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家名
しおりを挟む雪深いせいか、何となく黄昏時の様な寂しい時間帯みたいな気がしたが、これでもまだ昼を回ったとこだった。
「既に暗部からは奴隷を確認している。
魔力や魔石を見せない様に。」
「はい。」
さっき迄子供らしく戯れていたエリュも、途端に表情を引き締めた。
なかなか、エリュも上手く演技しているな、と感心した。
「宿に入ったら、常に見られていると思って行動する様にね。」
ロゲルの言葉は事実、僕達は街の人からチラチラと視線を送られているからだった。
「さぁ、咲季
暖かい物を食べて、ゆっくりしよう。」
ロゲルの意外な特技を垣間見た。
演技が上手い。
暗部の総統をしているだけある。
もしかしなくても、相当、ロゲルは策略に長けているんじゃ無いだろうか?
僕なんか、演技だこれは演技だと思い込まないと、言葉一つ取っても出てこなかった。
「ふた部屋を予約してある。
トライド一家だ。
風呂トイレ付きの部屋で、食事も付けてくれ。」
ロゲルがカウンターに立つ青年に言うと、帳簿を捲り予約の確認をした。
「はい、ロンバルト・トライド様とそのご家族様ですね。
ようこそおいで下さいました。
お部屋は、3階の一番奥で廊下を挟んで向かい側のふた部屋ご用意してございます。」
「ありがとう」
そこで初めて、家名を名乗ると言うのを聞いた。
「家名って今まで誰も名乗らないですよね?
僕、初めて聞いたし、知りました。」
部屋に向かいながら、コソッと聞くとちょっと驚いてすぐにニコッと笑いながら、部屋で教えるよと言われた。
もしかして、結構重要な話しなのかな?
部屋は僕の基準で言うと10畳くらいの広さにキングサイズのベッドと、簡易なソファーセットが置かれていて、扉がありそこはトイレと浴室だった。
これ、かなり高級だよ。
「ロゲル兄様、ここってかなりお高いですよね?」
「咲季、アナタ、だろ?」
「あ、アナタ、うーん、無理
ロゲル、ではダメですか?」
アナタは何か女の人が呼ぶ感じで、どうにもしっくり来なかった。
「ロゲルって呼ばれるのも近いし、いいね!」
ロゲルなら普段から気持ちの中では呼んでるし、慣れたもんだ。
「ロンバルトって偽名ですか?」
「ロンバルトの愛称がロゲル。
ちなみに家名は偽名だよ。」
「ちょっと!初めて聞きましたけど?」
最初から、愛称を名乗るって無いでしょ!
「あははは
咲季、みんな愛称しか名乗ってないよ。
だから家名を名乗らないだろ?」
「確かに今まで誰一人家名を言った方はいないです。」
「トルクもそのくらい教えてやれば良いのに」
ロゲルは少し呆れた様に言った。
トルクから聞いたこと無かったわ。
「家名にはその歴史が刻まれてるから、おいそれと名乗れないんだよ。」
「戸籍みたいな物が存在してるんですか?
てっきり、伴侶って宣言したらそれで完結かと思ってました。」
「うーん、そんな事ないよ」
「じゃぁ、僕の立場って…
ただの愛人じゃん」
えー、最悪。
僕、トルクの伴侶=夫婦だと思ってたよ。
「え、いや、家名に入れる儀式がちゃんとあって、それをしたら」
「いえ、もういいです。
ちょっと考えますから。」
めっちゃ腹立ってきた。
それと同時に、悲しくなった。
子供まで産んで、家族だと思ってたのに。
「子供達はどうなるんですか?」
「子供は生まれた瞬間から家名が父親のものになって、その家の子供として家名に記録される。」
家系図みたいな物かな?
「そっか、僕だけ、なんだ。」
なんか、大分落ち込んだ。
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