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本編

6.逃げるなよ ***

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「ーーい、いやあぁっ!!」

 レイラの悲痛な叫び声が、薄暗い森の中に響き渡った。

 繋がった部分が、ズキズキと痛む。
 レイラの身体を貫くものは恐ろしいほどに太く長いせいか、まだまだ最奥へと行き届いていないらしく……。
 狭い入り口を強引に押し広げられて、みちみちと音を立てるようにしてゆっくりと進んでは、レイラをどこまでも苦しめていく。

(こんな太いの……無理)

 レイラの尻を掴むセシルの両手は指が食い込むまでに力強く、間違いなく痛みを感じるはずなのに……しかしそんなものとは比べ物にならないくらい、挿入の痛みの方が辛かった。

「くっ……」

 背後から吐息混じりの声が一つ、レイラの耳に届いた。
 その響きは……加害者のくせに、まるでセシルもレイラと同様痛みを感じているかのようで、無性に腹が立った。

 一刻も早くこんな汚らわしい繋がりを解きたかった。それでも、犯される恐怖に怯えた身体はただただ震えるだけで、全く言う事を聞いてはくれない。
 太い塊が奥に進むたびに、身も心も穢されてしまうようで……恋人以外の男性に凌辱されている現実を、改めて痛感させられてしまう。

「…………うぅ、……っ……」

 もちろん泣きたくなんかないが、悔しい事に涙がレイラの両頬を濡らし、口からは嗚咽が漏れ始める。
 シンもその前の初めての恋人も、レイラに触れる手は優しかった記憶があったのに……。

「うぅっ……」
 身体を引き裂かれそうな強い痛みがして、苦痛に震えた声が我慢できなかった。
 今まで誰にも侵された事の無い領域に、ようやく熱い楔の先端が到達した事を知る。
 それほどまでにセシルのものは、凶悪な大きさを持っていた。

「…………きつっ、やっと奥まで全部入った」

 セシルの声は気持ち上擦り、吐いた溜息は僅かに震えていた。
 痛みと屈辱に襲われるレイラとは違って、どうやらセシルは快感を覚えているようで……。
 今この場で魔法が使えて身体の自由が効くのなら、たとえその後警備隊に拘束されたとしても、レイラは迷わずセシルに向けて攻撃魔法を放っていたはずだ。

 そして、無理矢理犯されるだけでも信じ難いのに……。
 まさか性行為でこんな風に後ろから貫かれるなんて、レイラは夢にも思わなかった。
 自分の今取らされている体勢は、まるで獣のように思えて仕方がない。こんな恥ずかしい格好など、レイラは一度たりともした事なんか無かった。
 あまりの屈辱に、涙が止まらない。

 さっきレイラの身体からセシルの手が一旦離れた時に逃げる隙があったと、今更思い当たり悔やんだがーーしかしそれももう、遅い。

 セシルは、レイラの中の最奥までようやく埋め込んだものを、じっくりと時間をかけて今度は引き抜いて行く。
 2人の身体は今、セシルのものの先端で僅かに繋がっているだけだった。セシルは何故か、そのまま腰の動きを止めている。

 絶望的なこの行為が今すぐ終わる訳が無いと、経験の浅いレイラでさえも、もちろん分かっていた。
 それでも身体を捩って無理矢理引き抜こうとするが……セシルに腰を両手で強く固定されているので不可能だった。

「ーー逃げるなよ」

 耳元でセシルに低い声で囁かれた途端、レイラの背筋にゾクっと震えが走った。
 同時にセシルは、まるで逃げようとした罰を与えるかのように、そそり勃ったものでレイラの中を再び一気に貫いた。

「ーーっ!!」
 驚きと痛みで思い切り背中が仰け反ってしまい、目の前の大樹を強く押すようにして身体を支えた。
 それでもレイラは歯を食いしばって、出そうになる悲鳴を何とか我慢した。

 セシルは腰の動きを一旦止めて、レイラの滑らかな尻を、優しく丁重な手つきで撫で回している。いくら優しい動きとは言え、レイラにとっては恐怖にしか感じない。
……セシルの視線の行き先は今、きっとそこに集中しているのだろう。
 日が間も無く沈む前のこの薄暗い森の中では、剥き出しにされたレイラの肌や互いの繋がる部分が、セシルの目には鮮明に映っていないはずだと信じたかった。
 そう思い込まないと、自分の中の何かが壊れてしまいそうで怖かった。

 レイラにとって苦痛な行為が、再開されてしまう……。

 セシルは自分のものを抜けるギリギリまで腰を引いて、その後ゆっくりと確実にレイラの身体の最奥まで打ち付けて来た。
 その動きは、レイラの狭い中をセシルの太い楔でじっくりとほぐすかのように、実に緩慢なものだった。
 その様子からは、焦りは全く感じられない。レイラがセシルの魔の手から逃げ出すのは不可能だと、きっと確信しているのだろう。
 不愉快で堪らないが……残念な事に、それは事実でしか無かった。

 太くて長い塊の往復がじわじわと繰り返される度に鈍い痛みが走って、思わず苦痛に歪んだ声が出そうになるのを必死で耐える。
 レイラを犯しているこの男に、どんな反応でも絶対に悟られたくなんか無かった。

 今までのほんの僅かな経験から、男性が達すればこの行為は終わるという事は、その手の知識に非常に疎いレイラにも何となく分かってはいた。
 力尽くで逃げ出すのは不可能だと、悔しい事にさっき何度も思い知らされた。
 森林歩道を通りがかった誰かが見つけて助けてくれるか、セシルが満足さえすれば、その時解放されるはずだ。
 逃げ出すのが不可能だと悟った今は、非常に苦痛ではあるが、その時までとにかく耐えるしかない……。

 せめて何か違う事を考えてでも気を紛らわしたかったが……考えようとする度に、熱い昂りが身体の奥深いところまで打ち付けられてしまい、その存在を忘れさせてはくれなかった。
「っ、……くぅっ」
 思わず苦し気に、呻き声が出てしまう。

 何度もしつこく繰り返されるせいで、レイラにとっては不本意な事に、互いの身体の繋がる部分がだんだんとセシルの大きさに馴染まされて行く。
 セシルの腰の動きは、狭い中を無理矢理押し広げて進むようなぎこちなさは無くなり、気のせいか……レイラを貫く凶悪な塊の動きが、初めて入り込んで来た時よりも円滑になっている感覚がした。

(痛い方が、まだマシだった……)

 今は、痛みは何処かに消えて……変わりに。
 認めたくない熱が自分の中に芽生え始めるのを、レイラは嫌でも自覚してしまった。

「…………んっ」

 熱のこもった吐息が口から漏れた途端、レイラは大きく目を見開いて、慌てて片手で口を覆い隠した。
 セシルに聞かれていない事を願うが、無情にも……それは叶わなかった。

「もしかしてレイラさん、感じてるの?」

 背後から侮蔑の含まれたわざとらしい質問が聞こえて来て、こめかみに冷汗がつっと流れる。
 レイラは慌てて頭を振って否定した。

「へぇ、まだ感じてないんだ。ならこれでも我慢できる?」

 そんな挑戦的な台詞を吐き捨てた後。
 セシルはレイラの細い腰を両手で強く掴んで、今までは様子を見るようにゆっくりだった腰の動きの速さを、一気に加速させた。

「ーーっ!!」

 思わず声が出そうになり……慌てて口を再び手で塞ぎ直して何とか耐える。
 貫かれる角度が、突き上げと共に徐々に変わって行く。根元まで挿入をされて奥をぐりっとかき回される度、肉襞が小刻みにヒクヒクと痙攣し出した。

「これが気持ちいいんだ?わかりやすい身体だなぁ」

 実に機嫌の良さそうな声。
 自分の身体の反応がセシルを悦ばせてしまったのが、レイラは悔しくて堪らなかった。

『ーー気持ち良くなんか無い!』
 そう強く否定したいのに……。
 言葉を発しようとすると、変な声を出してしまいそうで辛かった。

「もっと良い場所あるかな?」

 その声はまるで、楽しい遊び場を探す子供のようだった。
 純粋な無邪気さが余計に恐ろしくて、悪寒で全身が身震いする。

 セシルは穿つ角度をじわじわと変えて、レイラの一番感じる場所を探り当てようとしているようだった。

「んっ、……うぅ……」 

 口を押さえる手の力が抜けてきて、だんだんと声が漏れ始める。
 そしてセシルに、ある部分を深く突き上げられると……。

ーー尋常では無い快感の波が一気に寄せられて、レイラの頭の中に白い火花が散った。

「ーーあはぁっ!」

 自分の声とは到底思えない甘い喘ぎ声が、レイラにも聞こえてしまった。
(嫌っ!こんな、はしたない声……)
 自分を戒める為、レイラは強く唇を噛み締める。

 しかし。強い快感と共に、熱い愛液がどっと溢れ出したのがレイラにも良く分かった。身体が繋がっているセシルにも、間違いなくそれは気付かれてしまっただろう……ひどい失態だ。
 全身が小刻みに震え、目には涙が滲む。でもそれは、失態に対する屈辱だけでは無い事も分かり切っていた。
 この箇所を激しく突かれると、強い快感を得られるのだと、セシルに嫌でも自覚させられてしまった。

 レイラが高い嬌声を上げたと同時に、中を貫くセシルのものが大きくビクンと脈打って、ますます太さと硬さを増してしまったような気がした。
 こんな大きなものでその場所を延々と蹂躙され続けたら、一体自分はどうなってしまうのか?レイラは想像するだけでも身震いがしてしまう。

 こんな強い快感は、もちろん初めてだった。それどころか、快感を自覚して無意識に嬌声を上げる事さえも……。
 レイラのこれまでの人生が、セシルとのたった一度の不純な行為で上書きされてしまいそうでーー怖い。

「……ここか」

 セシルは、喜びを隠しきれない声でそう言い放つと……。
 同じ角度を保ったまま、自らの猛り勃ったものを勿体ぶるかのようにゆっくりと抜いては、一気に根元まで挿して奥深く打ち付ける事を繰り返し始めた。
 緩急のついたその動きが、レイラの背筋に甘い痺れを走らせる。

「や、やめて!ーーいやあぁっ!!」

 静止の悲鳴は完全に無視して、セシルがしつこく激しい挿入を繰り返すと……レイラの背中が弓形に大きく仰け反って震え出した。

 絶叫を上げてしまった口を、レイラは片手で強く押さえて塞いだ。
 前方の大樹にもう片手を突いて自分の身体を何とか支えているが、小刻みにぶるぶると震えていた。
 自分の嬌声が止んだ途端……今度は。

 セシルの腰が動く度に、パン、パンと音を立ててレイラの尻に当たる音が嫌でも耳に届いて来た。そして同時に、繋がる部分からは如何わしい水音も聞こえる。
 無理矢理犯されているはずなのに溢れ出ては止まらない自分の愛液が、まるでセシルの挿入の手助けをして、更なる快感を催促しているかのように思えてしまう。
 激しい羞恥心で、レイラの顔は真っ赤に染まっていた。

 自分の口を押さえる指の隙間からは、くっ……と呻き声が漏れてしまうが、それが苦痛からでは無く、違う感情から湧き出る熱い吐息が含まれているとレイラ自身でも気付いてしまった。

 いつの間にか、レイラは固く目を閉じていたようで……。
 セシルに中を激しく突き上げられる度、目蓋の裏側には、白い火花が散る。これが快感だとは思いたくなんか無かった。
 無意識に繋がる部分に意識を集中させて、この行為の快感を存分に味わっているような気がしてしまって、屈辱を覚えて目を開く。

 周囲の森林には、人影は一切見られない。
 犯された当初は誰かに見つけて貰って、一刻も早く助けて欲しいと思ったが、今はこんな恥ずかしい姿を誰にも見られたく無いとレイラは強く思った。
 ただ願う事は……。

(もうーー早く終わって!!)

「レイラさん、もしかしてそろそろイきそう?」

 不意にセシルに声をかけられて、ビクッと身体が大きく震えてしまった。
 回らない思考の中、行くって何処に……と考える。
 そして過去の行為で、初めての恋人のエディが達する時に、確かイくと言っていた事をふと思い出した。

「いっ……イくわけない……っ」

 精一杯強がるが、悲しい事に……これ以上嬌声とも言える高い声が出るのを抑える自信が、今のレイラには全く無かった。
 そして数少ない行為の経験から、絶頂に達するのはてっきり男性だけなのかとばかり思っていた。
 よりによって自分が、恋人どころか、恋人の親友に無理矢理犯されてそんな状態に陥ってしまいそうになるなんて……。

(イきたくないーー怖い!!)

 誰にも見せた事の無い自分の痴態を、この男にだけは絶対に曝け出したくなかった。
 恋人のシンでは無い男に無理矢理犯されているのにも関わらず、快感で喘ぐどころか、絶頂に達するレイラの痴態は、さぞかしセシルを悦ばせてしまうだろう。

 セシルの動きはとどまる事を知らず、執拗に激しく腰を打ち付けては、レイラの身も心も蹂躙し続ける。

 熱い塊が中を往復する度に……ズブッ、ズブッ、と鈍く淫らな水音が響いて、レイラの愛液がじわりと溢れ出ては震える内腿に流れていく。
 セシルは、依然として固さを保ったままの太い塊で再奥への突き上げを延々と繰り返し、レイラの快感をどこまでも引き出して行く。その動きは、的確と言って良いものだった。
 そんな中でも、声を出すのだけは必死の思いで耐えていたのに、我慢は限界を迎えようで……。

「あぁっ、んあっ……!」

ーーとうとうレイラの口から、喘ぎ声が漏れてしまった。

 鼻にかかった嬌声は、まるでセシルに媚びているみたいで、自分で自分が嫌になる。
 こんないやらしい声をまさか自分が出すなんて思いもせず、そして止める手立ても無く……激しい屈辱感がレイラを苦しめる。

「浮気行為に感じすぎ。もしかして、実はシンに隠れて男と遊びまくってるのかな?」

 その声は、軽蔑と愉快さを混ぜ合わせて上擦っていた。
 レイラを罵ることで、セシルも興奮を覚えているようだった。
 それが悔しいはずなのに、不思議とセシルの声は魅惑的に響いてレイラに更なる快感をもたらしてくるから恐ろしい。

「……してないっ、浮気なんかっ、あぁっ」

 浮気という単語は……レイラの罪悪感と過去のトラウマを、強く刺激した。
ーーこの行為は、浮気ではない。
 なぜなら、セシルとレイラの間に合意なんて無かったはずだから。

「恋人以外にヤられて感じて声出てるよね。浮気だろ?清純そうな顔していやらしいんだね、レイラさんて」
「……あぅっ、あっ……!」

 自分を犯す加害者の侮辱の言葉に怒るどころか……心臓がドクンと高鳴って、そんな自分に驚いてしまい何も言い返せなかった。
 刺激によって溶けそうなほどに熱くなった自分の肉襞は、意思とは反してセシルの太い塊をキュッ、キュッ、と何度もキツく締め付けてしまう。

(ーー嫌っ!!何で私、こんな反応をするの!?)

 今まで経験した事の無かった快楽を強制的に与えられ、レイラはだんだんと思考能力が奪われて行く。
 頭の中に散る火花の感覚が短くなり、足に力が入らなくなってきた。崩れ落ちるのを防ぐため両手で大樹に縋り付くようにして身体を支えているが、一体いつまでもつのか分からない。
 自分の知らなかった何かが限界に近付いて来たようで……最奥をセシルに同じ角度で激しく突かれる度に、身体が大きく震え始める。

「浮気行為でイくなんて、シンに言いつけてやろうかな」
「……や、やめ……あぁんっ」

 レイラの肉襞がセシルの太いものに絡み付いて、自分から更なる快感を貪欲に求めるかのように……ヒクッ、ヒクッ、と小刻みに強く収縮を始めた。
 互いの限界を悟ってか、セシルは侮辱の言葉を畳み掛けてきた。

「なんなら直接見てもらおうか、レイラさんがイくところ」
「だめえっ、あ、ーーあぁっ!!」

 頭の火花が激しく散って、頭の中が一瞬にして真っ白になる。
 全身が、言い訳のしようが無い激しい快感で満たされて、自分が行為で初めて快感を得ただけでなく……。

ーーセシルに犯されて、絶頂にまで達してしまった事をレイラは今、自覚した。

 途端に身体の力が抜けて、大樹に突いていたレイラの両腕が、ずるずると滑り落ちる。
 両手の指先と長い黒髪の毛先が土の地面に触れているが、腰をセシルに力強く抱きかかえられているため、崩れ落ちる事は無かった。
 涙は止め処なく零れ落ち、唇を伝って唾液が一筋糸を引いて地面に流れたが、それを拭う気力すら今は無い。

 セシルは、絶頂の名残で未だ痙攣をやめないレイラの中を、激しくしつこく何度も犯し続けて……やがて。

「うっ……」
 低く呻いたと同時に身体を軽く震わせて、自分のものをレイラの中から瞬時に抜き去り、地面に熱い残滓を放った。 
 自分の腰を支えていた手が離れ、レイラはそのまま地面にゆっくりと倒れ込んだ。

 急に静まり返った辺りには、2人の荒い息遣いのみが聞こえ、行為の終わりを告げていた。

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