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3番目の天使 ~Kassandra~
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キィィンと金属音のぶつかる音が響いた。剣から伝わる振動にイリアは手が痺れた。
「大丈夫?」
「平気平気!ガンガン来て」
心配するカサンドラにイリアは笑みを見せながら剣を構えた。
「それじゃあ、遠慮なく」
カサンドラは氷で象られた剣を振り翳した。地面が凍っていく。そのままイリアの元まで一気に氷の道が出来た。足が凍る前にイリアは避け、その跳躍でカサンドラに剣を振り下ろした。
バシッと意図も簡単に素手で受け止められ、イリアの剣は氷に包まれた。まるで彫刻のようだと感心していたイリアは手が冷たくなっていくのに気付いた。
「手、離さないと火傷しちゃうよ」
「ご心配なく」
剣を強く握りしめ、思いきり振り上げた。カサンドラはその力強さに驚き、手を離してしまった。
「痛った・・・」
イリアは弾みで尻餅をついてしまった。
「立てる?」
カサンドラが手を差し伸べた。イリアは素直にその手を取り、立ち上がる。
「手、平気?」
「うん。なんとか」
「無茶し過ぎだよ」
「これ位しないと強くなれないから」
その笑みには揺らぎのない意思が垣間見えた。
「カサンドラ、強いね。全然敵わないや」
「其なりに戦闘は身に付けてるからね」
「また付き合ってくれる?」
「いいよ。でも、君に怪我させたらアルカディアの怒り買っちゃうから、程々にね」
「うん。ありがと」
イリアは剣をしまい、服の汚れを払った。
「身体、大丈夫?」
「うん。怪我してないし」
「いや・・・、昨日カレア飲んじゃったから・・・」
「あぁ。特に何もないよ」
「なら良いんだ。ごめんね、飲ませちゃって」
「気にしてないから。其によく眠れたし」
「そっか」
「心配してた?」
「えっ!?まぁ・・・そりゃあね・・・」
「ありがと」
クスッと笑ったイリアにカサンドラは胸が高鳴った。
「――さて」
「この後なにかあるの?」
「うん。ナギと紡の実取りに行くの」
「それって、何処にあるか解ってる?」
「ナギが知ってるみたいだよ」
「二人で行くの?」
「えっと、ナギの友達も含めて」
「・・・おれも行っていい?」
「うん。カサンドラも紡の実欲しいの?」
「そうじゃなくて・・・。心配だから」
紡の実は【瓦礫の丘】にしか実らない特別な果実で此処に来る者はあまりいない。朝が来ない場所としても知られている。【癒しの丘】とは全く異なるが、珍しい実を付ける木があり、時々その実を採りにくる天使がいる程度。
「初めて来たなぁ」
イリアは見張らしの良い丘に立ちながら空気を吸った。夜のしっとりとした清廉な匂いが心地よい。
「あまり動き回らないでね。足滑るから」
「うん。気を付ける」
本当に解っているのか不安になりながらもカサンドラは見守っていた。
「あの・・・カサンドラ様!」
「ん?」
紡の実を懸命に探しているナギを他所に、少年天使達が目を輝かせながら声を掛けてきた。
「ぼくたち、カサンドラ様に憧れてるんです」
「カサンドラ様の歌、すっごく素敵です!」
「この間も、歌っているの聴かせて頂きました!」
カサンドラは天界の中で最も歌が上手い天使としても知られている。その歌声はゼウスと女神も認める程。式典の目玉として何度か歌声を披露した事もある。
「あぁ、聴いてくれたんだ。ありがと」
「こうしてご一緒して頂けただけでも嬉しいです!」
屈託のない笑顔にカサンドラもつられて笑みを見せる。少年天使達は日々能力向上を目指し、青年天使になれる様に努力している。青年天使達もまた『ミスタシア』を目指す意識が高かった。
「皆は紡の実採らなくていいの?」
「ぼくらは別に紡の実に興味ないんです」
「此処に来てみたかったんです。そしたらナギが此処に来る用事があるからって言ってたからついてきたんですよ」
「・・・そう」
当のナギはイリアと一緒に紡の実を採っている。 とても楽しげに。
「本当に朝が来ないんだねー。星いっぱいだぁ」
夜空に輝く星々を見上げながらイリアは気付かず歩いていた。
「おっと・・・」
石ころが落ちた。イリアは崖の近くまで来ていた。【瓦礫の丘】にある崖から落ちたら只では済まない。目線だけ下に向けても霧が掛かっていてよく見えない。
「イリア様!」
「ナギ・・・」
「気を付けて下さい。此処から落ちたら助からないかも知れないんですよ」
「うん・・・。ごめんね、うっかりしてた。ナギ、紡の実は集まった?」
「はい。イリア様にも手伝って頂いて、有り難う御座います」
「あたしも来てみたかったから。紡の実で何作るの?」
「今度はデザートをお作りします」
「わぁ!デザートいいねいいね!楽しみにしてるよ」
「頂く気満々ですね・・・」
「ナギの作る物は美味しいからさぁ。何なら手伝おっか?」
「いえ・・・。イリア様には出来立てを食べて頂きたいので・・・」
「そっか。じゃ、待ってるね」
「はい!」
ナギは嬉しそうに笑った。
「そろそろ帰ろっか」
カサンドラが二人に声を掛けた。あまり長居する所ではない。
「そうだね。皆呼んでくるよ」
「あぁ、お願い」
イリアが少年天使達の所へ行っている間、カサンドラはナギに紡の実で何を作るのかとイリアと同じ質問をしていた。ナギはクスッと笑みを見せながらもデザートを作るのだと同じ話をした。カサンドラもナギの腕前には感心しているので頂く気満々だった。
「――見てみて!こんなの見つけちゃった」
少年天使の一人がキラキラ光る石のような物を拾ってきた。
「なにそれー」
「わかんない。そっちに落ちてた」
「ちょっと見せてよー」
「ダメー。ぼくが見つけたんだから」
「見るだけいいじゃん!」
「ダメー!」
「なんでー?みせてよ!」
無理矢理取ろうとした衝動で互いの手がぶつかり、光る石が崖の付近に転がってしまった。
「あ・・・」
「もー、取ろうとするからだよー」
少年天使が石を拾いに走っていくと何かに躓き、バランスを崩してしまった。
「痛てて・・・」
足を擦っただけで怪我はなく、少年天使は石を探した。
「・・・あった!」
石を取ろうとした時、一際強い風が吹き少年天使の身体を押した。
「ぅわ・・・!」
パシッ――
落ちそうになった少年天使を間一髪の所でイリアが助け、そのまま引き上げた。
「大丈夫?」
「・・・はい。有り難う御座います、イリア様・・・」
「良かった」
立ち上がった際、イリアのいた地面が突然崩れた。
「・・・イリア様!!」
その声にカサンドラが気付き、少年天使達がいる所へ向かった。ナギも後を追う。
「くっ・・・」
イリアはなんとか岩の出っ張りに掴まり、難を逃れた。だが、岩を掴んだ際に爪が割れ、その痛みが力を削いでいた。
「イリア!」
駆け付けたカサンドラがすぐに手を伸ばし、助けようとするがあと少しの差で届かない。
「・・・カサンドラ・・・」
「もう少し・・・」
ぎりぎりまで手を届かそうとするが流石にバランスが悪い。
「・・・っ、ごめん、もうダメ・・・」
腕の力がなくなり、イリアの手が岩から離れた。
「イリア!!」
「カサンドラ様・・・!」
カサンドラは構わず飛び降りた。空中でイリアを受け止め、そのまま彼女の頭を守るように抱き締めた――。
ゴォォと言う激しい滝の音が辺りに響く。滝の下は泉になっており、気を休める場ともなっていた。
「暇だぁ・・・」
バシャーン
呟いた矢先に激しい水飛沫が上がった。何が起きたのかと泉を覗くと二人の男女が抱き合いながら気を失っていた。
「何だぁ・・・?」
「どうしたの?ガブリエル」
様子を見に来た一人が声を掛けた。
「いや・・・こいつら上から降ってきたから・・・」
「ふぅん?新しい仲間かな?」
「取り合えず、助けても良いですか?ルシファー様」
「そうだね。このままじゃ可哀想だし、小生の城に連れて行こう」
二人を抱えながら、彼らはその場を後にした――。
「大丈夫?」
「平気平気!ガンガン来て」
心配するカサンドラにイリアは笑みを見せながら剣を構えた。
「それじゃあ、遠慮なく」
カサンドラは氷で象られた剣を振り翳した。地面が凍っていく。そのままイリアの元まで一気に氷の道が出来た。足が凍る前にイリアは避け、その跳躍でカサンドラに剣を振り下ろした。
バシッと意図も簡単に素手で受け止められ、イリアの剣は氷に包まれた。まるで彫刻のようだと感心していたイリアは手が冷たくなっていくのに気付いた。
「手、離さないと火傷しちゃうよ」
「ご心配なく」
剣を強く握りしめ、思いきり振り上げた。カサンドラはその力強さに驚き、手を離してしまった。
「痛った・・・」
イリアは弾みで尻餅をついてしまった。
「立てる?」
カサンドラが手を差し伸べた。イリアは素直にその手を取り、立ち上がる。
「手、平気?」
「うん。なんとか」
「無茶し過ぎだよ」
「これ位しないと強くなれないから」
その笑みには揺らぎのない意思が垣間見えた。
「カサンドラ、強いね。全然敵わないや」
「其なりに戦闘は身に付けてるからね」
「また付き合ってくれる?」
「いいよ。でも、君に怪我させたらアルカディアの怒り買っちゃうから、程々にね」
「うん。ありがと」
イリアは剣をしまい、服の汚れを払った。
「身体、大丈夫?」
「うん。怪我してないし」
「いや・・・、昨日カレア飲んじゃったから・・・」
「あぁ。特に何もないよ」
「なら良いんだ。ごめんね、飲ませちゃって」
「気にしてないから。其によく眠れたし」
「そっか」
「心配してた?」
「えっ!?まぁ・・・そりゃあね・・・」
「ありがと」
クスッと笑ったイリアにカサンドラは胸が高鳴った。
「――さて」
「この後なにかあるの?」
「うん。ナギと紡の実取りに行くの」
「それって、何処にあるか解ってる?」
「ナギが知ってるみたいだよ」
「二人で行くの?」
「えっと、ナギの友達も含めて」
「・・・おれも行っていい?」
「うん。カサンドラも紡の実欲しいの?」
「そうじゃなくて・・・。心配だから」
紡の実は【瓦礫の丘】にしか実らない特別な果実で此処に来る者はあまりいない。朝が来ない場所としても知られている。【癒しの丘】とは全く異なるが、珍しい実を付ける木があり、時々その実を採りにくる天使がいる程度。
「初めて来たなぁ」
イリアは見張らしの良い丘に立ちながら空気を吸った。夜のしっとりとした清廉な匂いが心地よい。
「あまり動き回らないでね。足滑るから」
「うん。気を付ける」
本当に解っているのか不安になりながらもカサンドラは見守っていた。
「あの・・・カサンドラ様!」
「ん?」
紡の実を懸命に探しているナギを他所に、少年天使達が目を輝かせながら声を掛けてきた。
「ぼくたち、カサンドラ様に憧れてるんです」
「カサンドラ様の歌、すっごく素敵です!」
「この間も、歌っているの聴かせて頂きました!」
カサンドラは天界の中で最も歌が上手い天使としても知られている。その歌声はゼウスと女神も認める程。式典の目玉として何度か歌声を披露した事もある。
「あぁ、聴いてくれたんだ。ありがと」
「こうしてご一緒して頂けただけでも嬉しいです!」
屈託のない笑顔にカサンドラもつられて笑みを見せる。少年天使達は日々能力向上を目指し、青年天使になれる様に努力している。青年天使達もまた『ミスタシア』を目指す意識が高かった。
「皆は紡の実採らなくていいの?」
「ぼくらは別に紡の実に興味ないんです」
「此処に来てみたかったんです。そしたらナギが此処に来る用事があるからって言ってたからついてきたんですよ」
「・・・そう」
当のナギはイリアと一緒に紡の実を採っている。 とても楽しげに。
「本当に朝が来ないんだねー。星いっぱいだぁ」
夜空に輝く星々を見上げながらイリアは気付かず歩いていた。
「おっと・・・」
石ころが落ちた。イリアは崖の近くまで来ていた。【瓦礫の丘】にある崖から落ちたら只では済まない。目線だけ下に向けても霧が掛かっていてよく見えない。
「イリア様!」
「ナギ・・・」
「気を付けて下さい。此処から落ちたら助からないかも知れないんですよ」
「うん・・・。ごめんね、うっかりしてた。ナギ、紡の実は集まった?」
「はい。イリア様にも手伝って頂いて、有り難う御座います」
「あたしも来てみたかったから。紡の実で何作るの?」
「今度はデザートをお作りします」
「わぁ!デザートいいねいいね!楽しみにしてるよ」
「頂く気満々ですね・・・」
「ナギの作る物は美味しいからさぁ。何なら手伝おっか?」
「いえ・・・。イリア様には出来立てを食べて頂きたいので・・・」
「そっか。じゃ、待ってるね」
「はい!」
ナギは嬉しそうに笑った。
「そろそろ帰ろっか」
カサンドラが二人に声を掛けた。あまり長居する所ではない。
「そうだね。皆呼んでくるよ」
「あぁ、お願い」
イリアが少年天使達の所へ行っている間、カサンドラはナギに紡の実で何を作るのかとイリアと同じ質問をしていた。ナギはクスッと笑みを見せながらもデザートを作るのだと同じ話をした。カサンドラもナギの腕前には感心しているので頂く気満々だった。
「――見てみて!こんなの見つけちゃった」
少年天使の一人がキラキラ光る石のような物を拾ってきた。
「なにそれー」
「わかんない。そっちに落ちてた」
「ちょっと見せてよー」
「ダメー。ぼくが見つけたんだから」
「見るだけいいじゃん!」
「ダメー!」
「なんでー?みせてよ!」
無理矢理取ろうとした衝動で互いの手がぶつかり、光る石が崖の付近に転がってしまった。
「あ・・・」
「もー、取ろうとするからだよー」
少年天使が石を拾いに走っていくと何かに躓き、バランスを崩してしまった。
「痛てて・・・」
足を擦っただけで怪我はなく、少年天使は石を探した。
「・・・あった!」
石を取ろうとした時、一際強い風が吹き少年天使の身体を押した。
「ぅわ・・・!」
パシッ――
落ちそうになった少年天使を間一髪の所でイリアが助け、そのまま引き上げた。
「大丈夫?」
「・・・はい。有り難う御座います、イリア様・・・」
「良かった」
立ち上がった際、イリアのいた地面が突然崩れた。
「・・・イリア様!!」
その声にカサンドラが気付き、少年天使達がいる所へ向かった。ナギも後を追う。
「くっ・・・」
イリアはなんとか岩の出っ張りに掴まり、難を逃れた。だが、岩を掴んだ際に爪が割れ、その痛みが力を削いでいた。
「イリア!」
駆け付けたカサンドラがすぐに手を伸ばし、助けようとするがあと少しの差で届かない。
「・・・カサンドラ・・・」
「もう少し・・・」
ぎりぎりまで手を届かそうとするが流石にバランスが悪い。
「・・・っ、ごめん、もうダメ・・・」
腕の力がなくなり、イリアの手が岩から離れた。
「イリア!!」
「カサンドラ様・・・!」
カサンドラは構わず飛び降りた。空中でイリアを受け止め、そのまま彼女の頭を守るように抱き締めた――。
ゴォォと言う激しい滝の音が辺りに響く。滝の下は泉になっており、気を休める場ともなっていた。
「暇だぁ・・・」
バシャーン
呟いた矢先に激しい水飛沫が上がった。何が起きたのかと泉を覗くと二人の男女が抱き合いながら気を失っていた。
「何だぁ・・・?」
「どうしたの?ガブリエル」
様子を見に来た一人が声を掛けた。
「いや・・・こいつら上から降ってきたから・・・」
「ふぅん?新しい仲間かな?」
「取り合えず、助けても良いですか?ルシファー様」
「そうだね。このままじゃ可哀想だし、小生の城に連れて行こう」
二人を抱えながら、彼らはその場を後にした――。
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