94 / 122
階
しおりを挟む「シュリ兄様!
あのね、あのね、エリュね、今日ね
母様からお料理を教わったの!」
エストゥールは平均的な獣人よりは早い成長だったが、シュリ達三人の様な成長速度ではなかった。
半年が過ぎた頃、漸く半獣化出来る様になり、4歳児くらいの成長をしていた。
三兄弟の中では、シュリが一番好きらしく姿を見つけると、どこにいても着いてまわった。
「エリュ、どんな料理だい?」
シュリがエストゥールを抱き上げると、嬉しそうに笑い、綺麗な白い髪にぎゅうっと顔を押しつけ、その耳元にこしょこしょと内緒話しをした。
「あのね、お野菜をね、茹でたの」
「それは凄いな!
兄様の分はあるのかい?」
もちろん!と得意げに胸を張っていた。
僕は、それが可愛くて嬉しくて、エストゥールの言う料理を使った料理をシュリに出してあげた。
「はい、シュリ
エリュが茹でた野菜を使ったスープだよ」
親バカとか兄バカとか、ジジバカとか、おじバカとか、そんなのしか居ないけど、それが最高に幸せだった。
そこへシャズが来て、マナイ達が帰国する事がはっきりしたと知らせがあった。
「マナイ兄様達、大変だったろうな…」
あの時僕も感情を爆発させてしまって、トルクが収拾をつけたとは言え、こっちに戻る時に主要な魔族の貴族達から、平謝りされるわ引き止められるわ、中には自分も着いて行くと言い出す人もいた。
出来たばかりの国から、神にも等しい魔王が消えた。
記憶を改竄され唆されたとはいえ、魔王をバラバラにしたんだ。
その代償に復活した家族から、生かされた命を否定されたエディオンは、憐れだとは思うけど、で?だから何?としか感じなかった。
「まあ、そうだろうな。
エディオンの従兄弟が宰相として何とか出来て来たから、あとは知らんってマナイもキレたみたいだ。」
呆れてグッタリしたシャズが、バカだよな、と告げた。
「どこかで帳尻が合いますよ。
エスラにそれだけの事をしたんですから。
基盤は作ったけど、国として成り立つがどうかはこれからです。」
僕は冷たく言い放った。
エディオンが治める国なんて、どうでもいい。
シャズと話していたら、シュリに抱っこされたエストゥールが、おじちゃま!と声を上げた。
「おー!エリュ
今日も可愛いなぁ!
抱っこするぞぉ~」
きゃーきゃー言いながら、シャズから逃げて周り、最後にはぎゅーってされる。
それが目下の楽しみになっていた。
「シャズ兄上、仕事しろ!」
「トルク、いま重要任務を遂行してんだ!」
「ほぅ、最近は非常用備蓄品の棚卸しはしなくなったのか。」
「いま、災害級の可愛いのがいるから、そっちを確保するのに忙しい!」
バカだ、バカ!
「父様!
おじちゃまが、ほっぺたをグニュグニュするぅ~」
「エリュ、これは見ちゃいけない人だ。
変態と言うのだよ」
トルクがエストゥールを抱き上げて、騒動が収まるのが最近の日常だった。
数日後、マナイ、トリシュ、ロゲルの三人が帰国した。
「お帰りなさい。
マナイ兄様、トリシュ兄様、ロゲル兄様」
「ただいま、咲季ちゃん」
マナイ達にぎゅうっとハグをした。
「帰国早々に悪いが、報告をくれるか?」
「はい、トルク兄上」
「あ、その前に、映像では知らせてあったけど、うちの末っ子エストゥールです」
帰国した三人が、エストゥールを見て一瞬固まり、その後スライムの様にデロデロになった。
クールなマナイまでが、抱っこをする順番のジャンケンに加わっていた。
「いや、なんだこのほっぺは!」
ロゲルがつきたてのお餅の様な、エストゥールの頬に、頬擦りをして嫌がられていた。
「痛いよぉ、チクチクするぅ
エリュ、やあよ」
「止めなさい、ロゲル兄上
エストゥールが汚れます!」
マナイ、目が据わってます。
「エストゥール、私がマナイおじ様ですよ
よろしくね。」
「はい、僕はエリュです!」
まだ、エストゥールとは言えなくて、エリュなんです、と言い訳をした。
「私はトリシュおじ様だ。
エストゥールは、何が好きだい?」
「エリュはね、シュリ兄様が大好きなの!」
あー、これ、皆んなが大打撃を喰らった瞬間だった。
1
お気に入りに追加
801
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
獅子王と後宮の白虎
三国華子
BL
#2020男子後宮BL 参加作品
間違えて獅子王のハーレムに入ってしまった白虎のお話です。
オメガバースです。
受けがゴリマッチョから細マッチョに変化します。
ムーンライトノベルズ様にて先行公開しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる