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プロローグ
第3話
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頬を赤める遥の姿は、まるで恋する乙女。いや、「まさに」だ。
新菜のことを、ときめきを持て余して慕っている。なんとまぁ、反応のしづらいこと。でも、わざわざ言葉にして形にして、私と遥が共有する事実にするものでもない。
たいへんに面白くない。
***
遥の想いに気がついたのは、入学、卓球部に入部してしばらくたった頃。部活動に慣れ始め、先輩後輩との交流も幾らか進み始めた。新菜は、10人程度の2年生の中でも私や遥に目をかけてくれた。休憩中や、校舎内にすれ違った時などに「よっ!」「疲れてない~?」なんて声をかけてくれる。後輩の私たちからすれば、親しみやすい先輩の1人であった。私もそうだが、遥は社交的な性格をしていない。似たもの同士だと、互いに認識しダラダラと一緒に過ごす時間も増えていた。
その頃に、ふと相談を受けたのだ。
「新菜先輩って、彼氏いたりするのかなぁ?」
と。
他の人間は理解できないかもしれないが、理解した。私は。あぁ、遥は新菜のことを慕っているのだ。そして、恐らく自覚もできていないのだ。
「いるって聞いたことないけど。後輩とも私たちとか、るいとかだし、先輩たちでもほとんど見たことないし」
「そ、そっかぁ」
ほっと胸を撫で下ろした様子。こうは言ったものの、私たち1年生の活動範囲と2年生、3年生のそれでは見えない範囲があることは重々承知している。そういえば、るいとも親しいのは、るい自身の人懐っこさなのか、小学生からの知り合いなのかこの時はまだわからなかった。
「そうだよね、まだ大丈夫だよね…」
「頑張れば」の態度に見せかけて、応援してやる、という傲慢な態度。
そうでもしないと気持ちが落ち着かなかった。
***
あれから、それから1、2ヶ月は経過したと思う夏休みでも、私の心はひりついていた。誕生日ぐらいプレゼントあげりゃいいのに。こう言っちゃ悪いが、新菜は女のことなんて眼中にない可能性だってあるのに。少しでも、受け止める感情の閾値をあげたほうがいいと思うのに。
むしゃくしゃしていた。
「ネットでさ、リップがバズってたの。ドラストにも売ってるし、1000円以内で買えるやつだし……こういうのいいんじゃない?」
スクールバッグにこっそり忍ばせた、薄い板を操作して遥に教えてあげる。前述した通り、北町は田舎なので、おしゃれなショッピングモールは町内にない。なんなら、田舎にはあると言われる大型のショッピンモールですらない。公共交通機関も、1時間に1本ぐらいしか便がないし、そもそもちょっと都会に行こうもんなら交通費も2000円はゆうに超えてしまう。中学生の懐には厳しいものがある。北町内にある敷地の広いドラッグストアは、私たちには強い味方なのだ。
「……!ありがとう!」
パッと花が咲いたように表情が明るくなる。先ほどまで尻込みしていた表情の変化も、まるで花のようだった。……花は刹那的だし、すぐ散ってしまうけどね。なんて自分に言い訳しながら苦痛の伴う放課後を過ごすのであった。
仕方なしに、13時すぎには帰路に着くことにした。
のんびりと帰宅すると、母が在宅していた。
「和ちゃんおかえり!また部活長引いちゃったの?」
「そう、ちょっと長くなっちゃった」
私の言葉を鵜呑みにした母は、「全く、時間の管理がなってないんだから」と文句を垂れている。もちろん、時間の管理がなっていないのは私だ。
「そうそう、最近るいさんはちゃんと学校行ってるの?」
「ちゃんと学校来てるよ。学級委員もやってる」
「あそこの家、お母さんとおばあちゃんがおかしい人だからあんまり関わらないようにしなさいよ」
「同級生なんだから関わらないのは無理だよ」
「あんまりでいいから」
ねっ、と母の念押し。これだけで気分が沈んでいく。台所に用意されていたラップをかけて保管されている昼食を尻目に、重たい足を動かし自室へ向かった。
新菜のことを、ときめきを持て余して慕っている。なんとまぁ、反応のしづらいこと。でも、わざわざ言葉にして形にして、私と遥が共有する事実にするものでもない。
たいへんに面白くない。
***
遥の想いに気がついたのは、入学、卓球部に入部してしばらくたった頃。部活動に慣れ始め、先輩後輩との交流も幾らか進み始めた。新菜は、10人程度の2年生の中でも私や遥に目をかけてくれた。休憩中や、校舎内にすれ違った時などに「よっ!」「疲れてない~?」なんて声をかけてくれる。後輩の私たちからすれば、親しみやすい先輩の1人であった。私もそうだが、遥は社交的な性格をしていない。似たもの同士だと、互いに認識しダラダラと一緒に過ごす時間も増えていた。
その頃に、ふと相談を受けたのだ。
「新菜先輩って、彼氏いたりするのかなぁ?」
と。
他の人間は理解できないかもしれないが、理解した。私は。あぁ、遥は新菜のことを慕っているのだ。そして、恐らく自覚もできていないのだ。
「いるって聞いたことないけど。後輩とも私たちとか、るいとかだし、先輩たちでもほとんど見たことないし」
「そ、そっかぁ」
ほっと胸を撫で下ろした様子。こうは言ったものの、私たち1年生の活動範囲と2年生、3年生のそれでは見えない範囲があることは重々承知している。そういえば、るいとも親しいのは、るい自身の人懐っこさなのか、小学生からの知り合いなのかこの時はまだわからなかった。
「そうだよね、まだ大丈夫だよね…」
「頑張れば」の態度に見せかけて、応援してやる、という傲慢な態度。
そうでもしないと気持ちが落ち着かなかった。
***
あれから、それから1、2ヶ月は経過したと思う夏休みでも、私の心はひりついていた。誕生日ぐらいプレゼントあげりゃいいのに。こう言っちゃ悪いが、新菜は女のことなんて眼中にない可能性だってあるのに。少しでも、受け止める感情の閾値をあげたほうがいいと思うのに。
むしゃくしゃしていた。
「ネットでさ、リップがバズってたの。ドラストにも売ってるし、1000円以内で買えるやつだし……こういうのいいんじゃない?」
スクールバッグにこっそり忍ばせた、薄い板を操作して遥に教えてあげる。前述した通り、北町は田舎なので、おしゃれなショッピングモールは町内にない。なんなら、田舎にはあると言われる大型のショッピンモールですらない。公共交通機関も、1時間に1本ぐらいしか便がないし、そもそもちょっと都会に行こうもんなら交通費も2000円はゆうに超えてしまう。中学生の懐には厳しいものがある。北町内にある敷地の広いドラッグストアは、私たちには強い味方なのだ。
「……!ありがとう!」
パッと花が咲いたように表情が明るくなる。先ほどまで尻込みしていた表情の変化も、まるで花のようだった。……花は刹那的だし、すぐ散ってしまうけどね。なんて自分に言い訳しながら苦痛の伴う放課後を過ごすのであった。
仕方なしに、13時すぎには帰路に着くことにした。
のんびりと帰宅すると、母が在宅していた。
「和ちゃんおかえり!また部活長引いちゃったの?」
「そう、ちょっと長くなっちゃった」
私の言葉を鵜呑みにした母は、「全く、時間の管理がなってないんだから」と文句を垂れている。もちろん、時間の管理がなっていないのは私だ。
「そうそう、最近るいさんはちゃんと学校行ってるの?」
「ちゃんと学校来てるよ。学級委員もやってる」
「あそこの家、お母さんとおばあちゃんがおかしい人だからあんまり関わらないようにしなさいよ」
「同級生なんだから関わらないのは無理だよ」
「あんまりでいいから」
ねっ、と母の念押し。これだけで気分が沈んでいく。台所に用意されていたラップをかけて保管されている昼食を尻目に、重たい足を動かし自室へ向かった。
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