子豚のワルツ

ビーバー父さん

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宰相トルクの怒り

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恥ずかしいなんて言ってられない、そんな勢いで、僕もトルクに誓いを立てた。
作法とか手順とか分からなかったけど、魔法陣が浮かび上がって、僕を包んで消えた。

「咲季ちゃん…
 私に全てをくれるって事でいいのかな?」

茫然と、ビックリしたように見つめられて、そっぽを向いた。

「そうだよ! 
 僕はトルクと共に生きる!
 そう決めたの!
 尻軽だって思ったら承知しないから!!」

真っ赤になって、泣きながら言ったような気がする。

「思わない、思わない!!」

「僕を大事にしなきゃ、ダメなんだからね!!」

「凄く大事にする!」

「僕が一番じゃなきゃダメなんだから!」

「一番だよ!
 誰かと比べたり、誰かが現れたりなんかしない!!」

「僕がデブになったって、もう返品きかないんだからね!!」

「デブだってなんだって、咲季ちゃんならいい!!」

「あと、あと、」
「好きだよ、咲季
 大好きだよ」

ぎゅうって抱きしめられて、号泣した。

「もうヤダから!
 浮気とかしたら死んじゃう呪いなんだから!!」

「しないから、死なないよ」

「喧嘩してもちゃんと仲直りするまで、一緒にいて
 僕もちゃんとごめんねってするから」

「する、するよ。
 私もちゃんとごめんねって言うから
 そしたら仲直りのキスをしよう」

「ちゃんと、ちゃんと、ちゃんとだよ!!」

「ちゃんとだね。
 咲季、可愛い…
 こんな可愛い子、他にはいない
 私の子供を産んでくれる?」

「産みたい、でも」

「何が心配?
 何が不安にさせてるの?」

「…、僕、レオハルトに抱かれてたから。
 もし、いま、赤ちゃんいたら、どうしよう」

「それは大丈夫。
 咲季のステータスに、妊娠って出るから
 一緒に見た時、出てなかったよね」

見た時、無かった。
僕妊娠してなかったんだ。

「僕、妊娠してない!
 良かった、良かったよぉ!!」

「なんか性教育されてない子を抱く感じで罪悪感を覚えるなぁ」

「だって、この世界の出産とかわかんないもん」

トルクは僕を膝に乗せて、涙を流した頬を舐めてくれた。
少しざりっとする舌が、色んな所を舐めた。

「うん、初めての咲季の味がする」

ちゅうって首の後ろ辺りを強く吸われて、ゾクゾクと感じたことは内緒だ。

「今夜、咲季を貰うからね。」

「…ぅん」



コンコンコンコン

『あのぉ、お客さんが凄く来て待ってしまってるんですが』

扉の向こうから、この宿のご主人が困った声を出しながら。催促に来た。

「ふふふ、行こうか、咲季」

「うん、トルク」

僕はフードを深くかぶって、トルクと手を繋いで階下へ降りていくと、見知った顔も見つけた。
それはトルクも同じだったらしく、眉間にしわを寄せて明かな不快感をあらわにした。

「来ていただいた方々は、ご用件をまとめて紙にて提出してください。
 自国への勧誘はお断りいたします、
 すでに帰国を決めておりますので」

階下に集まる人たちに向かって、トルクが勧誘は断るから、それ以外は紙に書いておけと言った。

「帰国とは、私たちの国へと言う事だな、宰相トルク
 それに、サキ様」

口を開いたのは、アサルトとキリアスだった。

トルクと握っている手に力が入ったのと同時に、あの時の屈辱や怒りやくやしさを思い出して、体が震えた。

「咲季、大丈夫だから、ね」

こくんと頷いて、体を預けるようにトルクに支えられて、彼らの前に立った。

「私は、私の国に帰るのですよ。
 騎士団長殿」

「そんなことは許されません」

「誰が、誰を許さないって言ってるのかな?
 君は度々、自分に権力やら判断基準の権利があると思ってるような発言をするようだけど、君さ、ただの人だよね?
 騎士団のこと以外になんか権利があった?
 あぁ、レオハルトにお尻を貸しちゃう権利か。
 その権利は永久に保証されると思うよ。
 あのレオハルトが飽きない限りはね。」

「くっ!!」

アサルトは拳を握り絞めて、怒りを我慢していた。

「だって、私の咲季を散々いたぶって、嫌味を言って追い出したのに
 今更何言ってるのかな?
 誰かに聞いた?
 転生者はこの世界の全てに匹敵するくらいの力を持つって。
 強国を名乗りたいなら、あの国を攻めたい所はゴロゴロある。
 でもせっかく抑止力になりそうだった、転生者の咲季がいなくなれば、すぐにでも攻め落とされるだろうね。
 なんて言っても、団長が腑抜けすぎますからね」

「貴方に騎士団の事まで言われたくない!」

「レオハルトにも勝てない奴が騎士団長とか
 笑わせるな」

「貴方は文官だ!
 何が分かる!」

「分かるよ、だって私は何回もレオハルトを下してるからね」

「まさか!
 獅子王に!!
 嘘をつくな!」

「そう、私は白闘王だけど?」

「え?
 白闘王って、」

「うん、私の事だね」

「でしたら尚更、我が国へ帰国してください!」

「君の首を落とすために、私は自国へ帰りますよ。
 そのくらい、咲季を傷つけたお前も、レオハルトも許す気はないんで」

「私が先だった!!
 レオハルト様と伴侶になろうとしていたのは、私が先だ!
 後から来た豚に横取りされるなんて!」

「だから? 
 それを決めたのはレオハルトで、咲季じゃないよね
 先だから自分に権利がある?
 先だから自分が判断して咲季を追い出すことにした?
 なら、お祝いの言葉を貰おうか。
 私は咲季と魂の誓いの契約をした。
 生涯、添い遂げるとね」

「ま、さか?」

「まさか?
 凄く嬉しいだろ?
 君が一番になれたよ?
 国にとっては最悪な結果になるだろうけど」

「私の首でお怒りを鎮めていただけるなら」

「いらないよ
 だって私が手を下さなくても、そのうち攻め込まれて終わる国でしょ」

茫然とアサルトはその場に崩れ落ちて膝をついた。

「アサルト様!!」

「あ、あとね、
 レオハルトの伴侶とか言いながら、他と寝るのは止めた方が良いよ
 そこの坊ちゃんとかね。
 あー、もしかして目ぼしいのはもう食べちゃったあと?」

キリアスは崩れ落ちて震えるアサルトを抱えて、この場を逃げ出した。

「今のを聞いてたと思いますが、私たちは私の国へ帰る途中です。
 勧誘以外ならお話を聞きますが、それでも自国へ戻ってからのお話になります。
 悪しからずご了承ください」

そう言って、トルクは周りを引上げさせて僕たちも部屋へ戻った。


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