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賃貸物件
しおりを挟むおかしい。
何で昨日の今日で、見た物件がお手付きになってるんだ!
部屋探すとき、そんなのは結構あったし、ここでもそんなもんか、って思ってたけど、いくら何でも店舗兼居住スペース有の物件がことごとく無いなんてあるのか?
不動産の御主人が言うには、国王の婚姻で外国の商人が結構入って来てるとは言ってた。
確かに、今までは鎖国とは言わないけどかなり閉鎖的だったし、こぞって商売したいのも分かるけどさ。
これで五件目だ。 撃沈。
メイクバッグは結構重いし、裁縫道具は魔法具も含めると登山でもするのかって重量を背負ってた。
「はぁ、さすがに休もう」
商業施設って言うほどじゃないけど、大通りから外れたところにちょっとした公園があって、そこのベンチに座ってぼんやり考えた。
「このままだと、今日も王宮に帰んなきゃダメだよな」
作業場が決まらない事には、出て行っても何も出来ない。
既に日は傾き始めていた。
「一旦帰るしかないか。
不動産屋には物件が出たらお知らせしてもらうにしても、王宮に連絡してっていう訳にも行かない気がするしなぁ」
だって小公爵様と距離を置きたいし、一人でやって行きたいしって思うから、居場所が知られるのは何となく嫌だった。
感情に任せて思い付きだったんだし、もうちょっと練って万全にしようと気を取り直して、王宮へ戻ることにした。
昨日とは違って割と早い時間に戻って来た僕を、侍女の一人がホッとしたような表情で迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。
昨日もお歩きなさったのでお疲れでしょう。
いま薬湯を用意しております。 ゆっくりと入って来て下さい」
うん、歩き回って心も折れて、本当に疲れた。
「ありがとう、ゆっくり入るからお世話はいらないよ」
では、と僕に頭を下げて侍女は部屋から出て行った。
手に持ったメイクバッグを鏡の前に下して、背中の魔法具をその脇に置くと、本当に疲れた。
「あー、お風呂はいろ」
用意してくれた薬湯は、ラベンダーの様な香りにとろみのあるお湯で凄く気持ちよかった。
湯舟も魔法具で温度を一定にしてくれるから、冷める心配もないし、ダラダラとぬる湯状態で入ってると、睡魔が襲ってきた。
「うーん、眠い。
泥の様に眠い……、出なきゃ」
ダメだった。
疲れはどうにも出来なくて、心の痛みはそれをさらに重くした。
「イリエラ様! イリエラ様!!」
あー、気持ち悪い。
「誰か! 衛兵! イリエラ様を!」
何を騒いでるんだろう、眠いからちょっと静かにと思った所で、ハッと目が覚めた。
「うぁ! 死ぬかと思った」
眠っちゃってそのまま湯船に頭まで浸かっちゃってた。
気持ち悪いし頭とか鼻とかめっちゃ痛かった。
「ぅ、オェ」
このままだったら間違いなく死んでた。
「良かった、よろしゅうございました」
侍女が泣きながら僕の体を拭いて、申し訳ありませんと床に頭を擦り付ける様に謝罪した。
「何で? 謝らないでよ。
僕がうっかり眠ってしまったんだから」
「いいえ、私がきちんとお世話していれば!」
取り乱した侍女を宥める様に、大丈夫だよって笑って言えば余計に泣いてしまった。
「さすがに気持ち悪いから、冷たいお水貰える?」
「はい! すぐに!」
走り出していく侍女を見送ると、周りに集まっていた衛兵や、他の侍女も泣き笑いをしていた。
勝手に出て行ったらこの人たちをこんなに困らせて悲しませるのかと思うと、ちゃんと話合わないといけないって肚を決めた。
例え、小公爵様の心に僕がもういなくなったとしても。
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