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ペットの真意を知った時、淫魔王は決断する。
6 闘神アルカシス誕生と淫魔城への帰還
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七日七晩の約束が過ぎ、今日で8日目になった。
彰は、初めてトールと対面した部屋にロキと共に来ていた。既に中にはトール、オーディンが待機しており、彰自身にも緊張が走る。
アルカシスは、大丈夫だろうか。
七日七晩全く音沙汰なかった。
ロキにはああ言ったが、彼の状態は聞く事ができず、不安の中で七日七晩を過ごした。
彼は無事なのか。
ルシフェルは、アルカシスを蘇生させ彼を空籍となっている闘神の座に据えると言った。
『闘神』
それは、今目の前にいる彼と姿が酷似しているトールと同格になるという事だ。
自分が彼を刺したからだ。
彼は、刺した自分を許さないかもしれない。
もう、彼は以前のように自分を性奴隷ーペット–として、自分を扱ってくれないかもしれない。
そうなればもう彼と『命の契約』を結ぶ事はないだろうが、彼の答えを聞きたい。
それで、諦めよう。
不安から表情が強張る彰をソファに座って見ていたトールは、肩を竦めると安心させるように言った。
「そう緊張するな。私はもう君に術はかけないし、アルカシスも必ず来る」
トールは彰に微笑む。
だが彰にとってはその彼の言葉に信じられるか確信が無く、訝しみながらトールに尋ねる。
「どうして分かるんですか?」
「長年私達はルシフェルの部下だからね。彼は末端の者達とも約束は違えた事がない。君にアルカシスを蘇生させると言った事は信じていい。私が保証しよう」
トールの言葉は、信用できない。
自分を洗脳し人形にしてアルカシスを刺殺させる男の言葉は、その言葉に裏がないか疑ってしまう。彰が訝しげな表情をして自分を見ている姿に、トールはやれやれと嘆息する。
「私の事は信用できない?」
「ロキ以上に信用なんてできませんよ。俺にアルカシス様を殺させるなんて」
「それは済まない。今のうちに謝罪しておこう。アルカシスに愛想が尽きたらいつでもこちらに来るといい。次は必ずロキの妻にしてあげる」
「貴方を見ているとそれは絶対にあり得ないので、お断りしておきますよ」
「トラウマを作ってしまったようだね。打算無しに誠心誠意謝罪しよう」
あっさりと彼から謝罪の言葉が出て拍子抜けした彰は、そのまま彼に尋ねる。
「あっさりしているんですね。前は俺に術をかけてまで逃がさないという感じだったのに」
あっさりした彼の言葉が逆に怪しい。
「ルシフェルが介入した以上はどうあっても私達では彼に逆らう事はできないからだ。それにもともと、空籍だった闘神の籍に据える有力候補は確かにアルカシスだった。今まで就かなかったのは、彼が淫魔との混血で不適格だったからだ」
トールも知っていたのか、アルカシスが候補に上がっていたのを認めている。
だが混血を不適格という彼に、疑問を持った彰は尋ねる。
「混血は、ダメなんですか?」
「ダメだね。闘神は能力の劣化は許されない。なぜなら有事の際は、一番始めに出陣し相手の戦力を割き、完全なる勝利へ導く役目だからだ。そのため神の中でもその籍に就く候補は数える程しかいない。アルカシスは彼の父であり、私の兄だったアレスの血を一番色濃く継いでいたから、今は能力の開花は無くともいずれ芽が出る事は分かっていた話だからね。ルシフェルは、彼が神力を得る機会が訪れる時をずっと待っていた」
その機会を、自分が作ってしまった。
アルカシスは闘神の籍に就く事をどう思っているのか。
彼の考えが分からない彰は、自分を冷酷な目で突き放す彼を想像してしまう。
やってしまった事は、もう取り返しがつかない。
不安に駆られる彰の背後から、数人の配下達が一礼して入室した。
城の警護に就いているトールの部下がアルカシス達が到着した事を報告すると、トールは通すよう指示を出した。
部屋から入室するのは4人。
ルシフェルを筆頭に、カラマーゾフ、回復したエリザベータ、そして・・・。
銀色の長い髪と緋色の瞳、長身で白いスーツに青のワイシャツを着て優雅に入室する彼に、彰は目を見開いた。
「アルカシス、様っ」
間違いない。彼だ。
無事だったんだ。
彼の姿を確認した彰は、反射的に彼に駆け寄る。ロキは制止しようとしたが、それを振り切り駆け寄る彰をアルカシスは逃がさないと言うように強く彰を抱きしめた。
* * *
「アルカシス様っ、アルカシス様っ」
アルカシスは何も言わず、ただ彰を抱きしめている。
彰は彼の名前を呼ぶが、彼は全く返答しない。どうしたのかと彼の顔を仰ぎ見ると、彼の美しい緋色の瞳と視線が合った。
「アルカシス、様?どうしたんですか?」
彰に尋ねられるも、アルカシスは無言だ。でも自分と視線を合わせると、優しく微笑んでいる。
隣にいるルシフェルが彰に言った。
「心配するな。アルカシスはこの通り生き返った。ただ急がせ過ぎてまだ声は戻っていない。時期に戻るはずだ」
「ルシフェルさん・・・」
ルシフェルに言われて、彰は良かったとホッとした気持ちになった。そんな彰に、ルシフェルは淡々と説明する。
「お前がこいつの短剣で貫いた時には、既に事切れていた。ただこのコキュートスは魂が天界に逝く事はないから、俺の城へ連れて行って傷の治癒と神力を注いだ。おかげでこいつは、淫魔ではなく、闘神アルカシスとして復活した」
淫魔ではない。
彰はそれを聞いてやはりと思い、背筋を震わせる。
闘神アルカシス。
淫魔でなくなったという事は、もう彼は自分を求める事はなくなったのか。
やはりそうなのか、と彰は自分の不安が的中した事を悟った。
ルシフェルの説明を聞いてソファに座っていたトールは立ち上がる。その手には巨大なあのハンマーが握られていた。
「ルシフェル殿、アルカシスの神力を見たい。宜しいか?」
トールの申し出に、ルシフェルは頷く。
「いいぜ。俺の見てる前だ。堂々と喧嘩しろ」
「感謝致します」
自分に向かってハンマーを構えるトールを見て、アルカシスも【神殺しの大剣】をトールへ構える。
「ーーやれ」
ルシフェルの合図に二人は一斉に床を蹴り上げて突進する。
ーーガキィンッ!!
二人の得物が激しい金属音を立てて火花を飛ばせてぶつかり合う。数合のぶつかり合いが続いてもどちらが押されているのでは無く、互いの力が互換であるのが分かる。
得物同士ぶつかり合って発生する金属音と風切り音に、彰は不快に感じて両耳を塞ぐ。
ここまで激しいなんて、なんて恐ろしい二人なんだ。
「(アルカシス様っ・・・!)」
彰は大剣を振るい続けるアルカシスを見る。
彼は、笑っている。数合ぶつかり続けているにも関わらず、彼の表情は涼しいままだ。その表情を見て、トールは表情を変えず言った。
「どうやら神力が完全に定着しているようだね。七日七晩で定着するとは思わなかったよ。その突貫工事はショウのためかい?」
数合ぶつかり合いが続く中、アルカシスがさらに笑みを深くする。突然体制を低くすると、大剣をトールへ真っ直ぐ突く。
「ーーッ!」
ーーギィィンッ!!
驚いたトールはハンマーでアルカシスの突きを防いだ。だがそのままアルカシスはトールの眼前へ迫ると笑みを崩さぬまま言った。
「ーー当然でしょう?叔父上。私のショウをいい加減返してもらいますよ」
* * *
眼前に迫るアルカシスの気迫に、トールは戦慄する。
これは、間違いない。
兄(アレス)の神力と同じだ。
そのままアルカシスはトールを大剣で薙ぐが、トールはハンマーで大剣の斬り込みを防御すると距離を取った。
そしてルシフェルに言う。
「ルシフェル殿、よく分かりました。アルカシスを闘神として迎かい入れましょう」
「いいだろう。二人共、得物を降ろせ」
ルシフェルの合図で二人はそれぞれ得物を降ろした。
ハンマーを降ろしたトールはアルカシスに言う。
「アルカシス、君を闘神として歓迎するよ。私と対となり、闘えるのを楽しみにしている」
大剣を降ろしたアルカシスは、トールの社交辞令に冷淡な目で返した。
「私のモノを取り返しに来ただけだ。貴方がた神の下らない列籍など、元から興味もない」
そうトールに言い捨てたアルカシスは、大剣を消すとそのまま彰へ向かい、彼を抱きしめる。そのまま彰の黒髪に指を絡めた。
「あっ・・・アルカシス、様?」
抱きしめたまま髪を弄るアルカシスに彰は困惑する。
アルカシスは彰と視線を合わせると、優しく微笑んだ。
「ショウ、また髪が痛んでいる。城に戻ったら、丁寧にケアしてあげよう」
「ーーッ!」
彰は目を見開き、言葉にならない声を上げた。同時に涙が溢れて来る。
彼の微笑む姿に、彰は抱きしめ返すと彼の名前を叫んだ。
「アルカシス様っ!!」
彼に名前を呼ばれて、彰は涙が溢れた。
彼だ。この声。この腕。そしてこのムスクの香り。
自分を支配してきた彼そのものだ。
「ごめんなさいっ・・・俺っ、貴方を、っ!?」
殺してしまった。
そう言葉が出る直前、アルカシスは彰の唇に自らの唇を重ね、舌を挿入し彰の舌と絡め唾液を吸い取る。
「んっ・・・んぅ」
チュパ、チュパッ、チュパッ、チュパッ
ゴクッ、ゴクッ
彰の唾液をゆっくりと嚥下したアルカシスはゆっくりと彼から唇を離した。二人の間には唾液で繋がった透明の糸が1本伸びた。
手の甲で唇に付いた唾液を拭き取ったアルカシスは、彰の耳元で囁いた。
「相変わらず君の精気は甘露だね。復活して早々、君が欲しくて堪らない」
もっと、君が欲しい。
彰の耳元で扇情的に囁く彼に、自分の足元が震えているのが分かる。
これは、自分の予想していたのと全く違う。
まだ、この人は、自分を欲している。
彰は直感で分かった。そして、今までの溜め込んでいた不安を流すようにアルカシスのスーツを掴み、声を上げて思いっきり泣き始めた。
* * *
復活したアルカシスは、泣きじゃくる彰を抱きしめたままルシフェルに言った。
「城に戻りますよ。ルシフェル殿。いいですね?」
「構わん。俺もお前も目的は果たした。後は好きにしろ」
そう言い残すルシフェルを、彰はアルカシスに抱えられたままエリザベータ、カラマーゾフと共にコキュートスを後にした。
意識が浮上しかかる頃、女性の声が聞こえた。
『治療はしたから、また様子を見に行くね』
『感謝するよ。君がいなければショウは死んでいた』
『あら、昔の借りを返しただけよ。貴方にはお世話になってばかりだったしね』
二人の声の主は、女性の声と、アルカシス?
彰は意識を覚醒させると目を覚ました。そこには、白衣を着た癖毛の強いショートカットの東洋人女性とアルカシスが向かい合って話をしている。
彰の視線に気づいた彼女は、彼に振り返ると驚いたように目を見開いた。
「あれ?もう起きたの?」
「あっ・・・」
女性は目を覚ました彰に近づくと、優しく頭を撫でる。
「大変だったね、彰。エリーとアルカシスから全部聞いたわ。安心して。ここはアルカシスの城よ。コキュートスから帰還して昏睡状態だったの」
女性の言葉を受けて彰は視線をアルカシスに移した。アルカシスも彰に視線を向けている。
「ショウ、ナギコに感謝しなさい。コキュートス帰還時、全身凍傷した君を彼女が助けてくれたんだ」
彰は、初めてトールと対面した部屋にロキと共に来ていた。既に中にはトール、オーディンが待機しており、彰自身にも緊張が走る。
アルカシスは、大丈夫だろうか。
七日七晩全く音沙汰なかった。
ロキにはああ言ったが、彼の状態は聞く事ができず、不安の中で七日七晩を過ごした。
彼は無事なのか。
ルシフェルは、アルカシスを蘇生させ彼を空籍となっている闘神の座に据えると言った。
『闘神』
それは、今目の前にいる彼と姿が酷似しているトールと同格になるという事だ。
自分が彼を刺したからだ。
彼は、刺した自分を許さないかもしれない。
もう、彼は以前のように自分を性奴隷ーペット–として、自分を扱ってくれないかもしれない。
そうなればもう彼と『命の契約』を結ぶ事はないだろうが、彼の答えを聞きたい。
それで、諦めよう。
不安から表情が強張る彰をソファに座って見ていたトールは、肩を竦めると安心させるように言った。
「そう緊張するな。私はもう君に術はかけないし、アルカシスも必ず来る」
トールは彰に微笑む。
だが彰にとってはその彼の言葉に信じられるか確信が無く、訝しみながらトールに尋ねる。
「どうして分かるんですか?」
「長年私達はルシフェルの部下だからね。彼は末端の者達とも約束は違えた事がない。君にアルカシスを蘇生させると言った事は信じていい。私が保証しよう」
トールの言葉は、信用できない。
自分を洗脳し人形にしてアルカシスを刺殺させる男の言葉は、その言葉に裏がないか疑ってしまう。彰が訝しげな表情をして自分を見ている姿に、トールはやれやれと嘆息する。
「私の事は信用できない?」
「ロキ以上に信用なんてできませんよ。俺にアルカシス様を殺させるなんて」
「それは済まない。今のうちに謝罪しておこう。アルカシスに愛想が尽きたらいつでもこちらに来るといい。次は必ずロキの妻にしてあげる」
「貴方を見ているとそれは絶対にあり得ないので、お断りしておきますよ」
「トラウマを作ってしまったようだね。打算無しに誠心誠意謝罪しよう」
あっさりと彼から謝罪の言葉が出て拍子抜けした彰は、そのまま彼に尋ねる。
「あっさりしているんですね。前は俺に術をかけてまで逃がさないという感じだったのに」
あっさりした彼の言葉が逆に怪しい。
「ルシフェルが介入した以上はどうあっても私達では彼に逆らう事はできないからだ。それにもともと、空籍だった闘神の籍に据える有力候補は確かにアルカシスだった。今まで就かなかったのは、彼が淫魔との混血で不適格だったからだ」
トールも知っていたのか、アルカシスが候補に上がっていたのを認めている。
だが混血を不適格という彼に、疑問を持った彰は尋ねる。
「混血は、ダメなんですか?」
「ダメだね。闘神は能力の劣化は許されない。なぜなら有事の際は、一番始めに出陣し相手の戦力を割き、完全なる勝利へ導く役目だからだ。そのため神の中でもその籍に就く候補は数える程しかいない。アルカシスは彼の父であり、私の兄だったアレスの血を一番色濃く継いでいたから、今は能力の開花は無くともいずれ芽が出る事は分かっていた話だからね。ルシフェルは、彼が神力を得る機会が訪れる時をずっと待っていた」
その機会を、自分が作ってしまった。
アルカシスは闘神の籍に就く事をどう思っているのか。
彼の考えが分からない彰は、自分を冷酷な目で突き放す彼を想像してしまう。
やってしまった事は、もう取り返しがつかない。
不安に駆られる彰の背後から、数人の配下達が一礼して入室した。
城の警護に就いているトールの部下がアルカシス達が到着した事を報告すると、トールは通すよう指示を出した。
部屋から入室するのは4人。
ルシフェルを筆頭に、カラマーゾフ、回復したエリザベータ、そして・・・。
銀色の長い髪と緋色の瞳、長身で白いスーツに青のワイシャツを着て優雅に入室する彼に、彰は目を見開いた。
「アルカシス、様っ」
間違いない。彼だ。
無事だったんだ。
彼の姿を確認した彰は、反射的に彼に駆け寄る。ロキは制止しようとしたが、それを振り切り駆け寄る彰をアルカシスは逃がさないと言うように強く彰を抱きしめた。
* * *
「アルカシス様っ、アルカシス様っ」
アルカシスは何も言わず、ただ彰を抱きしめている。
彰は彼の名前を呼ぶが、彼は全く返答しない。どうしたのかと彼の顔を仰ぎ見ると、彼の美しい緋色の瞳と視線が合った。
「アルカシス、様?どうしたんですか?」
彰に尋ねられるも、アルカシスは無言だ。でも自分と視線を合わせると、優しく微笑んでいる。
隣にいるルシフェルが彰に言った。
「心配するな。アルカシスはこの通り生き返った。ただ急がせ過ぎてまだ声は戻っていない。時期に戻るはずだ」
「ルシフェルさん・・・」
ルシフェルに言われて、彰は良かったとホッとした気持ちになった。そんな彰に、ルシフェルは淡々と説明する。
「お前がこいつの短剣で貫いた時には、既に事切れていた。ただこのコキュートスは魂が天界に逝く事はないから、俺の城へ連れて行って傷の治癒と神力を注いだ。おかげでこいつは、淫魔ではなく、闘神アルカシスとして復活した」
淫魔ではない。
彰はそれを聞いてやはりと思い、背筋を震わせる。
闘神アルカシス。
淫魔でなくなったという事は、もう彼は自分を求める事はなくなったのか。
やはりそうなのか、と彰は自分の不安が的中した事を悟った。
ルシフェルの説明を聞いてソファに座っていたトールは立ち上がる。その手には巨大なあのハンマーが握られていた。
「ルシフェル殿、アルカシスの神力を見たい。宜しいか?」
トールの申し出に、ルシフェルは頷く。
「いいぜ。俺の見てる前だ。堂々と喧嘩しろ」
「感謝致します」
自分に向かってハンマーを構えるトールを見て、アルカシスも【神殺しの大剣】をトールへ構える。
「ーーやれ」
ルシフェルの合図に二人は一斉に床を蹴り上げて突進する。
ーーガキィンッ!!
二人の得物が激しい金属音を立てて火花を飛ばせてぶつかり合う。数合のぶつかり合いが続いてもどちらが押されているのでは無く、互いの力が互換であるのが分かる。
得物同士ぶつかり合って発生する金属音と風切り音に、彰は不快に感じて両耳を塞ぐ。
ここまで激しいなんて、なんて恐ろしい二人なんだ。
「(アルカシス様っ・・・!)」
彰は大剣を振るい続けるアルカシスを見る。
彼は、笑っている。数合ぶつかり続けているにも関わらず、彼の表情は涼しいままだ。その表情を見て、トールは表情を変えず言った。
「どうやら神力が完全に定着しているようだね。七日七晩で定着するとは思わなかったよ。その突貫工事はショウのためかい?」
数合ぶつかり合いが続く中、アルカシスがさらに笑みを深くする。突然体制を低くすると、大剣をトールへ真っ直ぐ突く。
「ーーッ!」
ーーギィィンッ!!
驚いたトールはハンマーでアルカシスの突きを防いだ。だがそのままアルカシスはトールの眼前へ迫ると笑みを崩さぬまま言った。
「ーー当然でしょう?叔父上。私のショウをいい加減返してもらいますよ」
* * *
眼前に迫るアルカシスの気迫に、トールは戦慄する。
これは、間違いない。
兄(アレス)の神力と同じだ。
そのままアルカシスはトールを大剣で薙ぐが、トールはハンマーで大剣の斬り込みを防御すると距離を取った。
そしてルシフェルに言う。
「ルシフェル殿、よく分かりました。アルカシスを闘神として迎かい入れましょう」
「いいだろう。二人共、得物を降ろせ」
ルシフェルの合図で二人はそれぞれ得物を降ろした。
ハンマーを降ろしたトールはアルカシスに言う。
「アルカシス、君を闘神として歓迎するよ。私と対となり、闘えるのを楽しみにしている」
大剣を降ろしたアルカシスは、トールの社交辞令に冷淡な目で返した。
「私のモノを取り返しに来ただけだ。貴方がた神の下らない列籍など、元から興味もない」
そうトールに言い捨てたアルカシスは、大剣を消すとそのまま彰へ向かい、彼を抱きしめる。そのまま彰の黒髪に指を絡めた。
「あっ・・・アルカシス、様?」
抱きしめたまま髪を弄るアルカシスに彰は困惑する。
アルカシスは彰と視線を合わせると、優しく微笑んだ。
「ショウ、また髪が痛んでいる。城に戻ったら、丁寧にケアしてあげよう」
「ーーッ!」
彰は目を見開き、言葉にならない声を上げた。同時に涙が溢れて来る。
彼の微笑む姿に、彰は抱きしめ返すと彼の名前を叫んだ。
「アルカシス様っ!!」
彼に名前を呼ばれて、彰は涙が溢れた。
彼だ。この声。この腕。そしてこのムスクの香り。
自分を支配してきた彼そのものだ。
「ごめんなさいっ・・・俺っ、貴方を、っ!?」
殺してしまった。
そう言葉が出る直前、アルカシスは彰の唇に自らの唇を重ね、舌を挿入し彰の舌と絡め唾液を吸い取る。
「んっ・・・んぅ」
チュパ、チュパッ、チュパッ、チュパッ
ゴクッ、ゴクッ
彰の唾液をゆっくりと嚥下したアルカシスはゆっくりと彼から唇を離した。二人の間には唾液で繋がった透明の糸が1本伸びた。
手の甲で唇に付いた唾液を拭き取ったアルカシスは、彰の耳元で囁いた。
「相変わらず君の精気は甘露だね。復活して早々、君が欲しくて堪らない」
もっと、君が欲しい。
彰の耳元で扇情的に囁く彼に、自分の足元が震えているのが分かる。
これは、自分の予想していたのと全く違う。
まだ、この人は、自分を欲している。
彰は直感で分かった。そして、今までの溜め込んでいた不安を流すようにアルカシスのスーツを掴み、声を上げて思いっきり泣き始めた。
* * *
復活したアルカシスは、泣きじゃくる彰を抱きしめたままルシフェルに言った。
「城に戻りますよ。ルシフェル殿。いいですね?」
「構わん。俺もお前も目的は果たした。後は好きにしろ」
そう言い残すルシフェルを、彰はアルカシスに抱えられたままエリザベータ、カラマーゾフと共にコキュートスを後にした。
意識が浮上しかかる頃、女性の声が聞こえた。
『治療はしたから、また様子を見に行くね』
『感謝するよ。君がいなければショウは死んでいた』
『あら、昔の借りを返しただけよ。貴方にはお世話になってばかりだったしね』
二人の声の主は、女性の声と、アルカシス?
彰は意識を覚醒させると目を覚ました。そこには、白衣を着た癖毛の強いショートカットの東洋人女性とアルカシスが向かい合って話をしている。
彰の視線に気づいた彼女は、彼に振り返ると驚いたように目を見開いた。
「あれ?もう起きたの?」
「あっ・・・」
女性は目を覚ました彰に近づくと、優しく頭を撫でる。
「大変だったね、彰。エリーとアルカシスから全部聞いたわ。安心して。ここはアルカシスの城よ。コキュートスから帰還して昏睡状態だったの」
女性の言葉を受けて彰は視線をアルカシスに移した。アルカシスも彰に視線を向けている。
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