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1話 トリーシャ城陥落
しおりを挟むそれは夜間、突然の地響きと共に起こった。
城内に拡がった炎と黒い煙が、自分を呑み込もうと轟々と迫ってくる。
吸い込まないよう口元を押さえ、細微な装飾が施された絢爛な廊下をドレスの裾を上げて走るイリシアーヌは、ばらばらになった家族の安否を心配しながら彼等を探し続けていた。
(お父様...!兄様っ!二人とも、どこにいらっしゃるの...!?)
後ろから轟々と黒い煙が近づいている。イリシアーヌは大広間を出て外へ繋がる大扉を発見する。
「イリシアーヌ様っ!」
背後から聞き知った声で自身の名を聞いたイリシアーヌは、ウェーブがかったグレーのショートボブを揺らしながらこちらに近づいて来る妙齢な女性の名を呼ぶ。
「ネイサン!これは一体...」
「声を出してはなりません!すぐに外へ」
ネイサンに言われてはっとしたイリシアーヌはすぐに口元を手で覆う。
彼女を誘導しながらネイサンは外へ通じる大扉の取手を押すが彼女の力では微動だにしなかった。何度も取手を強く引っ張るも完全に閉じられ、轟々と迫る煙にネイサンは焦って愚痴た。
「全くシヴァとソロモンの奴っ、ここまで派手にすることなかったでしょ...!」
ガチャガチャと取手を揺らすも扉は動かない。ゴゴゴッ...と後ろから火の手と煙がすぐそこまで迫っていることに意を決したネイサンは微動だにしない扉に手を翳す。その瞬間扉は木っ端微塵に吹き飛び欠片が飛散する。
「す、すごい...」
傍目からすれば何もしていないのに突然吹き飛んだことにイリシアーヌは唖然とするがネイサンに手を引っ張られて我に返る。
「急いで!もう火の手がすぐに来ていますっ」
「は、はい!」
二人は城の階段を降りて庭園に出た。普段専属の庭師によって丁寧に整備された国随一の美しさを誇った園は無惨に掘り起こされ、芝生には城の兵士たちの死体が捨て置かれていた。
「うっ...そんな...」
周囲に漂う異臭と目の前の惨状にイリシアーヌは頭がくらくらする感覚を覚えるが、隣にいるネイサンの言葉に意識を取り戻す。
「イリシアーヌ様急いでっ!」
「はいっ!ネイサン、お父様と兄様、それにエレボスは、無事なのですか?」
ネイサンは答えず彼女を連れて異臭漂う庭園を走る。二人が庭園を出たと同時、城は爆発を起こし爆風が二人を襲う。
「あああっ!」
「イリシアーヌ様頑張って!」
ネイサンはイリシアーヌを庇って地面に激しく転がった。爆風に巻き込まれた二人は城下町まで吹き飛ばされ、止んだ所でネイサンは頭を押さえながら起き上がった。
「いたたた...エレボス様!?」
爆風で吹き飛ばされた二人を金色の長い髪をした美丈夫の男が見つけて駆け寄る。直属の主人の顔を見たネイサンは、一緒に吹き飛ばされたイリシアーヌの身体を揺するが小さく唸るのみだった。
「イリシアーヌ様、しっかりしてください!イリシアーヌ様っ」
「王女殿下っ!聞こえますか!?王女殿下っ!」
駆けつけたエレボスは爆風で吹き飛ばされドレスがぼろぼろになったイリシアーヌを抱き上げる。その刺激に意識を取り戻したイリシアーヌはいつも見ていた部下の顔に安堵の表情を見せる。
「エレボス...良かった。あなたは、無事だったのね」
「救助が遅くなり申し訳ありません。王の間に陛下や皇太子殿下がいらっしゃったところを賊に襲撃され、気付いたら火の手が早く...。お二人は安全な場所へ避難致しました。すぐにお連れします」
「お願い...くっ...痛っ...」
爆風に吹き飛ばされたせいで身体のあちこちが痛くて節々も動かせない。エレボスは痛みで苦しむイリシアーヌを抱き上げたまま、侍従の一人であるネイサンに目を向けた。
「お前もついて来い、ネイサン」
「はい、エレボス様」
ぼろぼろになったメイド服を整えたネイサンはイリシアーヌを抱き上げるエレボスについて行き避難先へ向かう。その途中、イリシアーヌは彼のシャツを掴み痛みに耐えながら尋ねる。
「エレボス...国民たちは...無事なの?」
「えぇ、ご心配なく。避難先に医師を待機しております。すぐに到着します。もう少しご辛抱を」
三人は急ごしらえされた避難所へ向かう。そこには爆発に巻き込まれたであろう住民たちが負傷し手当を受けていた。また見慣れた城の者たちも傷の深い者は横たわっていたり、忙しなく動いている者も包帯を巻いたまま救護活動に従事している者もおり、被害が甚大であることが分かる。エレボスは避難所の一室に傷ついたイリシアーヌを簡易ベッドに横たわらせ安心させるよう彼女に言った。
「すぐに医師を連れてきましょう。ネイサン、殿下を頼む」
「かしこまりました」
ネイサンにイリシアーヌを任せたエレボスは一人奥へ向かう。その間、イリシアーヌは負傷した彼等を見て胸が痛んだ。
老若男女問わず皆傷だらけだ。小さい子どもは傷の痛みで泣き続け、それをあやす親も傷だらけで疲れ切っている。歳を取った者の多くは横たわっており、息も絶え絶えだ。周囲の悲惨な状況を見たイリシアーヌはネイサンに尋ねる。
「ネイサン...賊って、一体何があったの?」
「イリシアーヌ様、落ち着いて聞いてください。ーー魔王です。魔王が蘇ったのです。五百年前に倒されたはずの魔王が『異種受胎者』を狙って攻めて来たのです」
「ま、魔王って...」
その言葉を聞いたイリシアーヌは愕然とする。深刻な表情で語るネイサンから発した『魔王』という言葉。その言葉にイリシアーヌは一つ心当たりがあった。
それは、トリーシャ王族なら必ず教えられる伝承だった。
はるか昔、この土地にヒト族以外の子を産めるとする『異種受胎者』を求めて死者を束ねる魔王が配下を率いてトリーシャに戦争を仕掛けた。しかし、剣士やエルフ族の魔術師によって魔王は倒され配下と共に地下世界へ葬り去られたという話。それ以降、トリーシャ王族の女性は十八歳を迎えると必ず他国に嫁ぐことが習慣となり『異種受胎者』は現れなくなった。
その魔王が、なぜ今になって現れたというのか。
「イリシアーヌ様」
考えを巡らせるイリシアーヌの頭上でエレボスの声がした。視線を変えるとスーツ越しでも僅かに筋肉が隆起している彼とは対照的な長身痩躯の眼鏡をかけた青年が目に入る。負傷した自分を見て笑顔を浮かべているのに明らかに目は笑っていない彼の不気味な表情にイリシアーヌは警戒する。
「王女殿下、彼は医師のメーティスです。すぐに治療致します」
「お初にお目にかかります、王女殿下。早速ですが傷をお見せください」
「くっ...うぅ...い、痛い...」
隣にいるネイサンが彼女の身体を支える。ぼろぼろになったドレスをめくると彼女の華奢な背中に痛々しい打撲痕や赤く腫れた傷が点々としていた。傷を見たメーティスが彼女の華奢な身体に手を翳し仄かな光を当てながらネイサンを諌める。
「肋骨を痛めてしまいましたね。爆風の衝撃に身体が耐えられなかったのでしょう。全く、ネイサン。いくらシヴァとソロモンが羽目を外して暴れたとしてもこの方を傷つけてはならないとの命令でしたよね?」
「あら?私のせいじゃないわよ。シヴァとソロモンが派手に暴れたせいでしょ?私だって巻き込まれたのよ。ほら見なさいよこの姿を!怒るなら二人に言ってよね?」
プイッと頬を膨らませるネイサンをイリシアーヌは朧げに見ながら少しずつ背中の痛みが引いていくのが分かった。身体の痛みが完全に無くなった頃、治療していたメーティスと呼ばれた青年は翳していた手を引いた。
「はい。これで痛みは引いたでしょう。どうです?立ち上がれますか?王女殿下」
「あ、あなた...」
一体何者?
不気味な笑みを浮かべるメーティスにイリシアーヌは言葉を口にしようとするが、三人を見た途端何かを感じて言葉を呑み込む。
エレボス、ネイサン、メーティス。
三人を見回したイリシアーヌは彼等から気味の悪い雰囲気を感じ取り背筋に寒気が走る。
これは病み上がりの部類ではない。明らかに禍々しいものだ。三人ともヒトであるはずなのに彼等からは冷えた何かを感じるのだ。
ふとイリシアーヌは大事なことを思い出した。
この避難所には負傷した住民が手当を受けているが、肝心の父と兄が見当たらない。二人はここに避難したのではないか。
イリシアーヌは恐る恐るエレボスに尋ねる。
「エレボス、お父様と兄様は、どこにいらっしゃるの?」
「おや、お分かりになりませんか?」
イリシアーヌの問いにエレボスははぐらかす。次にエレボス、メーティスは顔を合わせて互いに静かに笑う。イリシアーヌを支えるネイサンも悲しむどころか互いに笑う二人を見て呆れたように笑っている。三人の得体の知れない行動とエレボスの言葉に不安に駆り立てられたイリシアーヌはもう一度エレボスに問う。
「エレボス...なぜ答えないの?お二人は...一体どうしたっていうの?」
嫌な予感がしたイリシアーヌは語気を強める。焦るイリシアーヌにエレボスはおかしくて失笑すると他人事のように言った。
「おやおや...お気づきになりませんか?お二人はすぐ近くにいらっしゃるではありませんか。ーーほら、ね?」
エレボスとメーティスは身体を横にずらし、避難所の奥に設えた銀のテーブルを見るよう誘導する。
「っ!?」
その奥を見た途端、イリシアーヌは声にならない悲鳴をあげた。光のないこの暗闇の中、どろっとした液体と咽せ返る程の異臭、ベタついた二つの黒い髪...。
その正体を見た瞬間、視界が絶望で一気に染まる。がたがた震える彼女の肩に手を置いたエレボスが涼しげに説明する。
「お分かり頂けましたか?奥の左側が国王陛下、右側が皇太子殿下です」
「そんなっ...!」
父と兄。
それぞれ苦痛に歪んだ表情のまま首だけこちらを向いて並べられていた。
二人の無惨な姿を確認したイリシアーヌは茫然とする。彼女の様子にエレボスは身体に力が入らない彼女の視線に合わせて屈むと耳元で囁く。
「ほら、ちゃんとお二人はいらっしゃったでしょう?王女殿下...いや、元王女イリシアーヌ」
「なぜ、こんなことを...!?」
「あなたのお父上と兄上は、私が殺して差し上げました。素直にあなたを渡して頂けたならこの場で生きたまま再会できたでしょうに...」
「残念です」と悲しげもなく淡々と伝えるエレボスの狂気を感じ取ったイリシアーヌだが、それ以上に肉親の二人を殺めたこの男に怒りを覚え拳を震えさせる。
「お前...なぜ二人を...!」
許せない...。
許せない...。
イリシアーヌはドレスの袖に手を伸ばす。彼女の不審な動きに気付いたエレボスは素早く彼女の手を押さえつけた。カラン...と小さい金属音が地面に響く。出て来たのは護身用のナイフだった。それをネイサンがすっと拾う。
「もうイリシアーヌ様、こんな物騒な物持ってちゃいけませんわ。こんなモノを彼女に持たせるから、お二人共エレボス様に首チョンパされちゃうのよ」
「こんな可憐な方にも持たせるなんてトリーシャ王族は油断なりませんね。まぁ、だから死んだのですが...」
意地の悪い笑みを浮かべたメーティスとぼろぼろになったメイド服からいつの間にか派手なダンサー衣装にウェーブがかったグレーの髪をした長身の男が憐れな彼女を見て笑みを浮かべる。
「この姿は初めてでしたわよね、イリシアーヌ。私の今のネイサンは男の姿。あなたたち王族に近づくために生きていた頃の女の姿に擬態させて頂いたの。私、一度死んだら性別が女から男に変わった珍しい死者なの。以後、お見知りおきを」
胸に手を当てて一礼するネイサンにイリシアーヌは声が出せなかった。固まってしまった彼女を見てメーティスは両手を広げて大袈裟に呆れる素振りを見せる。
「だいたいね、トリーシャの伝承にもちゃんと記載されていたでしょう?【魔王は『異種受胎者』を狙って攻めてきたって】あ、でも五百年前のことだから忘れました?ヒト族からすればはるか昔のしょうもない出来事ですもんね」
可笑しくて「アハハハ」と笑うメーティスの言葉にイリシアーヌは震えながらも言葉を返す。
「だって...魔王は五百年前に倒されたって」
「倒されたのではありません。眠り続けていたのです。それに、まだ分かりませんか?その魔王と呼ばれている者が誰なのか...」
イリシアーヌと目を合わせたままエレボスは少しずつその容貌を変化させていく。彼の金色のウェーブがかった長い髪は黒色のストレートに、薄い色素の金色の瞳は凶々しい血の色に、政務補佐官としてのきっちり着こなしていた灰色のスーツは黒の甲冑と外套に、丸みを帯びた耳は少しずつピンと尖った物へ変化する。
その過程を間近で見たイリシアーヌは、ようやく伝承されてきた魔王が誰なのかを理解した。
変貌を遂げたエレボスは恐怖で震えるイリシアーヌを見下ろしながら嗤っていた。
「中々見応えのあるいい表情をしますね、イリシアーヌ」
「お、お前だったというの...?魔王って...」
「その通り。私はこの世を作り上げた創造神カオスとヒト族の混血。『異種受胎者』であるあなたを狙い、二年前からあなたの部下として傍で仕えさせて頂きました。私の教育のおかげで大臣たちと対立し、孤立していくあなたを見守りつつこの時が来るのを待っていたのです」
「何の...何の目的で、私に近づいたの...?」
軽く笑ったエレボスはイリシアーヌの顎をぐっと掴むと怯える彼女にこう言った。
「あなた自身が、生者を支配する女神となるため。そして、私の妻となるのです。イリシアーヌ」
その場でイリシアーヌは固まったままだった。エレボスは片手を噛むと滲み出た血を吸い、彼女の口を覆うよう口づけるとそのまま自らの血を彼女の口腔内に流し込む。
「んぅ...んぅ...」
抵抗の意思を示すようイリシアーヌは口腔内に入り込んでくるエレボスの舌を押し返す。しかしエレボスは意に返さず、淡々と自らの血を送り込んでいく。それが終わるとぺろっと彼女の舌を一舐めし少しずつ離れた。
「ぱぁ...はっ...はっ...」
エレボスが離れたところでイリシアーヌは荒い呼吸を繰り返す。彼女の呼吸が落ち着きだした頃、エレボスが言った。
「おや、舌が反応していましたね。あなた、舐められて気持ち悦かったのですか?抵抗するかと思っていましたが、意外にあなたも私を欲していたのですか?」
「ふざけないで...!お前、私に何をしたの?」
「血、ですよ。あなたの体内に私の血を流しました。魔王である私の魔力に身体が馴染むためには私の血を体内に吸収する必要があるのです。ご心配なく。すぐに反応が出てきますよ」
「はっ...はぁ、はぁ...あ、あつい...」
この瞬間、イリシアーヌは自身の身体が熱っていくのが分かった。上昇する体温に鼓動が速まり胸が苦しくなる。手で胸を抑えながらエレボスを睨む。
「なぜ...私に、血を飲ませたの?」
「あなたも、私と同様魔族の一人になってもらいます。今は身体の変化が始まりましたから、落ち着いたらあなたにも新たな名を授けてあげましょう」
エレボスが狂気さと愛しさが混じった笑みをイリシアーヌに向ける。彼の言葉と笑みにイリシアーヌはゾゾゾッ...と背筋が走り、恐ろしさを覚えた。
このままでは、本当に魔族に変えられてしまう。
逃げないと...!
イリシアーヌはエレボスに背を向けようとしたが、グッと腕を掴まれ引き戻されてしまう。
「私から離れてどこに行こうとするんです?」
「あっ...あっ...」
目の前に迫るエレボスの笑みと彼から発する威圧感にイリシアーヌは動けなくなる。そのままエレボスは彼女を抱き上げ、イリシアーヌは彼と密着する形となりさらに鼓動が速まっていく。
「やめてっ!何の真似よっ」
「変化の時は私が傍にいます。これから強く私を求める時が来るはずです。その時に私が応えてあげないとこの先あなたはその変化に苦しめられることになります」
「いやっ...離しなさいこの変態っ!触らなっ...あぁ...!」
ぼろぼろになったイリシアーヌのドレスの隙間に手を入れ込んだエレボスは彼女の乳首を軽く摘んだ。その途端、イリシアーヌは背筋にビリっと電流が走った感覚に襲われ、反射的に仰け反って嬌声をあげた。
「...っ」
始めてあげた自身の喘ぎに驚いて口を塞ぐ。エレボスは彼女の胸を弄りながら、頑なに嬌声を拒む彼女の耳元に囁く。
「乳首を弄って感じるんですね。触っていけばいくほど、どんどん乳首が固くなっていくじゃないですか。あなたもしや、普段からこっそり触っていました?」
「うっ、うぅ...手を、離しな...っ!」
イリシアーヌがエレボスの手を払おうとした途端、エレボスが乳首をツンっと引っ張っぱり再び背筋に電流が走る。抵抗しようにも彼が乳首を刺激する度、脳内に快感が押し寄せ身体の力を奪われてしまう。
「ーーっ!」
嬌声をあげまいと押し止まるイリシアーヌは、彼の腕から逃れようと身を捩る。彼女からすれば抵抗を示す動きのはずが、エレボスにがっちりと身体を押さえられているせいで彼女自身が身体をエレボスに擦り合わせる姿に変わっていた。その様子を見ていたメーティスは「おやおや」と薄笑いを浮かべる。
「そんなに身体を擦り付けて...。王女殿下、それではエレボス様を求めているようですよ?もうそのまま、快楽に屈してはいかがですか?楽になりますよ」
「やぁ...いやぁ...」
メーティスの指摘に恥ずかしさを増したイリシアーヌは弱々しく拒否の声をあげる。しかし彼女の身体は意に反してエレボスの黒い甲冑に縋るように擦り合わせていた。止められず、自然に彼の下肢に視線が向いてしまう。頃合いを見たエレボスは彼女をゆっくりと地面に押し倒し、固く閉じた彼女の下肢の間に自らの足を捩じ込む。自分を見下ろすエレボスに状況を察し涙ながらに懇願する。
「お願い...やめて...お願い...」
「言ったでしょう?強く私を求める時が来ると。少々乱暴なやり方になりますがご容赦ください。傷ついた身体は治療致します」
ドレスの裾を乱暴に破り捨てたエレボスはジタバタと下肢をばたつかせるイリシアーヌの足を無理矢理割開く。すでに彼女の秘所は乳首の刺激によって愛液で潤み、地面にまで垂れ流れていた。これを見たエレボスは指で彼女の恥骨を軽く押す。イリシアーヌは胎内で何かが疼く感覚を覚えた。
「いやぁ...何...何なのっ」
「胎内の臓器が私の血に順応していますね。これなら、以外とすぐ妊娠できるかもしれません」
「まっ...まさかっ...」
恥骨部分とその周囲をぐるぐるとなぞるエレボスの言わんとすることが分かったイリシアーヌはありったけの力で叫ぶ。
「誰かっ...!誰か助けて!誰かっ...!」
「ご心配なく。すぐに終わります。少しだけご辛抱ください」
黒いスラックスから屹立し脈々と血管が浮き立つ自らのモノを取り出したエレボスは迷うことなく、彼女の秘所に挿れ込む。
「ああっ...!いっ...痛っ...痛いっ...!」
「...ッ。まだ狭かったか」
挿入と同時にイリシアーヌの尻や腰の筋肉が強張ったことを感じたエレボスは、動きを止めると彼女の腹部に手を置く。彼の手の大きさと温かさに彼女の筋肉が徐々に解れていくのが分かった。
「...よし」
「ああっ...あっ...ああっ...」
解れた頃合いを見計らいエレボスはズンズンと彼女の胎内を進めていく。挿入時の痛みに混乱したイリシアーヌはパクパクと口を動かして浅い呼吸を繰り返す。これを見たエレボスは目を細める。
(さすがに苦しいか)
下肢同士繋げたままの状態から目を見開いて浅い呼吸を繰り返す彼女の耳元で吐息をかけながら囁く。
「ふぅ...大丈夫。ゆっくり息を吐いてください。はぁ...」
「はぁ...はぁ...はぁ...」
エレボスの誘導にイリシアーヌは少しずつ規則的な呼吸に戻っていく。そこを見計らい、エレボスは彼女の視線と合わせる。挿入時のパニックは多少残るものの、眼は平静を取り戻し始めていた。
「上手です。そのまま続けてください」
「ふっ...ふぅ...はぁ...」
イリシアーヌの力が弱まるタイミングでエレボスは彼女の胎内に自らのモノを進めていく。最初は始めての挿入でパニックに陥り強く締め付けていた彼女の肉壁が、慣れてきたのか快感を伴う程に緩んでいる。これに余裕が生まれたエレボスは再びイリシアーヌに唇を合わせる。
「んっ...」
情交の痛みと快感に悶える中、唇に違和感を感じたイリシアーヌは拒否の意思を示すよう固く閉口する。彼女の意思を感じ取ったエレボスはいったん離れると彼女に言った。
「口を開けてください」
イリシアーヌは固く閉じたまま首を横に振る。彼女の美しい青色の瞳ははっきりと開いてこちらを睨んでいた。
「おや。いい度胸ですね、イリシアーヌ。それともそんな睨みつける目をして、私を誘っているのですか?」
「...っ」
イリシアーヌはエレボスを睨んだまま喋らない。これが彼女なりの抵抗の証だ。
自分に屈しない彼女の意思の強さに支配欲を刺激されたエレボスは妖しげな笑みを浮かべる。同時に、その気高い精神をドロドロに溶かしてしまいたいという加虐心が湧き上がり、ちょっとしたイタズラを思いつくと彼女の耳元で囁く。
「何もおっしゃらないということは誘っていると解釈してよろしいのですね。では...」
この刺激は、いかがですか?
エレボスは彼女の胸元に視線を落とす。先程自分が弄った乳首が更なる刺激を求めてピンと勃っていた。エレボスは再び彼女の乳首を爪先で摘み、爪を立てたりカリカリと皮膚を刺激する。
「あぅ...」
乳首の刺激に力が緩んだイリシアーヌは思わず小さな嬌声をあげる。彼女が口を開いたタイミングに合わせ、エレボスは自らの舌を彼女の口腔内に捩じ込む。ざらついた彼の舌の感触を感じて一瞬萎縮するも、絡み合ううちにその萎縮が解されていく。
チュプッ、チュパッ、チュプッ、チュプッ...。
(このっ...ダメ...しつこい...)
顎を固定して屠るように吸い付いてくるエレボスの舌が、快楽という沼に引きづられるように堕としていく。時には絡み合い、時には吸いつき、時には舐め屠り...。
(す、すごい...。アツくて...気持ち悦い...)
自分に執着する彼の激しいキスと舌遣いが気持ち悦さを膨らませていく。エレボスのモノが入ったままの胎内はこのキスと舌遣いで子宮が疼き出していた。挿れたままエレボスも胎内の変化を感じ取っていた。実際彼女から奥に招かれているのか、進みは格段に悦くなっており、先程睨みつけていた彼女の目は僅かに残った抵抗を示すように涙を浮かべとろとろに蕩けきっていた。彼女のこの姿が自身の性欲を掻き立てられ、エレボスは自身の熱りように目を細める。
(あぁ...もうこんな顔をして...)
少し前までキスすら拒否していた彼女の強い意思が、完全に堕ちた恍惚の表情に変わっていたのを見て、完全に快楽に染まったのだと嬉しくなった。快楽に堕ちていく彼女と自分がそうさせていることが、完全に手に入れたと分かり身体の奥から独占欲とも支配欲とも取れる感情が沸き上がっていく。
(これ程とは...)
始めて味わうこのマグマのように滾る感情にエレボスは喜びと驚きを覚えた。そしてその先、今まで欠けていた何かがどんどん満たされていくのが分かる。
これが、妻を得ることの喜びというのだろうか。
激しく交わっていた口付けからエレボスは離れると、蕩け切ったイリシアーヌに穏やかに問う。
「イリシアーヌ、分かりますか?あなた自身が私を求めているように、私もあなたを求めているということを」
こくこくと、イリシアーヌは頷く。朧げな眼をエレボスに向けたまま彼を求めるように手を伸ばす。
「お願い...もっと欲しい...早く...」
手を伸ばした彼女に応えるようエレボスは強く握り返す。
「もちろん。思いっきりしてあげます」
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ
これを合図にエレボスは腰を上下に振り始める。下肢同士がぶつかる度、彼女の快楽に染まった嬌声と二人の淫液が周囲に飛び散り屍臭が充満しているはずのこの国に、その場所だけ淫蕩な空気が漂っていた。
夢中になったエレボスは獣のように腰を振る。その度にイリシアーヌは胎内が疼き、嬌声をあげ、強い快楽に身体が震えていく。
「あぁ...あっ...エレッ...エレボスッ...」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ...っ」
快楽に身体が震える。それはエレボスも、イリシアーヌも同じだった。互いの刺激が快楽の到達地を目指す。
「「ーーっ!!」」
絶頂が、二人に訪れる。
エレボスはイリシアーヌの胎内を突き上げるように最奥の子宮へ向けて射精する。それに伴い背筋に強い電流が走り抜けた途端、彼女は絶頂の悲鳴をあげた。
「あああっ...!!」
絶頂が走り抜けると、ビクビクッと身体が痙攣する。一通り過ぎると彼女は力尽きて気を失った。同じく達したエレボスは傷をつけないようゆっくりと彼女から自らのモノを引き抜く。気を失った彼女に自らの外套を掛けると横抱きにして立ち上がる。背後に控えていたメーティスとネイサンに指示を出す。
「二人共、今日から彼女はイリシアーヌではなく、我等の女神ニュクスだ。今後は私と同等の身分として扱うよう。シヴァとソロモンにも伝えろ」
これに応えるようメーティスは一礼する。
「かしこまりました。真におめでとうございます。魔王エレボス様、ニュクス様」
「あぁ、これで目的の一つに近づいた。お前は散らばっている屍体を使って新たな兵士を造れ。ヒト族の始祖トリーシャ国は我々の物になった。次はエルフの始祖サンクチュアリを攻め落とす」
「仰せのままに」
「それとネイサン。トリーシャの周辺諸国に通達してくれ。『ヒト族の始祖トリーシャは我々の手に堕ちた。死んで我々の軍門に下るか、生きて支配を受け入れるか。好きな方を選べ』と」
「あら、珍しい。生存する選択を与えるなんて。妻を得てテンション上がったのかしら?」
「そこまで調子に乗っていないさ。生者には寿命を全うする権利がある。それを尊重するだけさ。ただ、我々に反するならばやむを得ないが...」
「承知致しました。その旨すぐに各国に通達しましょう」
エレボスは爆発したトリーシャ城に視線を向けた。イリシアーヌを抱えたまま手を翳すと城は元の絢爛豪華な様相に復元した。それを見たメーティスは尋ねる。
「よろしいのですか?」
「ここは彼女の生家だ。嫁いでも生活環境は変えない方がいいだろ。今後、ここは我等の活動拠点とする。エルフの始祖サンクチュアリを攻め落とし、全ての生者を我々魔族の支配下に落とせ」
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