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避難

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 宰相様は言われた地下牢へ、僕は治癒院へ急いで向かう事にした。

 治癒院へは初めて行くけど、報告に来た捜査員の一人が案内してくれると言う事なので、ついて行こうとしたら侍女に止められた。

「イリエラ様、お待ちください」

「あ、あのね、アスがけがをして」
「羽織る物が必要です。 どうぞこちらへ」

 そっか、パジャマのままだった事に今更気づいて、侍女の所へ近づいた。

「イリエラ様、宜しいですか?」
「え? 何?」

「目を閉じていてください」

 え?っと思った瞬間、侍女に目を塞がれてぎゅっと抱きしめられるような恰好になった。
 そして、金属音と短い叫びが残ったあと、何かが床に落ちる音がした。
 
 まるで思い衣料品を落としたような音だった。

「さぁ、もう大丈夫です。
 賊が侵入してるようですね」

 床には捜査員が血を流して倒れていた。

「ひっ! な、なん、何で、何で?」

「宰相様は大丈夫だと思いますが、サイアス様はまだお戻りになっておりません。
 これは以前からこの城に侵入していたスパイでしょう」

 これってこの侍女が倒した、何て訳無いか。
 僕の目を塞いでたんだから、出来ないじゃん。

「暗部が常にイリエラ様の護衛をする様に指示を出しております。
 ご安心下さい」

 護衛が既についてたの? いつから?

「あの、この偽物の捜査員は、男爵家の?」

「間違いなくそうだと思われます」

「国王様や、王妃様は!?」

 僕の所まで来るなら、必ずお二人を狙うはずだ。

「ご安心下さい。 既に王族専用のシェルターに避難されています」

 いつまでも此処に留まってはいけないと言われ、僕もシェルターに移るように言われた。
 アスが戻っていなかった。
 でも刺されたのが嘘じゃなかったら?
 不安な気持ちは、悪い方へ、悪い方へと考えを巡らせてしまう事になった。

「イリエラ様、暗部はサイアス様にも付いておりますので、ご安心下さい」

「そっか、よかったぁ」

 侍女の力強い言葉は、このスパイの死体が証明してくれていた。
 
「さ、行きますよ! 安全にお連れするためしばし御無礼を致します」

 そう言うととても侍女とは思えない力強さで、軽々と僕を抱き上げて疾走した。
  
 え、もしかして侍女コスプレの男の人?

「しかし、こんなに易々と侵入される城とは如何なものかと思います」

「うん、それ、本当にね。
 これってクーデターだよね?」

 多分獣化できるから、油断してる部分もあるんだと思った。
 シェルターは国王様たちとは違う場所で、調理場の床下を開け地下へと降りて行くと城外へ出たんじゃないかって言うくらいの距離を進み、地上へ出た先に小さな石造りの小屋があった。

「こちらで隠れていましょう」

「侯爵様や、公爵夫人は?」

「中でお待ちです。
 暗部はお一人に必ずツーマンセルで付きますし大丈夫です。
 それにいざとなれば、私達侍女も侍従も執事も戦えますから」

 それは王宮に残った使用人達全員が、戦闘員として動くと言う事だった。



「あぁ、イルちゃん! 無事だったのね!」

 夫人は力いっぱい抱きしめてくれて、再会を喜び合った。

「うちの使用人たちは皆プロだからね。
 安心して待っていようじゃないか」

「そうね、まったく舐めてくれてるわ、ビランコ家の武力は国に匹敵するのにそんな情報も無かったのかしら」

 いつものホワホワした夫人とは思えない発言だった。

「え? 軍事力なんて持ってたんですか?」

「そうよ~、だから王族だってうちのする事に逆らえない立場なのに、うちのトルシエちゃんを蔑ろにして、許せるわけないじゃない。
 だから移住することで、軍事力を引き上げちゃったのよ。
 ベルギアンが主権をドラニスタ―に譲ったのはそこもあったからだし。
 ねぇ、あなた、今回の反逆を起こしたのがこの国の男爵って事だけど、絶対ぴスカルの元国王関係よねぇ?」

「そうだろうねぇ、
 しかも小耳にはさんだ所によると獣人化してる子供を兵器として輸出しようとしたんだって。
 でもさ、この国の初代国王の魔法で獣化できなくなるし、その記憶も飛んじゃうのにね」

 そうだった、獣化関係は外には持ち出せないはずだった。

「もしかしたら、記述なら情報が残ってしまうのかも」

「記憶が無ければ、その記述もただの物語になってしまうのかも! 
 私も子供の頃の童話で獣の国を読んだ事あるわ。
 こちらの国では男爵、ピスカルソーダでは准男爵だった何てこと、無いわよね?」

 夫人が一つの仮説を説いた。

 あの魅了魔法を使った女がこちらの国の男爵家の人間だったら?
 宰相様から聞いた男爵令息の言動、似てないか?

「うむ、あの女が逃げおおせたと言う事かもしれんな」

「魅了魔法に掛かっちゃったら、どうしよ」

 あの変な感じになって操られてしまったら、そう考えると不安で仕方なかった。

「あ、大丈夫よ。
 ドラニスタ―ではその魔法使えないみたいだから。
 初代国王の結界魔法って言うのかしら、それって持ち出せないけど持ち込めないんですって」

 ん、なんか凄いゼロかイチな感じ。
 だから警備とかゆるいのか。

 魔法が無かったら、体力と技術の勝負だもんね。
 違う意味で万全は国なんだ。

「そこで実験だったんだな。
 獣化出来ないし記憶が無くなってしまっていても、体の因子は初代国の血が入っている、ならばその子供を外の国で作った場合、獣化できるのではないか、と」

「だから獣化した子供を輸出」

 人だよ、まるで動物実験みたいにしないでよ!

「腹立つわね。
 ベルギアンに言って、あそこの国潰しちゃいましょうか。
 あの子一人で潰せるでしょ」

 騎士団に入るってゲームではなってたけど、国を潰すなんて設定無かったよ?

「国民も自分たちで変えないといい方向には少しもならないんだが、なぜか受け身なくせに文句は多いんだよ」

 侯爵夫妻は笑いながら、国を一つ潰そうって話をしてた。

 アス、早く会いたいよ。
 この状況、違う意味で怖い。
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