子豚のワルツ

ビーバー父さん

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葛藤

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「咲季、行こう」

「ごめん、トリシュ兄様、マナイ兄様」

もうすぐ、魔族が襲いに来る。
そうエディオンが告げていたのは事実で、僕達が塔から駆け出す頃には、王城まで攻め込もうとしていた。

「トルク、間に合わない!」

「咲季、しっかり掴まれ!」

白豹は、一際体を大きくすると、ひと蹴りで王宮から飛び出し、もうひと蹴りで取り囲む魔族を蹴散らした。

「おー、素晴らしいなぁ~
 こちらへ、トルク様、サキ様」

上空でエディオンが余裕綽々な態度で、僕達に声をかけて来た。

「エディオン!」

「理性のない魔族の餌食になりたくなければ、一緒に来て下さいよ。」

確かにあの大群では、難しいかも知れなかった。
大量に発生するイナゴが畑を食い荒らす様に押し寄せていた。

「トルク、行くしかないよ。
 エディオンの意図が知りたい。」

「そうだな、分かった」

ニヤリと笑いながら、エディオンがきまりましたか?と再度、問いかけて来た。

「あぁ、同行しよう」

その返事を聞いたからなのか、フロウが情報をくれた。

〔母様、さっきの映像は俺の方で加工しとく。
 叔父上達は見ちゃったけど、外交的にはな。
 あと、マロがエディオンの記憶を探った。
 言ってる事は本当だ。
 こっちでも、皆、ショックを受けてたよ。
 魔王封印は、一部の国々の王族達しか知らなかったようだ。
 現にダリューンの爺様は知らなかった。
 英雄なのにな。
 あのハランてバケモンはここに来る前にやらかしてたんだな。〕

そうか。
魔王がエディオンに封印された事とか、魔物扱いした上に、家族を殺されたとかそんなのも、改竄されていたのか。

僕達は、エディオンに着いて行く事にした。









「なんて事だ。
 英雄エディオンは、裏切って魔族に身を堕としたと聞いていたが…」

国王であるダリューンすら、真実は聞かされていなかった。

「父上、私達は英雄エディオンの話しは昔話程度にしか聞いていませんが、魔族になって討伐されたと」

青褪めたトリシュとマナイだったが、咲季の時のように嘆くだけで何も出来ない自分達にはなりたくなかった。

「今から500年程前か、魔王を封印したのがエディオンと言う、若者だった。
 だが、封印した後、心を病み魔族に身を堕として討伐された、それを国際会議で報告して来たのは、リサマールとエナグラ、それにレイシンじゃった。
 英雄が簡単に討伐されるとは考えにくかったが、何より三国から討伐軍を派遣されれば、人なら無理だろう。
 しかも、家族をその様な目に合わされていては…」

痛ましげにダリューンは目を伏せた。

「爺様、俺の方でこれ加工する
 事実を曲げるわけじゃなく、酷すぎる部分、さっきのバケモンのところとか、編集して他の国にも出せるようにするわ。
 それでも納得しない国には、無修正を出してやる。
 それでいい?トリシュ叔父上、マナイ叔父上?」

トリシュは、ふーっと深く息を吐いて、それで構わない、と。

そこからの行動はこの件に関わっていない国々に、秘密裏にこのことを知らしめることだった。
エナグラが魔族によって滅ぼされたことはすぐにでも届くだろうから、それが浸透する前に真実の破滅理由を出さなくてはいけなかった。

「ワイス、世界に散ってる暗部へこの映像を持たせて、各国の主要人物に渡せ。」

フロウが編集した物を、シャズの指示のもと、暗部が走ることになった。

「それと、スワラの件は残念だった。
 ただ、色々報告が来てないtころを鑑みて、加担した側の者だったと考えるのが筋だろう」

「はっ!!
 このところの暗部の質が下がり、大変申し訳なく思っております。」

「しょうがねぇよ、ワイスのおじさんは、シュリのバカに付き合わされてんだし、
 下を一人で育ててたら、おろそかにもなるさ。
 そろそろ、あの変態使用人にも任せてしまえよ」

「フロウ、口が悪いよ!
 ワイスおじ様は僕たちの為に、いっぱいしてくれてるのに!!
 ごめんね、ワイスおじ様」

「悪かった。」

「フロウが謝るなんて!!!
 いい子だね、フロウ」

「マロ、あとでお仕置きな」

「なんでだよ!」

まぁまぁ、とトリシュが間に入って、マロとフロウのじゃれ合いは終わった。

「フロウ様のおっしゃる通りです。
 阿奴らにも、任せなくてはいけませんね」

「そうだな、でも今はこっちが先だ。
 すぐに動いてくれ!」

シャズが指示をしてる間に、ロゲルとマナイが何やら打ち合わせをしていた。




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