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11 時差
しおりを挟む切れた通話を、番号を履歴で確認した。
蓮見さんの番号とか登録してあったら、覚えてすらないし。
デジタルのデメリットだ。
これ、蓮見さんの番号なんだよな?
顕彰さんのだったら、どうしよう。
浮かれてる。
世界に自分一人でいいとか、贖罪だとか大義名分つけて悲劇のヒロインばりに、日本を出たのに、自分でやらかした事に怯えて縋りついちゃってる。
嫌なヤツだ。
そして、日本から来るならいつだろう、とか検索しちゃってる自分がいた。
何回も鳴らした。
俺の携帯が登録されていたら、出てもらえないかもしれなかったから、顕彰さんの携帯でかけた。
鳴らしっぱなしにして、呼び出し音が鳴り続ける限り、鳴らし続けた。
『もしもし?』
「っ!」
不審そうなニーナの声が聞こえた。
『あの』
「ニーナ!!!
蓮見だ!俺、蓮見だよ!」
勢い混んでしまった。
『は、すみさん、
なんで?』
「ニーナを探した。
俺達はニーナの事をちゃんと知らなかった。
謝りたいんだ。」
電話をスピーカーにして、顕彰さんもしゃべる。
「ニーナ、今どこだ?
お願いだから、どこにいるか教えてくれ
会いたい、ニーナ、会いたいんだ!」
顕彰さんが優しく、根気強くニーナに聞き出そうとしていた。
俺だと多分、間違いなく焦ってやらかしてしまうから。
『顕彰さん、僕、僕は』
「ニーナ、聞いた。
お前と新庄の事を聞いたんだ。
すまなかった、何も知らないのに」
『ちが、違うんです
僕が弱かったから』
弱いと言うけど、それだけの事をされてどんな形であれ、立ち上がってるニーナを誰も責めたりできない。
「弱くていいんだ、間違ってなんか無い」
『ありがとうございます。
少しだけ救われた気がします。』
ニーナの声が震えて、鼻声なのはきっと泣いてるからだ。
本当の泣き顔を見たことがない。
どこか本当じゃないって思う様な、悪く言えば嘘くさい涙なら仕事場で見た事がある。
でも、今のニーナは本当の涙を流してるって思えた。
わがままっぽく、傍若無人に見える様な態度でも相手を気遣っての事だったり、優しさから来ることを今なら理解できた。
もっと話をと思っていたら、電話を切ろうとする気配を察して、急いで目的の居場所を聞いた。
「待て!まて!!
ニーナ、今どこ!?」
『あ、N国で』
思わず出た感じの国名に、やった!と俺達はガッツポーズを取った。
「N国だな!!
いまから、行く!
そっから動くなよ!!」
『え、ちょっと!』
有無を言わせないうちに電話を切って、財布にパスポート、それに携帯の充電器を握って空港へ向かった。
それからの俺たちの行動は早かったと思う。
移動中に事務所へ連絡して、最短で行ける便を手配してもらって、必要な物は現地調達にした。
最短の直行便がラッキーな事に夜にあった。
ただ、急がないとチェックインに間に合わない。
タクシーを途中で降りて電車で移動した。
国際空港の広さにぐったりしながら、走りに走ってギリギリ、いや、ほんの少しだけ余裕を持って乗れた。
顕彰さんが海外での仕事がメインだった事、こんなに良かったと思う日が来るとは思いもしなかった、と喘ぐ呼吸を整えながら席についた。
ビジネスクラスで、人なんか殆ど乗ってない。
「蓮見、ニーナが泣いていた」
「そうですね、ニーナは泣いた事なんか一度もなかった。」
それまでは、ワガママが悪いとか、自業自得だと思える様な理不尽な事があっても、泣いたり怒ったりはしなかった。
あまりニコニコ笑う様な仕事は無かったから、表情筋があるのかどうか疑わしかったし、気にもしていなかった。
「あいつ、泣けたんだな」
顕彰さんが言った言葉が刺さった。
「俺は、マネージャーとしても、人としても失格だ」
「あの時はそれしか出来なかったんだ。
最低でもなんでもない。
ただ、これから同じことをしたら、お互いに最低だな」
深く座って少しだけリクライニングを倒した顕彰さんが、お腹の辺りで腕を組んで、少しでも寝ようとしていた。
「蓮見、寝とけ
時差的には4時間程度だが
後から来ることがある
それに11時間も乗ってると寝るのが一番だ。」
「それはそうなんですけど
ニーナのことを考えると…」
「ニーナがもしかして困ったことになっていたら
体力が無いともたないぞ」
機内で、ワインを寝酒にもらって寝ることにした。
ガラガラな機内で、一列を使って寝る俺と違って、顕彰さんはリクライニングだけで寝ていた。
さすが、海外で活動していただけある、と感心してしまった。
あと11時間でニーナと同じ国に着くと思うと、眠れない気がしたがいつのまにか眠りに落ちていた。
N国の飛行場が一つとは限らないのに、なぜか会えるって確信していた。
早くて、明日?になるんだろうか。
本当に二人が来たら僕はどうするんだろうか。
あの電話が来てから、特に連絡もないし海外に来るわけがないとか、グダグダと考えては浅い眠りに落ちてまた眼を覚ます。
変な眠りで怠くて仕方なかった。
同じ番号から電話が来たのは、翌日の昼前だった。
それまでの僕は、あれから電話に気づけなかったらと思うと、ちゃんと鳴るようにして、もしかして、とか、思いながら到着する空港へと足を運んでしまっていた。
こんな期待をして、気にしないようなフリをして、それでもずっと手に持って歩いていた。
今日来なくても、明日、また来て、その次の日にまた来ればいいんだって自分に言い聞かせて空港で時間を過ごしていた。
もしかしたらすれ違いになってしまうかもしれないとか、そんな事すら思いつかない程に。
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