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プロローグ

能力を持つ青年

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   「急げ!サツが近くに来る前にさっさと逃げるぞ!」
リーダーである後藤雅弘は部下にそう怒鳴るように言った。現在午前二時の真夜中、けたたましくベルが鳴り響くなか、五人の男の集団がこの都市のなかで随一大きな銀行から逃げるように走って出ていく。一人一人が大きな現金袋を担ぎ、近くの駐車場に停められたワゴン車に向かう。
「早く後ろに積めろ!」
後藤がそう言うと、四人は次々と現金袋を積んでいく。その後、後藤は助手席に乗り、部下の一人は運転席、残りの三人はそれぞれ後ろの席に乗る。そしてすぐさま駐車場を去っていった。
「やりましたねー後藤さん!これだけあれば大金持ちですよ!」
後ろから部下の一人がそう言った。
「馬鹿野郎。アジトに戻るまでは安心できん。それに、この町にはまだ大きな銀行がたくさんある。ありとあらゆる銀行から金を集めるんだ。おい!もっとスピードを出せ!」
「了解です!」
そう言うと、アクセルを強く踏み、勢いよく走るワゴン車は早くも町から出ていった。



「もうすぐで着きますよ!」
運転席に座る部下がそう言ったときには、先ほどの町とは打って変わって、ほとんど建物がない土地が広がっていた。
「よし。おい!出る準備をしろ!」
後藤が後ろの席にそう呼びかけたその時、大きくタイヤが地面を擦る音が響くと同時に、車内に乗る全員が前のめりとなる。
「おい!!何やってんだ!!」
車が止まった瞬間、後藤がそう怒鳴った。
「あ、あれ……!」
運転席に座る部下が唖然とした表情で前の方向に指を指した。他の四人が同時に同じ方向を見た。そこには、
「……ん?人か……?」
後藤がそう呟いた。車のヘッドライトに人が照らされていた。後藤は激怒した表情で勢いよく車から降りた。それに続いて四人がぞろぞろと車から地面に降りていく。照らされている場所に近づくと、そこには一八〇近くあるだろう大きめの身長に、白のシャツの上に紺色のロングカーディガンを羽織り、高級感のあるネックレスを付けた、そんな大人びた容姿をした青年が道の真ん中に立っていた。
「てめぇ!危ねえだろうが!」
部下の一人がそう彼に向かって言った。だが、青年は口を開かず、じっと男たちを見つめていた。
「おい!なんか言ったらどうなんだこの野郎!」
部下の男たちが声を荒らげて怒鳴るが、青年は口を開かない。
「てめぇ…!」
そう言い、部下の一人が青年に歩み寄ろうとした時、
「待て。」
後藤が少し棘のある声で、青年に歩み寄ろうとした男にそう言った。
「ですが後藤さん……!」
「待てと言ってるんだ。」
後藤は鋭い目付きで言うと、男は腑に落ちない表情で目線を下にしその場に留まった。
そうして後藤は、ゆっくりと一歩ずつ青年に向かって歩き、五メートル程の距離で止まると後藤は笑みを浮かべて青年に向かって言った。
「君誰かは知らないけどさ、道の真ん中に立たれると、邪魔になっちゃうんだよねー。俺たち急いでるからさ、避けてくれると嬉しいんだよねー。」
後藤は子供をあやかすような、だが煽りでもあるような口調で青年に言った。だが、青年は口を開かなかった。 
「あのさー、あまり俺たちを舐めない方が良いよ?
知ってるかい?俺はこの『 クレフティス』のリーダーなんだ。テレビでもよく見るんじゃないかい?この辺の地域のなかでトップクラスの強さを持つ能力者が集まる強盗集団。知らない者はいないと言われてる凄い集団なのさ。だから、痛い目に遭いたくないなら……さっさとそこから退けるんだ……!」
と、最後に温和な表情から怒りを表すような形相に変えて言った。すると、青年は口を開いた。
「……痛い目見るのはお前たちだ。」
そう言った瞬間、青年の姿が消えた。
「ぐはっ!」
後ろから苦悶の声がし、後藤らが振り返ると、部下の男が倒れていた。
「な、何が起こった!?」
後藤が驚きを隠せずにそう言葉を零すと、
「おい。」
という声に、後藤らが前方に顔を向けると、先ほどとは距離を詰めて青年が立っていた。後藤らは少し後ろに下がり、戸惑いを見せるような表情をしながら、
「そ、そうか。お前も能力者か。だがさっきは油断をしただけだ。今度はこっちから行かせてもらう。殺れ!」
後藤がそう言うと、三人の男らは、一斉に猛スピードで青年に飛びかかった。だが、青年は横に避け、すぐさま後ろに回り込んだ。三人の背中に向け、横に切るように蹴ると、三人は大きく吹っ飛ばされ、叩きつけられるように地面に落ちた。後藤は驚きのあまり、数歩後ろに下がってしまう。 その後勢いよく風が吹くと同時に、一人が空中に高く飛び、「これでも食らえええ!!」と青年に向かって光線を放ち、地面が大きく爆発した。男は当たったと思っていたが、後藤の「上だ!」という声に、目線を上にやると、青年は男のすぐ真上に飛んでおり、両手を上に向ける状態で組んでいる。そして男の頭に勢いよくダブルスレッジハンマーが当てられ、男は地面に強く叩きつけられた。誰も動けないことを確認すると、青年はゆっくり地面に降り、唖然としている後藤を睨みながら、
「お前たちじゃあ、俺には勝てない。さっさとこいつらを連れて、警察署に行け。」
青年は冷たい視線を向けて、後藤にそう言い放った。後藤はしばらく俯くと、クククと不気味な笑いをし、今度は先ほどとは高らかに、そして可笑しそうに笑った。その後、後藤は言った。
「君は確かに強い。かなり鍛えてるみたいだな。うちの部下がやられるのも無理はない。だがな、さっきも言ったが俺はクレフティスのリーダー。この集団のなかで随一の強さを誇るのだ。」
すると静かに後藤の体からは、徐々に煙が上っていく。
「相手が悪かったな。余計な真似をしなければ、お前は死ななかったのにな。ふ、今から良いものを見せてやろう。ふんっ!はあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
後藤が雄叫びをあげると、辺りが揺れだし、後藤が立つ場所から亀裂が入り始めた。しばらくすると、後藤からは炎のような赤いオーラが静かに出始め、後藤が更に大きな雄叫びをあげた次の瞬間、真っ赤な光が辺りと共に後藤を包み込んだ。光が完全に治まると、漂う砂ぼこりの奥には、穏やかに赤いオーラを放ちながら、後藤がそこに立っていた。後藤は青年を見ると、口元をにやけながら言った。
「……どうだ?これが俺の力だ。まさか上段の能力者である俺が、お前みたいなガキ相手に本気で相手にすることになるとはな。この光景を見れただけでもありがたいと思え。じゃあ、始めようか。」
後藤は構えに入った。だが、青年はただそこに立つだけだった。
「ここまで舐められたのは初めてだ。……良いだろう。そこまで死にたいのなら、望み通りにしてやるよ!!」
後藤はそう言った瞬間、青年に向かって飛びかかり、一瞬で距離を詰め、拳を右頬に叩き込もうとするが、青年は上半身を斜めに傾け、後藤の攻撃をかわした。後藤は自分が作った勢いで飛ばされそうになるが、空中で体制を整え、足を地面に食い込ませて勢いを殺した。
「そこまで余裕にしてられるのは今のうちだぞ!」
そう言い、後藤は再び飛びかかり、高速の連続パンチを食らわそうとするが、無駄のない動きで後藤のパンチを全てかわしていく。フックやアッパー技なども、表情一つ変えずかわしていく。真横に切るように蹴り技を当てようとしても、瞬時にしゃがみ込んでかわした。
(どうなってんだ…!?なぜ俺の攻撃が当たらないんだ!こいつ、瞬時に攻撃を正確な方向に避けていやがる。まるで、攻撃がどこに来るのか分かっているみたいだ。くそっ!上段の能力者である俺が、こんなガキに手こずるとはっ!……いや、ここで冷静にならなければ、こいつの思う壷だ。守りが強くても、油断さえすれば、避ける隙は無いはずだ。ならばそこまで誘導すれば!)
そうして、後藤は手に火の玉を宿した。







    
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