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調教7 通じ合う二人

3 再会する二人

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「ヴィンセント・・・?ゼルギウス・・・?」

一希のすぐ隣でリーアムの腕を掴んだまま対峙する形でヴィンセントが、彼の背中に背を向けて、真矢を守る形でゼルギウスが立っていた。

一希は、自分に背を見せるヴィンセントを見た。
来るとは思っていたがそれは自分を魔界に連れ戻すためだと。でもこんな状況下で来てくれるなんて思ってもみなかった。
まだ彼を見ると、怖さは感じる。でも彼が来てくれて、喜びと同時に安心も感じている。

ヴィンセントが来てくれたなら、もう大丈夫、と。
どこかそんな安心を一希は感じていた。

「一希様」

自分に背を向けていたゼルギウスは、一希に振り返りニコリと微笑んだ。だが、彼が一希に放った一言は辛抱だった。

「全く。貴方様が早く王との番を受け入れていれば、こんな面倒な事にはならなかったのに」

「えっ・・・?」

唖然としている一希を無視してゼルギウスは仁王立ちになりさらに続けた。

「城に戻ったら、たっぷりとお仕置きして差し上げます。そんな地味な服なんてとっとと脱ぎ捨て、羞恥に震え快感に泣き叫ぶ貴方様の可愛いお尻に電動バイブ、たわわなオッパイには王のイチモ」

「わわわゼルギウスごめんなさい僕が悪かったです早く城に帰りましょう」

ゼルギウスのぶっ飛んだセクハラ発言にびびった一希は彼の言葉を遮り即謝罪する。

頼むから横に真矢がいるの彼女を変な意味で刺激しないでくれ頼むから。

「何ですか急に!」

「帰ります。帰りますから、今はちょっと黙っててくれ頼むから」

話の途中に割って入られて、ゼルギウスは不機嫌な顔をする。

ちらっと、一希は真矢を見た。
サムは突然割って現れた魔力の強い淫魔の2人に唖然としているが横の妹の表情はというと、やばい。

真矢は、ゼルギウスとヴィンセントを見て目をキラキラと輝かせ、両手を頬に当ててうっとりとしている。
しかも、ゼルギウスよりもリーアムと対峙しているヴィンセントの背中に視線を集中している。

「ねえ、お兄ちゃん。あの人が、ヴィンセントさん?」

「そ、そうだけど・・・」

真矢は、リーアムと対峙する形で立っているヴィンセントを指差した。嬉々としてヴィンセントの背を差している。その表情がキラキラと輝き度が増していて、一希は表情を引き攣りながらある事を悟った。

一希は、妹を近くに同伴させた事による最悪の事態が発生した事を理解した。

「真矢っ、サムっ。先に行って速水さんと照史にこの事を知らせてくれ」

「あっ、わ、わかった」

一希に呼ばれて我に返ったサムは、ディーンの腕を肩に回し真矢に行こうと声をかける。しかし真矢はサムの言葉を無視して、ゼルギウスに聞いた。

「ねぇ、聞きたい事があるの」

長髪の白髪を持つ淫魔ゼルギウスに、真矢の全く動じない視線を受けて彼は眉を顰めた。

「何ですか?」

「お兄ちゃんは、受けですか?」

「?」

「っ!!」

真矢の問いに、ゼルギウスは意味が分からず多少困惑している。逆に一希は遂に来た!と全身を総毛立たせた。

というか、こんな状況で聞くな。

真矢はどうしても聞きたかったと言わんばかりにゼルギウスに捲し立てた。

「だっておかしいんだもん。お兄ちゃん男なのに完全に色気かかってるし、溜め息付いている回数は多いし何よりオッパイは私より大きいしまるで恋する乙女みたいじゃない。どうして私よりオッパイが大きいのよ男から女に性転換したらオッパイは大きいのって理不尽じゃない。後あの人の趣味なの?お兄ちゃんのあの首輪は何よりすごくエロいんだけどあの人との関係って一体どこまでいって」

「いいからお前はさっさと逃げろそして黙って家に帰れ」

妹の話を黙って聞きたくなかった一希は、彼女の話を途中で一刀両断した。しかし真矢は冗談じゃない!と憤慨しさらに話を続けた。

「誰が帰るもんですか!こんなリアルBLが近くで見れるなんて超絶好の機会じゃない。お兄ちゃんはあの黒い髪の人の番っていうなら絶対受けでしょ?人外人間のコンテンツて物凄く萌えるのに中々出回って来ないのよ。こんな貴重映像を間近で見れるなんてまたとないいい機会だわ。お兄ちゃん安心してヴィンセントさんの嫁に行って。そして徹底して攻められてるとこ画像でもいいから送ってね。できれば動画がいいんだけど人外てよく分からないからできないなら静止画だけで我慢するから」

「お前はさっさと家に帰れ後でマジで説教してやる意地でも帰ってやるからな」

強い魔力を持つ淫魔2人が目の前にいるのに、突如始まった兄妹の痴話喧嘩にその場にいた全員が唖然とした。しかし、ゼルギウスと、リーアムと対峙する形で立っていたヴィンセントはこれ幸いとばかりにニタリ顔をした。彼の何か企んでいる表情を見抜いたリーアムは、有坂兄妹の痴話喧嘩にクスクスと笑いながら言った。

「これはこれは・・・私はお邪魔だった様子。これは一度退散しましょう」

リーアムがヴィンセントの目の前で姿を消した。興奮して捲し立てるように話す真矢に事情を察した様子だ。
ヴィンセントはくるっと踵を返すと真っ先に一希に近づき彼を強い力で抱きしめた。

「あっ・・・」

急に抱きしめられて、彼の優しい香りに包まれて、どこか安心した気持ちになってしまう。彼は抱きしめているだけで、言葉を発しない。まるで一希の存在を確かめるようにぎゅっと、力強い。
一希は、自分を抱きしめるヴィンセントを見上げた。

「ヴィンセント?」

何も言葉を発しないヴィンセントにただ抱きしめられているだけの状態に、一希は彼の顔を覗きこむ。

「よくも私の番を拒否してくれたね。後でたっぷりとお仕置きしてあげる」

一希の耳元で、ヴィンセントは声を低くして言った。その眼は、一希に怒りの表情を見せていた。
ヴィンセントはちらっと真矢を見る。一希と自分が抱擁したところから熱い視線を感じていたが、自分と視線が合うとさらに表情を煌めかせている。

真矢は、一希に面差しが似ている。瞳の色は典型的な日本人の物だがそれ以外なら一希と変わりなかった。だが自分やゼルギウスに対する畏れが全く感じられない。彼女自身にもどこか一希と似た霊力の波動が感じられた。もしかしたすると彼女の中にも、ユーリィの血が流れているかもしれない。

「あ、あのっ」

視線が合った真矢は、勇気を出してヴィンセントに声をかけると、彼と一希に近づいた。

「貴方と、お兄ちゃんの関係はどこまで進んでるんですか?」

真矢の声で無理矢理現実に引き戻された一希は、ヴィンセントに言った。

「ヴィンセント。ちょっとだけ待ってくれ」

ヴィンセントから離れた一希は無言でゴツンと彼女の頭にゲンコツを与えた。

「いったーい!なんなのお兄ちゃん!今大事な事聞いてんだから!」

「お前はさっさと家に帰れって言っただろ!」

「何よ!家族として、私はお兄ちゃんをどう思ってるのか、一度ヴィンセントさんに確認しないとダメでしょう?」

「余計な事するな!いいからさっさと帰れ!」

「嫌よ!何としても聞いてやるわ!」

喧嘩して捲し立てる真矢にそういえばとヴィンセントは思い出した。

「私は一希を番にすると言ったが、家族には婚前挨拶はまだしていなかったな」

これにゼルギウスは確かにと言うと、ヴィンセントにさらに思い出したように言った。

「王、そういえば日本人は体裁を重要視する民族だった筈。我等の感覚で事を進めるのではなく、一希様のご家族にもきちんとご挨拶なされた方が宜しいかと」

「確かにそうだな。一希の家族には先に了承を得ていた方がこの子も諦めて私と番になってくれる筈」

「ええ、もちろんですとも」

「えっ、それじゃあこのままご挨拶に?」

真矢はいい事聞いたと言わんばかりの反応でヴィンセントとゼルギウスをキラキラとした目で見つめている。

何このカオスみたいな光景。

え、嘘?真矢を懐柔する気?それはやめて。

2人がなんだか盛り上がっている。隣で真矢は聞いていくうちにさらに悲鳴をあげている。一希は、この3人からとにかく離れたくて、ヴィンセントからスススと離れようとする。しかし気配を察したヴィンセントに腕の中に拘束され、身動きが取れなくなる。

ヴィンセントは、捲し立てる真矢をお嬢さんと呼ぶとニコリと紳士的に彼女に名乗った。

「初めまして、元気なお嬢さん。私は淫魔王ヴィンセント。君のお兄さんの一希とは、この度夫婦となる事となりました。まずは、ご挨拶が送れて申し訳なかった」

紳士的に振る舞うヴィンセントにさらに目をキラキラ煌めかせる真矢はニコニコとヴィンセントに挨拶した。

「こちらこそ、初めまして!私はお兄ちゃんの妹の有坂真矢といいます!あの、つかぬ事をお聞きしたいのですが、よろしいですか?」

「何だい?」

余りにも興奮する真矢にヴィンセントは若干引いた様子があるが、一応聞いてあげる姿勢に彼の真摯さが窺える。

「ヴィンセントさんは、攻めですか?」

「よく分からないな。聞いていると一希が受けで私が攻め?一体何の事だい?」

「実はですね、昨今の日本ではLGBTというもともと男女の恋が今は普通に同性婚もオーケーになったという事情があるんです。後、日本にはBLという男の人同士での恋愛模様を書いた漫画や小説が社会現象になるほど注目されてまして、受けとか攻めはBLから派生した言葉なんですよ」

得意顔でヴィンセントに説明する真矢に一希は真顔でつっこんでやりたくてしょうがなかった。

いやBLってそもそも意味違うから。

しかし真矢の説明で理解を得たのか、ヴィンセントとゼルギウスはなるほどと頷いた。

「何と!日本にはそんな概念があるとは知りませんでした。貴重なお話をありがとうございます、真矢さん。という事は毎日王とセックス三昧だった一希様が受け、求めていた王が攻めという事だったのですね!なんて美しいジャンル!真矢さんは公に認めてくださるご様子ですし、これは一希様との出会いから現在に至るまでをお話しておかないといけません」

「確かにいい話を聞いた。一希と私は互いに惹かれ合っていてね、セックスの相性も最高なんだ。互いに想い合っているのに、どうして一希は私につれない態度を取ってしまうんだろうか。日本人は本当に分からなくて困っていたんだ」

「えええ!?何ですって!?ごめんなさいヴィンセントさん妹の私からもきちんと伝えておきます。だからお兄ちゃんに愛想尽かさないでくださいね!こんな不束な兄ですみません」

わざとらしく困った表情を見せるヴィンセントと悩んでいるゼルギウスの姿に、真矢はぺこぺこと頭を下げる。
3人の息が合い過ぎる見え透いた芝居を見て、サムとディーンはヴィンセントに抱えながら絶望に打ちひしがれている一希に憐れみの気持ちを送るしかなかった。
こんなわざとらしい芝居を間近で見せられ、一希はとにかくため息をつくしかなかった。

あぁ、どこでどう突っ込んだらいいのか正直分からなくなってきた。

やっぱり真矢を早く家に帰すべきだった。いや、照史と真矢を交代させておくべきだったか。

サムはそういえばとディーンに言った。
速水と照史の合流が遅い。
2人は、まだエクソシストに対応しているのだろうか。
心配になったディーンは、速水のスマートフォンに電話をかける。しばらくコール音が鳴るが、出てくれる気配がない。
ディーンはスマホの通話機能を終了すると、デニムのポケットに突っ込んだ。

「おい、惚気の淫魔王」

サムに支えられながらディーンがヴィンセントを呼んだ。
ヴィンセント自身は彼に全く興味がないが、城で尋問にかけた速水がいない事に気づいた。

「そういえばあの男がいないね。怖気付いて逃げたのかい?」

「ちげーよ。それよか、アンタに頼みがある。一希をアンタんとこに一旦預ける事にする」

「えっ!?」

「嘘っ!?」

突然のディーンの提案にサムと真矢は驚愕した。

「俺達が一希を守ればいいが、何分あのムカつく金髪野郎はまたソイツを狙う筈だ。アイツには、俺等人間は絶対勝てねえ。そうだろ?」

ディーンは、先程自分が対峙したリーアムを見て自分では到底仕留められ無いという事を理解した。一度離れたとはいえヴィンセントが魔界に帰還すればその隙を狙って一希を殺害するかもしれない。エクソシスト達の動向が不明な今、一希に執着するこの美貌の淫魔王の庇護におく事で少なくとも一希の生命は確保されるとディーンは判断したのだ。

それをヴィンセントに伝えると、彼は目を細めてディーンを見据えた。

「建設的な意見だね。あの男より話が分かる人間で助かるよ。君の言う通り、奴には人間の武器は通用しない。君達人間は我等魔族にとってみれば無力な生き物でしか無い。奴は、我等魔族が決着を付ける。一希は私がいる限り、死ぬ事はない」

ヴィンセントと一希の身体から光が溢れ徐々に姿が消えた。残されたゼルギウスは、やれやれと少々呆れていた。

「さて、私も魔界へ戻らせて頂きますよ。それでは。真矢さん。貴方のお兄様はヴィンセント王の番として、大事に致しますのでご安心を」

「ゼルギウスさん」

「魔界に貴方をご招待できないのは残念ですが・・・この戦いが終わりましたら、もっと詳しくお話を聞かせてください。それでは」

ヴィンセントに引き続き、ゼルギウスも魔界へと帰還するため光を放ち消えていった。
残された3人は、消えた3人を見送るとディーンの一言で寺に戻って行った。
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