【R18】運命の番(つがい)〜リーマン退魔師は淫らに淫魔王の番に堕ちていく〜

藤崎 和

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調教6 明かされる真実

2 怒りと決意

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淫魔城の地下には冷気がこもっており、ヒンヤリする寒さがある。地下には様々な拷問器具が壁にかけられており、侵入者や暗殺者から情報を聞き出すために残酷なこれらをちらつかせて恐怖心を煽るのだという。
そこに、1人の女が両手を壁から伸びる鎖で拘束され、両膝を折る形で座らされている。視界は見えないよう布で覆われていて、ウェディングドレスのように純白のドレスは無惨に引き裂かれ、柔らかくきめ細かい肌は所々に傷が付いていて、寒さから全身鳥肌が立っている。あの美しく風に靡いていた癖のある紫色の髪は傷を付けられた時に飛沫した血を浴びてカピカピに固まっている。

「お、お許しくださいませ・・・我が王・・・」

女・クロウディーヌは目隠しをされながらも目の前で長く美しい脚を組んで肘を付いて座っている美丈夫の王・ヴィンセントに懇願する。

あの時、ヴィンセントに絞め殺されかけた速水を仲間や一希と共に人間界へ帰還させたのは彼女だった。速水と契約した彼女は、彼等が淫魔城に辿り着いていた事は知っていた。しかし、速水自身に命の危険が迫っているのを察知した彼女は、すぐに人間界へ帰還させた。
その後、憤怒の相を見せたヴィンセントに淫魔城へ連行され、拷問にかけられる事になってしまった。

自分の番である一希までも人間界へ帰還させた罪に関して問いただすと。

当初、ヴィンセントは速水にあれだけの憤怒を見せるつもりはなかった。なぜなら仲間を気にかけていた一希が彼に心が移らないか危惧していたから。
しかし、母ソフィア姫に関する話が出てきた為、ヴィンセントは激昂したのだ。彼女は自死ではなかったから。
彼の憤怒に驚いた一希が、咄嗟にスティレットナイフで彼の腕を刺した時、我に返った。

そして自分の目の前で人間界へ帰還する時、自分を睨みながら言った言葉に失態を恥じた。

『そんな顔した、お前の番なんか、なりたくない』

その一言で思わず我に返った時には、既に一希は自分の目の前から姿を消した後だった。
やってしまった失態だが、消えた一希達を見て異界渡りの案内人・クロウディーヌが絡んでいる事はすぐに分かった。恐らく速水という男と契約したのだろう。ヴィンセントはすぐに彼女を連行し、拷問にかける事にした。

「クロウディーヌ」

語気強く、彼女の名を呼ぶ。その強さで、ビクッと彼女は身を震わせた。

「私は君の異界渡りの案内人の立場上、人間から願望を受けたら断れない立場である事は承知している。だから君にはある程度特権を与え、自由にできる立場を保証してきたが、私の番を引き離した事実は許し難いな」

ヴィンセントの眼光が彼女を見据える。射られた彼女はブルブルと震わせ、恐怖のあまり涙を流した。

「ああ・・・お許しください。我が王」

ヴィンセントは彼女の懇願を聞いて、椅子から立ち上がり彼女に近づいた。彼女の顔をグッと掴むと、彼女の視界を封じている目隠しを取った。涙で顔がぐちゃぐちゃと汚れでしまった彼女と目を合わせながらヴィンセントは言った。

「許しを得たいなら、君が得たあの男の情報を渡してもらうよ」

クロウディーヌの顎を強く掴んだまま、ヴィンセントは彼女と強引なキスを交わす。

異界渡りの案内人は空間の狭間にやってきた人間の情報は、たとえ淫魔王のヴィンセントでも簡単に引き出す事はできない。案内人のクロウディーヌとやってきた人間の間で契約が交わされるからだ。案内人は契約に反して自分から空間の狭間にやって来た人間の情報を話す事は契約違反とされており、これに違反すれば契約上交わした人間の魂も得る事が出来なくなる上、自ら消滅の危険に晒される。
常に案内人は監視される立場であり、その見届け人があの巨大犬の地獄の猟犬である。契約違反が分かった時点で、あの巨大犬は真っ先に彼女を食らって消滅させるのだ。
しかし強引に情報を引き出されたらこの限りではなく、命は保証される。

クロウディーヌはヴィンセントからの強引なキスに始めは驚くも、彼から流れてくる強い魔力に目を閉じて恍惚の表情を見せた。淫魔王の魔力を口から受ける事で魔力が下位の淫魔も快感を得る事ができる。彼女の案内人の立場上話す事はできないが彼女の体液を直接取り込む事で情報を得る事ができる。

「ああ・・・、んぅ」

クロウディーヌは呼吸を確保するため、一度ヴィンセントから離れるが強引に頭を掴まれそのまま唇を重ねる。
自らの舌をヴィンセントの舌と唾液を絡ませていく。淫魔王の魔力に快感を感じるが、ヴィンセントは彼女から唇を離していく。名残り惜しくさらに求めようとするクロウディーヌだが、ヴィンセントは用はないとばかりに彼女から視線を外した。

「ああ、お待ち下さい、我が王・・・。せめて、もう少しだけ・・・」

クロウディーヌはうっとりとした表情を浮かべてヴィンセントを見つめる。しかし彼女から視線を外したヴィンセントが彼女へ再び視線を送る事はなかった。

「そんな・・・!我が王・・・!」

ヴィンセントは地下の扉を出る際、扉の前に立っていた中級淫魔に指示を出すと彼を誘惑するクロウディーヌを無視して退室した。

クロウディーヌは残された中級淫魔に腕を絡ませて懇願する。懇願する彼女は、同族からしてもどこか煽られる気配を醸し出している。あの美しく女神のように凛々しい上級のサキュバスが、淫魔王の体液に悶えて下位の自分を求めるなんて、何と背徳的な事か。

「お願い・・・!私を慰めて・・・!このままじゃ、淫魔なのに、イケない・・・!」

目の前で懇願する自分よりも魔力が強い上級淫魔にゴクリ、と中級淫魔は喉を鳴らした。
中級淫魔はクロウディームの鎖を取ると、布切れのように身体に纏わりつくドレスを引き裂いた。
たわわな胸と引き締まったウェスト、細かい傷はあるものの、白い柔らかい肌は神秘的で、拷問で負わされた小さな傷が気にならない極上の肌だ。
中級淫魔はクロウディーヌを床に押し倒した。地下の冷たい床に背中をぶつけ、戦慄く彼女の上気した頬は目の前の同族を求めて我慢できなかった。

「ああ・・・、お願い。私を慰めて・・・!」




※※※


王の間に戻ったヴィンセントは、待機していたゼルギウスに人間界向かう事を告げた。

「一希様が彼方に戻って早2日。2日とはいえ、今頃一希様は王の体液が欠乏され渇きの症状が現れて苦しまれていらっしゃるかもしれません。ああ・・・、早く助けて差し上げなければ!」

一人で悶えるゼルギウスを無視して、ヴィンセントはさらに伝える。

「一希が人間界へ帰還したのは奴も把握している筈だ。奴よりも早く一希を連れ戻さねばならん」

ヴィンセントの言葉に、ゼルギウスは恭しく跪く。

「全ては、我が王のために」

指示を受けたゼルギウスは、跪いたままその場から消えた。
ヴィンセントは、一希が刺した片腕を見るためスーツを捲った。

傷は完全に塞がっており跡も残っていない。淫魔王は魔力の高さに比例して自己治癒力も他の淫魔より高い。
しかしこの腕に傷を付けた本人に向けられたのは、憎しみの目と自分の番となる事を拒否する言葉。自分と同じサファイアブルーの瞳には、目の前で起こった事象をそのまま受け止めた事で発生した憎しみで濁っていた。純粋に自分を憎んでいるのだ。

連れ戻したところで一希が自分に向けるのは憎しみだけだろう。
だが、それも仕方ない。
ヴィンセントは思った。

奴は、人間界へ帰還した一希を自分への見せしめにするために殺害し、自分に絶望を味合わせ父のように餓死させる気だ。
不老長寿の淫魔は死ぬ事はない。しかし淫魔自身死を選択した時、淫魔は食事が摂れず餓死という形で死んでしまう。

ヴィンセントの中で、少しずつ衰弱して死んでいった父が回想される。父は母が奴に殺されて以降、嘆き続けた。母を殺した奴への復讐と母の遺体を取り戻すため、彼女が生まれ育った国を消滅するしかなかった。父が人間界へ降りた時には既に国民は奴に感化されており、自分達は彼等にとって敵以外の何物でもなかったのだ。

人間の国を消滅しなければならなかった父の悲しみは一層深くなり、母の遺体も取り戻せず悲しみと少しずつ訪れる死の苦しみに囚われながら自分が王に即位する事を伝えると死んでいった。

即位してすぐに、自分は亡き父と母の仇として奴を追い続けた。だが完全に人間に擬態した奴の妖気を探る事は、淫魔王の自分でもできなかった。一希と出会うまで奴を追い続けていたが、結局見つける事が出来ず、奴から現れるのを待ち続けるしかなかった。

「一希・・・」

自分の番になる事を拒否した青年は、自分を睨みながら光に包まれ人間界へ帰還した。

あの時自分が速水を殺していたら、一希に仇として認識されていたかもしれない。いや、もう認識されているだろう。

だが一希の命を守るためには速水から聞き出さなければならなかった。奴の動向がはっきりしない現状では、一希自身に危険が及ぶ事は予想できていたからだ。

ならば敵として、あの子と対峙するしかない。女々しい考えは要らない。
自分は淫魔王。
同族を守り、番も守る。
それが、番から嫌われる結果になろうとも。
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