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番外編 邂逅
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籠から見る世界は広かった。
母上が視野が狭いと言うのは本当の事で、思い込みが激しいと言うのも自覚していた。
もっと柔軟でなければ学者は務まらない。
この姿になって早くも十ヶ月が経とうとしていた。
「なあ、チビ、私はひどい事を言った。
お前達の絆こそ、血よりも濃いものだと初めて知ったのだ。
すまなかった。
チビ、いや、リュシアン、私の甥っ子だ」
「う、やー」
嫌と言われた気がした。
この数カ月、事あるごとに謝罪をしたが、この可愛らしい甥っ子からは許された試しは無かった。
「元に戻してほしいとは言わないが、叔父として愛しても良いだろうか?」
私の籠を横に置いて座る甥っ子に、話しかけるが理解してもらえず、何度となく籠を振り回されオモチャにされていた。
「こら、リュシアン、籠を出しちゃダメでしょ?」
「あう、かあたま!
だっこ!」
「リュシアンたら、甘えん坊だねぇ」
金色の魔法使いのエルモアはとても美しく慈愛に満ちた、母として妻としても素晴らしい人だと言うことが分かったのは、この姿になってすぐだった。
「私が間違っていた。
全てが思い込みだけだった」
この狭い籠の中みたいに、私の見る世界も考え方も、そして生き方もつまらない人間だと、情けない事にこんな歳になるまで気付けなかった。
「兄上、リュシアンが怒った理由はそれだけじゃ無いと思いますよ」
遊んでるリュシアンを抱き上げたシアンから、ラグランジュが抱っこを変わると、まだ他にあると言った。
「それは!? いや、私が自分で気づかねばならぬ事だな」
この籠の中は私の気づきの場でもあった。
無力なネズミの姿で見上げる彼らの生活は、たくさんの笑いとたくさんの会話、そして相手を思いやる事の繰り返しで出来ていた。
私はそんな当たり前のことに今更気づかされていた。
「ぶー、あう、とーたま、とーたま、ねずみしゃんね、ごめんちゃいって」
「シュリアンはどうしたい?
叔父さんがごめんなさいってしたら」
「んーとねー、かあたまにごめんちゃいってしたら、いいよー
リューちゃんね、かあたまがわるくいわえうの、や、なの」
「だって、シアン。
リュシアンは母様に兄上がちゃんと謝れば、許すみたいだよ?」
「とーたま、めってして、めって」
三人で笑いながら私を許すには金色の魔法使いに謝ったら良いと言うが、私は改めて謝っても許されない言葉を出したのだと、この時になって本当の意味で知った。
甥っ子は赤ん坊の時に既に理解していたんだ。
自分がいる事で悪く言われてしまう母の事を。
「リュシアン、エルモア卿、どうか私を許さないでくれ。
お前たち家族に言ってはいけない事を口に出した。
ラグランジュ、どうか私をこのままこの家でペットとして飼ってもらえないだろうか?」
私はネズミのままの方がこの家族と一緒にいられるんだと思うと、一生このままで構わないと思えるまでになっていた。
「え?!」
「ちょっと、まって、兄上。
どうしちゃったの?
飼ってくれだなんて」
「私は第三王子だ。
特に何か責任もなく、学者として狭い視野の中で生きてきたが、ここでお前たちの家族の輪に入れて貰える方が幸せだと思うようになっただけだ」
甥っ子は私を籠から出すと、金色の頭の上に乗せて、いっしょね、と笑ってくれた。
母上が視野が狭いと言うのは本当の事で、思い込みが激しいと言うのも自覚していた。
もっと柔軟でなければ学者は務まらない。
この姿になって早くも十ヶ月が経とうとしていた。
「なあ、チビ、私はひどい事を言った。
お前達の絆こそ、血よりも濃いものだと初めて知ったのだ。
すまなかった。
チビ、いや、リュシアン、私の甥っ子だ」
「う、やー」
嫌と言われた気がした。
この数カ月、事あるごとに謝罪をしたが、この可愛らしい甥っ子からは許された試しは無かった。
「元に戻してほしいとは言わないが、叔父として愛しても良いだろうか?」
私の籠を横に置いて座る甥っ子に、話しかけるが理解してもらえず、何度となく籠を振り回されオモチャにされていた。
「こら、リュシアン、籠を出しちゃダメでしょ?」
「あう、かあたま!
だっこ!」
「リュシアンたら、甘えん坊だねぇ」
金色の魔法使いのエルモアはとても美しく慈愛に満ちた、母として妻としても素晴らしい人だと言うことが分かったのは、この姿になってすぐだった。
「私が間違っていた。
全てが思い込みだけだった」
この狭い籠の中みたいに、私の見る世界も考え方も、そして生き方もつまらない人間だと、情けない事にこんな歳になるまで気付けなかった。
「兄上、リュシアンが怒った理由はそれだけじゃ無いと思いますよ」
遊んでるリュシアンを抱き上げたシアンから、ラグランジュが抱っこを変わると、まだ他にあると言った。
「それは!? いや、私が自分で気づかねばならぬ事だな」
この籠の中は私の気づきの場でもあった。
無力なネズミの姿で見上げる彼らの生活は、たくさんの笑いとたくさんの会話、そして相手を思いやる事の繰り返しで出来ていた。
私はそんな当たり前のことに今更気づかされていた。
「ぶー、あう、とーたま、とーたま、ねずみしゃんね、ごめんちゃいって」
「シュリアンはどうしたい?
叔父さんがごめんなさいってしたら」
「んーとねー、かあたまにごめんちゃいってしたら、いいよー
リューちゃんね、かあたまがわるくいわえうの、や、なの」
「だって、シアン。
リュシアンは母様に兄上がちゃんと謝れば、許すみたいだよ?」
「とーたま、めってして、めって」
三人で笑いながら私を許すには金色の魔法使いに謝ったら良いと言うが、私は改めて謝っても許されない言葉を出したのだと、この時になって本当の意味で知った。
甥っ子は赤ん坊の時に既に理解していたんだ。
自分がいる事で悪く言われてしまう母の事を。
「リュシアン、エルモア卿、どうか私を許さないでくれ。
お前たち家族に言ってはいけない事を口に出した。
ラグランジュ、どうか私をこのままこの家でペットとして飼ってもらえないだろうか?」
私はネズミのままの方がこの家族と一緒にいられるんだと思うと、一生このままで構わないと思えるまでになっていた。
「え?!」
「ちょっと、まって、兄上。
どうしちゃったの?
飼ってくれだなんて」
「私は第三王子だ。
特に何か責任もなく、学者として狭い視野の中で生きてきたが、ここでお前たちの家族の輪に入れて貰える方が幸せだと思うようになっただけだ」
甥っ子は私を籠から出すと、金色の頭の上に乗せて、いっしょね、と笑ってくれた。
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