【R18 完結】淫魔王の性奴隷ーペットー

藤崎 和

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ペットの真意を知った時、淫魔王は決断する。

3 決断する淫魔王

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 脇腹を彰に貫通されたアルカシスは、彼を片手で抱えたまま床に膝をついた。だが彰は無表情で貫通した短剣を内臓へ戻すと、片手に力を入れて左へグリンと脇腹を抉った。

「グッ・・・!!」

 脇腹を抉る痛みが走ったと同時に、口腔内へ血が逆流し、血臭から嘔気を誘発させる。アルカシスは吐血は堪えるものの、口端から流血する。
これで脇腹を貫通されたどころか、内部にも深いダメージを受けたと悟った。

 これを見たエリザベータはすぐに彼に駆けつけようとするが、炎を宿した弓矢を構えたロキと剣を構えたマグニに妨害され、息を呑んだ。

「ショウ・・・」

 アルカシスは自分の脇腹を抉ったまま全く動かない彰を見た。
 開いた動向は散瞳したままで、全く生気を感じない。完全に人形のようだ。

「ショウに、何をした・・・」

 内部を抉ったまま全く動かない彰を抱えて、アルカシスはトールへ視線を移し彼に問う。
 問われたトールはフフフと笑うと負傷したアルカシスを見下しながら言う。

「残念だったね、アルカシス。折角私からショウを掠め取れたというに。彼には今、君との記憶はない」
「何だと?」

 アルカシスは目を見開いた。
 自分のペットに不意打ちを受けて呆けた顔をする甥を可笑しそうに笑いながら、トールは自らの術を説明する。

「私の洗脳術は、対象者の過去の記憶を封印する。封印された対象者は、一時感情も消失し術者である私の意を汲み取る人形と化す」

 トールの言葉にアルカシスは先程の彼の言葉を思い出した。



『ショウも君に心を向き始めている。だが彼もまた君に対する【怖さ】もある』




 アルカシスは思い出した後、トールが、彰に何を施したのか察した。

「私に、向き始めた、ショウの心を消すために、この子の記憶を、封印したのか・・・?」

 アルカシスの問いに、トールは口端を吊り上げて笑った。さらにトールは説明を続ける。

「その通り。さらにショウは、ロキが演出してくれたデタラメ話を鵜呑みにしてくれたからね。君への【怖さ】も相まって、決して成就する事はないという【絶望】も負荷された。私の術にかかり易くて本当に助かったよ」

 トールの説明に、アルカシスは疑問を持つ。
 彰が自分に心を向き始めた事は分かっていた。彼は他者に対して慎重な姿を見せるが、自分に危害を加えない事が分かると、どこか人懐っこさはあった。
 しかし、成就とは何の事か。

「成就だと?」

 自分に向き始めたのは分かるが、それはあくまで自分が彼の主人だからだ。彼を支配するのは自分。ならばその意味で心が向き始めているのは納得がいく。
 それ以外はないはずだ。

 アルカシスの心当たりがないという表情に、トールはフフフと再び笑う。

「さすが。混血とはいえ君も闘神の血を引いているだけあって、相手の感情の変化に理解が追いついていないようだね。確かに君はショウの主人だ。主従関係を結べば、ショウはどうであれ君のペットという鎖からは逃れられない。そうすれば必然的に君に心を向き始めていく。だが、それは主人である君の視点だ。ではショウはどうだ?無理矢理ペットにした君を怨んだと思うかい?」

 トールは立ち上がると負傷して膝をつくアルカシスと微動だにしない彰のもとへ近づく。彰の傍へ着いたトールは、彼の顎に指を絡め自分に顔を向けさせる。彼はその美しい指で彰の顎を撫でつけるが、彼はされるがまま何の反応もない。
 
「私は対象者の記憶を封印する時、記憶を視る事ができる。君と出会ってから今までのショウの記憶を視ると、彼に【ある感情】が芽生え始めていた事が分かった」

 自分を無理矢理ペットにしたアルカシスを当初は恐ろしく思った。これが彰が抱く彼への【怖さ】の正体だ。
 だが彼は、アルカシスに調教を施されていくにつれ、ある感情を芽生えさせていたのだ。

「それは【愛】だ。ショウは君に調教される日々の中で、君を愛していたんだ」
「ーーッ!」

 トールの説明にアルカシスはハッと息を呑み、トールに人形のように弄ばれる彰を見る。

 トールの言うように、自分には姉のように【愛】という感情が理解できない。混血とはいえ、男性性の自分は他の淫魔達が持つ共感能力がないからだ。だから、彰をペットとして【支配】し、主従関係を結ばせる事で彼を繋ぎ止める事にしたのだ。
 闘神の血を一番色濃く受け継いだ自分には、どうあっても理解できない感情だからだ。

 脇腹を押さえながらアルカシスは微動だにしない状態の彰に尋ねる。

「君は、私の知らない【愛】を私に向け続けていたというのか?」

 彰は答えない。自分の声にも反応しない。

 アルカシスはロキに妨害されているエリザベータに目配せして合図する。

 大丈夫。だと。

 そしてもう一度彰を見る。
 相変わらずトールに弄ばれても微動だにしない彰にアルカシスは口端から流れる血をそのままに穏やかに微笑む。

 この子の記憶と感情を取り戻すためなら、長く拒否した『アレ』に座するのも、悪くない。

 微笑むアルカシスを見て勝機を確信したトールは、彰に命じる。

「ショウ、剣を抜きなさい」

 トールの言葉を受けた彰は、彼から離れるとアルカシスの刺した脇腹から容赦なく短剣を引き抜く。一気に抜かれた事で痛みがさらに負荷された事と、引き抜いた箇所からドパドパと血が溢れ出る。
 彼の着ている白い漢服に、出血したアルカシスの血が染み込んでいく。逆流した血は口腔内に溜まり、アルカシスは堪えきれず吐血する。

 苦痛に表情を歪ませるアルカシスは彰を仰ぎ見る。
 やはり表情に変化はない。瞳孔は散瞳し、自分と視線が合わない。
 術に完全に堕ちた事が分かる状態だ。

 アルカシスの流れる大量の血を見て、兄の血を引くこの厄介者はじきに死ぬと分かったトールは、吐血し苦痛に歪む甥に嬉々として尋ねる。
 
「アルカシス、下賤な淫魔の分際で私を追い詰めた強さは認めてあげる。ご褒美に好きな方を選ばせてあげよう。マグニに切り捨てられるか?それともこのままショウに急所を刺されるか?好きな方を選べ」
「へえ、貴方にそんな優しさがあるとは知りませんでした。私への冥道の土産ですか?」

 アルカシスはマグニとショウに視線を動かす。どちらも自分に向けて得物を向けている。
 アルカシスは肩が見えるようにスーツとワイシャツをずらして彰に見せると、トントンと肩を指差した。

「中途半端に抉っても、私はすぐに死なないよ。ショウ、ここを一思いに刺しなさい。そうすれば、私はすぐに死ぬ」

 

*   *   *


「覚悟を決めたね、アルカシス」
「貴方ご自慢の馬鹿息子に殺されるより大事なペットに殺される方がマシだというだけです」

 癪に触る甥の言動に苛つきを覚えるも、トールは自身の人形と化した彰の肩に手を置いて命じる。

「お望み通りにしてやる。ショウ、殺りなさい」

 トールの命令に彰はアルカシスの肩に深々と短剣を突き刺す。彼は激痛から呻き声をあげるもそのまま自分に密着している彰の肩に腕を回し彼を引き寄せ、口腔内に溜まっている自らの血を彼の口腔内に流し込んだ。


 彰の口腔内は温くて、舌が柔らかい。
 抵抗せずされるがままの彼にアルカシスは自らの血と唾液が混ざった舌を彰の舌と吸い合うように絡め取る。

 これは執着だ。
 君が私に向ける君からの【愛】を知りたいという欲望のための。

 人間界で手に入れた繊細な性奴隷ペットは、淫魔王として生きていた自分には脆弱に見えた。
 だが、彼の雰囲気と自分に向ける怯えた目、自分が世話をした事で得た彼の美しさが、この子を自分の下に侍らせるという執着に変わっていた。

 そして極め付きは、あの主従契約書で彼が宣誓した時。
 手に入れたあの高揚感は今でも覚えている。もう一度、あれを味わうためなら、自分は何でもなる。
 この子から、自分が理解できない【愛】を得るために・・・。


 彰に自らの血を口付けで流し込む姿に、トールは訝しげに眉を潜ませる。

「何のつもりだ?アルカシス」

 アルカシスはトールの問いを無視してひたすら彰に自らの血を口腔内に送り込む。
 だがそれは無駄な足掻きだと分かっているトールは自分を無視するアルカシスに、淡々と言い放った。

「君の血液をこの子に送り込んでも無駄だよ。淫魔の君では、私の術を解く事はできない。諦めてそのまま死ぬんだ」

 トールに洗脳された彰は驚く事もなく、口移しされたアルカシスの血をそのままゴクゴクと嚥下する。
 流し終えると、アルカシスはゆっくりと彰から離れた。

 

「ーー君は既に、私のモノだ・・・」

 そう言い残し、アルカシスは意識を手放しそのまま倒れた。




*   *   *


 倒れたアルカシスに、その場にいた全員が唖然とする。エリザベータはアルカシスに駆け寄ると、頸部に触れるが既に血を多量に流したせいで、脈が止まった事を悟った。
 
「(アルカシス・・・貴方、まさか決心したの?)」

 先程の目配せの合図は、それを含んでいるのか。
 だが、それだと半分流れている淫魔の血は完全に消えてしまう。そうなればトールと同じになってしまう。

 しかし今動けるのは自分だけだ。深傷を負った弟はこの状況を回避する事はできない。なら自分が急いでここコキュートスの邪神達を束ねる彼の下へ連れて行かねばならない。

 エリザベータは傷だらけの身体で深傷を負ったアルカシスを抱えると、自分達を囲むロキとトールを見据えた。
 彼のところに行くにしても、まずはこの二人から回避しなければならない。

 目眩しで彼女が扇を一振りしようとすると、ある人物が扇を振ろうとする彼女の手を制止した。

「まあ、待て。エリザベータ。この喧嘩はお前とアルカシスの負けだ。再戦の機会を与えてやるから、ここは一旦俺と城に来てくれ」
「ルシフェル・・・」

間に立ったのは、このコキュートスに棲む邪神達を束ねる神ルシフェルと、中央国の淫魔王カラマーゾフだった。
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