子豚のワルツ

ビーバー父さん

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「シュリ兄様!
 あのね、あのね、エリュね、今日ね
 母様からお料理を教わったの!」

エストゥールは平均的な獣人よりは早い成長だったが、シュリ達三人の様な成長速度ではなかった。
半年が過ぎた頃、漸く半獣化出来る様になり、4歳児くらいの成長をしていた。

三兄弟の中では、シュリが一番好きらしく姿を見つけると、どこにいても着いてまわった。

「エリュ、どんな料理だい?」

シュリがエストゥールを抱き上げると、嬉しそうに笑い、綺麗な白い髪にぎゅうっと顔を押しつけ、その耳元にこしょこしょと内緒話しをした。

「あのね、お野菜をね、茹でたの」

「それは凄いな!
 兄様の分はあるのかい?」

もちろん!と得意げに胸を張っていた。

僕は、それが可愛くて嬉しくて、エストゥールの言う料理を使った料理をシュリに出してあげた。

「はい、シュリ
 エリュが茹でた野菜を使ったスープだよ」

親バカとか兄バカとか、ジジバカとか、おじバカとか、そんなのしか居ないけど、それが最高に幸せだった。

そこへシャズが来て、マナイ達が帰国する事がはっきりしたと知らせがあった。

「マナイ兄様達、大変だったろうな…」

あの時僕も感情を爆発させてしまって、トルクが収拾をつけたとは言え、こっちに戻る時に主要な魔族の貴族達から、平謝りされるわ引き止められるわ、中には自分も着いて行くと言い出す人もいた。

出来たばかりの国から、神にも等しい魔王が消えた。
記憶を改竄され唆されたとはいえ、魔王をバラバラにしたんだ。
その代償に復活した家族から、生かされた命を否定されたエディオンは、憐れだとは思うけど、で?だから何?としか感じなかった。

「まあ、そうだろうな。
 エディオンの従兄弟が宰相として何とか出来て来たから、あとは知らんってマナイもキレたみたいだ。」

呆れてグッタリしたシャズが、バカだよな、と告げた。

「どこかで帳尻が合いますよ。
 エスラにそれだけの事をしたんですから。
 基盤は作ったけど、国として成り立つがどうかはこれからです。」

僕は冷たく言い放った。
エディオンが治める国なんて、どうでもいい。

シャズと話していたら、シュリに抱っこされたエストゥールが、おじちゃま!と声を上げた。

「おー!エリュ
 今日も可愛いなぁ!
 抱っこするぞぉ~」

きゃーきゃー言いながら、シャズから逃げて周り、最後にはぎゅーってされる。
それが目下の楽しみになっていた。

「シャズ兄上、仕事しろ!」

「トルク、いま重要任務を遂行してんだ!」

「ほぅ、最近は非常用備蓄品の棚卸しはしなくなったのか。」

「いま、災害級の可愛いのがいるから、そっちを確保するのに忙しい!」

バカだ、バカ!

「父様!
 おじちゃまが、ほっぺたをグニュグニュするぅ~」

「エリュ、これは見ちゃいけない人だ。
 変態と言うのだよ」

トルクがエストゥールを抱き上げて、騒動が収まるのが最近の日常だった。






数日後、マナイ、トリシュ、ロゲルの三人が帰国した。

「お帰りなさい。
 マナイ兄様、トリシュ兄様、ロゲル兄様」

「ただいま、咲季ちゃん」

マナイ達にぎゅうっとハグをした。

「帰国早々に悪いが、報告をくれるか?」

「はい、トルク兄上」

「あ、その前に、映像では知らせてあったけど、うちの末っ子エストゥールです」

帰国した三人が、エストゥールを見て一瞬固まり、その後スライムの様にデロデロになった。
クールなマナイまでが、抱っこをする順番のジャンケンに加わっていた。

「いや、なんだこのほっぺは!」

ロゲルがつきたてのお餅の様な、エストゥールの頬に、頬擦りをして嫌がられていた。

「痛いよぉ、チクチクするぅ
 エリュ、やあよ」

「止めなさい、ロゲル兄上
 エストゥールが汚れます!」

マナイ、目が据わってます。

「エストゥール、私がマナイおじ様ですよ
 よろしくね。」

「はい、僕はエリュです!」

まだ、エストゥールとは言えなくて、エリュなんです、と言い訳をした。

「私はトリシュおじ様だ。
 エストゥールは、何が好きだい?」

「エリュはね、シュリ兄様が大好きなの!」

あー、これ、皆んなが大打撃を喰らった瞬間だった。
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