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本編

8.セシル②現在、興味本位

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 遠目から初めて見かけた時は、特に印象に残らなかった。

 黒髪黒目で控えめな美しさの女を、周りの男達は、大昔の伝説に登場した、異世界からやってきたと言われている聖女のようだと密かに噂していた。聖女、と呼ばれる通り、回復魔法の腕前は超一流らしい。

 そしてその女が、ギルドに来てすぐ自分に話しかけてきた、シンと呼ばれる男の恋人だと知った。
 冒険者の男達は聖女に興味津々で、機会があれば話しかけたいのだが、どうやら恋人のシンに遠慮しているようだった。


 シンは21歳の若さでAランクになった実力を持ち、ギルドでも尊敬される存在だった。年齢もセシルが21、シンが24と比較的近く、同じAランクということで親近感を持ったらしい。
 シンの見た目は、赤い髪に明るい空色の瞳、太い眉は意志が強そうで、顔も比較的整っている。
 背はとりわけ高い方ではないが体格は良く、長剣と炎の攻撃魔法を得意としていた。性格は明るく気さくで、面倒見の良い性格でもあり誰からも好かれていた。
 セシルの方は、この表裏無いわかりやすい性格のシンが嫌いではなかった。


 そんなシンと接するうちに向こうから親友と認識され、ある日恋人を紹介された。それは周りから密かに聖女と呼ばれている、あのーーレイラと呼ばれる女だった。

 長く艶のある黒髪、黒曜石のような瞳。遠目では気付かなかったが、透き通るような白い肌に長い睫毛を持ち、この辺ではあまり見ないくらいの整った顔立ちをしていた。
 高貴で清楚な印象とは裏腹に、華奢な身体の胸と尻は肉感があり、それが禁欲的な色気を醸し出していた。さぞかし男達からは欲望の目を、そして女達からは嫉妬の目を向けられていることだろう。

 しかしながらセシルが一番感心したのは、その見た目では無い。
 セシルに向けるその視線に、媚を含んだものが一切無いことだった。それは初めてのことで、どこか心地の良いものだった。
 セシルはそんな思いは全く表には出さず、他人に対する態度と同じように、人の良さそうな笑顔で挨拶をした。

……セシルには分かっていた。
 シンは、レイラとセシルが互いに興味を抱いてしまわないか、それを確認するためにこうして目の前で引き合わせたのだ。
 レイラをセシルに紹介した時のシンの表情は、セシルが17歳でAランクになったと聞いた時と同じ、どこか焦りと緊張感のようなものを浮かべていた。その顔が、ずっと会っていない次兄のことを思い出させる。
 シンと次兄は、どこか似ている。表面では明るく頼りがいがあるように振る舞っているが、内面は劣等感の塊だ。周りには巧妙に隠せていても、セシルには分かってしまった。

 セシルとレイラ2人の様子から、どちらも互いに見惚れていなかったことを確認したに違いない。シンからは硬い笑顔が消え、どこか安心したようなものに変わった、それもそうだろう。
 レイラはどことなくセシルに怯えを感じているようだったし、セシルもただ媚の無い瞳が少し珍しいなと思っただけだ。

ーーところが、シン本人は無自覚なことに。ほんのわずかだが、セシルに対して……優越感の笑みを浮かべた。

 その笑顔は、セシルの頭の中に6年前のあの出来事を急速に呼び起こした。
 果たしてこの清純そうな見た目の女は、自分が誘いをかけたらどのような対応をするのだろう。
(どうせ、この女も兄嫁と同じはず)
 女を知ってから性への欲求は年々と冷め、興奮することは全くなかった。その行為自体、ここ何年かしてないことすら忘れていた。

 黒い嗤いがあとからあとから浮かびそうになるのを必死に耐えながら、シンとレイラの前では爽やかな笑顔で対応をする。
 こんな思いは、それこそ6年ぶりだった。あの時は小屋に連れ込んだ時点で冷めてしまった。今度は、どうなるだろう。

 想像するだけで、何か楽しいことが始まる予感がした。

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