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5 レオさんの過去

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 他のお店もそうなのだが、客入りには波がある。なにか催しでもあったのかと思うくらい人が押し寄せる日もあれば、思い当たる節はないのに人がまばらなときもある。均等に来てくれないかとは思うのだが、そこは中々思い通りにはいかないものだ。勿論、天候が悪いときはやはり少なくなってしまう。一番悪いはずの冬場は逆に人肌が恋しくなるのか、案外忙しくなるが。

 雨が降ってしまうとやはり暇だ。普段できない整理整頓、客入りを良くする宣伝案を考えたり実行する仕事の合間に男の子たちが何気ない話をしに来る。

 さっきまではヴィンダの話し相手になっていた。子供が欲しいけど自分は入れられる側が好きだから、永遠にパズルのピースが合わない、とくすくす笑って話していた。



「リカルドくんでしょ。入っておいで。ほら、遠慮しないで」
「…失礼します」

 リカルドは来たときよりも簡素な服を着ている。着る者が違うと服も良いものに見えるなあ、男の子たちが着る服は脱ぎやすいものにしてるけど、わざと釦の多いきっちりした服を着せて接客させるのもいいかもしれない、と頬杖をつきながら考えていた。

「食事は舌に合ったかな? 何か困ったことはない?」
「…ないです。レオさんのことを聞いてもいいですか。この仕事を始めることになったきっかけとか」

「うーん、話すと長くなるなあ」
「いいです。教えてください」

 気がついたらここにいた、と言っても過言ではない。この国での人身売買は重罪だ。しかし余所から売られてくる子供についてはあまり重要視されていない。今はもっと厳しいのだろうが。

 珍しい瞳だ、と言われて目をつけられたのが始まりだ。色自体は珍しくないが、光彩の目立たない透明感のある瞳。それを買われ、幌をきっちり閉じた荷台に乗せられ真夜中に運ばれた。その途中で御者がこっそり教えてくれた。仕事は辛いだろうが、環境の悪いあの孤児院よりまだいい暮らしができるぞと。

 少しばかりの慰めをくれた御者の言葉は嘘ではなかった。よほど栄養状態が良くなかったのであろう、『肌艶が良くなった』と店主が喜んだことで前が相当だったのだと気がついた。まあ仕事は辛かったが。父親ほどの年の男の相手をするのだ。泣かないようにするので必死だった。

「…あの出資者とはどこで?」
「アーロン? あいつは店主の息子だったよ」

 前からよく話しかけてくる奴だと思ってはいた。外の話、学校の話、親とは別の仕事をしたいんだという話。狭い世界で他人の大人に振り回されてばかりだった僕にはどんな話でも面白かった。

 ほとんど友達関係のようになっていたし、自分は商品だと散々言い聞かせられていたから油断した。ある日突然、恋人になってくれと懇願され、返事をする前に襲われた。まあ考えるまでもなく、受け入れるしかなかった。アーロンと僕ではそもそも立場が違うからだ。

「…僕のために怒ってくれてるの? いいんだよ。終わったことだ。それにあいつから付き合ってくれって言ったくせに浮気三昧だったし。別れるときはなぜかゴネられて大変だったけど」
「完全に自分のものになったと思い込んでいたんでしょう。俺ならそんなことはしない」

「だろうね。あいつは強引なのがいいところで悪いところでもある。ついでに強欲。いいんだよ、過去のことだから」
「でも嫌な思いをしたんでしょう。そんなの許す必要ないです」

 僕にもたれ掛かりながら励ましてくれるリカルドの頬は上気している。年上好きなんだろうか。だったら尚更有り難い。ここには彼と同じくらいの年頃のお客さんはめったに来ないから。

「まあそういうこともあったけど、暴力は振るわれていないし、変なお客さんもさほどはいなかったから恵まれていた方だった。ちなみに、ここは僕がいたところよりもっと客層がいいよ。そこは安心して」
「…もし俺が出資者になれたら、ついてきてくれますか」

「ふふ、なる予定なの? そうだなあ、その時は真面目に考えるよ」
「…そのためには、…ケッセン、治療魔術師が言ってたのは血栓? いや欠線か? それが…それを…」

 リカルドはぶつぶつと呪文のようなことを唱え始めてしまった。そろそろ脚が痺れてきたからどいてもらおうと思ったんだけど。それに日を空けて行うアレをそろそろやらないとならない。

「リカルド、これから研修というか、開発のために時間を取ろうと思ってたんだけど。体調は本当に大丈夫?」
「あ…………はい」

 さっきから響いてくる彼の心音がもっと早くなってきた。目を伏せて顔を赤らめ、恥じらう乙女のようになっている。その顔はお客さんに見せて欲しいし、あまり意識しすぎて緊張されるとまた進まないんだけどなあ。困った。まあしばらく雨が続くらしいから、時間はたっぷり取れるだろう。

 じゃあそろそろ、と声をかけると彼はやっと立ち上がった。なんとなく手で股間を隠しながら、物欲しそうな目で僕を見ていた。期待していると言ったが、されるとちょっと困る。もし彼にそっちの才能がなかったら、痛いだの気持ち悪いだのでがっかりさせるだろうから。まあ考えても仕方ない、腕によりをかけねば。


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