子豚のワルツ

ビーバー父さん

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捕食者というスキル

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似た様な顔をしていても、性格はトアとそっくりだった。

「貴様、が、」 
「おいおい、父親に向かってその口の聞き方はないだろ?」

ガッ!!!

「ぐぁ!」

上から、父親と言う男から殴られ、マナイは地面に伏した。

「物理攻撃には弱いか
 笑えるな、俺と同じサーベルタイガーとはな。
 トアのライオンの方がマシか。」

どちらが上、そんな意識しかない獣人特有の考え方だった。

「ここで、子豚が犯されるのを鑑賞するか、見たくないと崖から飛び降りるか、選択させてやるよ?」

トアが下卑た嗤いを湛えた。

「咲季は、どこだ!!」

「子豚は娼館からこっちに向かってるさ」

マナイはホッした。
それならこっちへシュリが向かってると確信できた。

「ふふふ、あはははっはっはっは!!!!!」

「なんだ、お前気持ち悪いな
 壊れたか?」

「マナイ、笑うのを止めろ!!」

それでもマナイはこの滑稽な親子を笑った。
終わりしかないこの親子の運命を。

ライオンだろうがサーベルタイガーだろうが、白豹には勝てないと、そう思うとマナイは笑いしか出なかった。
それはシュリが咲季とトルクの子供という事もあるが、生まれて半年で成人まで成長した理由がそれを物語っていた。
それすら意味を考えないこの二人が哀れだった。

「ふっふっふ、笑わせてくれる。
 トア、お前バカだバカだと思ってたけど、やっぱりバカでしたね。」

「笑うな、マナイ!!
 お前は泣いてりゃいいんだ!!
 トルク兄様に取り入って宰相なんか名乗ってるけど、こんなに弱っちいじゃないか!!」

「まぁまぁ、トア、落ち着け。
 もう子豚が届くさ。
 あとはあそこで待つレオハルトに渡せばいい」

「ふふふ、あの船にレオハルトがいるのですか
 では、戦争ですね。
 一方的な破滅を迎えるのが目に見えますよ」

「何を言ってる!!
 白豹の兄弟が三匹生まれたって、トルク程度なら、俺たちが付けば五分、否、それ以上にして見せるさ」

父親と名乗る男は、稚拙な打算を披露してくれた。

そして、その叶いもしない計算に、トアも乗っかっているという事が、マナイにとっては勝機としか思えなかった。
”白豹三兄弟”そう言った。



「あ、ホラ、豚が届いたよ」

マナイが言う方向を見ると、先ほど襲ってきた顔が見えた。
その肩に担がれているのは、猫耳フードを着た咲季だった。

フードが外れ、咲季の黒髪が見えていた。

「咲季!!」

猿轡をされた咲季がマナイを見つけて、マナイが駆け寄ろうとした時、その足の腱をトアが引き裂いた。

「あぐう!!!」

男の肩の上で咲季がめちゃくちゃに暴れていた。

「もう、マナイの癖に勝手に動いちゃダメでしょ」

腱を切られて、片足は使い物にならなくなっていた。

だらんとぶら下がるように、つま先は下を向いて力が入らなかった。

「咲季の力を欲しても、誓いを立てた二人だ。
 その力はトルク兄様とその家族のためにしか使えない
 咲季を放せ!!」

「俺たちが欲しいのは、豚とレオハルトの子供だ。
 その子供が黒をもって生まれてくれればいいのさ。
 それなら、豚が力を使えなくても関係ないしな」

「そうそう、子供ならいくらでも育て方で使い方は多様だ」

「黒が生まれるまで、孕ませてやりゃいい
 所詮、豚だ。
 捕食されるだけだ。」

マナイはこれの言葉で、レオハルトが持つスキルの能力を察した。
あれだけ二股だの三股だのしてこれた理由。

「レオハルトの捕食者、そういう意味だったのか
 今後の対策にいい情報をありがとうございます。
 体で取り込まれてしまうわけですね。」

だから最初に咲季がレオハルトに取り込まれてしまったのか、と漸く理解できた。

「咲季ちゃん、貴方がレオハルトとの事を引け目に感じているの知ってましたよ。
 でも今ので確信した。
 スキルを使われていたんですよ。
 体を開くように。
 だから、気にしなくていい。
 咲季ちゃんの意思では無かったんだ。
 誓いを立てたトルク兄様とは自分の意思だよ。
 だから、何も引け目に感じることはないよ。
 こいつらが、そこに付け込んでも、今、違うと暴露してくれたからね」

その言葉を聞いていた咲季が涙を流していた。









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