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間話
彰の気持ち
しおりを挟む朝の淫魔界は、空がどんよりとしている。灰色の雲が空に広がり、これから雨が降るだろうと予想できた。
彰は、ゆっくりとベッドから起き上がると、目の前のテーブルに置かれた食事に手を付けた。野菜と肉と豆を煮込んだミネストローネスープの味が、さっぱりとしていて胃に優しく染み込む。こんがり焼き上げたフランスパンもパリパリでモチモチしていて美味しい。人間界で一人暮らししていた頃、自炊はしていたが粗末で簡単なものしか作っておらず、痩せていたのは自分でも分かっていた。
淫魔界に強制的に連れて来たアルカシス様を始めは怖かったが、俺が彼の性奴隷になると言ってから、食事に睡眠に、身体や髪を丁寧にケアしてくれた。
そのせいか、彼を怖いという印象から、すごく過保護なのに全く鬱陶しくなくて、気づいたらいつも一緒にいたくなっていた。ペットである以上、彼は調教に厳しいが、それ以外なら優しくて俺が今まで欲しかった温もりを与えてくれる。だから、俺は淫魔界が居心地良く感じてしまう。
でも人間界にも未練はあった。縁を切られても、淫魔界で快適な生活を送っていると、ふと家族はどうしているんだろう、会社はどうしているんだろうと思ってしまう。ずっとアルカシス様にしか会わないからか、他の人にも会いたくなったせいもある。
こないだ、はじめてアルカシス様以外の淫魔達に会った。みんな綺麗な人達だったが、なかなか力が強くて怖かった。でもあれ以来彼等もよく部屋に出入りして心配してくれたり、俺を見て可愛いって言う。あの後俺が熱を出したせいで、みんな心配だったそうだ。まぁ、あれだけヤッてしまえば、そうだけど。さすがに恥ずかしかったが、なんだか言われるのも悪くないと思った。
余談だが、人間界にいた頃の俺は同性に恋愛感情は持った事はなく、むしろ社会人になって彼女が欲しいと思っていた。結婚して、俺が育った家族とは違う家族を作りたいと思っていたから。
多分、アルカシス様に調教されてからだ。あの人をもっと知りたいし、あの人と一緒にいたいと思うようになったのは。恋愛感情なのか分からないが、あの人ばかりを考える時間が増えて、なんだか落ち着かない日が続いた事があった。
一度、あの人に聞いた。どうして俺を大切にしてくれるんですかと。
『君は私の大事なペットだからね。ペットの管理は主の務め。そもそも私に、君達人間のような恋愛感情はないよ』
ああ、やっぱり、そうなんだ。
アルカシス様には恋愛感情はない。本人が言っているから間違いはないだろう。俺が思い込んでいただけで、あの人にとって俺はただのペット。人間がペットを飼うのと同じ感覚なんだ。
なんだか、悲しくなった。でも冷静に考えれば、それもそうだという話だ。そもそも、いきなり連れて来た人間に恋愛感情を持つなんて可笑しい話じゃないか。結局、俺はあの人のペットでしかないんだ。
最初から、俺は何を期待していたんだ。
食事中、彰は一人虚しさから、涙を流していた。
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