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6.ブログ

b.

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深夜1時。

飲み過ぎたさやかは泣き上戸となりバイトの話題でヒートアップし、真春と香枝は完全に聞き手に回っていた。

結局、さやかは優菜をよく思っていないということを誰にも言えなくて悶々としていたらしい。

バイトリーダーなのに高校生と愚痴り合うのも大人気ないし、でもこれ以上自分に嘘ついていい顔して我慢するのも嫌だし…と悩んでいたと。

後半は「聞いてくれてありがとう」と泣きながらお礼を言われ、さやかにもこんな一面があるのだと思うと同時に、バイトリーダーとして、大人として、みんなのことをちゃんと考えていたのだなと真春は感心し、尊敬した。

「言ったらなんかスッキリしちゃった。ごめんね、いっぱい愚痴っちゃって」

「いえいえ。溜め込むのは良くないですからね。いつでも聞きますよ」

「ありがとう真春ー」

帰り際、玄関先で酒臭いさやかに抱き締められ、真春は「また話しましょー」と背中を叩きながらケラケラと笑った。

「あたしも、実習で忙しくてあまりバイト入れてなかったんで、さやかさんと話すこともあまりなかったし…悩んでるの気付かなくてすみません」

「何言ってんの。今日聞いてくれただけで十分だよ」

「さやかさんはオトナですね」

「そんなことないよ。真春だってオトナじゃん」

「あはは、まだ大学生です」

「でもその辺の大学生よりもオトナだよ」

「こんな顔ですけど」

「顔は子供ー!」

「こらこらー」

2人で笑い合う。

「…今日話したことは、秘密ね」

「はい」

「もう、おしまい!嫌だけど、仲が悪くなるのはもっと嫌だしね!」

「ですね。今まで通り、いきましょ!」

真春が親指を立てると、さやかも「よしっ!」と親指を立てた。

「それじゃ、またね」

「はい、おやすみなさい」



さやかの家を後にして、真春と香枝は自転車を押しながら帰り道を歩いた。

玄関先で真春とさやかが話している間も香枝は終始無言だった。
空気がいつもより冷えている気がする。

過去に好きだった人が、一番仲が良いと思ってた友達と付き合っていて、それを隠されていたという事実。
そしてこの数時間の間でもう1つ、真春を驚かせた事実があった。

香枝は、優菜のブログを前から知っていたのだ。

バーベキューの数日後にたまたま発見し、毎日更新されるそれを見ていたと、笑いながら語ってくれた。

知っていながらずっと優菜と接したり、一緒に帰ったりしていたのだ。
優菜に接する香枝は、いつも見る香枝と同じだった。
香枝はそういう子だ。

他人のことを一番に考え、自分の気持ちを押さえ込んでいつも優しく笑っているのだ。
何があっても本音を言わずに、悪く言えば我慢をしている。

少なくとも、真春にはそう見えていた。
ちょっとくらい、自分のワガママ言ってもいいのに。

「うちの近く、街灯あまりないから暗くて怖いんですよ」

香枝がやっと口を開いた。

「あ?そ、そうなんだ」

色々考えすぎて、変な声が出る。
しばらく歩くと交差点に差し掛かった。
真春は左、香枝は右。

「あたし、こっちだから…。真春さん、また一緒に飲みましょうね!」

最後の言葉はいつもの香枝だった。
でも、今日のその下手くそな笑顔は真春の好きな香枝の笑顔じゃなかった。

自転車に跨りペダルを漕ぎ始める後ろ姿を見つめる。
なんだか、心が締め付けられそうだった。

このままでいいのかな?

香枝のことだから、本当のこと誰にも言っていない気がする。
いや、言えるはずもないか、こんなこと。
でも、ずっと誰にも相談しないでひとりで抱え込むの?

せめて、吐き出して楽になれれば…。

「…香枝!」

思いよりも先に、言葉が口から出た。
香枝が振り返る。

「送るよ。帰り道、暗くて怖いんでしょ?」

真春が言うと、香枝は弱々しく笑った。

数メートル先で止まっている香枝のところまで自転車を押して行く。
香枝も自転車から降りて、再び2人並んで夜道を歩いた。
送るよ、と言ったものの、また沈黙が訪れた。


優菜が清水さんと付き合ってるなんてショックだよね。
だってその頃、香枝は清水さんのこと好きだったもんね。
しかも優菜に伝えてたんだよね。
優菜と接するの、本当は辛いんじゃないの?
裏切られて、辛いんじゃないの?


立て続けに聞きたい。
でも香枝の顔を見たら、そんなこと言えなかった。
言ったら今にも泣き出してしまいそうだから。

彼氏に別れを告げたって言われた時泣いていたけど、電話だから顔は見えなかった。
香枝の泣いてる顔、見たくないな。
傷が癒えるまで待とうか。

「ここ、あたしのお家です」

考えているうちに結局目的地に着いてしまった。

香枝が指さしたのは、可愛らしい大きな一軒家。
塀の横に植木鉢がびっしり並べられていて、暗くてよく見えないがしっかり手入れがしてありそうだった。
庭も切り揃えられた芝生が綺麗に敷き詰められている。

「送ってくれて、ありがとうございます」

「いーえ」

頭の中で言葉がぐるぐる回るだけで、口から出てこない。

「気を付けて帰ってくださいね!おやすみなさい」

香枝は、この日2回目の下手くそな笑顔を見せて、家の中に入っていった。

結局、何もできなかった。
言いたいことも言えず、香枝の心に寄り添うこともできず。

しかしそれ以前に、香枝が何を考えているのか分からない。
よく考えたら、真春は香枝のことをそれほど知らない。
うわべだけしか知らないのだ。

闇の部分は明かしてくれたことはただの一度もない。
家まで送るだなんて、出すぎた真似をするんじゃなかった。
真春はタバコに火をつけて、ゆらゆらと自転車を漕いで帰路についた。
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