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3 トラウマは今もまだ
しおりを挟む郊外の一軒家である僕の家にたどり着くころ、スマホのトークアプリにメッセージが入った。
『俺のハスミンにちょっかい出さないでもらえる?
能面みたいな奴が、身の程を知れ』
俺のハスミンって、誰だよ。
次に来たのが画像と動画だった。
もう想像に容易い、セックス動画。
別に僕にとってマネはマネだし、どうでもいいし。
送るとこ間違えてないかなぁ。
ただ、僕のトラウマにはしっかり触れてくれて、吐き気というダメージは与えてくれた。
『お・れ・の・だからw』
既読はつくんだろうけど、別に何も返す気は無かった。
だって、僕のでもないしね。
興味なんか全然ないし。
ふーん、で?って感じで観るのもバカらしいけど、あることに気づいた。
これ、あのシンジョウ弟も映ってるしその上、自分で撮りましたってまるわかりだ。
あー、ごめんねマネ
うっかり間違えて、詐欺サイトとか情報を引き出す為のサイトを踏みまくっちゃった。
そのせいで、保存してあった動画とか写真とか流出しちゃったかも。
僕のスマホは、仕事の連絡にしか使ってないから、マネと事務所しか登録されてないけど、マネのスマホは沢山の情報が入ってるみたいだから、色んな所の個人情報抜かれちゃったかもね。
だって、ウィルスが乗っかってるサイトから、わざわざマネのメアドを登録して資料請求してあげたんだもん。
よくある、初回半額とか定期縛りなし、とか言うアレのタイプ。
その中でも、アダルト系のをチョイスしてみました。
スマホもね、セキュリティは万全じゃないんだよ。
動画にセキュリティもかけずに送って来たんだもん。
シンジョウ弟がわざわざ撮ってくれた動画だしね。
ご丁寧に、名前まで呼んで僕を牽制したつもりだろうけど、それってマネと自分の名前ってだけで、なんとも思ってない僕には吐き気以外の精神的ダメージは全くないんだけどね。
夜中に一仕事は大変だったよ。
これにみんなが気づくのって、いつなんだろう。
気づかなくても、別にいいけどね。
だって、うっかり流出しちゃったかもってだけで、どこかに投稿したわけでもなんでもない。
うっかり、詐欺サイトとかに行っちゃって、うっかり、マネの連絡先の番号いれちゃったんだ。
だって、荷物とかの受け取りはいつだってマネのところだったからさ。
正直、眠くてそのまま落ちた。
吐くって体力使う。
明日からしばらくはオフだし、ゆっくり眠ることにした。
翌日スマホの画面が面白いほどの通知であふれていた。
トークアプリに3桁を超えるマネとシンジョウ弟からのメッセージに着信。
マネは電話に出ろだの、何でこんなことをだのと、そして事務所からの着信。
シンジョウ弟からは、バカだの死ねだの、挙句の果てに殺すと数十回にわたって恫喝、脅迫のメッセージが残されていた。
不利カウンターが爆上がりしてた。
お昼近くになってようやく、事務所に連絡をした。
内容は流出した動画が僕からのものだという訴えに、話を聞きたいというものだった。
女顔になるようにメイクをすると、何も知らない自分を作った。
スマホの扱いに慣れてなくて、連絡先もマネと事務所しかないことを前面に押し出すために。
ちょっと天然ぽい印象を与える女顔にすれば、本当に自分は天然であるかのように振舞えた。
事務所には、マネとシンジョウ弟がいた。
なんで?と言う顔をする。
「ニーナ、昨日の事と動画をネットにアップしちゃった事、どう思ってるか聞かせてもらえるかな?」
事務所の偉い人が僕に少しだけ威圧をかけながら、聞いてきた。
「アップなんかしてません。
夜中に知らないIDからいきなりメッセージが入ってて、
怖いから今日見てもらおうと思って保存したけど
このスマホの中だけです」
少し指先を震わせながら、びくびくとスマホを偉い人に渡した。
「このIDは君かい?」
偉い人は中身をシンジョウ弟に確かめさせた。
この時に表面上のIDだけで、偉い人は中身を見ずに聞いていた。
「そうです!
こいつが、動画をアップしたんだ!」
「してません!」
「そもそも、君、ニーナとは面識ないのに
なんで、連絡先を知ってるのかな?」
「それは、蓮見さんのスマホから…」
「僕のIDがどれかなんてわからないようにしてるし
連絡先だって、事務所とマネージャーしかいないです」
蓋をあけてみたら、マネのスマホから全ての連絡先を抜いて、疑わしいところには全部送り付けていた。
そりゃ、僕だけじゃなくても流出するさ。
しかも仕事咲関係にまで。
TV局のディレクターやら、CMの監督、雑誌の編集長にまで。
マネが名前だけで、会社名とかは登録してないのが悪い。
「蓮見君、ニーナは大事な時なんだ
君、どう責任とるんだい?
モデル復帰もなんて話も出てたけど、白紙に。
そして、君、シンジョウ君、損害賠償を覚悟しておいてくれたまえ」
連絡先を盗んだうえ、片っ端から牽制するためにエロ動画テロを起こしていた。
もう少し荒れそうだったのに、損害賠償で終息してしまいそうだった。
損害賠償の桁も凄いだろうけど、それだけじゃすまさないよ、だって殺すだなんだの部分でも踊ってもらわないと。
「蓮見マネ、もしかして、
この人に騙されてたんですか?
それなら、僕も一緒に証言してあげますよ!
騙されて、動画を撮られたんじゃないですか?」
あえて、こういう聞き方をした。
「動画を撮ってるなんて、知らなかった
俺のスマホから連絡先を抜いて拡散したなんて知らなかった!!!
こいつとはその場限りで、付き合ってもない!!!」
「蓮見マネにこんなひどい事、どうして…
どうしてしたんですか!
僕が嫌いなら直接すればいいじゃないですか!?」
酷い、悔しいと涙を流しながらシンジョウ弟に詰め寄った。
この時は本当にそんな感情が高まって、涙がボロボロこぼれた。
「ちが、違う、俺は
蓮見さんが好きで!」
「好きなら何をやってもいいんですか!!!
何を言ってもいいんですか!!!
相手を傷つけるような事をするのが好きだって事にはならないですよ。
勝手にそんな言葉で免罪符になると思わないでください!
僕からも、訴えますからね!」
いかにもマネを心配して怒ってる自分だった。
シンジョウ弟、お前はあんなことさえしなきゃスルーだったのに、兄貴がアレでも同じようなクズでいてほしくなかったよ。
「僕は昨日のあの一瞬しか貴方と面識がないのに、
このような嫌がらせをされて、
やっとモデルからテレビやCMにって活動を広げようと動いている重要な時期だったのに…」
昨日まで辞めるって言ってたのに、一晩考えて気持ちが変わりましたって体でいこう。
「不特定多数に」
「牽制したかったって言ったじゃないですか。
僕の連絡先が分からないから、怪しいIDに片っ端から送ったって
ね?
僕、さっきこのスマホで録音したんです。
聞き直しましょうか?」
「あ、あ、…」
「それにね、このトークアプリに、
僕を名指しで、殺すって入れてくれてるし
殺されるかもしれないと思うと、怖くて」
「ニーナ、それ本当かい?」
「はい、このスマホに」
おどおどしながら、事務所の偉い人に渡してさっきは開かなかったトークルームを見せた。
着信履歴は100を超え、トークアプリには罵詈雑言、そして数十回に渡って殺してやるや恐怖で眠れない夜を過ごせだの、証拠としては十分すぎるほどだった。
向こうは一般人、僕はモデルでミステリアスニーナだからだ。
脅迫、恫喝、殺人予告有名人に対する嫌がらせとしては、大分、突っ走っていた。
「警備員!!!
警察を呼んで!
こいつを拘束してくれ!!」
室外に控えていた警備員が二人、凄い勢いで入って来てシンジョウ弟を拘束し、その場で警察に引き渡された。
「蓮見マネ、大丈夫ですか?」
震える指先で、マネの手を握って見せた。
「ニーナ、ごめん
一緒にいたのがニーナだって、俺があいつに言ってしまったから」
ふーん、そうだったんだ。
僕がニーナってあの時バレたわけじゃなかったんだ。
「僕こそ、辞めるとか言ったから
マネに負担をかけてしまって、ごめんなさい」
事務所的な社長の意見としては、マネの行動は厳罰もので辞職勧告を出されてもおかしくなかったけど、僕にとって扱いやすい人になってくれれば色々と助かるから、偉い人に彼も被害者だと擁護した。
その甲斐もあってそれなりのペナはあるけど、被害者側として本格的に弁護士入れて話をすることになり、後日、その場を設けるからと言われて、僕とマネは事務所を後にした。
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