子豚のワルツ

ビーバー父さん

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候補者 有末

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しばらくして、城に勇者候補の有末が騎士たちに連れられて来た。
謁見の間で、レオハルトとその隣に僕が立って、有末と面談することになった。

本当は逃げたい。
あの悪夢が蘇るようで、胃は痛いし嫌な汗は出るし、立っているのも辛かった。

「さき、私がいる。
 大丈夫。」

「うん」

隣で僕の手を握り、腰を抱き寄せてくれた。
とにかく、狡猾な有末がどう出るか分からない以上はこちらの手の内を見せない様に、とトルクから指示された。
要は、異世界転生して姿が違う僕に気付くまでは知らないふりをしろ、気付かれても知らないふりをしろ、探られても心理耐性でガードしろ、と言う事を強く言われた。

あいつがどんなスキルを持ってるか分からないからだった。
嗅覚で見れるからって言ったら、危ないから止めておく様に言われた。

出方を待つしかない。




「勇者候補、タイガ・アリスエを連れて参りました。」

騎士の一人が先触れで来た。

レオハルトが許可をすると、扉を開けて前後の騎士に挟まれる様にして、有末が入室して来た。

「よくぞ参った、勇者候補殿」

膝をついて、礼を取る騎士に倣って同じように有末も膝をついた。

「さて、勇者候補、タイガ
 貴殿は、勇者選定を受けるか?」

「恐れ入ります、私、タイガ・アリスエはこの世界に召喚されてまだ浅く、理すら存じ上げない。
 まずは、この世界の事を勉強させて下さい。
 その上で私が出来る事に協力致しましょう。
 ただ、先に来たはずのルイ・ヤマギワの行方が知りたいのですが?」

山際が先に来ている事をどうして知っているのか、疑問が湧いた。

誰かからの情報が無いと知るはずがない。

「残念ながらルイは、勇者候補を剥奪し追放した。
 理由は、命を賭けてまで見ず知らずの世界を助ける気はないとの事だったのでね。」

「そんな、彼は優しいやつです!
 きっと、何かに狂わされたんではないでしょうか?」

「ふふふ、はっはっはっ!
 面白い事を言う!
 人は二面性があるのではないか?
 貴殿が知るルイと、ここで見たルイでは違うのかも知れぬぞ」

レオハルトが含みを持たせた言い方をしても、有末は動じる事はなかった。

「では、今しばらく、この城に滞在する事を許そう。
 明日から、そこのトルクに色々と教えてもらうが良い」

僕は始終レオハルトに腰を抱かれたままだった。
それを見た有末は、少しだけ顰めたが直ぐに人好きのする様な笑顔を湛えた。








「いや、いや、笑えないくらい酷いな。
 アイツを召喚した神が、何を考えているのか。
 さきが嫌うのも当たり前だ。」

「レオハルト、何か見えたの?」

執務室でやたら気分が悪そうにしている。

「既にこの世界で従魔を殺していた。」

「っ!」

何故、そんな!

「嗜虐性が強すぎる」

僕がいじめられていた様に、きっといたぶって、殺したことが想像できた。

「あのね、僕のいた世界では、命を奪う事は罪なんだよ。
 それは、動物もそうなんだ。
 ただ線引きはあるよ、食料としての家畜とか、作物とかね。
 それでも意味もなく、一方的に奪う事は許されていないんだ。
 多分、この世界なら、命を奪うゲームが出来ると思っているんだ。」

ゲームなんかじゃ無い、ちゃんと命を持って生きてるのに、なんて酷い事をするんだ。
本当にそれが勇者の条件なの?

神様の意図が分かりそうで、分からない。
気持ち悪いピースが歪にはみ出てる様な、まるで最初から合わないのが分かっててはめてる子供の遊びの様な気がした。

まだいない魔王の為に、勇者候補を次々と用意するのが分からなかった。




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