子豚のワルツ

ビーバー父さん

文字の大きさ
上 下
104 / 122

家名

しおりを挟む


雪深いせいか、何となく黄昏時の様な寂しい時間帯みたいな気がしたが、これでもまだ昼を回ったとこだった。

「既に暗部からは奴隷を確認している。
 魔力や魔石を見せない様に。」

「はい。」

さっき迄子供らしく戯れていたエリュも、途端に表情を引き締めた。

なかなか、エリュも上手く演技しているな、と感心した。

「宿に入ったら、常に見られていると思って行動する様にね。」

ロゲルの言葉は事実、僕達は街の人からチラチラと視線を送られているからだった。

「さぁ、咲季
 暖かい物を食べて、ゆっくりしよう。」

ロゲルの意外な特技を垣間見た。
演技が上手い。
暗部の総統をしているだけある。
もしかしなくても、相当、ロゲルは策略に長けているんじゃ無いだろうか?

僕なんか、演技だこれは演技だと思い込まないと、言葉一つ取っても出てこなかった。




「ふた部屋を予約してある。
 トライド一家だ。
 風呂トイレ付きの部屋で、食事も付けてくれ。」

ロゲルがカウンターに立つ青年に言うと、帳簿を捲り予約の確認をした。

「はい、ロンバルト・トライド様とそのご家族様ですね。
 ようこそおいで下さいました。
 お部屋は、3階の一番奥で廊下を挟んで向かい側のふた部屋ご用意してございます。」

「ありがとう」

そこで初めて、家名を名乗ると言うのを聞いた。

「家名って今まで誰も名乗らないですよね?
 僕、初めて聞いたし、知りました。」

部屋に向かいながら、コソッと聞くとちょっと驚いてすぐにニコッと笑いながら、部屋で教えるよと言われた。

もしかして、結構重要な話しなのかな?






部屋は僕の基準で言うと10畳くらいの広さにキングサイズのベッドと、簡易なソファーセットが置かれていて、扉がありそこはトイレと浴室だった。

これ、かなり高級だよ。

「ロゲル兄様、ここってかなりお高いですよね?」

「咲季、アナタ、だろ?」

「あ、アナタ、うーん、無理
 ロゲル、ではダメですか?」

アナタは何か女の人が呼ぶ感じで、どうにもしっくり来なかった。

「ロゲルって呼ばれるのも近いし、いいね!」

ロゲルなら普段から気持ちの中では呼んでるし、慣れたもんだ。

「ロンバルトって偽名ですか?」

「ロンバルトの愛称がロゲル。
 ちなみに家名は偽名だよ。」

「ちょっと!初めて聞きましたけど?」

最初から、愛称を名乗るって無いでしょ!

「あははは
 咲季、みんな愛称しか名乗ってないよ。
 だから家名を名乗らないだろ?」

「確かに今まで誰一人家名を言った方はいないです。」

「トルクもそのくらい教えてやれば良いのに」

ロゲルは少し呆れた様に言った。
トルクから聞いたこと無かったわ。

「家名にはその歴史が刻まれてるから、おいそれと名乗れないんだよ。」

「戸籍みたいな物が存在してるんですか?
 てっきり、伴侶って宣言したらそれで完結かと思ってました。」

「うーん、そんな事ないよ」

「じゃぁ、僕の立場って…
 ただの愛人じゃん」

えー、最悪。
僕、トルクの伴侶=夫婦だと思ってたよ。

「え、いや、家名に入れる儀式がちゃんとあって、それをしたら」
「いえ、もういいです。
 ちょっと考えますから。」

めっちゃ腹立ってきた。
それと同時に、悲しくなった。
子供まで産んで、家族だと思ってたのに。

「子供達はどうなるんですか?」

「子供は生まれた瞬間から家名が父親のものになって、その家の子供として家名に記録される。」

家系図みたいな物かな?

「そっか、僕だけ、なんだ。」

なんか、大分落ち込んだ。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しい少年ジゼの、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です(笑) 本編完結しました! 『伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします』のノィユとヴィル 『悪役令息の従者に転職しました』の透夜とロロァとよい子の隠密団の皆が遊びに来る、舞踏会編はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 舞踏会編からお読みいただけるよう、本編のあらすじをご用意しました! おまけのお話の下、舞踏会編のうえに、登場人物一覧と一緒にあります。 ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話を連載中です。もしよかったらどうぞです! 第12回BL大賞10位で奨励賞をいただきました。選んでくださった編集部の方、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです。 心から、ありがとうございます!

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

処理中です...