13 / 24
2章 人間界に潜む異変に淫魔王は共闘を受ける。
4話 彰、アルカシスの過去を知る。
しおりを挟む「(眠い・・・)」
午前中の講義が終了し大学の食堂へ移動した彰は、片手に事前に購入したサンドイッチを持ちながら先日川島町で購入した古書を開き本に読み耽っていた。すると、リラックスした状態で不意に軽い眠気が襲う。自販機で購入した缶コーヒーを一口口に付けた彰は座ったまま軽い背伸びをする。
「ふ、うぅん・・・。なんだか眠いなぁ」
昼下がり。
午後一時を過ぎて学生達の出入りは多くなる。この時間に講義が終了して、昼食を持ち込んだり券売機に向かって学食を注文し番号が呼ばれるまで雑談する学生もいれば、これから講義が始まると足速に食堂を後にする者もいる。対応する食堂のスタッフが食事ができたことを知らせるために番号を呼んでいたり、奥の厨房で淡々と食事を作っている。
周囲がせかせかと忙しなく動いている様子を彰は遠目で見つつ、サンドイッチを少しずつ咀嚼し、古書に目を向ける。
中身は既に表紙が黄ばんでおり、初版発行が昭和一桁と記載されている。大学入学後、闘神について情報が知りたかった彰はいくつもの書籍を探したが知りたい情報が手に入らず、たまたまネットで見つけた日本で唯一の神話学者が著したこの本の存在を知った。
紙自体は古いが内容は以前淫魔城でルシフェルが話した内容と酷似しており、この本の信憑性を確信した。だが彰が探していた肝心の闘神についての情報がない。ページ数が長いため目次欄を確認するがどこにも闘神についての記載はなかった。
「(駄目だ。これも、ないか・・・)」
やはり闘神についての情報はないのか。
読み疲れた彰は、はぁ、と溜息をこぼす。読み進めるうち、目の疲労を感じ本から目を離すと軽く指で瞼をマッサージする。
「秋山くーん、お疲れ様~」
そこへ、上品な緑色のワンピースを身に纏う女子学生が彰に気づいて話しかける。鞄とビニール袋を持ち、革のパンプスをカタカタと足音を鳴らしながら座って本を読んでいる彰の向かい側の席へ向かう。
「ここ、空いてる?」
「うん。いいよ」
どうぞ。
彰は彼女に着席を促した。
「お腹空いたー」
彼女は袋からサイドイッチを取り出すと、ぱくっと口に入れて咀嚼する。袋にはサイドイッチがもう一つあるものの他にはルイボスティーのペットボトル一本のみで同じクラスで同じ講義を受講している彰は空腹にならないか心配し彼女に尋ねる。
「サイドイッチ二つだけ?お腹空かないの?」
「んー、全然。むしろ食べ過ぎると眠くなって授業が頭に入らないの。私ご飯よりもパンが好きで野菜とお肉と果物があれば全然平気なんだ」
仕事が忙しい時はだいたいこれくらいで夜まで働いていたと彼女は話す。
「すごいなぁ・・・神成さん。講義が終われば夕方から仕事?」
「そう。お父様の製薬会社のね。薬剤師の免許はあるんだけど、医師免許もあった方が何かと役に立つから。秋山君は?」
「俺は少し調べ物があって」
彰は彼女から古書へ視線を移動する。
彼の視線が気になった神成は彰の持つ古書を見てあまりの古さに感嘆しつつ、どうしたのか尋ねる。
「どうしたのそれ?随分古いのね」
「こないだ川島町の本屋で買ったんだ。どうしても欲しくて」
そういえば、と神成は以前彰から聞いていた話を思い出し、あっと声を上げた。
「前話していた闘神のこと?」
「そうそう。ずっと調べたくて。講義の合間にこれを読んでいたんだ」
「秋山君て探究心がすごいのねー。やっぱり秋山君頭いいよー。それに美人さんだし。一緒に住んでいる人が羨ましいなぁ」
「ははは、そんなことないさ。第一俺だって少し前までは冴えないサラリーマンやってたんだよ?」
彰の中で、十年前のあの年の瀬に差し掛かった夜が思い出され目を伏せる。
あの頃は社会人として堅苦しいスーツを着て、靴をすり減らしながら自宅と会社を往復するだけの単調な生活だった。仕事量が増え、ストレスが増して身体の不調を感じていた中突然現れたアルカシスによって淫魔界に連れて行かれたことが全ての始まりだった。
「(アルカシス様がいないと、俺は未だに一人だったかもしれない)」
これで良かったんだと思う。
大学生活は学部の特性上、修得しなければならない単位も多い。大変だが学べる充実感もある。淫魔だった彼を闘神にしたのは自分。なら、自分もその闘神について知らなければいけない。
神成は目を伏せる彰を不思議に思い声をかける。
「秋山君?」
声をかけられ反射的に彰は目を開けた。
「どうしたの?大丈夫?」
「ああ、少し目が疲れて」
「フフフ。本の読み過ぎには、気をつけるんだじょ~」
* * *
夜六時を回り、講義が終了した彰は大学近くの居酒屋街にいた。大学からアルカシスと居住するホテルまで電車を使って移動している彰は駅に向かうため客と店員がひしめき合うこの街を歩いている。
人が多くなってきたと感じた時、正面を歩くガラの悪い二人組の男達がニヤついた笑みを浮かべながら彰に声をかけた。
「よぉ君。今暇ぁ?俺達と遊ばなぁい?」
厭らしい笑みを浮かべたままこちらに近づく二人組に彰は嫌悪感を感じながらも二人を無視し駅に向かおうとする。しかし二人は一切答えない彰の行く手を阻むように立つともう一度彼に尋ねた。
「君ぃ俺達と遊ぼうよぉ。ツンケン可愛くなぁいなぁ」
「ーーッ!」
二人のうち一人が彰の腕をグッと掴んだ。怯える彰の顎を固定しようとする男の背後からトンと肩を叩く別の男の声がした。
「ちょっとお兄さん達。悪ふざけはやめときな。その子、怖がってるのが見えない?」
声をかけたのは身長が高くガタイのいい外国人の男だった。彰に絡む二人の男を外さないと言わんばかりに鋭い目つきで捉えている。彼の雰囲気に二人は萎縮し始め、しどろもどろになりながらその場を走り去った。
「あ、ありがとうございます」
「ここは日本だ。無駄に目立つことはするつもりはない。アイツらがバカでなくて良かったよ。アルカシスの伴侶くん」
流暢な日本語でアルカシスの名前を出した男に彰は驚いた。
全く知らない男だ。なぜ彼がアルカシスを知っているのか分からない。彼は一体誰なのか。
彰は男性と距離を取ろうと、ゆっくりと後退する。それを見た男性は困ったような表情を浮かべて言った。
「まぁまぁ、そう警戒すんなって。俺は東国の淫魔王デーヴィット。事情があってアイツに会いに日本にやってきて、アンタを見つけたんだ。んで、やってきたはいいんだけどよ、アイツの気配を辿りながら歩いていたら、道に迷って・・・」
キュルルル・・・とデーヴィットの腹の虫が鳴った。バツが悪そうに苦笑いを浮かべる彼を凝視しながら、彰ははぁ・・・と呆れて溜息をついた。
「なっ?何かするわけじゃないだろ」
「いいよ、俺も腹空いていたし。アルカシス様は用事があって遅くなるって言ってたから一緒に飯でも食いに行くか?」
「いやぁ、さっすがアイツの伴侶!すぐに分かってくれるなんて出来た伴侶なんだ!」
「・・・大袈裟な淫魔王だなぁ」
「うっめー!エクセレント!何だこの『テイショク』って!?全部うめー!マジでラッキー!めちゃくちゃ美味いっちゅーねん!サンキュー!ショウ」
「・・・もう少し静かに食えよ」
目の前に出された鶏の唐揚げ定食にデーヴィットは嬉々としてかぶり付くように唐揚げをほうばる。噛む度にジュウジュウと流れてくる肉汁とカリカリッとした食感に彼は嬉し涙を流して歓喜に震えている。過剰に反応するものだから、彰は思わず周囲の客と店のスタッフからの視線が気になり小声で自制を促した。
二人が出会った近くの裏通りにこじんまりとした定食屋を見つけた彰はデーヴィットと共に入店した。注文のために渡された彩り豊かなメニュー表を見て歓喜したデーヴィットは大喜びで鳥の唐揚げ定食やこってりとした豚骨ラーメンを注文し、揚げたての唐揚げをペロリと平らげた。
「日本人って野菜好きの人種なんて聞いてたけど、こーんなカリッカリの飯もあるんだな!唐揚げってスゲー美味いなぁ。どうやったらこんなカリカリになるわけ?」
「・・・そりゃ、味付けして油と小麦粉で揚げますから」
湯気が立ち昇る豚骨ラーメンをズズズとかき込むデーヴィットの向かいの席で、鯖の味噌煮定食が提供され彰は鯖を端で解しながら少しずつ咀嚼する。
味噌と鯖の味がマッチしたこの食事が好きな彰としてはメインの鯖にご飯、味噌汁、小鉢が丁度いい食事量なのだが、向かい側で豪快にラーメンを食べていたデーヴィットにとっては貧相に見え、彼の地味なチョイスにドン引きしラーメンの汁を啜った後食事中の彼に説教する。
「おいショウ!何だこの貧弱なメニューは?お前ももっと食えよ。俺の奢りだ!オメーも豚骨ラーメン頼め!」
鯖を咀嚼していた彰は向かい側で食べるデーヴィットの油が浮いている豚骨ラーメンを見て、あからさまに嫌そうな顔をする。
「・・・俺、豚骨ラーメン嫌いなんだ。匂いもキツいし、味も濃くて胃もたれするし」
「はぁ!?贅沢だなお前!いいかショウ!人間全てのエネルギーは飯が基本だ!がっつりと食って身体を動かす!飯に遠慮なんかするな!もう一品頼め!金は俺が払ってやるから」
「・・・遠慮します」
そこまで食に執着が無いため、彰にとってはありがた迷惑以外の何物でもない。
あまり食いつきが良くない人間にデーヴィットは空透かしを食らった気分になり、汁まで全て啜り終えたラーメンの椀を店員に下げてもらうと水を飲みながら言った。
「だいぶ淡白な奴だなぁ、アイツの伴侶って。お前、こんな貧相な飯でアイツを満足させられる程精気出してんの?バリバリの殺気出しまくってる闘神野郎相手にするのは骨折れるだろ。というかお前まず肉食え。骨皮野郎が伴侶なんて俺は泣くわ。淫魔に何の冗談だよ」
「アンタとアルカシス様を一緒にするな。俺の前で唐揚げとラーメンがっつきやがって」
ペラペラと言いたいことを言う奴だと彰は豚骨の匂いと肉の焼けた匂いに気持ち悪さを感じて吐き気を感じながら思った。オエッときた吐き気を流し込もうと水を一杯飲み干す。その姿にデーヴィットは怪訝な視線を彼に向けた。
「おい大丈夫か?水飲んだからって出す時は出すだろ」
「俺、昔からこんな体質なんだ。肉も匂い嗅いだだけで気持ち悪くなるし、アンタの食った豚骨ラーメンも匂いがダメで倒れそうになるんだ」
水を飲み終えた彰は一度店を出ると夜風に当たりながらゆっくりと呼吸を整える。その姿を見ながら、デーヴィットは口臭ケアのタブレットを数粒飲んだ。
不意に、彰の鞄から古書がはみ出ているのが目に止まる。日本語で書かれたその内容を察したデーヴィットは、本の古さに驚くも表紙のタイトルに何故彼がこんな古書を持っているのか疑問に思った。
「(古い本だな。神話伝説?)」
そこへ、落ち着いて戻ってきた彰がデーヴィットが口臭ケアのタブレットを使っているのを見て申し訳なさから謝罪する。
「ごめん。俺匂いがダメで」
「いいや。テンション上げてがっついた俺も悪い。それはお前の魂のせいだな。命あった物の屍を魂そのものが拒否しているのだろう」
「俺の魂が?どうして?」
「『魅惑の人』の魂そのものは遥か昔大神ゼウスの部下だった奴等だからだ。神はもともと生き物の守護神だ。守護していた生き物を食うなんて、拒否して当然だ。今はまだ魚が食えるだけ人間に近いだろうが、いずれは魚も食べられなくなるだろう」
「そんな・・・」
デーヴィットの話に彰は受け入れられなくて動揺を見せる。彼の心情を察したデーヴィットは乾いた笑みを浮かべながら鞄からはみ出ている黄ばんだ古書に目を向けて言った。
「まぁ、勧めた俺も俺だ。アルカシスの気配を感じたお前を助けた責任もあるしな。伴侶になって間もないお前もいろいろと大変そうだし、飯の礼だ。お前の知りたいこと俺の知ってる範囲でなら教えてやるぜ。神話伝説なんて浮世離れしたもん携えて。どうしてそんな古臭い本持ってんの?」
「大学に入学して、ずっと調べているんですけど、全く分からなくて・・・。
ーー闘神て、何なんですか?」
「・・・へ?」
唐突な彰の問いにデーヴィットは一瞬思考が止まった。
闘神って何?
急に何を聞き出すんだ。この人間は。
内心彰を面倒くさい奴だと思ったデーヴィットは目を細めて彼の真意を問うた。
「何でそれを俺に聞く?単純にアルカシスに聞けばいいだろ?」
「そうはしたいけどアルカシス様も分からないみたいなんだ。伴侶契約の時、ルシフェルさんから『アルカシスに、愛を教えろ』って言われて・・・。でも俺も他人に教える程愛なんて知らないし、そもそも闘神ってなんなのか俺よく知らなくて・・・」
彰に言われデーヴィットはそう言われるとそうだよなと思い直した。一介の人間として生きてきたこの青年はアルカシスと縁を持ったから闘神のことを知ろうとしているのだろう。
現代では知りたいことがあれば簡単に検索できるのにわざわざ古書を持ち出しているところを見ればなかなか求めている情報にアクセスするのに苦労している様子が窺えた。
アルカシスの奴、あんなバリバリの殺気放ちまくってるくせにだいぶ愛されてるじゃん。
「なるほど。確かに日本人のお前に闘神というのは馴染みがないよな。いいぜ、教えてやる。なんでアルカシスが闘神打診を断り続けていたのかもな」
* * *
「闘神はその名の通り戦闘の神、いわゆる戦神だ。ただ性格は野蛮で血の気が多く、人間界の伝承にはその力を以って一国を滅ぼすことは造作もなく、神というより化け物として恐れられていた」
食事を終えたデーヴィットは水を飲みながらゆっくりと話し始めた。
古来より闘神はその血の気の多い性格から人間達にとっては恐怖の対象だった。だが時代が進み、人間界でも戦争が日常茶飯事となると次は守護神として祀り上げる国も増えたという。
「さらに時代が進むと闘神は戦闘だけでなく、人間達に実りを与える者も現れた。闘神トールは戦神だけでなく、豊穣の神としても祀られた。だが闘神アレスは、戦神以外の役割を与えられることはなかった」
「双子なのに?一緒に豊穣の神として祀られることはなかったの?」
「それはない。神達はもともと大神から人間を繁栄させるために手伝いをすることを命じられた存在だからだ。つまり、能力を与えたのは大神というわけだ」
だが大神ゼウスは徐々に自分の支配から離れようとする人間の存在に気づき、次第に人間に対して猜疑心を持つようになる。ゼウスはその猜疑心を持ったまま闘神であるアレスとトールを呼び出し人間達を戦場の最中に同士討ちに導くよう命じた。
しかしこれを知った当時ゼウスの側近だったルシフェルが先陣を切って断固反対の立場を取りゼウスと袂を分かつことになる。彼の離反に便乗してゼウスの暴挙に耐えかねていた他の神々も加わったことで大神ゼウスと神々との戦いの構図が出来上がり、ルシフェル、アレス、トールを始め多くの神々がゼウスに敗北し氷上の大地コキュートスへ堕とされたという。
「コキュートスに堕とされてもアレスもトールも元来持ち合わせていた戦闘能力で姿を保つことができた。だが神気が脆弱な神達はコキュートスの寒さに加え神界を堕とされた絶望感から醜悪な化け物に変化し、アレスとトールが殲滅していった。だが仲間を殲滅していくうちに精神を病んだアレスはコキュートスを出奔し、北国の淫魔王エカテリィーゼと恋に落ちた。そのエカテリィーゼはアルカシスの先代の淫魔王にしてアイツの母親だ」
ここまでデーヴィットの話を聞いた彰は淫魔城を訪れたルシフェルの話を思い出した。
同胞殺しに精神を消耗したアレスは、淫魔王エカテリィーゼに惚れ込み彼女に平伏し忠誠を誓ったというルシフェルの話をアルカシスはただ静かに聞いていた。彰はこの話を聞いた時、アレスがエカテリィーゼに惚れたのは彼女に精神的な安らぎを得たからだと思っていた。彰はデーヴィットに尋ねる。
「その話ルシフェルさんからも聞いた。アレスさんはアルカシスの母さんに惚れたのは疲れてしまったアレスさんにとって安らぎになったからじゃないの?」
「確かにアレスはエカテリィーゼの美しさに惚れたと同時に彼女に安らぎを覚えた。当時は淫魔王が神を屈服させ支配下に置いたとルシフェル達は難癖付けたがアレス自身が彼女の下に止まるとルシフェルに伝えてそこで決着は付き、アレスは淫魔界に止まることになった。だが二人の愛は壊れてしまった。
ーー子どもを産んだことによって」
えっ、どうして?
疑問に思った彰はどうしてなのかルシフェルに尋ねた。
「子どもを産んだから?一体どうして・・・」
「エカテリィーゼはアレスの能力を受け継いだ男児とアレス自身で神界に侵攻しようと目論んでいたんだ。だが彼女が産んだ十人の子ども達はアレスの能力を受け継ぐことはなく、一人は他国の王に、残り九人の子ども達はエカテリィーゼの跡目争いで共倒れとなった。アルカシスは彼女の十一番目の子どもで、アレスの血を最も強く受け継いだ。アルカシスは母親の偏愛を受けて育ったが共倒れになった子ども達のことで徐々に夫婦間に亀裂が生まれ出したんだ」
その後アレスは双子の弟トールに殺され、残された息子であるアルカシスの危機を感じたエカテリィーゼは親交のあったカラマーゾフに彼を預け、アレス亡き後一国の王として手腕を振るい続けた。そして成人したアルカシスは、単身母のいる北国へ帰還する。
「その時、アルカシス様は母さんをどうしたんですか?」
「ーー殺した」
「ーーえっ?」
「アルカシスは母エカテリィーゼを自らの手で殺した。兄弟達の中で一番愛情をかけて育てられはしたが、彼女の狂気にアイツは気づいてしまった。彼女が欲したのは、先に死んだ兄弟達でもアルカシスでもなく、神界の統治者という名誉だった。だから、エカテリィーゼを殺した」
だがこの事件以降、一時北国は混乱状態に陥ることになった。そのきっかけを作った張本人であるアルカシスも命を狙われ、もともとの好戦的な性格と戦闘能力も相まって暗殺者を全て返り討ちにしてきたという。
デーヴィットの話を聞いた彰は、唖然としたまま彼に尋ねた。
「じゃあ、アルカシス様がずっと闘神の打診を断り続けていたのって・・・」
「くだらな過ぎる神界の覇権争いに、うんざりしていたからだ」
彰はあの時トールの人形にされ、アルカシスを刺し殺したことを思い出すとつらくなりテーブルに項垂れた。だがデーヴィットは項垂れたままの彰に淡々と話した。
「覇権争いにうんざりしたアイツが唯一欲したのは、淫魔王として得ることのできる人間の伴侶だった。代々淫魔王が人間の伴侶を得るのは王としての地位確立のためだったり、伴侶から得られる精気を得るためだけじゃない。王自身の精神的な安らぎのためだ」
「安らぎ?」
項垂れた彰はデーヴィットの話を聞くとどういうことかと顔を上げた。
「どうして、人間の伴侶を得ると安らぎになるの?」
「俺達淫魔王は国の安定のために即位する。だが国内外ではその首を狙い常に暗殺の危機に晒され国を混乱に陥れる元凶ともなる。人間の精気だけでなく、そいつがいることで安らぎが得られる。アルカシス自身がお前を選んだんだ、ショウ」
ーアルカシス自身がお前を選んだんだ、ショウ。
デーヴィットの言葉に彰の瞳が大きく開く。
じゃあ、アルカシス様は最初から俺を伴侶にするつもりだったってことだったんだ。
確信を得た彰の表情を見たデーヴィットはクシャクシャと彼の頭を撫でた。
「まぁ、俺は真っ当な淫魔だから伴侶を選ぶには何の迷いもなかった。だがアルカシスは今は闘神だ。ルシフェルじゃないが『アルカシスに愛を教えろ』というのは、アイツを信じてやれと俺は思う。だからお前はアイツを信じてやれ、ショウ」
「うん・・・」
頭を撫でられる感触に心地良さを覚える彰を見てデーヴィットは安心したように笑みをこぼした。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
【R18 完結】淫魔王の性奴隷ーペットー
藤崎 和
BL
【BL】傲慢な淫魔王×孤独で不憫なリーマンの快楽堕ち性奴隷調教
➡︎執着愛、調教、ヤンデレ、複数プレイ、触手攻め、洗脳あり。
家族から勘当され孤独に生きるサラリーマンの秋山彰(あきやましょう)は、ある夜残業帰りにアルカシスと名乗る美丈夫の男に、彼の統べる淫魔界へ強制転移させられる。
目を覚ました彰は、既にアルカシスと主従契約を結んだと聞き困惑する。困惑する彼に突きつけられたのは『主従契約書』と書かれた一枚の書類。
そこには、彰の自筆で“秋山彰”と書かれていた。
「この契約書がある限り、君は私の性奴隷だ。今から7日間、みっちりと私の性奴隷になった事をその身体と心に刻み込んであげる」
「ふっ、ふざけるな、ああっ・・・っ!」
アルカシスにより、身体は快楽を刻み込まれ、7日後アルカシスの性奴隷となった彰は再度突きつけられた主従契約書を前に自らアルカシスの性奴隷になった事を宣誓するのだった。
アルファポリス様他、小説家になろう様、pixiv様にて連載中!
変態村♂〜俺、やられます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。
そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。
暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。
必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。
その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。
果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?
標本少年
風雅ゆゆ
BL
親の都合で東京に引っ越すことになった白河京(しらかわきょう)は、転校早々かつあげにあっている生徒を目撃し、思わず助けに入ったが……
被害者生徒の代わりに、自分がターゲットにされ、生徒達の性欲処理係として扱われる日々が始まってしまった。
魔族に捕らえられた剣士、淫らに拘束され弄ばれる
たつしろ虎見
BL
魔族ブラッドに捕らえられた剣士エヴァンは、大罪人として拘束され様々な辱めを受ける。性器をリボンで戒められる、卑猥な動きや衣装を強制される……いくら辱められ、その身体を操られても、心を壊す事すら許されないまま魔法で快楽を押し付けられるエヴァン。更にブラッドにはある思惑があり……。
表紙:湯弐さん(https://www.pixiv.net/users/3989101)
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる