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4 田舎の味

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「マネ、大丈夫だよ
 僕、頑張るから」

このキャラなら言いそうなセリフを言って、慰めた。

「ニーナ、俺は
 これからはお前の為に、誠心誠意バックアップするからな」

「ありがとうございます
 何かあったら、絶対助けてくださいね?
 あのシンジョウさんってすごく怖い事ばっかり言ってたので」

「わかっている」

取り敢えず、流出動画の事でマンションに帰れないという事で、僕の家へと向かっていた。
何で帰れないんだよ、という心の中で突っ込んでみたけど、送信先には実際の恋人とかセフレとかそんな人がいたんだろうと勝手に想像してみた。
その上事務所の車は特定されかねないという事で、タクシーで移動することにしてその途中で、マネのスマホに昨日行った店のママから着信があった。
そうか、店をやってるなら今ぐらいに知ってもおかしくない。
時刻は午後の四時を回ろうとしていた。
シンジョウ弟は、ママのIDなり電話なりをしっているだろうから、テロはやらかしていないだろうけど、他の人から話が行くんだろうな。

「もしもし」

『ハスミン、あんた何やってんのよ!』

「あ、や、いま、移動してるから、こっちのほうに来れる?
 ニーナの事も話すから」

『わかったわ、ちゃんと話してよね!?』

物凄い怒声が響いていた。
とりあえず、僕の家に来て貰って話すことになっていた。
自宅はどうかとも思ったけど、こんな状況だし、人目につくのはどうかとおもって、それを承諾した。







郊外の自宅に着くと、マネは驚いた顔をした。
古民家としか言い様の無い古い平家の庭付き一戸建てだったからだ。

「ニーナ、てっきり、こう、凄い家を…」

「僕は、ゆっくり一人になれればいいので。」

昔ながらの磨りガラスの引戸を開けて、マネを中へと促した。

中は少しだけリノベーションされていて、快適に過ごせるように自分で設えたりした。

「ニーナは、本当にこうやって一人で過ごしていたんだな。」

「メイク落とすので、好きなとこに座ってください。
 ソファーでも、コタツでも、ダイニングでも、どこでも良いですよ
 冷蔵庫にビールありますから、飲んでてください」

僕はシャワーを浴びて、しっかりメイクを落とすと、簡単に膝まであるシャツを着て出た。

落ち着かなかったのか、ダイニングでビールを飲んでいたマネを見つけて、フッと笑ってしまった。
それに気づいたマネが目を伏せて顔を赤くした。
酔ってるんだろうな。

「マネ、少しは落ち着きました?
 シャワー浴びます?
 これから、ママさん来るんですよね?」

立て続けに聞くと、多分、この場所が分からないだろうから、連絡が来てからで良いと言った。

「じゃあ、僕も少し飲みますね」

冷蔵庫から缶ビールを出して、グラスに注いだ。

「ニーナ、素顔の方が断然良いじゃないか。
 なんで隠すんだ?」

「隠す程はメイクをしてないつもりですが、印象を変えるようにしてますよ。」

「なんで?」

「この顔が嫌いだからですよ」

トラウマは顔だけじゃない。
僕はあれ以来、勃起もしなくなったしセックスには吐き気を覚える様になっていた。

そう言えば吐いてから何にも食べてなかった。 
少し落ち着いたからと、台所に立って軽いつまみを二品ほど作って出した。

「す、ごいな
 ニーナって、仕事はどっかワガママな感じがして、こんな料理とかするイメージ無いのに」

「食べに出たりしませんから、作るしか無いんですよ
 それに田舎者だから、お洒落な飲食店なんて食べた気もしませんよ」

誰かと食べるって勇気がいる。
食べ方や口元、箸の持ち方、そんなのを見せ合うかと思うと、怖くて無理だった。

「どうぞ、簡単な物と常備菜ですから」

白い大きめの深皿に出したのは筑前煮。
作り置きを温めただけだ。

もう一皿は、クリームチーズに鰹節と甘い田舎独特のお醤油をかけただけのもの。

「これ、胃袋を掴まれるってやつか」

田舎でよく食べた。
ばあちゃんが作ってくれて、いつの間にか母さんが作り、同じ味になって行った。

家を出て、もう、あの土地に帰る事はないだろうけど、忘れる事は出来なかった。

スマホの着信音が鳴り響いた。
マネは自分のスマホの着信を確認してから出ると、漏れ聞こえて来るママの声が近くだと告げていた。

「お、ママが近くに来たから、外に出てみるな」

「分かりました。
 帽子使ってください」

顔が見えたらまずいかも知れないから、僕が使ってたニット帽を渡した。
あ、これ、ダメなやつだ。
スーツにニット帽はだめでしょ。

なのに、マネはだいぶショックがあったのか、そのまま被って行ってしまった。
まあ、いっか。

僕は、缶ビールを空けて2本目を出す所で、マネとママさんが入ってきた。

「ちょっと、あのニーナがこんな家に住んでるなんて!」

そうかな。
別に、一人で暮らすには楽だけど。

「いらっしゃいませ。
 ビール、飲みます?」

「え?
 マレちゃん?」

「はい」

「えー?
 なんでニーナの家に?」

「僕の家なので」

「ママ、ニーナだよ
 昨日連れて来たじゃない」

マネが紹介?を改めてした。

「僕、新名 希って名乗ってますけどね?
 やっぱり、メイクしないと分からないですかね?
 そんなに厚化粧はしてないんですけど。」

「目だよ
 ニーナは目元が変わるんだよ」

「確かに、印象を変えやすいですからね」

「あ、あ、そうなんだ。
 こっちの方が凄く綺麗なのに」

ママさんは呆けたように呟いた。

つまみと、ビールを勧めて、今回のあらましを話した。
仲間内やらにかなり拡散されてしまっているみたいで、その繋がりからママさんの所まで話が行ったみたいだった。
ただ、こんな世界なのでバカやったな、とか、自分もとか笑い話で終わってるみたいだけど、社会的には大分ヤバくて多分動画は残るだろうと言うことだった。

示談にするんだろうけど、かなりの金額を積むしかないだろうと、それがみんなの見解だった。

「しばらく、ここに居させてもらって、
 ニーナの仕事にどれくらい影響が出るか分からない。
 俺が付いて回る事で不利益になるだろうから、誰か代わりに付かないと」

「僕、一人でも大丈夫ですよ」

「現場でろくに喋らない奴に、ガードがなかったら、困るのは自分だろ!」

正論ですね。

「モデルの仕事がメインだから、今まで俺が付いていたけど」

「まあ、何とかなりますよ
 マネは、取り敢えず弁護士の方針が決まるまでは大人しくしておいて下さい」

「私がやるわ
 ハスミンの代わりに、マネージャーやるわよ」

「ありがとうございます!
 先輩!」

ん?先輩?
それに満面の笑顔のマネ。

「最初からそのつもりでしょ?」

「一か八かでしたけどね。」

話が見えない。

「あの、先輩とは?」

「ニーナ、俺がモデルやってた頃の大先輩
 パリコレとかの海外がメインだった人がこのママさん。
 きっと良い勉強になるよ」

凄く素敵な人だとは思ってたけど、そうだったんだ。

顕彰けんしょうよ」

宜しくと挨拶をして、握手をしようとしたら、ハグをされた。

「キャンセルにならなければ、
 三日後に雑誌の撮影が入ってるので
 お願いします。」

「わかった。
 店の方は調整するから」

キャンセルされないかなぁ、と期待したけど、意外とマネだからか僕の仕事への影響は無かった。








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