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23.カウントダウン
c.
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奈帆と別れて1人になった帰り道、さっき言われた言葉を思い出す。
こんな風になるなら好きにならなきゃよかった、好きという気持ちを押し殺して普通の関係でいればよかった、と思ってしまいそうになる。
でも、それはちょっと違う気がする。
次に香枝に会った時、自分の気持ちを伝えなければ…。
そう思ったが、次に会えるのは実習が始まってからだ。
そんな余裕、ないかもしれない。
気付いたら真春はスマホの電話帳を開いて永山香枝の番号を呼び出していた。
いつもより大きく聞こえる呼び出し音。
どうか出ないで、と心のどこかで思ってしまう。
逃げ出しそうになる心をひっ掴み、無理矢理その場に押し付ける。
無風の空に、ぽつんと細長い三日月が見える。
『わー!真春さん!どうしたんですか?今日はバイトだったんですか?』
意外と早く電話に出られて、真春は焦った。
「あっ…うん、バイトだった」
『お疲れ様です!なんか久しぶりに話す気がします』
香枝の明るい声を聞いたら、これから言わなきゃいけないことを考えるととてつもなく胸が苦しくなった。
「あのさ」
早く今日のこの時間を終わらせたい。
予測できない未来がこんなに恐ろしいと思ったのは初めてだ。
「…今から会えない?」
『え?なんか、あったんですか?』
声色から察したのだろうか、香枝の声のトーンが変わった。
「香枝ん家行くから、待ってて」
それだけ言うと真春は電話を切り、回れ右をして三日月を背に香枝の家を目指してペダルを漕いだ。
同じ季節の風なのに、この前とは全く違う生温かく冷たい風が頬を撫でて去って行く。
動悸がして口の中がカラカラに乾いて、何から話そうか全く思いつかない。
街灯の少ない暗い住宅街はいつになくひっそりとしていて、自分の鼓動が聞こえてきそうな気さえする。
家の近くに着くと香枝が既に玄関先に出ているのが見えた。
真春の姿を確認すると香枝は笑顔で手を振った。
「こんな風に会うの初めてですね」
スエットとパーカーを着た香枝はへへっと笑った。
「ごめんね、夜遅くに」
真春は自転車から降り、道路脇に停めて香枝と向き合うように立った。
足も心も鉛のように重い。
何て言って切り出そう…。
何から言うべきなのかわからなくなってきた。
「大丈夫ですよ。急にどうしたんですか?」
「んーと…」
どうしよう。
どうしよう。
香枝は黙ってこちらを見ている。
「真春さん…?」
「香枝、あたしのこと好きって言ってくれたよね?」
意を決して口から出た言葉は、微かに震えていた。
指先が冷たくなっていく。
「…はい」
香枝は一瞬恥ずかしそうな顔をした後、俯いた。
「なんで…」
「え?」
「なんで、そんなこと聞くんですか?」
俯いた顔を上げ、今にも泣きそうな顔をして真春を見つめる香枝。
胸が苦しくなる。
こっちだって泣きたい気持ちでいっぱいだ。
本当は、言いたくない。
でももう、そんなことは言っていられない。
「…ごめん」
「言いたいことあるなら言ってください」
意外と香枝はこういうことも言える子なのだ。
秘密主義で、いつでも誰にでも穏やかな笑顔を向けている香枝。
世話好きで、優しくてやわらかい雰囲気で周りを癒すのんびりした子だと思っていた。
でも本当は負けず嫌いで意地っ張りで意外としっかり者で積極的。
そんな一面を知れたのも、香枝とこういう関係になってからだ。
真春はそんな香枝の全てが好きだった。
いや、今でも好きだ。
そんな真っ直ぐな目で見つめられたら、負けてしまいそうになる…。
真春は一度深呼吸をして、口を開いた。
こんな風になるなら好きにならなきゃよかった、好きという気持ちを押し殺して普通の関係でいればよかった、と思ってしまいそうになる。
でも、それはちょっと違う気がする。
次に香枝に会った時、自分の気持ちを伝えなければ…。
そう思ったが、次に会えるのは実習が始まってからだ。
そんな余裕、ないかもしれない。
気付いたら真春はスマホの電話帳を開いて永山香枝の番号を呼び出していた。
いつもより大きく聞こえる呼び出し音。
どうか出ないで、と心のどこかで思ってしまう。
逃げ出しそうになる心をひっ掴み、無理矢理その場に押し付ける。
無風の空に、ぽつんと細長い三日月が見える。
『わー!真春さん!どうしたんですか?今日はバイトだったんですか?』
意外と早く電話に出られて、真春は焦った。
「あっ…うん、バイトだった」
『お疲れ様です!なんか久しぶりに話す気がします』
香枝の明るい声を聞いたら、これから言わなきゃいけないことを考えるととてつもなく胸が苦しくなった。
「あのさ」
早く今日のこの時間を終わらせたい。
予測できない未来がこんなに恐ろしいと思ったのは初めてだ。
「…今から会えない?」
『え?なんか、あったんですか?』
声色から察したのだろうか、香枝の声のトーンが変わった。
「香枝ん家行くから、待ってて」
それだけ言うと真春は電話を切り、回れ右をして三日月を背に香枝の家を目指してペダルを漕いだ。
同じ季節の風なのに、この前とは全く違う生温かく冷たい風が頬を撫でて去って行く。
動悸がして口の中がカラカラに乾いて、何から話そうか全く思いつかない。
街灯の少ない暗い住宅街はいつになくひっそりとしていて、自分の鼓動が聞こえてきそうな気さえする。
家の近くに着くと香枝が既に玄関先に出ているのが見えた。
真春の姿を確認すると香枝は笑顔で手を振った。
「こんな風に会うの初めてですね」
スエットとパーカーを着た香枝はへへっと笑った。
「ごめんね、夜遅くに」
真春は自転車から降り、道路脇に停めて香枝と向き合うように立った。
足も心も鉛のように重い。
何て言って切り出そう…。
何から言うべきなのかわからなくなってきた。
「大丈夫ですよ。急にどうしたんですか?」
「んーと…」
どうしよう。
どうしよう。
香枝は黙ってこちらを見ている。
「真春さん…?」
「香枝、あたしのこと好きって言ってくれたよね?」
意を決して口から出た言葉は、微かに震えていた。
指先が冷たくなっていく。
「…はい」
香枝は一瞬恥ずかしそうな顔をした後、俯いた。
「なんで…」
「え?」
「なんで、そんなこと聞くんですか?」
俯いた顔を上げ、今にも泣きそうな顔をして真春を見つめる香枝。
胸が苦しくなる。
こっちだって泣きたい気持ちでいっぱいだ。
本当は、言いたくない。
でももう、そんなことは言っていられない。
「…ごめん」
「言いたいことあるなら言ってください」
意外と香枝はこういうことも言える子なのだ。
秘密主義で、いつでも誰にでも穏やかな笑顔を向けている香枝。
世話好きで、優しくてやわらかい雰囲気で周りを癒すのんびりした子だと思っていた。
でも本当は負けず嫌いで意地っ張りで意外としっかり者で積極的。
そんな一面を知れたのも、香枝とこういう関係になってからだ。
真春はそんな香枝の全てが好きだった。
いや、今でも好きだ。
そんな真っ直ぐな目で見つめられたら、負けてしまいそうになる…。
真春は一度深呼吸をして、口を開いた。
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