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5 踊りが始まった
しおりを挟む家の中の事はマネがやって、仕事のことは、顕彰さんが仕切ってくれた。
顕彰さんはやっぱり有名な人で、そんな人がマネをするニーナが凄いとか、なんだか方向性がおかしくなっていた。
そして、僕の計画とは裏腹に仕事が増えて行った。
「顕彰さん、今日もありがとうございました。
家に寄ってご飯食べて行きませんか?
蓮見マネが待ってるので」
仕事の後、ほぼ毎回顕彰さんと三人で食事をする様になった。
僕を待って食事をするマネに申し訳ないのと、やはりまだ誰かと食べるのが苦手だから、他にいれば僕があまり食べなくても誤魔化せるからだった。
「あら、嬉しい」
「もう、これからはあえて誘うのも変なので、これルーティンにして下さい。」
車を運転しながら相変わらずのママさん言葉で返してくる。
「ハスミンとはどう?」
「申し訳ないくらい、家の管理をしてくれています。」
「襲われちゃったりしてない?」
「あの事がショックだったのか、そんな雰囲気にもならないし、僕としては全く興味もないですよ」
「勿体ない
恋愛は自分を高めるためにもした方がいいよ
まるでお爺さんみたいな生活して」
「性欲全くないんですよ
EDですしね
だから、ゴシップにもならないですよ」
「EDって、嘘でしょ?」
「本当です。
だから隠遁生活が苦じゃないんです」
そんな話をしながら、家に着くと顕彰さんがごめんなさい、と謝った。
「もう、7年だから
慣れたものですよ」
家ではマネが待ち構えていて、昼間事務所から弁護士を交えて話しをする日が決まったと連絡があったそうだ。
僕のスマホは警察に証拠として提出しているから使えないし、緊急の連絡は顕彰さんが受けてくれていた。
「明日、顧問弁護士と向こうの弁護士を交えて話し合いをする事になった。」
「新庄ちゃんとこ、お父さんがお医者さんでお兄さんが弁護士じゃなかった?」
「身内の弁護って出来るんですよね」
シンジョウ弟って思ってたけど、もし、新庄紘一の弟ならあいつは今弁護士になってるのか。
「じゃぁ、そのお兄さんが弁護で出てくるのが濃厚だな。
ニーナ、本当にすまなかった。
あんなクソガキに…」
「プライベートな事まで普通は気にしませんよ。
たまたま、相手が常識知らずだっただけですよ。
それに、顕彰さんって素敵なマネージャーを付けてくださるきっかけになったじゃないですか」
スマホの中身を抜き取らせるようなサイトに踏みまくったから、実質アップはしてなくても可能性が無いわけじゃないしね。
明日の話し合いが少しだけ楽しみだった。
「ニーナ、今日はメイク無しなんだ
でもそっちの方がずっと綺麗だよ。
できれば、ニーナはそれで活動して欲しいくらいだ」
マネは事務所へ移動する車の中でそう告げた。
「どうかな、それは」
「顕彰さん?
どういう意味ですか
ニーナはこんなに綺麗なのに」
運転は顕彰さんがしてくれていた。
「蓮見、お前ニーナがメイクする理由聞いてるよな?
嫌いな理由を克服しない限り、難しいって事だ」
いつものアタリの柔らかいオネェ言葉じゃなく、オスの言葉でマネと僕に言った。
僕もそう思う。
だってメイクをしない自分なんて、キモチワルイとしか思えない。
だから今日は、敢えてメイクをしなかった。
気づかなかったら困るから。
「ニーナ、もし困ったことがあれば、私を呼びなさい。
必ず、側にいるから」
顕彰さんは、僕の中にあるどす黒い何かを察知してるのかもしれない。
「助けてって叫びますよ」
自嘲気味に笑って見せた。
ルームミラー越しに見つめられて、僕は少しだけ身の置き所が無いような居心地の悪い思いをした。
事務所に到着すると、約束の時間より大分早いのに、シンジョウ弟側の弁護士が来ているとのことだった。
事務所の偉い人に促されて会議室へ入ると、向こうはズラッと加害者のシンジョウ弟を含めて六人が待ち構えていた。
法曹界なんて先にある程度の話し合いをして、この席にいるんだろうし、どういう落としどころで来るのか。
シンジョウ弟、保釈されたのか。
「この度は愚息が大変申し訳ありませんでした。」
シンジョウの父親らしき人物が、開口一番に謝罪した。
「まずは、話し合いですから、座ってください」
こちら側の弁護士が主導権を持って言った。
総勢六人の内訳は、謝罪した父親、弟、そして兄を含めた弁護士団四人だった。
それぞれの弁護士から名刺をもらって話し合いが進められた。
その中で、当然、兄である新庄紘一は、僕をちらっと見ては苦虫を噛む様な表情をした。
僕と同じ年のはずの彼は、年齢よりずいぶんと上に見えるほど、憔悴していて当人の弟は顔色を悪くしていた。
話し合いを進める中で、父親はある程度の金額で示談を願っていた。
いくら開業医とはいえ、田舎の開業医だ。
限度もあるだろうし、払う金額は少しでも少ない方が良いに決まってる。
接近禁止命令を出してもらう事や、提示された金額では納得できないことなど、今回は持ち帰る事で終わらせた。
都合のいい話を進めるためのハッタリにも似た弁護士の人数だった。
よく、弁護士事務所から来る書状に連名で何人もの弁護士か押印してあったりする、アレだ。
こっちはこれだけのバックがあるんだって言う威圧。
ただ今回は、お馬鹿な弟のおかげで、証拠はたっぷりあるし、こっちは有名人だしね。
殺すとか、いかにも襲うぞって言う脅しを直接入れちゃダメだよ。
彼らが出て行って、これからの仕事の打ち合わせを顕彰さんを含めてしたあと、僕だけが用事があるからと別行動をした。
多分、あいつが接触してくると思ったから。
大体、察していたけど面白いように想像した通りの行動を起こしてくれた。
二人と別れた途端に、あいつが声をかけて来た。
「久しぶり
さっきはビックリしたよ」
「そう?
僕は全然だったけど
弟さん?
彼が変な事しなければ、君と再会することも無かったよ」
「あれは、さすがにバカなやり方だったな
もっとうまくやれば良いものを」
「へぇ、弁護士さんなのにそんな事言っちゃうんだ」
「お前がモデルとは知らなかったよ。
それも、ニーナだったなんてね
俺たち、一時期は付き合ってたじゃないか
また付き合おうよ。
あんなに、俺の事好きだったじゃないか」
「そもそも、被害者と加害者側の弁護士がこうやって話すの、まずいんじゃないの?」
「告訴を取り下げてくれれば問題ないさ
また前みたいに抱いてやるよ」
腐りきった家族なんだな。
「告訴は僕だけじゃなくて、事務所の総意だからね
難しいよね」
「でもお前が言えば問題なく収まりそうだよな」
「そんな力なんか、僕にはないよ
精一杯今まで仕事をしてきただけで
事務所にはお世話になりっぱなしだから
だから、ね
僕は、君の弟を許すわけにはいかないんだよ」
「俺の言う事、聞いておいた方が良いんだけどね。」
そう言うと、近くにいた数人が集まって来た。
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