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逃避行
しおりを挟むあの馬車を見てからどうやって王宮の自室に辿り着いたか記憶が無かった。
とにかく昨日の反応やリサーチしたことをまとめて、次の戦略を考えないといけなかった。
獣人に関しては問題ないけど、用途や金額それに観光出来る場所なんかを実際に歩いてチェックする必要があった。
あくまでも昨日のはコスプレの反応を見るためだけだったから、実際観光する場所へ歩いていけるのかレンタルするなら時間貸しでどのくらい必要かを、近いうちにやってみるつもりだった。
虎のコスプレのデザインも考えなきゃいけないし、やる事は山積みで嘆いてる暇は無かった。
それに小さい友達が待っていてくれるなら、応えてあげたかった。
トルシエ嬢が王妃になった以上は、僕が王宮に滞在する必要は無いし、衣装を製作するための作業場兼自宅が欲しかった。
それに、サイアス小公爵様との物理的な距離が欲しかった。
城下に物件を借りるとなるとそれらしい理由を作って、資金を借りたり契約をしたりとそのお願いを宰相様にしてみようと思った。
サイアス小公爵様は補佐で執務室にいるだろうけど、僕は外交と言う意味で宰相様と仕事をしているんだから、何も気にすることは無いし、変な態度をとらなければ大丈夫と、自分に言い聞かせた。
「イル兄様? どうしたんですの?」
宰相様の執務室の前で、トルシエ王妃に出くわしてしまった。
「トルシエ妃殿下、二つの太陽の一つにご挨拶いたします。
城下に作業場兼事務所を構えようと思いまして、宰相様にご相談するところです」
自宅と言うと騒ぎになってしまうから、敢えて事務所と言った。
「昨日、城下町での反応はそんなに悪くなかったんです。
ただ、買うとか借りるのは観光客しかないかな、って思うと、やはり作業場兼店舗兼事務所が必要だと思いまして、出来れば少し資金をお借り出来ないかと」
考えたらサイアス小公爵様のそばに居て、ただ享受していただけなんだ。
現金というか資金がある訳じゃないし、元々追い出される身だったんだから、今のこの状況は贅沢過ぎた。
「昨日、一人で行かれたんですの?」
「え、あ、そうです。
反応が見たかったので、一人で行ってきました」
危ないから護衛を付けろと言われたけど、そんな事をしたら町の人の本音が聞けなくなる。
「とにかく、相談しますので、では!」
宰相様がいる執務室の扉をノックし、返事を待たずに扉を開けてトルシエ王妃からの追求を逃れようとした。
「失礼します、宰相様! 急に申し訳ありませんが、お金貸してください! とにかくすごく必要なんで、貸してください! 絶対返しますから!」
中に入るや否や、要件を言い続けた。
「イリエラ殿、どうしたんですか!?」
僕を見るなりギョッとした顔をした。
ん? なんか変?
「どうもしないよ?」
「顔色が酷いですよ。
しかも、泣いたんですか?」
泣いたのかな?
あんまり記憶もない。
「大丈夫だよ、ちょっと寝不足なだけだから」
そういえばサイアス小公爵様が見当たらなかった。
「あの、サイオス小公爵様は?」
「あぁ、彼はお使いに行ってもらってます。
夜には戻ると思いますよ」
そうか、なら今のうちに手続きできるものはしてしまった方がいいと、宰相様に頼んで昨日見た物件の資料をだして契約がしたいと告げた。
「随分急ですね。
サイアスに相談しましたか?」
「昨日の昼から見てないんですけど、大丈夫です」
にっこり笑って誤魔化した。
「イリエラ殿の身分証明書はサイオスが管理してるようですので、再発行します。
自分で動いた方が早いでしょうし、サイオスが持ってるのはちょっとね」
すぐ手続きをしてくれたので、身分証明書と資金を借りて早速城下町へ行くことにした。
今日はコスプレはしないけど、バッチリ男のメイクをして昨日の物件がある一角へ足を運んだ。
持って出るものなんてメイク道具と裁縫道具だけだったから、物件を借りたらそのまま帰らない事にした。
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