仕事を依頼してー、約束した取り分より少なかったのが抗争の原因だとか。当初の取り分より余分にむしってやったわよ、信頼と信用を軽視する方が悪いのよって高笑いしてたよ! アネタの奴! 将来が怖いよね! 」
──初耳である。アネタ、相変わらず親分として舎弟を守ってるんだな。
彼はシロだ。そう思い始めたところだったが。
「お兄ちゃんには多分まだまともに会ったことなかったよね。コージモ君? わかった、次に会ったらよろしくね! ところでコージモ君、散歩なのに結構大きめの鞄下げてるよね。俺、一応衛兵さんだから中身見せてーって言わないといけないんだよー。頼むよー。付き合ってー? んー、まあ変なもの入ってないだろうし嫌だなーって思うのはわかる! でもこっちもお仕事なんだー、頼むよー。またこぐま孤児院にお菓子差し入れするからさー、あっ個人的にね! いつもそうだよ、賄賂的なやつじゃないよ!」
やはりクロという感じは全くしない。しかし彼の顔はどんどん赤くなっていった。
悪いものではないが、隠したいもの。なんだろう。エロ本か?
彼は消え入るような声でそっと言った。『お見せしますんで、守衛地まで行っていいですか……?どうぞご内密に……』と。
──────
張型というものをご存知だろうか。
勃起した男性器を模した大人の玩具である。牛や鹿の角を削って滑らかに磨いて作る。マッサージ用の器具と同じ扱いに括り、按摩器具などとボカした名前で売っている。
コージモ君、キミはそれを一体どうしたんだ。なぜ持ち歩いてしまったのだ。
そっと布を開いて見せたあと、またそっと被せて俯いてしまった彼と、衛兵帽を目深に被ったいつものサンダーの表情を観察した。数秒間の沈黙をサンダーが破った。
「そりゃびっくりはしたけどさ、合法のもので良かったよ! まあ日報には大人のー、なんて変なこと書かないから。大丈夫だからね!」
──日報に何かしら書かれるのだ、とネガティブに考えているなコージモ君。忸怩たる思いが表情に現れているぞ。
「たださ、何で持ち歩いてたかだけ聞いていい? 恋人は誰だとか、一人で使うとかの用途は聞かないから!」
それは結局喋っている間に自白してしまうことになるか、こちらに察される流れになるアレじゃないだろうか。私は衛兵であるにも関わらず、尋問されている側のコージモ君に同情し始めてしまった。
「いえ、いいんです。僕が黙っていることで、色々想像されているかもしれないとお二人を勘ぐるのも辛いですから。この際、洗いざらい話しましょう」
私はいたたまれなくなり、コージモ君の手にそっと手を重ねた。彼の対面に座る濃青の目が衛兵帽の奥で光ったのを感じた。これくらい許してくれよ。
「僕、恋人と別れたんです。相手はいつも出入りしてたパン屋のおじさんの息子で。僕、誰かとお付き合いするのって初めてだったんです。だからちょっと待ってくれって言ったのに、キスはいきなりだし強引だし…、なんか怖いなって。でも色々外に連れ出してくれて、優しいところも沢山あったんです。でもあっという間に身体を拓かれるようになって、段々それが激しくなっていって」
より同情した私はコージモ君の手を握った。濃青の目の男が片膝を細かく揺すり出した。私はお前に構ってる暇はないんだよ。
「それである日これを…どこかから手に入れてきて、目の前でこれを出し入れしろとか、これを入れたまま働けとか、そういう要求をされるようになって。彼はそういう僕を見るのが愉しかったのかもしれません。でもそれは僕には愉しいことではなかったんです。別れるのは大変でしたが納得はしてくれました」
ああ、失敗した。コージモ君を慰めたいなら、立ったまま肩に手をかければ良かった。どうやら苛立っていたらしい奴は斜め向かいに座る私の膝に、卓の下から手を伸ばしてきやがったのである。
私の膝が一瞬跳ねた。指の先で刺激するな。なんでもない顔しやがって。職場だし職務中だっつってんだろこの野郎!!
さっきまで室内に先輩が……外か! 出て行くタイミング見計らいやがったな!!
「それで処分に困って、捨てる場所を探してたわけね?」
「そうです。お前に買ったものだからって彼は引き取ってくれなかったし、こんなもの孤児院に置いておくわけにはいかないので。でもバラバラにしようとしても、これ結構丈夫で……。薪割り用の斧で割ろうにも、あっちこっちに子供がいる環境ですよ。いつもと同じ時間にやらないと不自然だし、夜にやったらうるさくて誰かしらに見つかるし! もうどうすればいいか!」
なるほど、人がいないところを探して歩いていたわけだ。川にドボンとやりたくても、ここは街中だ。人が多い。誰かが見ているかもしれないのが怖かったのだろう。
って、ああもうマジで、内股はやめろ。爪の先で引っ掻くな。コージモ君の強引な元彼とこいつがダブる。
どんどん手が局部に近づき、反応しそうになるアレに気を取られ、俯き加減になった私を見たコージモ君は『ありがとうございます、こんな間抜けな僕に優しくしてくださって』と、目を潤ませながら感謝してくれた。そうじゃないんだけどね、ごめんね。
サンダーが底抜けに明るい笑顔で言った。
「それはこっちで処分するから。大変だったね、もう大丈夫だからね!」
なにが大丈夫だからね! だこの痴漢野郎。こっちはお前のせいで何にも大丈夫じゃなくなったんだけど。
今日もお喋り魔獣のトーク術が火を吹いている。
衛兵を見た途端、サッと肩からかけた鞄に手を置いたのを私たちは見逃さなかった。目の前でのその仕草は調べてくれと言わんばかりだぞ。
「こないだもさあ、何か変わったことないかって聞いたらアネタがさあ、そうそうあのお転婆娘、あの子がおおぐま孤児院と抗争したとか言い出してさあ、なんかおおぐまの子がこぐまの年下の子に仕事を依頼してー、約束した取り分より少なかったのが抗争の原因だとか。当初の取り分より余分にむしってやったわよ、信頼と信用を軽視する方が悪いのよって高笑いしてたよ! アネタの奴! 将来が怖いよね! 」
──初耳である。アネタ、相変わらず親分として舎弟を守ってるんだな。
彼はシロだ。そう思い始めたところだったが。
「お兄ちゃんには多分まだまともに会ったことなかったよね。コージモ君? わかった、次に会ったらよろしくね! ところでコージモ君、散歩なのに結構大きめの鞄下げてるよね。俺、一応衛兵さんだから中身見せてーって言わないといけないんだよー。頼むよー。付き合ってー? んー、まあ変なもの入ってないだろうし嫌だなーって思うのはわかる! でもこっちもお仕事なんだー、頼むよー。またこぐま孤児院にお菓子差し入れするからさー、あっ個人的にね! いつもそうだよ、賄賂的なやつじゃないよ!」
やはりクロという感じは全くしない。しかし彼の顔はどんどん赤くなっていった。
悪いものではないが、隠したいもの。なんだろう。エロ本か?
彼は消え入るような声でそっと言った。『お見せしますんで、守衛地まで行っていいですか……?どうぞご内密に……』と。
──────
張型というものをご存知だろうか。
勃起した男性器を模した大人の玩具である。牛や鹿の角を削って滑らかに磨いて作る。マッサージ用の器具と同じ扱いに括り、按摩器具などとボカした名前で売っている。
コージモ君、キミはそれを一体どうしたんだ。なぜ持ち歩いてしまったのだ。
そっと布を開いて見せたあと、またそっと被せて俯いてしまった彼と、衛兵帽を目深に被ったいつものサンダーの表情を観察した。数秒間の沈黙をサンダーが破った。
「そりゃびっくりはしたけどさ、合法のもので良かったよ! まあ日報には大人のー、なんて変なこと書かないから。大丈夫だからね!」
──日報に何かしら書かれるのだ、とネガティブに考えているなコージモ君。忸怩たる思いが表情に現れているぞ。
「たださ、何で持ち歩いてたかだけ聞いていい? 恋人は誰だとか、一人で使うとかの用途は聞かないから!」
それは結局喋っている間に自白してしまうことになるか、こちらに察される流れになるアレじゃないだろうか。私は衛兵であるにも関わらず、尋問されている側のコージモ君に同情し始めてしまった。
「いえ、いいんです。僕が黙っていることで、色々想像されているかもしれないとお二人を勘ぐるのも辛いですから。この際、洗いざらい話しましょう」
私はいたたまれなくなり、コージモ君の手にそっと手を重ねた。彼の対面に座る濃青の目が衛兵帽の奥で光ったのを感じた。これくらい許してくれよ。
「僕、恋人と別れたんです。相手はいつも出入りしてたパン屋のおじさんの息子で。僕、誰かとお付き合いするのって初めてだったんです。だからちょっと待ってくれって言ったのに、キスはいきなりだし強引だし…、なんか怖いなって。でも色々外に連れ出してくれて、優しいところも沢山あったんです。でもあっという間に身体を拓かれるようになって、段々それが激しくなっていって」
より同情した私はコージモ君の手を握った。濃青の目の男が片膝を細かく揺すり出した。私はお前に構ってる暇はないんだよ。
「それである日これを…どこかから手に入れてきて、目の前でこれを出し入れしろとか、これを入れたまま働けとか、そういう要求をされるようになって。彼はそういう僕を見るのが愉しかったのかもしれません。でもそれは僕には愉しいことではなかったんです。別れるのは大変でしたが納得はしてくれました」
ああ、失敗した。コージモ君を慰めたいなら、立ったまま肩に手をかければ良かった。どうやら苛立っていたらしい奴は斜め向かいに座る私の膝に、卓の下から手を伸ばしてきやがったのである。
私の膝が一瞬跳ねた。指の先で刺激するな。なんでもない顔しやがって。職場だし職務中だっつってんだろこの野郎!!
さっきまで室内に先輩が……外か! 出て行くタイミング見計らいやがったな!!
「それで処分に困って、捨てる場所を探してたわけね?」
「そうです。お前に買ったものだからって彼は引き取ってくれなかったし、こんなもの孤児院に置いておくわけにはいかないので。でもバラバラにしようとしても、これ結構丈夫で……。薪割り用の斧で割ろうにも、あっちこっちに子供がいる環境ですよ。いつもと同じ時間にやらないと不自然だし、夜にやったらうるさくて誰かしらに見つかるし! もうどうすればいいか!」
なるほど、人がいないところを探して歩いていたわけだ。川にドボンとやりたくても、ここは街中だ。人が多い。誰かが見ているかもしれないのが怖かったのだろう。
って、ああもうマジで、内股はやめろ。爪の先で引っ掻くな。コージモ君の強引な元彼とこいつがダブる。
どんどん手が局部に近づき、反応しそうになるアレに気を取られ、俯き加減になった私を見たコージモ君は『ありがとうございます、こんな間抜けな僕に優しくしてくださって』と、目を潤ませながら感謝してくれた。そうじゃないんだけどね、ごめんね。
サンダーが底抜けに明るい笑顔で言った。
「それはこっちで処分するから。大変だったね、もう大丈夫だからね!」
なにが大丈夫だからね! だこの痴漢野郎。こっちはお前のせいで何にも大丈夫じゃなくなったんだけど。
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