願わぬ天使の成れの果て。

あわつき

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式典 ~Ceremony~

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式典当日。穏やかな空気に包まれながら、無事に迎える事が出来た。レフィとナギが作った豪華な食事が並び、声楽隊の奏でる旋律が雰囲気を調和していた。今日は天使達も階級に関係なく、飲み物を片手に楽しんでいた。


「イリア」


一人で食事を満喫していた彼女にランティスが声を掛けた。


「おはよう、ランティス」
「おはよ。アルカディアと一緒じゃないの?」
「うん。後で会うけど・・・」
「そっか」
「ランティスも一人?」
「うん。ちょっと寝坊して出遅れた・・・」
「よく眠れた?」
「えっ・・・まぁ」
「良かった」


イリアはにこっと笑みを見せながら他の料理に目を配らせた。


「・・・ねぇ。良かったら、おれと回らない?」
「えっ・・・」


不意に誘われ、イリアはハムをくわえたまま振り向いた。その姿が意外にも可愛らしくランティスはドキッとしてしまった。


「うん。いいよ」
「ありがと」


天界の式典というと神聖なものと想像していたイリアだったが、【癒しの丘】に出ている出店や遊びのコーナー等を見ると地上のお祭と変わらない。可愛らしいお面や綿あめに似たお菓子などが売っていた。


「あれってダーツ?」


色々な店を巡りながらイリアは気になるコーナーの前で止まった。天使達が矢を放ち、的に当てている。


「そうだね。やってみる?」
「うん!」


興味津々のイリアは列に並び、待っている途中にランティスから遊び方を教わった。地上にいた頃は縁のなかった遊び。けれど前々から挑戦してみたい気持ちはあったので、イリアはやる気満々で矢を受け取った。


「なるべく上の方に向かって投げれば良いから」
「解った」


投げる際にラインは越してはいけない為、足元の位置を確認しながらイリアは構えに入った。他の天使達もどんなものかと珍しそうな目で注目していた。


「さぁ、どうぞ」


合図をされ、イリアは矢を放った。ビィンと刺さった矢は右端に当たり、其なりの点数が入った。


「おー、当たった」


イリアは続けて矢を投げた。次は真ん中よりの内側に当たり、3回目は外側の小さい円に当たった。


「凄いじゃん。初めてで全部当てるなんて」
「緊張したー・・・」
「楽しかった?」
「うん!やれて良かった」


満足しているイリアを見てランティスもその笑みにつられた。その後も二人は輪投げをしたり、射的に挑戦したりとあらゆるコーナーを見て回った。無邪気に楽しむイリアをランティスは優しく見守っていた。



「――そろそろ、メインイベントの時間だね」
「あ、そっか」


遊びに夢中になっていたイリアはそう言われるまで完全に忘れていた。スーパーボール掬いでお椀いっぱいに取ったボールを店の天使に入れて貰い、イリアとランティスはステージ裏へと向かった。


「リーちゃん!良かった、間に合って」
「ごめんね、遅れちゃって」
「大丈夫よ」


『ミスタシア』の皆は既に準備万端でランティスもいつの間にか支度していた。


「イリア。これを」
「あ、衣装?」
「はい。ナージャ、着替えの手伝いをお願いしても良いですか?」
「勿論よ」


エチカから衣装を受け取り、イリアはステージから少し離れた試着室(此も式典の為に設置したもの)でナージャとともに着替え始めた。
エチカが手作りした衣装は、真白のドレス。体のラインがハッキリ見え、スカートの部分には蝶の刺繍が施されていた。まるでウェディングドレスみたいだと着替え終わったイリアは鏡を見て感心した。


「リーちゃん、とっても綺麗よ!」


主にナージャが手際良く着せてくれたお陰で時間は掛からず、すぐに準備が整った。 


「お待たせー」


ナージャと一緒にステージ裏へ戻ると、イリアのその姿を見た『ミスタシア』達は思わず見とれてしまった。中性的な顔立ちのイリアはどんな服も着こなす事が出来る。普段は制服を着ているので見慣れているが、真白のドレスを纏ったイリアは女の子そのものだった。可愛さも美しさも兼ね備えた少女。女神とはまた違った魅力を放っていた。


「皆、固まってるけど大丈夫?」


イリアは彼らに見られて衣装が似合っていないのではないかと思ってしまった。



「――あぁ、ごめんね。イリアちゃんが凄く綺麗だったから見とれちゃった」


アルカディアが皆を代表して言った。綺麗だと誉められた事のないイリアはその一言に顔を紅くした。


「・・・ありがと。皆も似合ってるよ、タキシード」


『ミスタシア』達は皆、黒のタキシードを着ていた。その美しさに加えて着こなし方も上手だ。いつもとは違う印象にイリアは変な緊張を感じた。


「そう言えば、ナージャもタキシードなんだね」
「そうよ。似合うかしら」
「うん!格好良い」


普段の可愛らしさとは違い、髪を1つに結び、気品を漂わせていた。


「まだ時間あるから、確認だけしておこっか」


式典のメインイベントは、イリアがソロで躍りを披露し、その後、『ミスタシア』達 のリードで一緒に踊る。その際に声楽隊が音楽を奏で、イリアのソロの時はカサンドラもソロで歌う流れになっていた。


「カサンドラ、声楽隊の方は?」
「いつでも大丈夫だよ」
「そうか。では踊りの順番だが・・・」


イラが皆と確認をしている際にイリアはカサンドラに近寄った。


「カサンドラ」
「ん?どうしたの?」
「・・・もし、止まったらごめん・・・」


イリアは緊張しているのか、胸を抑えながら不安を吐露した。


「――大丈夫だよ」


彼女の手を握りながらカサンドラは微笑む。


「イリアが躓いても、おれは歌い続けるから。おれの声、聴いて」
「・・・うん・・・」
「イリア。ずっと練習してきたんでしょう?大丈夫だよ」


優しい瞳で囁かれ、イリアは不安が薄れるのを感じた。震えていた手も、カサンドラに握って貰ったお陰で落ち着いてきた。


「ありがとう」


彼らの温かさに見守られながら、イリアはその時を待った。



「これより、メインイベントを行います。天使達の皆様、どうぞステージにお集まり下さい」


神官のパンドラが天使に呼び掛ける。ステージ前の客席には沢山の天使達で埋め尽くされていた。ナギも一番前を陣取り、始まるのを待っていた。


「イリアちゃん」


出番を待つイリアにアルカディアが小さな声で呼び掛けた。


「アルカディア・・・」


イリアの頬に触れながらアルカディアはいつもの微笑みを浮かべた。


「イリアちゃん、楽しもうね」



その一言が不安を裁ち切ってくれた気がした。手はもう震えていない。イリアは深く息を吸い込み、優しく吐いた。


「――うん!そうだね!」


準備は出来た。イリアは真っ直ぐ前を見据え、もう一度深呼吸した。鼓動は正常。顔の筋肉も自然だ。強張ってない。背筋を伸ばし、声楽隊の音に耳を傾ける。


「皆様、お待たせしました。其ではメインイベントの始まりです」


パンドラの進行に合わせ、声楽隊が綺麗な旋律を奏で始めた。緩やかな旋律がその場の空気を神聖なものへと変えていく。聴いている天使達も思わずうっとりしてしまう程、聴き惚れていた。


「そろそろね」
「――よし」


イリアは『ミスタシア』達に振り向き、笑みを見せた。彼らも優しい眼差しを向ける。声楽隊の一曲目が終わる。カサンドラも準備万端だ。イリアはゆっくりと踊る舞台へ足を踏み入れた。



イリアのその姿に天使達も見とれてしまった。いつもは可愛らしい無邪気な女の子なのに、今は気高さを纏った女性。放たれる美しさに、青年天使のサラも目を奪われた。


「イリア様・・・凄く素敵です」


ナギも彼女の魅力に感嘆した。天使達が彼女に見とれる中、カサンドラが歌声を披露した。声楽隊の奏でる音とは違い、透き通った高い声が【癒しの丘】全体を包み込んだ。彼の歌声に合わせてイリアが躍り始める。スラリとした手足が線を描き、しなやかな動きに目が離せない。流れるような動きでステージ全体を使いながら練習の成果を見せる。ドレスに躓く事もなく、緊張で動きが止まる事もなく、自然な表情でイリアは最後まで躍り切った。カサンドラもその姿に感動しながらソロを歌いきる。其までイリアを警戒していた者や興味を示さなかった者も虜にし、イリアが最後のお辞儀をするまで天使達は彼女の舞に夢中になっていた。



「・・・凄いです、イリア様!感動しました!」


ナギが拍手をしながら立ち上がると他の天使達もつられてスタンディングオベーション。雨音みたいな拍手を浴びながらイリアはやりきったと言うように最高の笑顔を見せた。カサンドラにも視線を向けると親指を立てて嬉しそうに笑っていた。


拍手が鳴り止まない内にイリアは一旦ステージ裏へ戻る。『ミスタシア』の皆も拍手をしながら迎えてくれた。


「イリアちゃん、お水」
「・・・あ、ありがとう」


アルカディアから受け取ろうと歩いた矢先、膝がガクッとなり、転びそうになった。


「イリアちゃん!」


側にいたアルカディアに支えられ、ドレスが汚れる事はなかったが、両の膝が震えているのに気付いた。



「なんか・・・今更緊張が・・・」
「良く頑張ったね」


椅子に座らせて貰い、お水を飲みながらイリアは落ち着くのを待った。 あまりにも自然に踊れた事にイリアは自分でも驚いていた。あんな大勢の前で一人で何かをした事がなかった為にその分の緊張が一気にきたのかも知れない。


「大丈夫?」
「――うん。少し落ち着いてきた」
「次も踊れそうか?」
「うん。イラが最初だよね」
「あぁ。私に全て任せればいい」
「ありがとう」


次は一人ではない為、イリアも安心した。
声楽隊の準備が整い、カサンドラも戻ってきた。皆の準備が整った事をパンドラに伝え、イラは先にステージへ向かった。


「――お待たせしました。其では次に『ミスタシア』達とイリア様の躍りを御堪能下さい」


声楽隊の合奏が始まる。先程とは違い、今度は明るい旋律が流れ始めた。イラが一礼するのと同時にイリアがステージに現れた。先程の印象が強かったのか一瞬だけざわめきがあったが、すぐに収まり二人に注目が集まった。


「イリア」


イラの手を取り、イリアは微笑む。彼のリードでイリアは自然な動きで舞っていく。どちらも綺麗な動きでついつい見入ってしまう。イラのリードは丁寧で迷いがない。だからイリアも安心して体を動かせた。


沈着冷静で天使達からの信頼も厚い『ミスタシア』のリーダー。式典の指揮もイリアの担う仕事も殆んど請け負ってくれている。今はまだ未熟だが、女神の代理として役目を果たせる時が来たら、彼に頼られる存在になりたいとイリアは思っていた。



イラとの躍りが終わり、拍手に包まれる中、入れ替わりにカサンドラが現れた。イリアの手を取り、リードしていく。以前、一緒に踊った時よりも動きやすく感じた。



地球と同じ色の瞳を見ると安心した。【奈落の門】ではずっと側にいてくれて、不安を解かしてくれた。時に無邪気な一面も見せるけれど、彼の歌声を聴くとその日は良く眠れた。優しい音が全てを浄化してくれる。強さを高める為に戦いの相手にもなってくれるその優しさにイリアはいつも感謝していた。



旋律が変わり、緩やかなリズムになるのと同時にカサンドラからレフィへと変わった。変わらぬ笑みでリードをしてくれる。全部自分で考える必要がない為、イリアも程よく力が抜けていた。


レフィの料理は見た目も味も一級品で、イリアの為に食べやすいものを調理してくれる。その気遣いに何度も救われた。礼儀正しく、階級に関わらず誰に対しても丁寧に接してくれる優しい天使。一緒に水あげした時はとても楽しかった。花があんなに綺麗に咲くなんて知らなかった。 強さと優しさを兼ね備えた美しい彼に今度は自分がおもてなしをしたいと考えていた。


「イリア、大丈夫ですか?」
「うん。皆のリードが上手いから」


レフィは少し心配していたが、イリアが笑っていたので安心して次の相手に変わった。


「よろしく、リーちゃん」
「こちらこそ」


アルテナージャはキレのある動きでイリアをリードしていった。タキシードを着ているせいか、いつにも増して美しさが倍増しているような気がした。


誰かに渾名で呼ばれた事は初めてだった。ナージャに「リーちゃん」と呼ばれる度に嬉しさが増していく。素直で可愛らしい素振りに憧れも抱いた。薬品にも詳しく、一緒に薬草を探した時は楽しかった。親しい友達がいなかったイリアにとってナージャの言葉はいつも胸に残る。「大好きな友達」と言ってくれた時は本当に嬉しかった。いつか自慢の友達になれるようにイリアは自分を磨いていきたいと決心していた。



「リーちゃん、疲れてない?」
「平気。まだまだ大丈夫だよ」
「そう?無理はダメよ」
「ありがとう、ナージャ。でも今すごく楽しいから」
「リーちゃん・・・」
「皆とこうやって踊れて凄く嬉しいんだ」


その晴々とした笑顔にナージャは言葉を飲み込んだ。イリアの気持ちを邪魔しないように、笑って次の相手に交代した。



「――イリアは大丈夫か?」


躍り終わった『ミスタシア』達はステージの側で見守っていた。イラもずっと躍りっぱなしの彼女を心配していた。


「見守ってあげて。リーちゃん、とても楽しそうだから」


戻ってきたナージャが伝える。イラも踊っている彼女を見てその自然な表情に不安を除かれた。



エチカに変わり、声楽隊のメロディーも盛り上がってきた。その音に合わせながらリードを取り、イリアも華麗に表現していく。



初めて宙に浮いた時、今まで感じた事のない気持ちが生まれた。空から眺めた景色はとても綺麗だった。此処に来なければ見えなかったものが沢山あった。今日の衣装も手作りで作ってくれた器量の良さに感動した。こんなに素敵なものを作れるなんて流石だと。物腰柔らかで知的なエチカともっと話がしたいと思った。もっと色々な事を知りたいと思った。穏やかな時間の中でゆっくりと二人で過ごしたいと思っていた。



「とても似合っていますよ、そのドレス」
「ありがとう。エチカが一生懸命作ってくれたんだもん。これ位着こなせないとね」


イリアが喜んでいるのを見てエチカは安堵した。サイズも丁度良く、躍りにも支障がない。作って良かったとエチカは悦楽に浸った。



躍りも終盤に近付いてきた。次の相手はランティスだ。さっきまで一緒に出店を回っていたが、躍りの相手となるとまた違う印象があった。
ごく自然に手を取られ、そのままリード される。声楽隊のメロディーも静かな音になる。その繊細な音色に合わせて体を動かしていく。イリアは疲れなど微塵も感じさせずに楽しそうに踊っていた。



「イリアちゃん・・・」


最後の出番を待つアルカディアもステージ袖から眺めながら様子を窺っていた。



最初は何を考えているのか解らなかった。アルカディアが自分に執着している事で敵視されているのかもと思っていたが、今は違う。言葉は少ないけれど、その一言に想いが詰まっている事を知った。気付けばいつも側にいて見守ってくれていた。一緒に出店を回った時も側にいて、微笑んでくれた。静かに伝えてくれるその優しさにイリアはほっとしていた。あの時も、ランティスが来てくれなければ気がおかしくなっていたかもしれない。泣いていた理由も聞かないで抱き締めてくれた。それだけで凄く嬉しかった。隣で感じるその温かさに助けられていた。だから、 女神と同等の位に立てる時が来たら、彼を支えられる存在になりたいと思っていた。



「あとはアルカディアだけね」


見守るナージャ達もイリアの様子を眺めながら鑑賞していた。メインイベントももうすぐ終わる。そう感じるとイリアは少しだけ寂しい気持ちになった。


「イリア?」



ドンッ――


その時、突然大きな地響きが起こった。今までに感じた事のない揺れに立っていられず、天使達はパニックになりながら怯えていた。出店も崩れ、揺れは更に大きくなった。


「なにこれ・・・」
「イリア」


ランティスは彼女を守りながら様子を窺った。『ミスタシア』達も突然の事に対処が出来ずにいる。



「うわぁあぁ――!」


天使の叫びとともに地面から勢い良く飛び出してきたのは巨大な蔓。出てきた拍子に投げ飛ばされた天使や吹き飛ばされた天使が地面に叩きつけられた。



「きゃあぁあ――!」


ナージャの悲鳴が聴こえ、イリアが視線を向けるとステージの側で見守っていたイラ達が、蔓に巻き付けられていた。身動きを封じられ、能力すら使えない。ステージ袖にいたアルカディアも狙われ、助ける手段を無くされた。被害を免れた天使達も自分達の能力でどうこう出来るものではないと認識してしまった為、腰を抜かしたままその場に居座っていた。


「みんな・・・!」


助けに行こうとした彼女をランティスが止めた。グッと強く手を握られ、イリアは動けない。


「ランティス・・・?」


蔓が強く『ミスタシア』達を巻き付ける。その圧力に体力を奪われそうだ。


「ランティス、放して。皆を助けないと・・・」
「助ける?どうして?」
「えっ・・・」


アルカディアはなんとか動く手に光を集め、そのまま樹に触れた。だが、びくともしない。其よりも巻き付ける強さが増してしまった。


「ぅ・・・あ・・・」


これ以上、巻き付けられたら身体が壊れてしまう。能力の高い『ミスタシア』ですら敵わないものにイリアはどうすればいいのか解らなかった。


「みんな・・・」
「――無様だね」


そう呟いたのは他でもない、ランティス。イリアは聞き間違いかと思ったが、彼の表情を見て確信した。


「ランティス・・・貴方の仕業なの・・・?」
「だったら?」
「どうして・・・」


その時、イリアのいた地面が揺れ蔓が現れた。イリアは素早く避け、光る刀で蔓を裁ち切った。そのまま跳躍しながらアルカディア達を巻き付けている蔓も切ろうとした。だが、突如現れた影に前を塞がれてしまった。


バサッと白い大羽根を広げながらイリアの前に立ち塞がったのは――


「・・・レフィ?」
「余計な事はしないで頂けますか?」


冷たい瞳で睨まれ、感情のない声で言われたイリアは背筋が凍った。刀を捕まれ、動けない。


「レフィまで・・・」
「大人しくしていて下さい」


グイッと刀を奪われ、ドンッと押されたイリアはバランスを失い、そのまま地面に落とされた。


「イリアちゃん!」


砂埃が舞い、地面にも窪みが出来ていた。アルカディアは助けられないもどかしさに目を伏せる。


「――間に合った」


間一髪でイリアを助けたのは、【嘆きの果て】の番人である夜魅。彼を見て天使達はざわめく。アルカディア達も何故彼がいるのか理解出来なかった。


「・・・よ・・・み・・・?」
「イリア。怪我してない?」
「うん・・・」


夜魅はイリアを立たせ、レフィに視線を向けた。


「大人しくするのはあんたの方だよ」


一瞬にして放たれた黒い光がレフィの胸を貫いた。その瞬間、レフィは意識を失い、ゆっくりと地面に落ちた。


「首謀者は、お前か?」


向けられた強い視線にランティスは口元に笑みを浮かべた。


「ランティス・・・」
「――上手くいくと思ったのに。使えないな、レフィもあんたも」
「どうして・・・」
「全ては、あの方の為」



その言葉の意味をイリアはまだ何も解っていなかった――。
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