子豚のワルツ

ビーバー父さん

文字の大きさ
上 下
49 / 122

咲季の目覚め

しおりを挟む



「な、これだ。
 お前ら、コイツにどんな教育したらこうなるの?」

脳筋バカのレオハルトにまで言われたら終わりな気がしたが、トルクは取り敢えず黙ったまま、どうでもいい、と思っていた。

「お兄様たち、私を助けてください!」

「うーん、トア、もう、無理だよ。
 お前に何度も反省する機会を与えていたけど、本当の意味での助けになるかもしれなかった咲季ちゃんを、お前の虚言で取り返しのつかないことになったんだ。」

「虚言ではないです!
 トルクお兄様が豚などと番うなんて!」

「豚、と言ったか?
 貴様」

レオハルトがトアを睨みつけた。
自分の遊びは棚に上げておいて、咲季を豚と呼ぶのは許さない程度には、執着も愛情もあった。

「トア、控えなさい。
 お前はもう、大人だ。
 それなら身の振り方、謝罪の仕方、償い方を自分で決めても良いのではないか?
 もう、親兄弟がお前の代わりに頭を下げる必要はないだろ?」

「父上!私は、悪くない」

トルクは怒りともつかない息を吐いて、最後に一言告げた。

「ジャッジメントを使うという事は、お前の魂は終わりを告げるかもしれない
 それでも構わないなら、それもお前にとっては助けになるのだろ。」

レオハルトはニヤニヤしていた。
実際に見て来たから、ジャッジメントの意味を知っていた。

だが、トアはそのスキルを見た事が無い。
だから、きっとそれ程のスキルなのだろうから、取り敢えず謝れば何とかなると思ったのだ。

「ごめんなさい、私が、悪かったのです。」

「はっはっはー!!
 これが、ジャッジメントを持つ男の弟とはな!」

「それを言うなら貴方の甥ですよ、レオハルト
 裁定者の甥っ子ですよ、良かったですね。」

お互いでなすりつけ合うように、バカにし合った。
その意味も分からないトアだけがポカンとし、他の者達は終わったな、と感じていた。

「な、何ですか?
 私はちゃんと謝罪しましたよ!」

「バカ者が!
 謝罪すべきは咲季に対してた!
 咲季は神の愛し子なのだ、到底お前の表面だけの謝罪が通るわけなどないのだ、弁えろ!
 豚だのはまだいい、虚言に虚言を重ね、咲季の心を壊したのだ、ジャッジメントを使えば確実に神自ら罰を与えてくださるぞ、良かったな」

トルクの苛立ちは頂点に達していた。
黒目黒髪が神の子である事は、この世界の常識で、今更知らなかったなどの言い訳が通るはずが無かった。

「お前が家族だから、ここまで皆んなが悩んでいるにも関わらず、それすらも汲み取れないとは。」

家族として甘すぎたのだと、この責任はどう取れば良いのかと思案していた。

「とにかく、トアはこの国から出した者である。
 裁くに至る罪状は国ではなく、世界である事からジャッジメントを奮わざるおえない、と言うのが想定であろうな。」

「父上、ジャッジメントとは、どのような罪なのですか?」

やっと少しだけ話を聞くようになったトアが、己に降りかかるかもしれない裁きを聞いた。

「魂の罪を灼きつくす。
 それが足りなければ次は肉体を、そして残るのは核のみ。
 国ではなく、世界の裁きが必要となった場合だからな。
 大抵は肉体も残らない」

それを聞いたトアはここでやっと、青褪めた。

「なんでだよ、なんで、ちょっとだけ吐いた嘘じゃん、私に言われて信じたあの豚が悪いんじゃないか、豚の癖に、お兄様を取るから悪いんだ。
 私に優しくしてくれない、トルクお兄様が悪いんだ!!」

犯罪者あるあるだ。
逆恨みと自己都合による記憶改竄だった。

「豚に謝ればいいんだろ、謝れば!
 どこにいるんだよ、あの豚は!」

「まだ言うか、トア。」

ニヤニヤとレオハルトは鑑賞していた。
力の強い一族が、その内部から崩壊しようとしていたからだ。
レオハルトにとって既に敵に回っているトルクの国は、この王族の強さが一番の脅威だった。
ならば、トアを取り込めばいいと思われたが、トアは獅子身中の虫にしかなり得ないと判断したからだった。

寸劇を観ているようだった。

そして、寸劇から昼メロへと展開をする知らせがもたらされた。


「咲季様が目覚められました!」
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

獅子王と後宮の白虎

三国華子
BL
#2020男子後宮BL 参加作品 間違えて獅子王のハーレムに入ってしまった白虎のお話です。 オメガバースです。 受けがゴリマッチョから細マッチョに変化します。 ムーンライトノベルズ様にて先行公開しております。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...