22 / 122
勇者候補の本質
しおりを挟む「勇者召喚されて、自分のスキルを見てみたら、
何も無かったんですよ。
ただ、称号が勇者候補ってだけで。」
有末が言ったことは、山際がやはりスキルが無かった事と同じ何だろうか?
山際も最初からスキルが無かった?
「スキルは、鍛錬すれば取得出来るものがたくさんありますよ。」
「そうなんですか、なら頑張ってみようと思います」
有末は笑った。
この笑顔に覚えがある。
獲物を見つけた目だ。
僕は思わず、トルクの裾に纏わりつくように擦り寄っていた。
「さきちゃん、どうちましたかぁ?」
トルク様、怖い。
〔ぷきゅ、ぷきゅぅ。〕
「よしよし、眠くなってしまいましたか?」
うん、疲れた。
〔ぷぅ、ぷひ。〕
トルクは僕を抱き上げて、凄く優しい顔で撫でてくれた。
すると、人の体温の丁度よさで眠気が一気に来てしまった。
レオハルト以外に抱っこされてしまっているけど、トルクなら安心だし。
「トルク様、豚をどこかで寝かせてはいかがですか?」
「この子は大事な子なので、抱っこしたままで」
うとうとする中で二人の会話を聞いていた。
「タイガ殿は鍛錬がしたいと言う事でよろしいですか?」
「魔法が使えるようになりたいです。
私の世界では、魔法が無かったので、
魔法自体が夢の様ですよ」
「魔法ですと、魔法省からの紹介で誰か派遣してもらいましょう。
同じ時期に候補がいるので、一緒に鍛錬が出来ますよ」
「学校、みたいなものがあるんですか?」
「グループと言ったところですね」
「グループか、同じ候補が集まるなら、話も合うかな?」
楽しそうに笑う有末の声を最後に聞いたあと、僕は眠りに落ちてしまった。
ぐっ、ふぅ!!
誰かのうめき声がする。
ハッと気づいた。
しまった!あのまま寝ちゃってたんだ!
急いで起きようとして、誰かの腕が絡みついていて、身動きがイマイチ出来ない。
顔だけを回して、腕の正体を見ようとしたら、床にうめいているトルクがいた。
トルク!!!
〔ぷっきゅぅう!!!〕
「お、豚ぁ、起きたか。」
この腕の正体が有末だと分かった。
「さき、ちゃん!
逃げて!」
苦しむ息の下で、トルクが叫んだ。
ダメ!!
〔ぷきゅ!〕
「さぁ、従魔契約をしてやるよ。
勇者の従魔になれるんだ、感謝しろよ、豚」
「何をするんです!!」
「迷宮に行くのに、この豚に犠牲になってもらうんですよ。
尊い犠牲です。
神様も喜びますよ。
国の至宝まで差し出して、勇者の為に貢献したって」
「陛下が、国が許しません!!」
「俺が許すから良いんですよ、宰相様
神に召喚された勇者ですからねぇ」
既に従魔を嬲り殺してる有末には、何てことは無いんだろう。
人を痛めつける事や暴力を振るう事を抑えられないみたいに、抱え上げて僕のお腹を殴ろうとした。
その時逃れるために、無防備だった手首に思いっきり噛みついて、その肉を引きちぎった。
豚は人だってミンチにして食べてしまうほど凶暴なんだ!
舐めんな!
「ぎゃぁっぁあ!!!」
血がどくどくと流れだしていた。
細くともどっかの血管が切れたみたいだ。
相手が怯んだ隙に、トルクの元へ走った。
「このクソ豚!」
「さき、ちゃん、
ごめんね、
大丈夫?」
大丈夫!!
〔ぷきゅ!!〕
「豚を国王の伴侶から引きずり降ろしたいって言うから簡単かと思ったのになぁ
転生者だって?
人化して見ろよ、なぁ、田淵~咲季」
有末がニヤッと笑った。
な!!
僕が咲季だって知ってた?
なんで?
転生って事も、伴侶って事も!!
この事実を知ってるのは、先々代の国王のお爺様と、お父様お母様、そしてレオハルトにここにいるトルク。
あと、魔法省…チェルシーだ。
シェライラは魔法省の鑑定士と組んでた。
チェルシーは?
騎士や魔法省にまだ仲間が残っている可能性だってあったはずだ。
「デブは転生しても豚だったなぁ。
なぁ、男に突っ込まれるのって良いのか?
王様の隣に立って腰を抱かれてるのを見た時、ビックリしたぜぇ
デブがどういうわけか、痩せて随分可愛くなってたなぁ。
お前、デブのくせに女みたいな顔してっから、キモかったしな。
でもな、勝手に死にやがって、勝手に生きようと思ってんじゃねぇよ
お前は、俺の豚なんだよ!!
俺がお前を痛めつけるんだよ!
ヒ―ヒー泣いてれば良いものを!
山際ともこっちで会って、お前を蹴り出して交差点でダンプに轢かせたってな
その時に召喚されたってのも聞いたから、取り敢えず、ぶっ殺しといたわ」
こいつ狂ってる!
嗅覚を使って、有末の中身を見る。
種族 人〔成体〕
称号 勇者候補〔殺戮者〕
Lv. 25
HP 9500
MP 4500
スキル 惨殺 殺人鬼
特殊スキル 狂戦士
なんで、こんな奴にまだ勇者候補がついてるんだよ。
ここで異質な事に気づいた。
勇者候補って元々犯罪者なんじゃないだろうか?
悔い改めない人に対する罪状がついてるんじゃないだろうか。
迷宮は牢獄。
脱獄しても、全てを失って寿命も取られる。
行かなくても、全てを奪われて、まともな暮らしは出来ない。
そして中には獄中死を迎える者もいる。
神様はここに重犯罪者を召喚しては罰を与えてたの?
異様なほどの人数に勇者候補がついてるのも頷ける。
王宮は、勇者候補と言う犯罪者を必ず見つけられるし、大した意味もなく牢獄へ入れられる。
ドロップアウトしても、奪うものが寿命だったり、スキルだったりなら逃げ出すと言うほどのことも無いだろうし、元々が犯罪者ならその本質はどこか自己満足で自己顕示欲も強いだろう。
良く出来たシステムだ。
生まれながらに候補になってる人は転生者で、その罪を償わせるための称号。
転生者と言う事を隠して、勇者になろうとするだろう。
地位も名誉もお金だって手に入ると思うだろうから。
生きるも死ぬも自己責任だ。
じゃぁ、僕は?
巻き込まれて、何があるか分からないから、魔獣に転生って言われた。
あぁ、神様は僕を守ってくれてたのか。
だから人じゃなかったんだ。
僕が豚だった意味をようやく理解できた気がした。
2
お気に入りに追加
793
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで
キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────……
気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。
獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。
故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。
しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる