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悲しい理由
しおりを挟む約束だ、そう言われて僕は意識を飛ばしたんだ。
レオハルトの憤りも不安も、垂れ流しのスキルで理解できた。
僕の責任だ。
横に眠るライオンに僕は、子豚になってそのお腹に潜り込んだ。
愛してるんだ。
レオハルトを。
僕の経験なんて、幸せな気持ちや満たされた気持ちは全部、レオハルトがくれた。
どうやったら彼を安心させられるんだろう、やっぱり赤ちゃんが欲しいのかな、と考えた。
異世界から来た魂を持って、豚の魔獣として生まれなおした僕が、獅子王の子を産めるんだろうか。
手段みたいな事はしたくない。
愛された証、愛した証が僕たちの子なんだ。
気持ちいい毛皮の中で、僕は二度寝をした。
「かわい~!」
「静かにしろ、さきが起きる」
「陛下、今回の件
やはり、シェライラとチェルシーに加担していた魔法省の者たちと、反対派の貴族の残党の仕業だったようです。」
覚醒と微睡の中で二人の会話を聞いていた。
「そうか
さきしかいらないのが分からんとは。」
「種族と権力、ほんと俗物ですね」
「側室はまだしも、伴侶を名乗らせてもまだ、自分が伴侶だと言い張る奴もいるな。」
「アサルト様ですね
ですが陛下、実際、伴侶にしないにしても
寝室を共にされていたのですから、それなりの断りを正式に入れない限り、納得はされないのでは?」
今のって、元カレの話、だよね?
「アサルト、か。
即位の前に、もう二度と会わないと伝えてあるのだがな。」
えっと、二股かけられたのかな?
「陛下はそのつもりでも、ですね。
うまく遊びなさいよ。
さきちゃんを泣かせたら、私が黙ってないですから。
本気で、さきちゃんを貰いに行きますからね。」
「渡すわけなかろう。
さきを孕ませて、閉じ込めてしまいたいなぁ」
僕の頭を撫でるけど、刺さった小さな棘は毒を孕んでいた。
あれから何事もなく数日が過ぎた。
知らないふりを続けていたけど、日に日に大きくなる不安に、だんだん耐えられなくなっていた。
「さき様、そこは寒く無いですか?」
護衛騎士をしてくれている人が、僕の行動に不安を抱いているのが分かった。
「う、ん…
ごめんなさい、大丈夫。
最近、レオハルトが忙しいみたいで、あまり一緒に居られないから、ちょっと寂しいだけ。
今日も、会議と視察に行ったでしょ?
僕も行きたかったなぁって。」
「そうですね。
最近の陛下は、城にいる事が少なくてお寂しいと思いますが、何かやりたい事とかないですか?
私が案内できる事なら、いくらでも!さき様が笑顔になれるなら、何でもいたしますよ!」
「名前教えて貰える?」
「はい!私は第一騎士団隊長
キリアスと申します!」
「キリアスさん、アサルト様の事教えて貰えますか?」
「あの、どこでその名を?」
明らかに狼狽えたキリアスに、もう一度聞いた。
「アサルト様は、レオハルトの恋人だったの?」
目を泳がせて、最後は諦めたように肯定した。
「そっか、そっか。」
笑えただろうか?
「さき様、今は貴方様が伴侶です!」
「豚なのに?」
笑えた。
自分で自分を嘲るように笑えた。
「種族では無いです!
私たちが貴方様を認めているのです!」
「ありがとう。
僕は転生者だもんね。」
そうだ、転生者だから認めてもらえてるだけだ。
「さき様!
泣かないでください…
私は、私たちは、あの森で貴方様を見つけた時から、魅了されているのです。
ですから、泣かないでください。」
「ご、めんなさい。」
ここに居たくない。
「キリアスさん、僕を森へ連れて行ってくれませんか?」
「それは、出て行くと言う事ですか?」
「どうかな。」
「分かりました。
私も、一緒にお供します。」
「ダメだよ、キリアス!」
「さき様を独りで森へなんて行かせられません!」
「なら、ちゃんと、僕と同行する事を上に通して、いつでも戻れるように、居場所を無くすような事をしないで。
お願い。」
「分かりました。
では、今から、視察に行く事を申請して来ます。
一緒に来てください。」
キリアスと僕は騎士団の詰所へ向かうと、視察に行きたいと言う、僕の我儘で行くと言う体にした。
「さき様、ですよね?
私はアサルトと申します。
王宮騎士団団体長でございます。
初めてお目もじ仕ります。」
薄いグレーの髪にグレーの瞳の美丈夫だった。
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