アオノコイ ～ゲイおじさんのネット恋愛～

7.タチネコと妄想の特徴

ぼくがユイを妄想に使うようになったのは実は自然発生的なものではない。
あの頃ぼくのスレッドでは、ぼくに対する口説き合戦がヒートアップしていた。
これはR指定ものではないし、ゲイものなのでもとより思慮が必要なことだから、詳細に口説き文句を紹介するわけにはいかないけれど（書かないなんてつまんないよね）、
読んで心も体も熱くなるような、そんなコメントではあったんだ。
（ま、ぼくを具体的にこんな風にしてトロットロにしてやるぜ、みたいなことだよ）
そんな状況があったから、ぼくは自分を意識し始めるようになり、読み手さん相手に妄想し始めたんだ。

そのときまでずっと、推しキャラを主人公にした話を書いてはいても、その彼にもその相手にも自分自身を投影することはなかったぼくが。


実は、ゲイ板は根本的に推しキャラを、興奮できるシチュエーションで犯すことが基本姿勢であるため、書き手は犯したい立場の人間が書くことになる。
自分だったらこうしたいという願望を小説にしたものであるため、キャラと自分との妄想が基本構造であり、読み手も自身に置き換えて楽しむことが出来る。
ゲイだということで察しがつくであろうが、男同士のプレイでは通常どちらが男役（タチ）か女役（ネコ）か決まっている。
そして推しキャラに対しては、女役があてがわれる。
従って、書き手も読み手も男役（タチ）である。
逆もあってよいのだが、ぼくのいた板では、そんなスレッドはぼくが知る限り存在しなかった。

ぼくが口説かれていたというのは、例外的にぼくがネコ側の人間であったからだ。
けれどもぼくは推しキャラをネコとして書いていた。そこらへんにぼくのスレッドの特異性が生まれ、口説かれたりした要因がある。
その推しキャラとぼくが、容姿に限らず性格的なところで似ているんだろうと思った人も多かったのだ。


ぼくはもともと、妄想癖があり、こどもの頃から、夜、眠りにつくまでのひととき、妄想して過ごすことが常だった。
だけれどもいつでも主人公は、未熟なぼく自身ではなく、憧れのキャラクターを作り上げて、そのひとになりきってというものだった。
だからぼくを主人公にするというのは、もしかすると初めての経験だった。

それでも、“ぼく”はあくまで読み手にとってのパラレルワールド的な“キリというぼく”であって、リアルなアオそのまんまではないのだ。
読み手にとって魅力的な書き手のキリ。
だからこそできることだった。