8 / 13
可及的速やかに
救出劇
しおりを挟む私を抱き止めた皇太子は、まだ義妹を聖女だと思ってるようだった。
「ナルミナ嬢、彼女が嫡子ならば貴女の義理とは言え姉にあたる方なのではないですか?」
吐瀉物で汚れた私を、嫌がりもせず抱え上げてくれた。
この皇太子っていくつよ?
あのサイコパス的な義兄様と同じくらいかしら?
青年に手をかけたぐらいの皇太子と、十二歳の私より下の聖女と言う義妹との婚約ってどうなのかしら?
義妹の方は乗り気で婚約してるみたいだけど、皇太子は政治的なものとしか捉えてない感じがアリアリと伝わって来たわ。
「ロアール様、義姉は少し心が弱くて病気なのですわ。
ですから治癒を食事の後にして」
「執事長殿に付いてる物が、彼女の食事ですか?」
一応護衛騎士が取り押さえた執事長に、皆んなが視線を移した。
「はい、多分そうだと思います」
「ではアレは、本来なら嫡子であるイエニスがなるはずだった、という事なのだな?」
庭内の森とは言え、人に慣れてる動物がいるかどうか知らないけど、好奇心旺盛な犬みたいな動物が痙攣して、私が這いずるように出てきた道に転がっていた。
あんな残飯を舐めたか、匂いを嗅いだからか、相当強力で即効性のある薬を盛られていたのね。
「あれは、私に食べろと執事長様が頭を押さえつけて、あ、あ、あぁぁあ!!
助けて、助けて下さい!」
迫真の演技、アカデミー賞総なめできるわ絶対!
「落ち着いて、大丈夫だから」
存外優しいのかしら。
「ロアール様! 私は姉がこのような仕打ちを受けてるとは知りませんでしたわ!」
「ふぅ、最初に下女だと言ったのはナルミナ嬢だぞ?」
「あ、いえ、気づかずに」
「あり得んな」
皇太子は護衛騎士に目をやると、執事長を連れて本邸の方へ行く者と、皇太子の護衛で残る者と分け、私をそのうちの一人に託した。
「世話を頼む」
「はっ! 畏まりました。
では、イリス様行きましょう」
私を抱えた護衛騎士が、イリスの名前を呼んだのでその顔をよく見たら、常連の騎士の一人だったわ。
「え、あ、の、」
「大丈夫ですよ、貴女を連れ出すために来たのですから、安心して下さい。
ヒバリが丘亭は我らの憩いの場所ですが、たまに皇太子もお忍びで来られていたんですよ」
全く気づかなかったわ。
「最初は会計時のやり方が変わった事に驚き、新しいメニューをサンプルで出したり、目玉商品なんて表現してみたり。
メニューに絵があると読めない者でも頼み易く、庶民の懐事情にも配慮されているのが面白くて、皇太子に話した所実際に見たいってなってな。
そこでイリスを調べたわけ。
稀代の悪女って評判のイエニス嬢だと分かった時には、騎士団も皇太子も驚いたぜ~」
私を抱えて歩く騎士は、面白そうに豪快に笑って、最初から私をこの家から救出する事が目的だったと告げた。
1
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
お母様と婚姻したければどうぞご自由に!
haru.
恋愛
私の婚約者は何かある度に、君のお母様だったら...という。
「君のお母様だったらもっと優雅にカーテシーをきめられる。」
「君のお母様だったらもっと私を立てて会話をする事が出来る。」
「君のお母様だったらそんな引きつった笑顔はしない。...見苦しい。」
会う度に何度も何度も繰り返し言われる言葉。
それも家族や友人の前でさえも...
家族からは申し訳なさそうに憐れまれ、友人からは自分の婚約者の方がマシだと同情された。
「何故私の婚約者は君なのだろう。君のお母様だったらどれ程良かっただろうか!」
吐き捨てるように言われた言葉。
そして平気な振りをして我慢していた私の心が崩壊した。
そこまで言うのなら婚約止めてあげるわよ。
そんなにお母様が良かったらお母様を口説いて婚姻でもなんでも好きにしたら!
婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです
珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。
※全4話。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
侯爵令嬢の置き土産
ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。
「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。
かわりに王妃になってくれる優しい妹を育てた戦略家の姉
菜っぱ
恋愛
貴族学校卒業の日に第一王子から婚約破棄を言い渡されたエンブレンは、何も言わずに会場を去った。
気品高い貴族の娘であるエンブレンが、なんの文句も言わずに去っていく姿はあまりにも清々しく、その姿に違和感を覚える第一王子だが、早く愛する人と婚姻を結ぼうと急いで王が婚姻時に使う契約の間へ向かう。
姉から婚約者の座を奪った妹のアンジュッテは、嫌な予感を覚えるが……。
全てが計画通り。賢い姉による、生贄仕立て上げ逃亡劇。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる