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19 文化のお話
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十歳から十四歳。そろそろ発情期を迎える年頃なわけだから、いかに希少民族の獣人といえど、そこらにいるノラの動物ではない。相手に望まない妊娠はさせられない。学校でも習うが、反抗期のオルフェくんに負けじとマウラさんご夫婦が懇々と言い聞かせたそうだ。いくら産めよ増やせよでも、いつでもいいわけじゃないんだな。
どうやらうちの息子は女の子に縁がある。困ったことになる可能性が高い。稼げるようになるまで避妊はしろと。ていうか、あるんだ避妊方法。魔道具もあるんだから、そりゃあるか。
それでもデキちゃったら育てるが、決まった人と沢山つくるのがこの地域での子供というもの。もし離婚や死別をしたら育てる側は大変になりませんか、と言ったら『??』という顔をされた。その辺にいる手の空いた人が子供を見たり、家事を代行したりして育てるのが普通のことなんだそうだ。
国からの補助金も手厚い。しかし最近は高齢化が進んでいるので、人手が足りなかったりして育てられなくなることもある。そこは孤児院がしっかり機能しているとのことだ。
「えー? カイくんの故郷では違うのかい? 男と結婚なんて普通だよぉ」
「だって昔っから結構な男余りだもんよ。子供は大人が複数で育てた方がいい。好き同士になったらこれ幸い、養子を取って育てるんだよぉ」
「うちんとこの息子なんてさ、養子に来てくれる子の順番待ちだよ。前にお貴族様がごっそり持ってっちゃったからさぁ」
マウラさんは嫁に来いと言ってくれてはいるが、子供が産めなくてもいいのかと聞いたらこのような答えが返ってきた。そして話の流れは貴族の悪口に発展する。女性の話はよく主題が変わるものだ。
本人不在なのをいいことに聞いたゴシップ、というよりは、文化の相違点を学んだ小一時間だった。勉強になった。
──────
ネズミのおばちゃんたちと仕事に戻ろうとすると、『今日カイくんは休みって聞いてるよ! 帰ったばっかりなんだから休んでおいで!』とのことで、思わぬ休暇を頂いてしまった。
洗い物だけでも、いやいやいいよぉ、の遠慮合戦を終えたあと、部屋で本でも読もうかなあと階段を上がりかけたときにオルフェくんが帰ってきた。…なんかちょっと不機嫌?
「お帰りなさい。…何かあった?」
「詰められた」
オルフェくんはそのまま黙って階段を上がりながら僕の肩をさり気なく抱き、一緒に僕の部屋に入ってきた。詰められたってのは、責められたってこと? 何をだろう。あと、このまま進むとベッドなんですけど。昨日の今日ですよ! まだ無理ですよ!
「オルフェくん、その、今日は…」
「わかってる。ちょっとだけ、お願い」
うわー、耳元からいい声。身体に響いてゾクゾクする。ちょっとだけとか言ってるけどさあ、目が怖いし息が荒いよ。なんか当たるし。僕はとにかく変な雰囲気が進まないように少しばかり抵抗してみた。
「あのさ、アードルフさんとサシャさんに、なにか怒られたの?」
「あいつらなんか呼び捨てでいいよ。…あんたを寄越せって言われたんだよ。お前の収入で楽させられるのか、できないならくれって」
──いきなりシビアな話である。うちに来いとは言われてはいたが、そうきたか。
「あと、お前があんたに飽きない保証はあるのかって。俺は今まで、…」
「あー…うん、その話は聞いちゃった。モテるよねえオルフェくん。そうだ、同じお馬さんの女の子っていないの?」
「近くにはいない。同じ種を探すとなると、遠くから来て貰うことになるだろ。俺は自分が養子だからか血の繋がりに拘りはなくて、そこまで努力する気が起きなかった」
「なるほどー。遊びたくなったら近くにいるからいいやってことね? ふーん」
「…カイみたいな子が見つからなかったってことだよ。もし遠くに行かなきゃならないことになったら絶対ついていく」
「ふーん? ふふ、ありがとね…あ、ちょっとダメだって、マウラさんとマテウスさんにお土産渡したいんだから…っ、あ、ダメだってば!」
なし崩し的に襲おうとしてくるオルフェくんに抵抗していると、バーンという扉の音と共にマウラさんの怒号が響いた。
「こるぁああああ!! この駄馬が!! 嫁さんが嫌がってんだろが!!」
──ねえオルフェくん、めちゃくちゃ被害者面してるけどさ、被害者は僕だからね。悪いのは君だよ君。
お茶を淹れてくれたマウラさんにお土産を渡し、昼と夜が混在する海に感動した話をしたら、マウラさんが夏に同じ海で泳いだときの話をしてくれた。
触手海月というものが運悪く近寄ってきて恐ろしい目に遭ったとのこと。触手ってまさか、と思った通りのアレだった。水着の中を這い回られて、若かりし頃のマウラさんは大絶叫。まだお付き合い前の段階だった現旦那さんのマテウスさんが、鬼の形相で退治してくれたとか。
「本当は短剣とかで刺し殺すのが定番なんだけどさあ。海に入るのにそんなもん持っちゃいないだろ? 錆びるしさあ。だからあの人は握力だけで潰したのさ。結構弾力あるから大変だったと思うよお。この人できる、と思って結婚したわ」
「なるほど、強さか」
──なるほど、じゃないよ。それは求めてないです。
じゃあ何を求めているのだ、と問われると何とも言えないので黙っておいた。しかしあまりにも体力差をつけられてしまうと困るのだ。主にいかがわしい意味で。
それから僕が魔獣の声を聞いた話をすると、さすがのマウラさんでも驚いたようだ。うちの天使が凄い、としきりに褒めてくれた。オルフェくんが『いやどっちかというと悪魔』とかいらないことを言うからちょっと睨んだら目を逸らされた。
「だったら守衛地のアーリー号に会いに行ってみなよお。あそこの衛兵さんがアーリー号に嫌われてる気がするって悩んでたからさあ」
「飛馬ってやつですか? 人を乗せてくれる魔獣の」
「そうそう。その飛馬のアーリー号がさあ、乗せてはくれるんだけど、交流しようとすると大体そっぽ向いて目を合わせてくれないらしいよお。何か嫌なことでもしたのかいって聞いたけど、覚えがないとか言ってたね」
「ちょうど見に行こうって話はしてた。カイ、次の定休日に行ってみよう」
飛馬。初めて会う魔獣だ。どんな姿をしてるんだろう。お馬さんに羽根が生えてるのかなあ。ペガサスみたいな姿を想像したけど合ってるかなあ。ちなみに今日はお風呂のあとのペロペロタイムも頑なにお断りして就寝した。
だってぐったりしちゃったら、次の日仕事なんかできないよ。僕は学習したのだ。休ませて貰ったんだから、しっかり仕事はしないとね!
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© 2023 清田いい鳥
どうやらうちの息子は女の子に縁がある。困ったことになる可能性が高い。稼げるようになるまで避妊はしろと。ていうか、あるんだ避妊方法。魔道具もあるんだから、そりゃあるか。
それでもデキちゃったら育てるが、決まった人と沢山つくるのがこの地域での子供というもの。もし離婚や死別をしたら育てる側は大変になりませんか、と言ったら『??』という顔をされた。その辺にいる手の空いた人が子供を見たり、家事を代行したりして育てるのが普通のことなんだそうだ。
国からの補助金も手厚い。しかし最近は高齢化が進んでいるので、人手が足りなかったりして育てられなくなることもある。そこは孤児院がしっかり機能しているとのことだ。
「えー? カイくんの故郷では違うのかい? 男と結婚なんて普通だよぉ」
「だって昔っから結構な男余りだもんよ。子供は大人が複数で育てた方がいい。好き同士になったらこれ幸い、養子を取って育てるんだよぉ」
「うちんとこの息子なんてさ、養子に来てくれる子の順番待ちだよ。前にお貴族様がごっそり持ってっちゃったからさぁ」
マウラさんは嫁に来いと言ってくれてはいるが、子供が産めなくてもいいのかと聞いたらこのような答えが返ってきた。そして話の流れは貴族の悪口に発展する。女性の話はよく主題が変わるものだ。
本人不在なのをいいことに聞いたゴシップ、というよりは、文化の相違点を学んだ小一時間だった。勉強になった。
──────
ネズミのおばちゃんたちと仕事に戻ろうとすると、『今日カイくんは休みって聞いてるよ! 帰ったばっかりなんだから休んでおいで!』とのことで、思わぬ休暇を頂いてしまった。
洗い物だけでも、いやいやいいよぉ、の遠慮合戦を終えたあと、部屋で本でも読もうかなあと階段を上がりかけたときにオルフェくんが帰ってきた。…なんかちょっと不機嫌?
「お帰りなさい。…何かあった?」
「詰められた」
オルフェくんはそのまま黙って階段を上がりながら僕の肩をさり気なく抱き、一緒に僕の部屋に入ってきた。詰められたってのは、責められたってこと? 何をだろう。あと、このまま進むとベッドなんですけど。昨日の今日ですよ! まだ無理ですよ!
「オルフェくん、その、今日は…」
「わかってる。ちょっとだけ、お願い」
うわー、耳元からいい声。身体に響いてゾクゾクする。ちょっとだけとか言ってるけどさあ、目が怖いし息が荒いよ。なんか当たるし。僕はとにかく変な雰囲気が進まないように少しばかり抵抗してみた。
「あのさ、アードルフさんとサシャさんに、なにか怒られたの?」
「あいつらなんか呼び捨てでいいよ。…あんたを寄越せって言われたんだよ。お前の収入で楽させられるのか、できないならくれって」
──いきなりシビアな話である。うちに来いとは言われてはいたが、そうきたか。
「あと、お前があんたに飽きない保証はあるのかって。俺は今まで、…」
「あー…うん、その話は聞いちゃった。モテるよねえオルフェくん。そうだ、同じお馬さんの女の子っていないの?」
「近くにはいない。同じ種を探すとなると、遠くから来て貰うことになるだろ。俺は自分が養子だからか血の繋がりに拘りはなくて、そこまで努力する気が起きなかった」
「なるほどー。遊びたくなったら近くにいるからいいやってことね? ふーん」
「…カイみたいな子が見つからなかったってことだよ。もし遠くに行かなきゃならないことになったら絶対ついていく」
「ふーん? ふふ、ありがとね…あ、ちょっとダメだって、マウラさんとマテウスさんにお土産渡したいんだから…っ、あ、ダメだってば!」
なし崩し的に襲おうとしてくるオルフェくんに抵抗していると、バーンという扉の音と共にマウラさんの怒号が響いた。
「こるぁああああ!! この駄馬が!! 嫁さんが嫌がってんだろが!!」
──ねえオルフェくん、めちゃくちゃ被害者面してるけどさ、被害者は僕だからね。悪いのは君だよ君。
お茶を淹れてくれたマウラさんにお土産を渡し、昼と夜が混在する海に感動した話をしたら、マウラさんが夏に同じ海で泳いだときの話をしてくれた。
触手海月というものが運悪く近寄ってきて恐ろしい目に遭ったとのこと。触手ってまさか、と思った通りのアレだった。水着の中を這い回られて、若かりし頃のマウラさんは大絶叫。まだお付き合い前の段階だった現旦那さんのマテウスさんが、鬼の形相で退治してくれたとか。
「本当は短剣とかで刺し殺すのが定番なんだけどさあ。海に入るのにそんなもん持っちゃいないだろ? 錆びるしさあ。だからあの人は握力だけで潰したのさ。結構弾力あるから大変だったと思うよお。この人できる、と思って結婚したわ」
「なるほど、強さか」
──なるほど、じゃないよ。それは求めてないです。
じゃあ何を求めているのだ、と問われると何とも言えないので黙っておいた。しかしあまりにも体力差をつけられてしまうと困るのだ。主にいかがわしい意味で。
それから僕が魔獣の声を聞いた話をすると、さすがのマウラさんでも驚いたようだ。うちの天使が凄い、としきりに褒めてくれた。オルフェくんが『いやどっちかというと悪魔』とかいらないことを言うからちょっと睨んだら目を逸らされた。
「だったら守衛地のアーリー号に会いに行ってみなよお。あそこの衛兵さんがアーリー号に嫌われてる気がするって悩んでたからさあ」
「飛馬ってやつですか? 人を乗せてくれる魔獣の」
「そうそう。その飛馬のアーリー号がさあ、乗せてはくれるんだけど、交流しようとすると大体そっぽ向いて目を合わせてくれないらしいよお。何か嫌なことでもしたのかいって聞いたけど、覚えがないとか言ってたね」
「ちょうど見に行こうって話はしてた。カイ、次の定休日に行ってみよう」
飛馬。初めて会う魔獣だ。どんな姿をしてるんだろう。お馬さんに羽根が生えてるのかなあ。ペガサスみたいな姿を想像したけど合ってるかなあ。ちなみに今日はお風呂のあとのペロペロタイムも頑なにお断りして就寝した。
だってぐったりしちゃったら、次の日仕事なんかできないよ。僕は学習したのだ。休ませて貰ったんだから、しっかり仕事はしないとね!
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